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資金決済WG(Progmat内RTGS分科会)中間報告について

※本記事は2022.9.29に公開されたものをNoteへ移行しています。


1. はじめに

こんにちは、デジタルアセット共創コンソーシアム(DCC)運営事務局です。

前回の記事では、2022年8月に公表したPJについて、PJの参加者やその役割、また商品性、販売方法について解説しました。発行体(委託者)様サイドには、委託者兼当初受益者(としてのブリッジファンド)としての役割だけで無く、スキーム上、精算受益者としての役割を担っていただく必要があることや、当該精算受益権の性質についても説明しました。

国内でも複数のSTO実績が積みあがっているなかで、不動産のアセットタイプや金額規模も拡がりを見せてきています。引き続き、発行体様のニーズに合わせSTOを検討できるよう、Progmatを活用したサービスを提供していきますので、ご検討の際にはぜひ事務局にご相談ください。

さて、今回の記事では、2022年9月29日に発表したプレスリリース「「資金決済WG」における中間報告書の公表と「Progmat Coin」のクロスチェーン技術検証開始について」の内容を解説して参ります。

資金決済WG(以下、本WG)は2021年10月にDCC(旧SRC)内に設置した「セカンダリ・DLT拡張WG」の後続WGとして、来年度施行される改正資金決済法によって信託銀行で取り扱い可能となるステーブルコインの実装を業界各社様と横断で検討するものです。

今回の記事では本WGのうち、「Progmat内RTGS分科会(詳細は後述します)」にフォーカスをあて、中間報告までの検討結果について解説します。本WGのもう一方の分科会である「クロスチェーンRTGS分科会」における検討結果は、来月の記事にて解説しますので、本記事と合わせてご確認いただけますと幸いです。

それでは、詳細について解説していきます。

2. 資金決済WG概要

冒頭でも説明していますが、本WGはDCCの枠組みの中に設置されたWGです。2021年度に実施し、ST市場の将来像を具体化した「セカンダリ・DLT拡張WG」の後続WGとしての位置付けで、そのうち特にステーブルコイン(以下、SC)を用いた「資金決済の在り方」を具体化する取組みとなります。

DLTの拡張や各社様の具体的な参加方法については、「Progmat 5.0」プロジェクトとして検討を進めて参りますので、動向については別途ご注目ください。

(1)本WGの参加者
本WGには、DCC会員の証券会社様、デジタル証券PTS様を中心に、MUTB以外の原簿管理者候補の金融機関様やPFの技術協力者様、法律事務所様等、数多くの方にご参画いただき月次で検討会を行っています。

本WGにおける参加者様の構成については下図をご確認ください。

(2)ステーブルコインの導入意義
まずは本WGでの検討の前提となるSC実装の目的について、簡単に解説します。

STの取引において、資金決済手段が法定通貨(銀行送金)しか存在しない場合、一般的には取引から決済完了まで2営業日(T+2)の決済リスクがあるうえに、金商業者間での相対ネッティングのための金額確認や銀行関連オペレーション等の事務コストが掛かり、更に他行送金手数料も発生します。

上述のように、法定通貨を用いた非効率且つコストがかかる決済処理が現状行われていますが、「Progmat Coin」の基盤で発行したSCを利用し、PTSからの出来通知をDLT上で連携することで、ポストトレードプロセスを一線完結化することが可能になります。

※ポストトレードプロセスのイメージ図

つまり、SCの導入によって決済リスクは極小化(T+0)され、全ての処理を全自動化することが可能で、且つ送金手数料も低減することが可能になります。ただし、SCの実装は実際に決済の対応担う金商業者様や、今後取引が開始されるデジタル証券PTS様との各種論点の合意なしには行う事が出来ないため、本WGとして各社様に参画頂いたうえでの検討が必須と考え、実装に向けた各種検討を進めています。

(3)セカンダリ・DLT拡張WGでの検討を踏まえた前提

①「Progmat内RTGS」俯瞰図
2022年3月までに行った「セカンダリ・DLT拡張WG」で検討した結果をもとに、3月時点で想定しておりました「Progmat内RTGSの俯瞰図」を作成していますので、以下に示します。

分科会の名前にもなっている「Progmat内RTGS」とは、「証券決済は「Progmat ST」で、資金決済は「Progmat Coin」で発行したSCで対応する場合」を指しています。こちらの場合、デジタル証券PTSによるマッチング完了後、各市場参加者においてはProgmat用Nodeを介した1本のフローでポストトレードプロセスが完結します。

