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トレーサブルNFTと日本酒トークンに係るプレスリリースについて

※本記事は2023.2.2に公開されたものをNoteへ移行しています。


1. はじめに

こんにちは、デジタルアセット共創コンソーシアム(DCC)運営事務局です。

前回の記事では、2022年11月11日に公表し12月15日に実行したProgmatを活用した東京都心3物件の不動産STO PJについて、PJの参加者やその役割、また商品性、販売方法について解説しました。いちごオーナーズ様がプロジェクトオーナーとして、東京都心に所在する資産規模約54億円(鑑定評価額)の共同住宅3物件を裏付け資産とするSTOであり、STの発行価格総額は約16.3億円の案件となりました。

さて今回の記事では、2023年1月31日に発表したプレスリリース「トレーサビリティ機能を持ったNFT”(『トレーサブルNFT(*1)』)の基盤創りと、世界初(*2)の『日本酒トークン』発行に向けた共同検討の開始について」の解説をします。

*1 ブロックチェーン等の電子情報処理組織を用いて移転することができる、一意で代替不可能なデータの総称 *2 2023年1月、三菱UFJ信託銀行およびSBIトレーサビリティ調べ

三菱UFJ信託銀行はSBIトレーサビリティ様とともに、個々の商品等との明確な紐づけが可能で、「本物」であることを客観的に明示可能な「トレーサブルNFT」の基盤創りと、日本酒業界の課題解決を目的とした「日本酒トークン」の発行を目指す日本酒トークンWGを設置し、検討を開始することとしました。

それでは、WG発足の背景やトレーサブルNFT・日本酒トークンの詳細について解説します。

2. WGの目的と主な検討内容

「トレーサブルNFT」及びユースケースとしての「日本酒トークン」の発行に向け、DCCでは、日本を代表する酒造会社や酒類販売店のオブザーブの下、新しい挑戦に積極的な酒造会社や酒類販売店、ブロックチェーン技術提供会社、ECプラットフォーム技術提供会社、及び法律事務所等の計13組織とワーキンググループを設置し、共同検討を開始すると共に、関係機関との協議を進めていきます。

本WGでは、2023年内を目途に、酒税法などの法的論点整理を踏まえたスキームやシステムグランドデザインの公表、及び各種日本酒トークンの個別案件開始を目標にすると共に、「トレーサブルNFT」を日本酒以外にも様々な商品で新たな価値創造のインフラとしてご活用いただける内容とすることを目指します。

3.「トレーサブルNFT」とは

「トレーサブルNFT」とは、デジタルアセットの発行・管理基盤「Progmat」上で様々なユーティリティトークン(機能型NFT)を発行・管理するためのインフラ「Progmat UT」と、個々の商品等が「本物」であることを明示するためのトレーサビリティ基盤「SHIMENAWA」(SBIトレーサビリティが提供)を組み合わせ、現実社会における個別商品等(リアルアセット)に関する権利(所有権又は債権等)と明確に紐づけられたNFTを指します。
NFTとリアルアセットの紐づけが不明確な場合、ブロックチェーン上でNFTを取得したとしても、現実社会において紐づけられているはずの個別商品等に関する権利は必ずしも取得できていないといった、取引の安定性に係る懸念が生じ、NFTの価値が棄損する可能性があります。

「トレーサブルNFT」により、NFTの移転を以て個別商品等に係る権利も確実に移転し、NFT保有者が「真の権利者」として、紐づけられた個別商品等に係る権利行使(物理的な引き渡しや、付随する各種利用権等の取得)を安定的に行うことを可能にすることを目指します。

4. ユーティリティトークン基盤「Progmat UT」

(1)「Progmat UT」について
「Progmat UT」は、特定のアセットやサービスに関する利用権や会員権といった権利を、分散型台帳(Distributed Ledger Technology、以下DLT)上で、一意かつ代替不可能なデータとして記録できるNFT(Non-Fungible Token)の技術を用いて、デジタル完結で移転可能なUT として発行・管理することを可能にするプラットフォームです。

