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「Progmat UT」および「ウォレットサービス」β版を用いたUTの発行について

※本記事は2022.8.1に公開されたものをNoteへ移行しています。


1. はじめに

こんにちは、デジタルアセット共創コンソーシアム(DCC)運営事務局です。

前回の記事では、2022年4月19日に発表しましたプレスリリース「航空機STOWGにおける報告書の公表について」の解説をしました。

航空機STOを検討される際には、前回解説したような商品性やスキームを基本として検討頂けると、航空機STOの実現性が高まるものと考えています。足許では、航空機STOWGを発端として航空機STOを検討している会員企業様も複数社あり、今年度中に本邦初となる航空機STOの実現に向けて協議中です。不動産に次ぐSTOの取組みとして引き続きご注目頂けますと幸いです。

さて、今回の記事では、2022年2月21日に発表したプレスリリース「Progmat UT報告書の公表について」および2022年7月29日に発表した「デジタルアセット用ウォレットサービスのリリース及び東京ドームシティでのUT発行について」に関連し、新たに取り組みを進める「Progmat UT」および「ウォレットサービス」のβ版を用いたUTの発行について解説します。

「Progmat UT」はデジタルアセット発行・管理基盤の「Progmat」シリーズのうち、「Progmat ST」に次ぐ第二の取組みとなります。詳細は後程解説しますが、7月29日からの「ウォレットサービス」のβ版を用いたUT発行を通じ「Progmat UT」の実効性確認を行い、来年度の本製品化に向けて開発を進めて参ります。ユーティリティトークン(以下、UT)というワードは、現時点では聞きなじみのない言葉かもしれませんが、今回の解説記事を通じて少しでも理解を深めて頂けますと幸いです。

それでは、詳細について解説していきます。

2. 「Progmat UT」の概要

(1)Progmat UTのコンセプト
「Progmat UT」は、特定のアセットやサービスに関する利用権や会員権といった権利を、分散型台帳(Distributed Ledger Technology、以下DLT)上で、一意かつ代替不可能なデータとして記録できるNFT(Non-Fungible Token)の技術を用いて、デジタル完結で移転可能なUT として発行・管理することを可能にするプラットフォームです。

「Progmat UT」を用いる事によって、これまでの伝統的な優待券や会員証といった券面に伴うアナログ処理・コストから解放されるとともに、利用状況や移転状況をリアルタイムで把握することが可能になります。また、同じProgmatのネットワークに多数の事業者が参加することで、アプリを跨いだ UTの柔軟な移転やプログラムによる譲渡制限等の完全な統制もできるようになります。券面で発行された優待券等は、発行して配布した段階でその後の流通や利用状況等を把握することが難しかったのに対し、UTであればそれらを把握することで、発行体にとっては優待を出すことによる効果測定等を行える点が大きな利点となります。

「Progmat UT」を用いたUTの発行および権利者のUT使用に関するイメージを下図の通り整理していますのでご参照ください。

(2)「Progmat UT」のグランドデザイン
「Progmat UT」のネットワーク上には、UT発行者/原簿管理者向けの「UT Node(以下UN)」と、自社チャネルの利用者向けにウォレットサービスを提供する仲介者向けの「Custodian Node(以下 CN)」の2種類が存在し、広範な事業者の直接参加を想定しています。

各仲介者は、単一のCNでST/SC(ステーブルコイン)/UTのProgmat NWに参加することが可能であり、自社UIに組み込む(Embedded Finance(埋込型金融))事や、各チャネルの利用者はUIを介して日常的に利用することが可能です。

(3)UTの分類・性質
UTは暗号資産やST(有価証券、セキュリティトークン)と異なり、各UTと役務内容を一意に特定するため、分割不可/代替不可な仕様としています(いわゆるNFT仕様)。また、決済手段性を制限するため発行体による金銭払戻しは不可としていますが、トークンとして個人間での柔軟な移転をする事が可能な設計です(譲渡制限も可能)。

UTは発行する形態により無償発行のものと有償発行のものに分類されます。無償取得のUTは、権利内容により「金銭的価値型」「体験的価値型」に分類され、金銭的価値のパターンはさらに「ポイント交換型」「優待型」に分けることができます。また、有償の場合「デジタル会員権型/デジタルチケット型」に分類されます。下図では、夫々の分類の内容例を簡単に整理し示していますのでご確認ください。

(4)ST×UTのファンマーケティング
UTの発行はUT単体のみで行うことも可能ですが、STとUTの組み合わせにより、投資状況等に合わせて投資対象に関連するUTを付与することで「ファンマーケティング」を行う事が可能です。「ファンマーケティング」では、各投資家が「投資主兼ファンユーザー」としてロイヤルカスタマーとなり、発行体と投資家夫々に以下のような付加価値が生まれます。

・ 発行体:投資を入口にエンゲージメントの高い顧客基盤を獲得できるため、認知・関心の獲得・維持に要していたコストの極小化が可能となります。
・ 投資家:投資家自身や譲渡相手のUT利用を通じて向上した投資対象の価値が、保有するSTのリターンとして還元され、Win-Winの関係を構築することができます。