具体的な順序として、図に示す通り、デジタル証券PTS(EN:Exchange Node)からの出来Txをインプットに、カストディアンノード(以下、CN)(売)がST及びSCの移転Txを生成し、ST/SCの取引関係者全員の署名の下、Notary Node(以下、NN)による二重消費検証を経て移転が確定する流れとなります。

②「クロスチェーンRTGS」俯瞰図
続いて、①と同様に3月までの「セカンダリ・DLT拡張WG」で検討した結果をもとに、「クロスチェーンRTGSの俯瞰図」を以下に示します。

本WGにおけるもう1つの分科会の名にもなっている「クロスチェーンRTGS」とは、「証券決済は「ST基盤(3rd Party)」で、資金決済は「Progmat Coin」で対応する場合」を指します。この場合、デジタル証券PTSによるマッチング完了後、各市場参加者においてはProgmat用Nodeを介したSC移転のフローに加え、当該ST基盤用NodeとST移転用フローが別途必要になります。

具体的には、Progmat Coin側で、信頼できる第三者機関に依存しないクロスチェーンソリューション(=Relayer)を提供することで、「Progmat ST」以外のST基盤もアトミックなDVP決済が可能となり、各市場参加者はデジタル証券市場における資金決済手段を統一/効率化することが可能になるというものです。

(4)分科会構成・目的
本WGにおける2つの分科会は、改正資金決済法準拠のステーブルコイン発行基盤である「Progmat Coin」を用いた資金決済の在り方を具体化するべく立ち上げた分科会です。

「Progmat内RTGS」分科会は、本WGにおける共通To Doをスコープとして、「Progmat Coin1.0(初回スコープ)」開発へ要件等をインプットすることを目的としています。一方、「Progmat Coin」を決済手段とするST基盤は「Progmat」には限定しません。このため「Progmat内RTGS」のみならず「クロスチェーンRTGS」も含めて検討を行う必要がありますので、2つの分科会を同時に立ち上げています。「クロスチェーンRTGS分科会」では、他のST基盤連携を目的とした「クロスチェーン決済機能開発」までに、各社との各種合意形成を完了することを目的としています。

夫々の分科会での対象レイヤーおよび具体的な検討内容を下図の通り整理していますのでご確認ください。

今回の解説記事では、前述の通り「Progmat内RTGS分科会」での検討結果について解説していきます。

3. Progmat内RTGS分科会における検討結果(中間報告)

ここからは、「Progmat内RTGS分科会」における中間報告発表時点までの検討内容を解説していきます。

(1)「Progmat Coin1.0」の開発スコープ
「Progmat Coin」を用いて発行されるステーブルコイン(電子決済手段,SC)は、金商業者様が自己口で保有し業者間移転取引に用いる「ホールセール(WS)型SC」と、個人・企業等のエンドユーザー様がそれぞれ直接保有する「リテール型SC」の、2つの類型に大別されます。

「Progmat Coin1.0」(初回スコープ)段階では、デジタル証券PTSを介した金商業者様間のST移転取引における資金決済の効率化が目的のため、必ずしもエンドユーザー様が直接SC残高を保有する必然性がない(むしろ法定通貨との交換の手間が生じる)ことから、「WS型」を対象とする結論に至りました。「Progmat Coin1.0」としては、今後WS型SCの実装に向けて各検討を進めて参ります。

WS型との比較としてリテール型と合わせて、夫々の利用用途等を簡単に整理していますので、下図をご確認ください。

(2)「Progmat Coin(WS型)」の拡張ロードマップ
「Progmat Coin(WS型)」の拡張ロードマップは下図のとおり、システム断面及びその業務態様が2つの断面に分かれます。1つ目は「①PTS・金商業者間連携はオフチェーン(既存回線、EN無)/ホールセール型SC有/カストディ委託型」の断面で2023年6月頃の実装、2つ目は「②PTS・金商業者間連携はオンチェーン(EN有)/ホールセール型SC有/直接管理型」の断面で2024年6月頃の実装を想定しています。

「①の断面では、MUTB以外の各参加者様はNodeを直接持たず、ST/SCの移転をAPI又はCSV送付にて行うカストディ委託型となりますが、②の断面では、災対サイト強化のうえで、PTSを含む各参加者様がNodeを直接保有し、自身で直接ST/SCの移転が可能な直接管理型の想定となります。なお、夫々の断面ではデータの連携方法が異なりますのでご検討頂く際にご留意いただけますと幸いです。

