【「地域をつなげる力研究会」Vol.1イベントレポート】セクター越境の「壁」の越え方を探る。
「地域をつなげる力 研究会」とは?
一般社団法人つなげる30人が主催し、全国の「つなげる30人」や、これから「つなげる30人」を立ち上げたい方、研究対象等として関心がある方を主な対象として、全国の「つなげる30人」メンバーの中でも特に群を抜く「つなげる力」を持つ「トップツナガリスト」をお招きし、様々なノウハウ・リソースを共有し、相互に学び合い、助け合いながら切磋琢磨することを目的にしたオンライン定例研究会です(毎月第一水曜夕方に開催します)
この全国のつながりを通じ、このコミュニティが面になり、地域間が連携したコレクティブインパクトを創出するキッカケとなることを期待しています。
今回は、2023年11月1日(水)に開催された記念スべき第1回目の内容をレポ
ートします。
登壇者プロフィール
主催側
◆加生健太朗(一般社団法人つなげる30人代表理事)
◇日比谷尚武(一般社団法人つなげる30人理事)
ゲストプロフィール(五十音順/敬称略)
●後藤美佳(敦賀/企業)合同会社FUJIONE 代表社員
◯佐々木つぐみ(渋谷/非営利)一般社団法人渋谷区SDGs協会 理事
■高野俊行(横浜/企業)ユニクル株式会社 代表取締役
□武村純一(京都/行政)京都市 都市計画局 公共建築部 設備担当部長
インスピレーショントーク
つながりが価値を生む ~第1章「つながる」ことには法則があった~
◇日比谷:
これまで「つなげる30人」の理事を務める中で、「人と情報をつなぎ、社会を変える主役を増やす」つまり社会を変えるチャレンジの主役候補の人に必要な人や情報を提供すると加速するのではないかと言い続けてきました。
実は「つながる」ことは理論化されていて「社会ネットワーク論」というのがあります。
この10年、情報の見える化によって国同士やSNSを通じた人同士の繋がりが分析可能になり、その繋がりの法則や再現性の研究が進んでいます。
著書「組織の壁を超える」(英治出版)では、既存組織を越境した人たちが集まり、パワーを発揮するためのノウハウがいっぱい書かれています。
つまり「つなげる30人」がやろうとしてることだと思います。
例えば、エネルギー企業の幹部と反対派の環境保護・脱炭素を進める人のように、一見相容れない2人が同意して一緒にゴールを目指すには仕掛けが必要です。
「中立な場所で話す」というのはその仕掛けの1つで、組織のしがらみに関係なく、お互いが個人のアイデンティティで話すことができます。
この他にも「今後はつながりが価値を生む」という日本や海外の研究論文がたくさんあります。NPOや地域に応用できることが多いので、ご要望があれば2回目以降も少しずつお伝えできればと思います。
ゲストクロストーク
◆加生:
企業・行政・NPOのクロスセクターで街づくりをする、「つなげる30人」の中でも今日は特に株式会社、合同会社、一般社団法人そして市役所と様々なプレイヤーの方々を全国からゲストをお招きしています。まずは簡単に自己紹介をお願いします。
◯佐々木:
私は渋谷区SDG's協会の理事を務めています。以前は渋谷区の絵本プロジェクトを通じて、小学校に絵本を配布するなどのクロスセクターの活動を行ってきました。最近では「渋谷をつなげる30人」のOBOGと協力してヒカリエで5日間のイベント開催に成功し、約1300人の親子が参加しました。今後も絵本プロジェクトを継続し、4冊目の制作に向けて進行中です。
■高野:
「横浜をつなげる30人」の第1期生の高野です。横浜を世界で1番面白いイノベーション都市にすることを目指し活動していました。
活動の領域を越境しながら、横浜の街をビュッフェのように働ける場所にし、イノベーションを生み出す仕組みづくりに注力しました。
越境の実例を作るためには、横浜市民が持つスキルを知る必要があると感じ、ユニクル株式会社を設立してスキルの可視化システムを構築しています。
これにより横浜市の人々が持つスキルが見えるようになり、自由に働ける世界の基盤を築くことを目指しています。
また、越境活動の難しさとして、元いる組織からの理解を得ることが挙げられ、そのためには評価のバランスを取りながら活動することが課題だと感じています。
●後藤:
福井県敦賀市の「敦賀をつなげる30人」第1期生の後藤です。北陸新幹線が2024年3月に敦賀駅まで開通することを受け、地域を育むための活動を行っています。
特に、お寺でカレーを作るイベントを企画し、地域の人たちが地域を好きになり、地域への愛着を育むことを目指しています。
