見出し画像

『民間と行政の間をつなげるホチキス役になりたい。民間企業出身の前副市長がやってきた公民連携の肝とは?』地域をつなげるイノベーター列伝 Vol.2

地域で活躍するキーパーソンと、「つなげる30人」プロデューサーの加生健太朗の対談形式インタビューを実施し、行政・企業・NPO・市民といった様々なセクターをつなげていくことについて考えていく連載企画「地域をつなげるイノベーター」vol.2

平成29年10月1日、四條畷市と民間企業が連携して実施した全国公募により、四條畷市初の女性副市長に就任した林有理さんをゲストとしてお招きしました。

話を聴いたひと

林 有理

【経歴】
1980年、大阪府島本町生まれ。元リクルート/スーモマガジン編集長。退職後、リノベーションまちづくり分野で推進協議会事務局や事例紹介サイトの立ち上げ、講師や研究活動に従事。平成29年10月1日、全国公募により、四條畷市初の女性副市長に就任し、働き方改革を柱とした前例主義に縛られない「日本一前向きな市役所」をめざし、子育てをしながら組織改革に取り組む。副市長任期満了に伴い、次の活躍のフィールドを模索中。

四條畷市副市長になるきっかけ

加生:はじめに、林さんが今に至るまでどのようなお仕事をされてきたかお聞きしていいですか?また、四條畷市の副市長になる前は、行政と一緒に仕事をされる機会等はあったのでしょうか?

林:副市長になる前は、新卒でリクルートに入り、住宅情報誌の部署で営業をしていました。その後、企画の部署に異動し、スーモマガジンの編集長になりました。

スーモマガジンは、各地の住宅情報をそれぞれの地域ごとにまとめて発行している雑誌です。全国展開のため、企画会議で北海道から九州まで各地を転々と回るなかで、元気な街とそうでない街があることに気づき、地域の活性などに興味を持つようになりました。

リクルートで働きながら、地域活性に関する研究活動を重ねていましたが、より本格化したいとの思いもあり、リクルートを退職。個人で複数のプロジェクトに参画しながら研究活動も続ける働き方をしていました。

それまで行政と関わった経験はありませんでしたが、行政は地域活性には重要な役割を担っており、次は行政と連携する仕事がしたいと考えていました。すると、夫が、たまたま目にした四條畷市副市長公募のニュースを教えてくれたんです。

まだ子供を産んで3ヶ月だったのでかなり悩んだのですが応募し、幾度かの面接を経て副市長に採用されました。夫は自宅に残り、私は当時0歳の娘を連れて、四條畷市に赴任したんです。

2017年から4年間の任期を満了した今、これからの事は模索中ですが、しばらくは組織の中で働くことからは距離を置くかもしれません。今は、フリーランス的な働き方をしたいと思っています。

元気のない街とは?

加生:お話の中にあった、林さんが歩き回ることで感じた元気のない街とはどういう街だったのでしょうか?

林:簡単にいってしまうと「空き家が多い」、すなわち「人が歩いていない」街でしょうか。つまり、まちに活気がないんです。

当時は、全国的に空き家問題やまちの空洞化などが大きく取り上げられ始めた頃で、私も中古住宅やリフォーム市場の環境整備を目的とした団体運営に関わっていたこともあり、興味を持つようになっていました。

まちに活気をもたらす箱である不動産を、遊休させることなく活用するにはどうすればいいのか。不動産を軸とした地域の活性の研究を進めるなかで、行政の重要性に気づき、自分もそのなかの一員として働きたい、などと考えていたわけです。

きっと自分に子供が生まれて、地域社会の中の一個人として当事者意識が生まれたんでしょうね。

組織の文化を変える

加生:非常に重要な役割ですね。

企業出身の方が、行政の中でそのような役割を果たそうとしたとき、そもそも企業とは組織や働き方の文化が違うのではないかと思いますが、林さんはどのようにご活動されていましたか?

林:行政は、例えば隣の課なのに、どんな問題が起こっているかがわからないなど、横の連携や情報共有が少ないと感じました。その中でまず私が意識したのは、この組織を率いていく部長級のメンバーを経営者ボードとして位置づけし、部を超えたナレッジ共有を行うことでした。

このナレッジ共有は会議体として設定し、全庁の主要な施策などの進捗管理や、課題解決を相互に相談しあえる場ができました。この会議は今でも、課題をさらに掘り下げたり、時宜に応じて形態を変えたりして続いています。

加生:組織の文化を変えることは、すごく大変なことだと思います。

林:私自身は、自分のことを「素人のプロ」だと思っています。素人であることを強みに、徹底的なヒアリングによる課題の把握や、新たな視点の提供などができる。どんな場面でも有効だと考えています。