(3)「Progmat Coin(WS型)」の断面別パターン
決済のフローを検討する際の論点の1つである「PTSで個人情報(権利者ID)を取り扱う必要性の有無」について、断面別に整理を実施し、夫々下図の通り(A)~(D)パターンに分けています。

上段の断面①では、そもそもEN⇒CN間の自動連携がないため、PTSで権利者ID(移転先/移転元ID)を取り扱う可能性は無く、パターンは(A)のみとなります。

一方断面②では、PTSでの個人情報取扱有無によりTx処理フローが変わり得ますのでパターン(C)と(D)の可能性が考えられます。ただし、現状のエクスチェンジでは個人情報の取扱はなく、ST/SC取引に際して新規で取り扱うことは課題感が強いことから、パターン(C)ではなくパターン(D)を採用することに決定しました。これによりパターン(C)は今回の検討段階では採用可能性がないため、詳細検討の対象外としています。

上記で分けたパターンのうち、特にパターン(A)は「Progomat Coin1.0(初回スコープ)」の前提となるスキームであるため、「Progmat内RTGS分科会」において優先的に詳細検討を行って参りました。パターン(D)は各社がNodeを保有し、PTSを除く金商業者間で投資家ID等の情報を共有する将来形ですが、現状は残論点も多く存するため、下期の分科会にて継続検討する形となります。

以上より、今回の記事では、パターン(A)における契約構成および業務フロー/データフローについて詳述します。

(4)パターン(A)の契約構成と業務システム俯瞰
①契約構成
複数金商業者様を委託者兼受益者とする受益証券発行信託を会社別に締結し、資金決済法上の電子決済手段として特定信託受益権を発行します。なお、WS型SCでは投資家は直接SCを保有しないため、金商業者様とは既存契約に基づく金銭預託とST/SC交換取引の取次の委託をするに留まります。
また、パターン(A)の断面①時点ではカストディ委託必須のため、STと同様、カストディアンを含めた各当事者間で事務取扱要領により取扱事務の詳細を定めます。金商業者様がAPIを利用する場合は受託者/カストディアンとAPI利用契約を締結し、受託者/カストディアンはPF提供者とPF利用契約を締結します。

各当事者と契約構成のイメージは下図の通りです。

続いて、SCの移転、発行、償還について場面毎のシステム俯瞰(フロー)を見ていきます。

②業務システム俯瞰|SC移転(ST決済)
各投資家は、口座を有する各金商業者様に対して、取引決済用の資金を預託したうえで(現状どおり)、ST/SC交換取引の取次を依頼します。PTSの媒介により金商業者様間でST/SC交換取引が法的に成立し、その経済効果が取次の委託元の各投資家に帰属します。

「Progmat Coin1.0」時点では、PTSはEN導入未済のため、金商業者様はDLT外で出来通知を受領後、APIにてカストディアンに移転を指図します。各金商業者様はST決済用SC枠を用意しておき、顧客口の買付資金を自己口に移しつつ、自己のSC枠内で他金商業者様とDLT上で自動決済を行う形となります。

③業務システム俯瞰|SC発行(枠確保)
WS型SCにおけるSC発行は、STセカンダリ取引における流動性(枠)確保のための事前発行、及び枠超過時の追加発行の2パターンを想定します。金商業者様は現行の日銀当座預金と同様に事前に一定金額のSCを発行の上で、前述のとおり即時決済(T+0)を実現する形の想定です。

枠の考え方については、ST取扱残高やセカンダリ取引実績に応じて、各金商業者様(SC委託者兼受益者)が動的にコントロールする形を想定しています。

④業務システム俯瞰|SC発行(追加)
STセカンダリ取引が想定よりも増加した場合、ST決済用SC枠が不足するため、SCの追加発行が必要となります。ST買注文前/移転前の必要SC残高確認により不足を検知した場合に発生しますが、その前提としてST買発注者(投資家)は必要な決済用資金を予め顧客口に預託しているため、追加発行に要する法定通貨を顧客口から自己口に移したうえで、自己口の当該資金を用いてSCの追加発行を行います。

⑤業務システム俯瞰|SC一部償還
STセカンダリ取引におけるST売却側の金商業者様及び投資家は、売側金商業者様宛てのWS型SCで対価を受領するため、その後投資家の顧客口へ法定通貨として資金移動する必要があります。よって、SCを一部償還して証券会社自己口へ必要な法定通貨を準備した上、自己口から顧客口へ当該資金を振り替えることを想定しています。