(5)ST×UTのスキーム例
①組み合わせパターン
ST×UTのスキームにおける組み合わせとして、“広義のST発行体”(委託者SPCやAMを含む)とUT発行体が同一か否かにより、パターンを分けることができます。この時、ST発行体とUT発行体(費用負担者)が別で、ST発行体の役務を提供するという事は通常想定しませんので考慮しません(Ⅰ)(各パターンの数字は以下の図をご参照ください)。

ST発行体とUT発行体が同一の場合、ST発行体が自社マーケティング目的で自らUT対象役務を提供する場合(Ⅱ)と、別途「加盟店」(UT対象となる役務のみを提供し、所要コストはUT発行体が負担する)と連携し、自社以外の役務をUTとして提供する場合(Ⅲ)があり得ます。ST発行体とUT発行体が別主体の場合、ST側投資家情報を基に、UT発行体は自らの費用負担で自社マーケティング目的のUTを発行(Ⅳ)する形となります。

②ファンド型ST|委託者(ブリッジファンド)負担型
ST×UTのスキームのうち、まずは委託者負担型のスキームについて解説します。本パターンはテナントの費用負担が困難な一方、ST発行体グループが「STの募残リスクを許容しつつ発行価格を柔軟に決めたい」場合(証券会社による引受ではなく募集の取扱い)等で、UTの費用を自ら負担することにも合理性があるケースとなります。

委託者が必要費用を負担する前提でテナントはUT対象役務を登録し、委託者はUT発行体として、当該役務に紐づくUTを、Walletを介して付与する形となります。投資家はWalletを介してテナントに対してUTを利用し、テナントの利益は賃料を通じてSTファンドの価値向上に繋がり、最終的に投資家に還流されます。

③ファンド型ST|テナント負担型
次に、テナント負担型のスキームについて解説します。こちらのパターンは、ST発行体グループの「UT付与によるSTの魅力度向上」の狙いと、自社マーケティング施策としてUTの費用負担が可能なテナントの利害が一致しているケースです。

テナントはUT付与対象となる投資家を“ST/UT原簿管理者”を通じて条件指定のうえ、自らがUT発行体としてWalletを介してUTを付与します。投資家はWalletを介してテナントに対してUTを利用し、テナントの利益は賃料を通じてSTファンドの価値向上に繋がり、投資家に還流される点は委託者負担型と同様です。

ここまでは、「Progmat UT」のコンセプトおよびUT発行のスキーム等について解説しました。次章では、実際に新たに提供が開始される「ウォレットサービスの概要」について解説していきます。

3.ウォレットサービスの概要

デジタルアセット発行・管理基盤(インフラ)である「Progmat」シリーズに関連して、UT発行体様がUTを手元で容易に発行・管理するためのアプリケーションである「Token Manager」や、権利者がUTをスマートフォン上でいつでも利用するためのアプリケーションである「Token Wallet」を提供して参りますので、ここからこれらウォレットサービス(アプリ・UI)について解説していきます。

(1)ウォレットサービスのコンセプト
「Token Manager」は発行体向けのUIで、Progmat上のST/SC/UTの発行および管理をWeb上で可能とし、「Token Wallet」は個人向けのUIで、各種トークンの一元管理や移転時の署名、UTの利用等を可能とし、将来的に規制面等が整い次第、暗号資産等さらに幅広いデジタルアセットを取扱い対象とする想定です。

また、両アプリケーションは“ホワイトラベル(以下、WL)”を用意し、MUTB以外の原簿管理者(金融機関)や発行体、Wallet業者等もカスタマイズのうえ利用可能とする想定です。最終的には、前述の通り多様なデジタルアセットを取り扱えるようにして参りますが、まずはUTを対象に“原簿管理者兼カストディアンの一角“であるMUTB自らパッケージを利用し自社顧客向けUIとして提供します。

(2)ウォレットサービスのグランドデザイン
「Token Manager」と「Token Wallet」のWL版パッケージは、Progmatや他のデジタルアセットネットワークと接続され、パッケージ導入企業が容易にNode構築とUIカスタマイズが可能になる仕組みとしています。受託者兼カストディアンとしてのMUTBも利用者の一角の位置づけとなります。

また、パーミッションレスブロックチェーン上のデジタルアセット管理の仕組みは、技術パートナーとの協業によりセキュリティを担保する想定です。各デジタルアセットの取引機能は外部サービスが担うことを想定し、Progmatでは「Token Wallet」と外部サービス間のシームレスな連携の仕組みを備えます。

4.「ウォレットサービス」のβ版を用いたUT発行について

前述の通り、2022年7月29日付けでプレスリリースを発信していますが、UTを発行するためのプラットフォームである「Progmat UT」の活用とともに、「Token Manager」および「Token Wallet」のβ版を用いたUT発行を2022年7月29日より開始します。

