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【横浜をつなげる30人】横浜野菜のコミュニティを生み出す「ヨコハマランド」。マルシェを開催して見えた、次なる可能性とは

企業・行政・NPOなど、クロスセクターで取り組むまちづくりプロジェクト「横浜をつなげる30人」が発足してから、2回目の秋を迎えた。

横浜をつなげる30人」は『イノベーション都市・横浜』を実現するため、横浜に関係する大企業や地元中小企業・ベンチャー企業・NPO・大学・市民・行政などの若手メンバー(Under40中心)が、組織やセクター、エリアの枠を越え、横浜の未来を創造する対話型・継続型・実践型のまちづくりプロジェクトとして、横浜市立大学准教授の芦澤美智子氏、吉永崇史氏が、Slow Innovation株式会社の協力の下で立ち上げたプロジェクトである。

2021年6月、約8ヶ月にわたる協働の集大成として1期生による活動報告会が開催され、「多文化協働」「イノベーション都市横浜に向けた人材の流動化」等5つのチームが活動成果を発表した。

ほっと息をつく間も無く、同じく9月には2期生の活動がスタート。

期ごとのつながりはもちろんのこと、1期生から2期生へのバトンの受け渡しも順調に進んでいる。これから時間やビジョンを共有していく2期生の新たな30人の活動にも注目していただきたいが、1期生がプログラム終了後も継続して行っている取り組みからも目が離せない。

そこで本記事では、1期生のアイデアから生まれ、今なお精力的に活動を続けているプロジェクト「ヨコハマランド」を紹介する。知る人ぞ知る横浜の魅力を、横浜だからできる方法で発信していく−−ヨコハマランドの活動をのぞくと、これからも住みたくなる街の未来が見えてくる。

横浜野菜の魅力を市民へ

横浜をつなげる30人から生まれた「ヨコハマランド」は、横浜で生産される野菜『横浜野菜』をより身近に感じてもらうことを目標としたプロジェクトである。

横浜市内農家の産出額は神奈川県内でトップであるにもかかわらず、その規模感や美味しさが市民に浸透しきっていない。この課題を改善するために、ヨコハマランドでは農家を選手、消費者をサポーターに例えたコミュニティ(クラブチーム)の構築を目ざしている。

つまり
①横浜で農業を営む農家の方々、また彼らがつくる美味しい野菜を市民に知ってもらうこと
②農業に関わる地域コミュニティの形成
③そのコミュニティを通して農業を取り巻く多様な問題を消費者視点・生産者視点の両面から解決しよう

と考えているのが、ヨコハマランドである。

具体的には、CSA(Community Supported Agriculture:地域支援農業)と呼ばれる仕組みを横浜の特色を生かした形で取り入れ、農家と消費者をスポーツのクラブチームのようにつなげるコミュニティづくりをしようとしている。名付けて「Y-CSA(横浜型地域支援農業)」である。

Y-CSAの中心には、「農産物の定期購入」と「農作業の手伝い」が想定されている。これは横浜で営まれる農業がいわゆる都市農業であり、住宅地と農地が隣接し、そのため消費者が農地に気軽に訪れることができる、という特徴を活かそうと考えられたものである。

横浜は農家と消費者の地理的距離がそもそも近いので、野菜を自分で買い取りに行ったり、日頃から手伝いをしに行ったりするのに適している。

このようにY-CSAは従来の「農家が売り、消費者は買う」といった一方通行な関係性ではなく、双方向のWIN-WINとなれる可能性を秘めている。

例えば、農家にとって日頃から農業を手伝ってくれるサポーターがいることは、慢性的な人手不足の解消、そして消費者の生の声を聞くきっかけにつながる。消費者にとっては、野菜や農業に対する正しい知識を身につけられ、子どもへの食育の機会を得たり美味しい野菜を摂れたりといった副産物もある。

Y-CSAは、まさに都市農業が広く営まれている横浜だからこそ形成されうるコミュニティである。

販売場から困りごと解決の場へ

マルシェで横浜野菜を販売するメンバーの牧野さん

2021年11月20日、ヨコハマランド主催のイベント「YOKOHAMA Agri Trip〜さぁ横浜の畑に旅しよう〜」がNEWoMan横浜の「2416MARKET」で開催された。

このマルシェでは、保土ヶ谷区の農家が育てた野菜の販売をメインイベントに、翌週行われたサツマイモ収穫のお手伝いチケットの販売も併せて行った。

当マルシェでは、ヨコハマランドのメンバーや農家の方が店頭に立ち、お客様と直接交流している姿が見られた。販売されている横浜野菜について説明するメンバーの声に耳を傾け、購入した人も多くいたという。農家と消費者がつながる場づくりとしてこれ以上ない空間であったと言える。

横浜をつなげる30人の1期生であり、ヨコハマランドのメンバーとしてマルシェに参加した加藤さん(富士通エフサス)は、「ヨコハマランドでの活動を通して、地産地消の魅力を再確認できた。野菜は採れたてが絶対に美味しい。九州など遠いところで栽培される野菜も良いが、新鮮さに敵うものはないですね」と語る。