自治体コンサルティングや女性の育成などの経験を通じて、地域を良くしていく理念を持ち、地域の主役を育むために活動しています。
日比谷さんの話で「つながりが価値を生む」というテーマに触れ、ツナガリストの方々が無意識の中で実行している構造や理由に興味が沸きました。
□武村:
「京都をつなげる30人」の武村です。京都市役所に勤めています。
過去には3期の時に、京都初脱炭素ライフスタイルのイベントで失敗してしまいました。しかしその失敗がきっかけで新たなつながりが生まれ、別の活動に参加するなどして、「京都をつなげる30人」の枠を超えてアメーバ的な形で動いています。
日比谷さんの話を聞いて感銘を受けました。壁を完全に超える必要はなく、しかし異なるセクターや学問の壁を少しでも超えることで新たな会話や学びが生まれ、展望が広がると気付かされました。
◆加生:
ありがとうございます。今回は、普通のパネルセッションのように司会者が聞きたいことをパネラーにそれぞれ聞く形式ではなく、ゲスト同士が聞きたいことをお互いに聞く形式にしたいと思います。
日比谷:
皆さんが「つなげる」とか「つながる」場作りで困ってることがあれば聞いてみたいです。例えば先ほど高野さんは、越境する人たちが元いる組織からの理解を得ることを課題として挙げられましたが、そういうことはありますか?
組織を越えて活躍する、「越境人材」の壁
■高野:
そうなんです。現状は越境してくる人は本業で文句言われないほど頑張り、外に出ても仕方ないと思われる状況を作った上で出ていくという手段しか取れないんですよね。
本業を頑張りながらも社会的な評価が低いため出てくる人が限られると感じています。
本業が評価されないならば社会が評価すればいいのではないかと考え、僕は最近「横浜越境アワード」という賞を始めました。
第1回目の実施後の反応も良く、この賞を通じて社会が影響を与えている人を評価し、社会的な認識を高めることで頑張るきっかけになると考えています。
例えば「敦賀越境アワード」のように他の地域でも何かこのような社会が評価する仕組みが出来れば良いのかなと思いました。
●後藤:
仰る通りだと思います。横浜のような課題は、敦賀にもあります。私は人の持っている良さを顕在化させたいと思い活動していますが、閉鎖的な環境や、文化・歴史的な側面が影響し難しいと感じる時があります。
私自身10歳の時に北海道から敦賀に移り住んだ際、周りから方言の違いについての指摘を受け、地域社会の特異性や認識の違いを考えたことがあります。その工夫として、高野さんの仰っていた「越境アワード」はとても良い取り組みだと思います。
そこで高野さんに質問ですが、ご自身が会社員として社会とのギャップを感じて苦しんだとするとなぜそこまで感じたのか、そのアワードを作るに至ったストーリーがあれば聞かせて欲しいです。
■高野:
僕自身の解決策としては「会社の中での評価を諦める」ということでした。
会社の中で出世を僕は諦めた瞬間に心が軽くなって、好き勝手やろうとなりました。もちろん家庭があるなど、それができない人もいらっしゃるので、そういった人を救いたいという観点からアワードを作りました。
第1回は今のところ表彰の評価基準はなく、インフルエンサー的な周囲への影響力のある5人を選び全員表彰しました。「1番横浜に価値を生み出したで賞」、「横浜で1番早く走ったで賞」など、賞の名前は適当ですが、代わりに横浜副市長やデザイン協会の理事などにプレゼンターとなってもらいました。誰が1位とかいうのでなく、やっぱり表彰されるっていうのが大事だと思います。
◆加生:
社会がお墨付きや信頼を与えることは、0円でできる行政の果たせる1つの役割ですね。武村さん、いかがですか。
行政越境の壁や現状
□武村:
以前あるイベントで「行政はたくさんの情報を持っている」と言われたことがあります。
私も確かにそう思うのですが、私は行政マンは情報の使い方がすごく下手だと思っています。協働したらいいことができるはずなのに、どうしても行政マンは繋がることが苦手です。
それが行政で言う越境だと思うのですが、そこができない人間が多いです。
そこで皆さんに質問なのですが、行政マンがこうして入ってくる事に関してどう思われるか、もしくは日頃行政に対し思っている問題や課題があれば是非お聞きしたいです。
◯佐々木:
私はヘアロス当事者団体(Alopecia Style Project Japan)の活動をする中で、渋谷でヘアロスを広めるために渋谷区に協力を求めたことがあります。