(5)主要論点と中間時点の整理状況
「Progmat Coin1.0」(初回スコープ)時点で影響を受ける論点についての、中間報告時点の整理状況は以下の通りです。

①法的論点
(ⅰ)法改正による業規制該当有無:WS型SCにおいて、金商業者が改正資金決済法の電子決済手段等取引業者に該当するかどうか

→金商業者及びカストディアンの電子決済手段等取引業該当性について確認していますが、最終的な結論は内閣府令等の公表を以て確定させます。

②業務プロセス
(ⅰ)デジタル証券PTSでの個人情報取扱:金商業者がPTSにST売買注文を発注する際、PTSを起点とするSTP化のために個人情報(権利者ID)を連携可能か

→PTSのNode保有後、ST売買注文マッチングからST移転完了までを自動完結化(STP化)するため、金商業者からPTSへの注文発注時に、権利者IDを付加して連携する方式を想定しました。その後、権利者IDは個人情報に該当しPTS・金商業者共に連携が困難であるとの見解を得ましたので、「注文ID・約定IDをKeyに、PTSを介さず金商業者(CN)間で連携する方式」に変更し、PTSは個人情報取扱い不要としました。

(ⅱ)SCの流動性確保について:円滑にST移転処理を実行するために、フェイル発生に備えてSCの準備金枠をどの程度確保すべきか

→SCの流動性確保を目的として確保しておく準備金の額は、現時点では存在しないセカンダリ取引量に依存するため、足許で明確なロジックは決定できないという結論に至りましたが、流動性確保の目的は「SC残高不足によるフェイルを発生させない」ことにあるため、「そもそもフェイルが発生し得ない業務フロー」を策定しており、今後実装に向けた詳細化を継続検討して参ります。

(ⅲ)Node間のデータ共有範囲:PTSに個人情報(権利者ID)を連携させずにSTP化を実現するための、金商業者(CN)間の情報共有をどのように実現するか

→PTSでの個人情報取扱が不可であることから、ST移転に必要な権利者IDはProgmatを介して金商業者(CN)間で連携する方式としました。但し、金商業者間においても個人情報の第三者提供に該当し得るため、断面②(CN/ENオープン化後)以降の権利者IDの共有方針については継続検討して参ります。

以上、②(ⅲ)の通り、「Progmat Coin」拡張後の“EN・CNオープン化”断面(前述のパターンD)における業務プロセスは残論点があるため、下期に継続検討を行って参ります。

4. 全体スケジュール

最後に、本WGを含む過去のWGからの一連の検討の流れをお示しします。今回の検討はFY2021の「セカンダリ・DLT拡張WG」から始まり、同WGでの検討を踏まえ、2022年4月より「資金決済WG」(=Progmat Coin)および「Progmat 5.0」に着手、という流れになっています。

今後は「資金決済WG」における検討を通じた中間報告を踏まえて、「Progmat Coin 1.0」は下期より実装フェーズに移行していきます(改正資金決済法施行を踏まえた業務開始を目標としています)。3月までの残り6ヵ月で「CN/EN拡張後フローの確定」と「クロスチェーン技術検証」を夫々の分科会にて進め、「Progmat 6.0」及び「Progmat Coin2.0」の実装に向けた前提整理/合意形成を行っていきます。

全体の想定スケジュールを下図に示しますのでご確認ください。

5. まとめ

今回の記事では、本WGのうち「Progmat内RTGS分科会」にフォーカスし、中間報告時点での検討結果について解説しました。「Progmat Coin」の実装に向けた各種課題については、下期に継続検討をして参りますので引き続き動向にご注目いただけますと幸いです。

また、次回は本WGのもう1つの分科会である「クロスチェーンRTGS分科会」に関する中間報告の内容を解説予定です。「Progmat Coin」と他の基盤との連携方法についての検討も、SCを用いた資金決済を実装するためには欠かすことのできない大事な要素となります。是非次回の記事もご覧いただき、理解を深めていただければと思います。

次回以降も、よりタイムリーに皆様にとって価値のある情報発信ができる記事を掲載して参ります。今後もST発行実績に基づく成果や、各種WGを通じて得られる成果についての情報還元を継続し、皆さまのご検討の一助となればと考えています。個別のご質問やご相談事項がございましたら、共同検討をはじめとしたさまざまな枠組みがありますので、DCC事務局までお問合せください。

引き続き、DCCおよびProgmatをよろしくお願い致します。

ご留意事項

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