今回のUT発行は、「Token Manager」および「Token Wallet」のβ版(本製品化前の無償利用版)を用いて実施します。今回UT発行体となる東京ドーム様がUTを「Token Manager」で発行し、権利者様が「Token Wallet」上でUTを受領し、随時権利行使頂く形となります。

なお、同じく7月より三井物産デジタル・アセットマネジメント様の「草津案件」に付帯したUT発行も開始しますが、「草津案件」のように特定のSTに紐づくUTを発行する形のみではなく、特定のSTに紐づかない独立したUTの発行をする事も可能です。今後も一定期間は無償でβ版を提供する予定のため、STと一体でUT発行を検討される事業者様のみならず、UT単独で発行を検討したい事業者様にも活用頂く事が可能な設計となっています。

今回のUT発行時に提供する「ウォレットサービス」のβ版は、2023年9月頃までの期間は無償で提供します。初回のUT発行は7月29日からスタートしますが、各事業者様においても今回のUT発行と並行(または遅行)する形で、無償でUTを発行・付与することが可能となります。STと合わせてのUT発行およびUT単体での発行を、ご検討頂ける事業者様については「Progmat UT」のご活用を是非前向きにお考え頂けますと幸いです。

なお、実際に「Progmat UT」を用いたUT発行の検討を進めて頂く場合、初めにDCC事務局宛に直接お問い合わせ頂き、発行に向けてご一緒に協議を進めさせて頂く形を想定しています。ご不明点やご質問事項がございましたら、まずはお気軽にDCC事務局迄ご相談ください。

本章では、今回のUT発行の位置付けやUT発行対象について解説していきます。

(1)β版を用いたUT発行の位置付け
DCC(2021年度迄は「SRC」)では、2021年8月から11月のファンマーケティングWGを通じてコンセプト検証を実施し、「クーポン(金銭的価値)型」ではなく、「体験型UT」に係るニーズと実現性を確認しました。

今回のUT発行では、利用用のUIを通じた体験に焦点を当て、こちらの結果をもって今後の本製品化に向けた機能拡張の検討を行うことが主な目的となります。

また、今後の検討のためにはST投資家(=UT権利者)側のみならず、発行体様へ提供可能な価値の精緻化とプロトタイプを用いた試行が必須になるものと考えています。その中で、ファンマーケティングWG参加企業のうち、三井物産様や東京ドーム様と合意に至ったため、「ウォレットサービス」のβ版を用いたUT発行を実施する運びとなり、2022年7月29日からUT発行を開始しました。最終的にはUT発行期間を経た後、投資家様にはアンケート、物件所有・管理者様/発行体様へはインタビューにて事業継続性等をヒアリングさせて頂く予定です。

(2)UT発行対象
今回のUT発行は、前述の通り「ST実案件に付帯する優待として発行するもの」、「UT独立で宿泊券等の権利が発行されるもの」の2パターンで実施予定です。前者については、2022年3月に発行した三井物産デジタル・アセットマネジメント様の草津案件の投資家様に対して、宿泊施設の事前予約権等を付与し、後者ではProgmat UTの利用者に対して、東京ドームや宿泊施設で利用可能な宿泊券や割引を付与します。

UT発行を行う各案件の概要を以下に整理していますので、詳細は図をご確認ください。

5. まとめ

今回の記事では、2022年2月21日に発表したプレスリリース「Progmat UT報告書の公表について」、および2022年7月29日に発表した「デジタルアセット用ウォレットサービスのリリース及び東京ドームシティでのUT発行について」に関連して「Progmat UT」およびUT発行用アプリのβ版を用いたUTの発行について解説しました。

UTはSTとの掛け合わせでSTへの投資効果をもたらすのみではなく、既存の紙面での優待券や会員権に関する様々なコストを削減することや、発行した優待等がどれくらいどのように使われているかを把握し、発行体様のマーケティングに活用することができるなど、幅広い事業者様のニーズに応えることができるものと考えています。

また、前述の通り「Progmat UT」関連の「ウォレットサービス」は、現時点ではβ版として無償で提供します。将来的には本製品版として有償での提供に向け開発を進めていきますが、β版の提供期間は各事業者様において無償でUTを発行・付与する事が可能でございますので、本製品化を待たずともUT発行を行って頂く事が出来ます。現時点でご興味をお持ち頂いた事業者様には、是非「Progmat UT」の活用をご検討頂き、必要に応じて事務局宛に直接お問い合わせ頂けますと幸いです。

なお、今回のUT発行を通じて有効な示唆が得られた後には、本製品化に向けた機能の拡充を進めて参りますので、引き続きUT発行プラットフォームとしての「Progmat UT」の動向にご注目頂けますと幸いです。

次回以降も、よりタイムリーに皆様にとって価値のある情報発信ができる記事を掲載して参ります。今後もST発行実績に基づく成果や、各種WGを通じて得られる成果についての情報還元を継続し、皆さまのご検討の一助となればと考えています。個別のご質問やご相談事項がございましたら、共同検討をはじめとしたさまざまな枠組みがありますので、DCC事務局までお問合せください。

引き続き、DCCおよびProgmatをよろしくお願い致します。

ご留意事項

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