そこで、私は、とにかく市庁の幹部職員からの意見をひとりひとり丁寧に聞いていました。私の役割は、現場にあふれる課題の解決の糸口を見つけること。職員などの当事者自身が、悩みの解決策を内在していることが多いんです。ある幹部職員からは「ここまで自分たちの話を聞いてくれる人はいなかった」と言われました。

加生:市庁の幹部職員からの意見を丁寧にヒアリングすることでどこに課題があるかを発見されていたのですね。

林:課題はあげたらキリがなく、しかし市庁内だけではそれを解決する術がないと感じている職員が多かったため、私は「どうしたら課題解決できるか」ずっと考えていました。

課題解決のためには、課題の本質がつかめていること、そして、その解決手法(人・モノ・お金)が手中にあること、が大事です。例えば、道路などのインフラの維持管理をしている課は、日常的に起きる道路の損傷の対応に、多くの時間と工数を取られています。市民からの通報後、損傷箇所を現地確認し復旧に要する資材を揃えるステップを、LINEを導入して削減するなど、現場のニーズと照らし合わせながら、業務がスムーズに行えるようにバックアップしました。

また、外部の人々の知見も多く取り入れました。例えば、市の健康寿命の延伸をテーマにした方針の策定には、全国各地の志ある民間人材の方々に来てもらい、高齢者団体や社会福祉協議会などへフィールドワークをしてもらうことで、新たな視座を提供いただきました。

企業との連携も行いました。例えば、四條畷で新たに生まれた全てのお子さんへ、子ども服の詰め合わせを贈る「スマイルベビーギフト事業」は、子ども服メーカーとの連携(寄付)によりスタートしました。これは、新生児訪問でご連絡を取れない家庭への訪問面談を少しでも増やすことにもつながります。

加生:林さんは、企業に務められていた経験を活かして、様々な課題の解決をしていたんですね

民間と行政をつなげる、ホチキス的な役割

林:業務を進めるうちに、数多くの社会課題が市に潜んでいることに気づき、民間企業にもっと知ってもらって連携のきっかけをつくれるよう「課題リスト」を作成して掲示したり、公民連携を進める担当者や部署も設置しました。

その部署では、課題リストの整理と民間のリソースをまとめ、また公民が連携することで相乗効果を生み出すような文化を作るために、市としての公民連携指針を策定しました。

行政と民間を、単なる委託者と受託者、発注者と受注者という関係ではなく「対等なパートナー」としてお互いを尊重して、公だけでも民だけでも解決できなかったり作り出せなかったりするものを生み出していこうと掲げています。

いろいろなことにフレキシブルにトライアルするため、ベンチャー企業と組んでプロジェクトを行うことが多かったです。ベンチャー企業と組むことで、職員が経営視点を知ることができるというメリットもありました。

今までの行政の在り方は、前提条件を最初に明確にし、仕様書を共有し民間から事業者を募るようなことをおこなってきました。そのようなやり方は、行政が明確に課題や解決手法を分かっていることが必要です。でも、今はそんな時代ではありません。民間の知恵や知見を貸してほしい。ですので、行政の課題は掲示して、「誰か一緒に解決してくれませんか?」と呼びかけたわけです。

今思えば、元々ギャップを感じていた民間と行政の間で、私はホチキス的な役割を担っていたのかもしれませんね。

加生:私達も「つなげる30人」の中では、異なるセクターの方々同士が対等なパートナーとして活動をすることは、私たちも意識しています。

民間と行政がつながることにより生まれること

加生:林さんは、民間と行政が対等につながることによって、地域にどのような事が生まれると思っていますか?

林:行政の役割は、自分で立ち、何かコトを進める市民の邪魔はせず下支えし、立ち上がりづらい方は支援する、という役割ですね。

なお、地域を元気にするには多様な人材が必要です。

私としては、次の4つの役割が必要だと思っています。

 ① 地域の魅力を発信する人

 ② 地域の不動産会社

 ③ 地域に対して想いのある地主

 ④ 新たなことを応援できる住民

これまでの行政と民間との連携事例は、コンソーシアムや商店街活性化コミュニティなどがあり、行政でまちづくり計画を策定し、そのまま民間に降りてくるものが大半です。

しかし、社会的に見てもそういった動きは今後縮小する流れになると思います。

加生:本当にそうですね。「つなげる30人」でも、つなげることで地域の方が垣根を越えて活躍できるフィールドができると思っています。それを全国に増やしていきたいと思ってはいます。

林:素敵です!「つなげる30人」はこれからも変化していくんでしょうね。

また民間の方がこれからの「つなげる30人」を広げていくことによって、その地域の色が出てくるんでしょうね。

これからどんな動きになるかすごく楽しみですね。これからも応援しています。

加生:ありがとうございました!

文章:後藤美佳
編集:野村亮太

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?