同じくヨコハマランドのメンバーである安食さん(STUDIO NIBROLL)は、「マルシェを通して人のつながりを実感した。チームの中心的存在である金井さん(横浜銀行)が『農家仲間のために!』と率先して訪れた農家の方に声をかけ話し込んでいる姿に表されるように、マルシェは単なる野菜の販売場だけでなく、困りごと解決の場としても機能しているんです」と、イベントが持つ可能性に期待を込めていた。

大成功で幕を閉じた1回目のマルシェであったが、「今回のイベントがゴール」という意識はメンバーの間で全くない。むしろこのマルシェで弾みをつけ、次のステップへ進んでいく意気込みがある。

メンバーの牧野さん(Global Shapers/資生堂)は、「マルシェでは、サツマイモ収穫のお手伝いチケットも同時に販売した。収穫のお手伝いを通じて、消費者の方には体験のその先を味わって欲しい。農業の知識や、野菜への愛着を深める意義深いものになるはず」と、連続的に開催されたイベントの展望を語った。

また、「一回限りの体験では、指導や体験準備のために農家さんの負担が増えるばかり。日頃から農家の手伝いに来てくれる人を増やすためにも、活動は継続的に行っていきたい」と、今後の活動に向けても意気込んでいる。

農家が望む「コミュニティ」とは

メンバーの金井さん(写真左)と保土ヶ谷区の農家さん

一方で、ヨコハマランドの活動に参加した農家の方たちは今回の取り組みをどのように受け止めているのだろうか。

今回のイベントは、保土ヶ谷区で農業を営む農家の方々の協力の下で実施されている。なかでも、保土ヶ谷区西谷に住む白井さんは、当日マルシェの店頭に立ってお客様と交流し、またサツマイモ収穫の会場提供を快く引き受けてくれた農家の1人である。

そんな白井さんにマルシェに参加してみての感想、そして今後について話を伺った。「正直今回のマルシェやサツマイモ収穫のイベントは負担になっている」と、白井さんは口火を切った。1回のイベントに農家の方がかける労力はやはり大きいようだ。

一方で、ヨコハマランドに期待も抱いている様子であった。「運営する直売所で地元の方と交流しており、美味しい食べ方を教えたり、その感想を後日伝えてもらうときにやりがいを感じます。また、若い世代が横浜農業に関心を寄せるきっかけになると思います。そういった意味で、きちんと売れて利益が出るのであれば、こういった機会を見つけて交流したり、販売を続けていきたい。また援農的に関わってくれる人が見つかるならば、それはありがたいこと。」

ヨコハマランドが掲げる「農家と消費者とのWin-Winな関係」を実現するためには、双方が持つニーズや課題意識を正確に捉え、試行錯誤のプロセスを継続していくことが必要である。

ヨコハマランドのメンバーは白井さんとの対話を通じて、より理想的なコミュニティ、そして交流の場づくりを模索している。

横浜野菜とともに、次のステップへ

マルシェでは採れたての野菜がぎっしりと並べられた

横浜をつなげる30人で横浜野菜に関心を持ち、「横浜野菜マルシェ」という活動を企画して実践しているヨコハマランドは今後をどのように展望しているのか。

メンバーである犬塚さん(横浜市立大学・学生)は、「生産者同士のコミュニティをさらに広げたい」と話し、加藤さんも「賛同者の人数を着実に増やしていきたい」と、活動の規模拡大を目指す。

牧野さんは「廃棄される野菜を有効活用する取り組みができないかと考えています。フードロスの視点から商品開発もしていけるのではないでしょうか」と話す。

一方で、安食さんは「メンバーはそれぞれ本職があり、ヨコハマランドの活動にフルにコミットできるわけではない。そんな背景のもとでこのプロジェクトをどのように着地させるかを議論していく必要があると思っています。活動自体は社会的意義のあるものなので、アイデアを誰かにパスして事業化していく方向もアリですよね」との意見を聞かせてくれた。

実際に、メンバーの中にはチャレンジの一環としてビジネスコンテストへ参加した者もいる。また、犬塚さんは横浜市立大学の学生チームを作っての引き継ぎに意欲を示している。ヨコハマランドの活動はなめらかにつながっていっているようだ。

横浜の農業が抱える困りごとを、横浜ならではの特徴を生かして解消しようと立ち上がったヨコハマランド。彼らの活動は、今まで表に出にくかった「横浜野菜」を発信していこうと立ち上がったばかりである。この活動が今後発展していくことで、横浜の新たな表情を垣間見ることができるのではないだろうか。

そして、こうした活動の広がりが「イノベーション都市横浜」の土台となる繋がり、イノベーション創出の文化を生み出していくのではないか。
取材を通じて感じたのは、横浜をつなげる30人から生み出される、横浜の未来の可能性であった。

文章:大武和生


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