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中学生、ピンクパンサー フリー打ち

ずっと前に、自分のパチスロデビューは「大学1年の頃、友人と一緒に神楽坂のパチンコホールで」と誰かに話した記憶があるが、訂正したい。正しくは「中学生の頃、祖母が脳梗塞で倒れた時に入所した介護施設で」だ。

うちの婆さんが脳梗塞で倒れたのは、たしか中学三年の頃だった気がする。ただ記憶がかなり曖昧で、二年の頃だったかもしれないし一年の頃だった可能性もある。小学校高学年の時だったかもしれない。
このどうしようもない文章の正確性を担保するために、祖母が倒れた年をわざわざ親に確認する度胸はない。とにかく祖母は、私が思春期に突入した頃に倒れた。

倒れてから病院に運ばれるまでの時間が短かったからか、すぐに死に至ることはなかった。それでも呂律は以前よりも回らなくなったし、リハビリもかなり長期に渡って行っていたように思う。

祖母の体調が次第に回復して、病院を出て最初に入った介護施設に母は私をよく連れて行った。しかし当時は「秘密の話をするからロビーで待っているように」と放っておかれることも多かった。倒れた年齢が年齢だったので、おそらく息子に聞かせるには忍び難い、暗い話が交わされていたと思う。

「お見舞い」という名の、母の帰りを待つだけの時間が増えた。

母の帰りを待つあいだ、自分は何をして過ごしたか?
親の教育方針により、ゲームボーイカラーやポケモン金・銀等の当時流行ったゲームは買い与えられず、『ワンピース』『NARUTO』など当時の人気漫画はほぼ買い与えてもらえていなかった自分はどのようにしてその時間を凌いだか。

答えは、スロットである。

立ちスロのフリー素材。実際は1台だけポツンと措かれていた。

何をどういう意図で導入したのかは分からないが、祖母が入居した介護施設の1Fロビーには1台だけスロットマシンが設置されていた。筐体にはピンク色の細長い猫と刑事が描かれていた記憶があるので、おそらく山佐の「ピンクパンサー」で間違いないと思う。

正直、なぜあの介護施設がスロットを置いていたのかはよく分からない。たしか台の前には椅子が置いていなかったので「この台で遊びたいなら立ちながら打ってね!」といった、スロットマシンを誘引として足元の機能訓練強化を目指すリハビリの一種だったのだとはないかとは想像している。

ただ、いつ行っても打っている老人はロビーには一人もいなかった。誰もいないロビーで一人スロットを長時間打つ老人は、たとえリハビリであったとしても周囲から「ヤバい奴だ」と思われるに違いないのである意味当然だったかもしれない。

それに、ピンクパンサーは老人たちにとってノスタルジーを感じさせるような機種ではなかったのかもしれなかった。仮に設置されていた機種が「ピンクパンサー3」だとすると、市場に出回ったのは1999年ということになる。ユーザーもとい入居者たちの興味を引くには新しすぎる機種だったのだろう。実際、いつお見舞いに行っても空き台として整理開放されていた。

しかし、どの老人も触ろうとしないような一台設置の立ちスロ・ピンクパンサーにのめり込む人物があの空間にはいつも一人だけいた。
何を隠そう私である。

YouTubeの動画によるとピンクパンサー3は設定6のBIG確率が破格だったらしい。実際、判別は掛けていないが(「設定判別」という、やさぐれた概念を覚えたのは大学生になってからだ)あのホール、いや介護施設に設置されていた台も🌈だったに違いない。毎回100Gくらい回すと、何が起こっているのかよく分からないうちにメダルが大量に出て、下皿が満杯になったものだった。

ただ、ピンクパンサーでタコ出しすることは結局一度もできなかった。
店員さん、もとい介護職員の方々をホッパーエラーで困らせているうちに親が祖母との話を済ませて帰ってくるからだ。自分がよくやる「閉店お残し」は、この時に礎が作られていたと言っても良いのかもしれない。

陽が完全に沈んでいるのにも関わらず、照明が何一つ灯されない仄暗いロビーで、ひたすら連荘し続ける台が放つ爆音の中、母から何か小言を言われながら追い立てられるように帰路についた記憶が、私の奥底には確かにある。

もし、この文章を読んでニヤニヤと笑っている人がいたら少しは自分の将来のことを真剣に考えてほしい。自分が入ることになった介護施設に、自分の知らないスロットマシンが置かれていたらどうする??

いや別にどうもしねえよって、そんなこともねえだろ。からくりサーカスかヴァルヴレイヴの設定6、できれば「ぶっ通し」で置かれていてほしいだろ。5号機のまどマギ初代&2、政宗2、聖闘士星矢辺りも欲しいだろ。技術介入機やアクロス系は2~3台置いてあってほしいだろ。ジャグラーはマイ>GOGO=アイム>ファンキーくらいな比率で設置されていてほしいだろ。なんなら入居している老人たちの間で出玉ランキング作ったりされたいだろうが!!!!

まあ入居者間での出玉ランキング作成は冗談としても、せめて自分がホールに通っていた頃に設置されていたような機種が1~2台置いてあったら良いなとは思う。立ちスロで足元を鍛えるコンセプトのリハビリは良いにしても、自分が知らない機種を遊技ガイドなしで置かれてもちょっと困るのは間違いない。

自分の場合は、予想以上にうまく進んでこのまま老人になることができたなら、できれば5号機のハナビかディスクアップを施設に設置してほしい、というのが望みだ。欲を言えばエウレカAOとまどマギ2もお願いしたい。

皆さんは、将来入居する老人ホームに何を望まれますか。

70歳のぼく「そぉーれッ!みんなあ~~~~いっしょにヴァルヴレイヴ打とーよおー 北斗の拳もあるし番長3もスリルあるよ~~ ぼくが一番だろーけどさぁ~~

イヒヒヒヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒ、ヒヒヒヒヒ……。」

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