当初、担当者からは「これぐらいのイベントやNPOは月に何十何百とお話が来てるので」と、門前払いされたんです。ただ、「つなげる30人」関係者と相談する中で、渋谷区長に表敬訪問する事が叶い、そこから物事が動く経験をしました。
◆加生:
行政側も受け取り方が準備ができてなかったり、幾多もあるお願いごとを全て叶えるわけにもいかなかったりする。行政側の苦しみがあるのかなと感じました。
□武村:
行政の担当者は縦割りでピンポイントな話になりがちです。私が所属する「京都をつなげる30人」の市役所メンバー3人は異なるセクションの話も一旦受け入れ、それをなんとかしようと考える姿勢で動いています。
特定の許可や支援を求めて行政の人間を捕まえがちである一方、広い意味で捉え、我々を上手く使ってもらいながら良い連携が生まれたら良いと思います。
自身の強みやこだわりを活かすトップツナガリストたち
●後藤:
ツナガリストの皆さんが自分自身をどういう風に捉え、表現や言語化をするのかをお聞きしたいと思いました。
■高野:
僕は弱点が多いけども、強みもあるからそこを活かして生きていく人間だと思っています。
ゼロイチで何か新しいのを考えるのは得意ですが、それを1→10にしてく几帳面さは僕にはないので、それを誰かに任せていくのが最近の僕の生き方です。
□武村:
私は公務員ですが、「カブキ者(枠にとらわれない者)の公務員」をずっと目指しています。こういう風に繋がれたことでちょっとそこに一歩を踏み入れられたかなと思っていてちょっと嬉しいですね。
◯佐々木:
私は基本的に学歴も職歴も一切ないにも関わらずここにいるのが驚きですが、遠慮の無いキャラクターや関西弁の強みを活かし、コネクターになれるんじゃないみたいな話が出ています。
「何かをしなきゃいけない」というのがないフリーなポジションが多くて、人と人とを繋ぎ、楽しいことをするというのをモチベーションにしています。私と関わるといつも楽しいと、関わる人たちが自発的にアイデアを出してくれるのが理想です。
ゲスト・参加者同士の対話
この後ゲスト毎に個別の部屋(ブレイクアウトルーム)で、ゲストと参加者で話を深めた後、全体で学びや気づきを共有し合いました(以下参加者の感想です。)
■高野部屋
「越境アワード」というキーワードで話し合いました。事例を見える化し、成果をどう組織に持ち帰り、それをどう見える化するかであったり、「つなげる30人」の参加者のマインドと行動につながるようなものができたりすると良いという話でした。
「モンドセクション金賞」が色々なところにあるように、競争ではなく皆が金賞を取ったとカジュアルに言い合え、そのような人がもっと増えることで、コレクティブインパクトがよりできる社会作りにつながるのではないかと話を聞いて感じました。
◯佐々木部屋
佐々木さんのこれまでのクロスセクターイベントについての話を聞いて衝撃を受けました。
佐々木さんの行動力や壁の無さが素晴らしいと感じました。(地方創生に関わる参加者の方は)自分の活動量の少なさに気がつかされ、今後もっとイベントなどに出て行こうと思いました。
●後藤部屋
敦賀の新幹線開通に伴う熱気をどう冷まさずに維持できるかを後藤さんに尋ねたところ、結局「人」だという話でした。
人と人の対話を通じて生まれるつながりが重要で、枠組みにとらわれず、個人・チーム・組織レベルでケアや教育をしていくことでつながりが広がっていくというとても温かい話でした。
□武村部屋
行政では一般的にこのような役割を市民協働課のような部署が担当するケースが多い印象ですが、そうではなく個人として動かれる事の意味や意義についてお話を伺いました。
武村さんは行政の仕事を単なる職務としてではなく、つながりを維持するための仕組みとして捉えることを大切にされており、それが長続きするコツだと理解しました。
最後に
◆加生:
本日はゲストやご参加してくださった皆さま、ありがとうございました。
初めての研究会でしたが、今後も継続的に全国のトップツナガリストの方々をお招きしながらこの輪を広げていきたいと思っています。
当研究会は原則毎月第1木曜日16:00-17:30枠で開催予定です。
次回12月6日は、名古屋から上条さん、渋谷・名古屋・横浜全てを経験された中川さん、渋谷の名ディベロッパーの伊藤さん、京都市役所から小野寺さんをゲストにお招きする予定ですので、皆さま楽しみにご参加ください。
地域をつなげる力研究会 Vol.2
https://project30-vol2.peatix.com/
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