「Progmat UT」を用いる事によって、これまでの伝統的な優待券や会員証といった券面に伴うアナログ処理・コストから解放されるとともに、利用状況や移転状況をリアルタイムで把握することが可能になります。また、同じProgmatのネットワークに多数の事業者が参加することで、アプリを跨いだ UTの柔軟な移転やプログラムによる譲渡制限等の完全な統制もできるようになります。券面で発行された優待券等は、発行して配布した段階でその後の流通や利用状況等を把握することが難しかったのに対し、UTであればそれらを把握することで、発行体にとっては優待を出すことによる効果測定等を行える点が大きな利点となります。

「Progmat UT」につきましては2022年8月1日の記事にて特集しておりますので、詳細につきましては同記事をご参照ください。

「Progmat UT」のイメージ図

(2)「Progmat UT」ウォレットサービスβ版の無償提供(期間限定)

 「Progmat UT」関連の「ウォレットサービス」は、現時点ではβ版として無償で提供しております。 将来的には本製品版として有償での提供に向け開発を進めていきますが、β版の提供期間は各事業者様において無償でUTを発行・付与する事が可能でございますので、本製品化を待たずともUT発行を行って頂く事が出来ます。現時点でご興味をお持ち頂いた事業者様には、是非お気軽に事務局宛にお問い合わせ頂けますと幸いです。

5. トレーサビリティ基盤「SHIMENAWA」

SBIトレーサビリティ様の提供する「SHIMENAWA」は、ブロックチェーン技術でデータに命(新たな価値)を吹き込み、サプライチェーン上でつなげることで、有形、無形な商品の付加価値を最大化するトレーサビリティ・サービスです。

SHIMENAWAのイメージ図

SHIMENAWA Webサイトより)

(2)「SHIMENAWA」を支える技術
SHIMENAWAは世界で350社を超える金融機関、規制当局、中央銀行、システムベンダなどにより構成されたコンソーシアムで企業間取引を想定して設計・実装されたブロックチェーン基盤のCorda(コルダ)を採用し、RFID技術とのデジタルペアリングなどで共有される情報の真正性を担保するシステムで、信頼性の高いエンド・ツー・エンドのトレーサビリティを実現します。

また、「開封検知」機能は、その銘柄が“いつごろ”、“どこで”、“どのくらい”消費されたかのデータを取得することができ、蔵元にはインテリジェンスな経営への活用や、お客さまには購入した高級日本酒の希少性をさらに高めることを目的に新たな価値を提供することが可能となります。

加えて、ブロックチェーン基盤のCorda(コルダ)を活用したトレーサビリティ・アプリケーションを開発・運用し、ブロックチェーン基盤の活用が抱える運用コストにかかる課題を最小化する技術の開発も合わせて実現することに成功しました。なお、本技術は特許出願中です。

SHIMENAWA for SAKEのご提供イメージ

プレスリリースより)

6.日本酒業界の課題

日本酒は地域の歴史・伝承、酒米や水環境など様々なエッセンスが詰まった“地域そのもの”であり、地方創生の切り札となる大切な存在であると同時に、日本ならではのブランドをグローバルで発信できる希少な戦略的コンテンツでもあります。

 酒蔵プレスによると、近年のコールドチェーン技術の向上や多様な日本酒の認知に伴い、1L あたりの日本酒の輸出価格が上昇傾向にあり、10年前(2011年)の輸出金額625.9円に対し、2021年には1,253.5円と約2倍に膨れ上がっているそうです。

酒蔵プレスより)

しかしながら日本酒業界では、グローバル市場を席巻するワインやウイスキーが「時間が醸成する厚み(「熟成」「ヴィンテージ」)」を価値基準の中核に据えているのに対し、大吟醸酒、純米大吟醸酒や特別純米酒などの「精米歩合」が低くなればなるほど技術やコストの観点から価値が高まるといった日本独自の指標を商品価値の中核に据えており、古酒や熟成酒は、酒造会社の資金繰りや価値基準の不明確さといった観点から、グローバルスタンダードな価値基準では十分に評価され辛いマーケット環境となっています。

そのためワインやウイスキーなどと同じ土俵(グローバル市場)で勝負していくためには、少なくとも「時間が醸成する厚み」に関する価値基準を明確にすると共に、古酒や熟成酒への挑戦を資金繰り上も容易にしたうえで、「日本酒ならではの新たな価値創造」も必要になってくるものと考えています。

7. 日本酒業界の課題に対する「日本酒トークン」の取組み

①「品質の明確化」

価値基準を明確化するために、一般社団法人刻SAKE協会が、世界に誇れる日本酒を価値化していくため、時間軸を用い高付加価値の「刻SAKE定義/認定基準」を策定し、2023年1月27日より運用を開始いたしました。個々の「日本酒」(瓶)の価値をトークンに紐づけることにより、明確な基準に基づき認定された高品質の日本酒であることを証明できるようになるのです。

2022年度 刻SAKE認定酒(1月27日 筆者撮影)

②「資金繰りの改善」
 「トレーサブルNFT」の仕組みを日本酒に適用した「日本酒トークン」により、リアルアセットやトレーサビリティ情報を紐づけた日本酒(醸造・熟成段階)に関する権利(将来債権等)をNFTとして先行/小口販売することで、古酒や熟成酒へ挑戦する酒造会社の前広な資金調達を可能にすると共に、幅広い消費者を対象としたブランドエクスペリエンスの提供を可能とします。

③「流通の活性化」
 当該NFT保有者は、当該権利を熟成期間中にNFTとして第三者へ譲渡し資金化することや、権利を行使して調合・出荷した個々の「日本酒」(瓶)を紐づけたNFTに転換し、直接利用(飲酒)又は第三者への譲渡が可能となります。これらの「日本酒トークン」の権利移転はブロックチェーン上で完結するため、グローバルな取引も容易になります。

④「新たな体験価値」
 「日本酒トークン」の仕組みにより、国内の酒造会社は、古酒や熟成酒といった「時間が醸成する厚み」や、好みのブレンドといった「新たな体験価値」による日本酒の価値向上に挑戦し易くなり、且つ、グローバルマーケットで日本酒の価値がやり取りし易くなることで、地方創生や日本のブランド力向上に繋がります。

日本酒の古酒・熟成酒の新たな価値創造イメージ

8. トレーサブルNFT・日本酒トークンに係る想定論点

日本酒トークンWGでは、前述の世界観を目指すにあたり浮上する論点を整理し、ボトルネック解消に向けて関係企業や行政機関とディスカッションしてまいります。

例えば、以下のような論点が挙げられております:
・ 醸造段階、つまり醸造工程を経て将来的にどのような製品になるか確定していない状態で、醸造中の日本酒に紐づくトークンを販売する権利は何か。何に対してどの段階でどのような税金がかかるのか
・ トークン保有者限定の醸造所ツアーなどの体験が特典(=ユーティリティ)として付随する日本酒トークンの場合、どこまでが酒税の対象となるのか
・ 日本酒トークンを売却する場合、酒類販売業免許は必要になるのか  
 世界的にも前例が少なく、法律や税制などの環境整備が追い付いていないトレーサブルNFT・日本酒(酒類)トークンですが、WGの活動を通じて本格普及に向けて鋭意取り組んでまいります。

9. まとめ

 今回の記事では、2023年1月31日に発表しましたプレスリリース「トレーサビリティ機能を持ったNFT”(『トレーサブルNFT』)の基盤創りと、世界初の『日本酒トークン』発行に向けた共同検討の開始について」の解説をしました。

今後日本酒トークンWGでは、日本酒業界の課題解決に資するブロックチェーンの活用方法および各種施策の実現に向けた環境整備について、議論します。また、日本酒にとどまらず、より多様な酒類や食品など、トレーサブルNFTの技術のユースケースを拡大してまいります。

次回以降も、よりタイムリーに皆様にとって価値のある情報発信ができる記事を掲載して参ります。今後もST発行実績に基づく成果や、各種WGを通じて得られる成果についての情報還元を継続し、皆さまのご検討の一助となればと考えています。個別のご質問やご相談事項がございましたら、共同検討をはじめとしたさまざまな枠組みがありますので、DCC事務局までお問合せください。

引き続き、DCCおよびProgmatをよろしくお願い致します。

ご留意事項

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