刑事施設における個人情報の脆弱性

よくSNSで何故刑務所の仲間と出所後も付き合うのかと聞かれるのだが、端的に言えば二次被害を防ぐ為である。

結局、一言で言えば全員悪人なので誰が抜け駆けするか分からないのだ。

例えば、窃盗犯に関してはピンではなくグループの場合、その本人が加担しなくとも情報を提供すれば犯罪に繋がってしまう。

では性犯罪者はどうかというと、基本的にやっている事は空き巣となんら変わらず取っているものが下着か金品かの違いだけであって、この家には簡単に入れるという情報を窃盗グループに横流しすれば二次被害が起き得てしまう。

そんな簡単に二次被害など起きるはずがないと思うのはとても危険な考えなので今一度考え直して欲しい。

逮捕されると拘置所や刑務所に送られのだが、殆どの被疑者や囚人は自分の裁判記録を持って移送している。

その資料を刑事訴訟記録というのだが、その書類を見れば起訴内容はもちろん大まかにその人の経済状態が分かるのだ。

示談の有無、私選弁護士か否か、持ち家かどうか、家族構成、逮捕前に勤めていた会社の規模など。

性犯罪者の場合、大抵が職歴や家族構成がしっかりしていているので自分が二次被害にあわんとすべく窃盗犯に自分が下着などを盗んでいた家の情報を提供している。

私が刑務所で性犯罪者に聞いた話で驚愕したのが、性犯罪者は平均して他人の家の鍵を4~5本は持っているという事だった。

どうやって手に入れるかだが、地道に一軒ずつドアノブを回したり、ポストの中を覗いたり、植木鉢をずらしたりして探すらしい。

また刑事訴訟記録にはご丁寧に被害者の住民票まで添付してあるのでこれで二次被害が起きないはずがないだろう。

ただでさえ刑事施設は暇なのである。外道が個人情報を漏洩しない訳がない。

刑事訴訟記録にはもう一つの使い道がある。

拘置所で実際にあった話なのだが刑事訴訟記録じゃんけんなるものがあった。

何の事かというと犯罪の規模と話題性を比べるというものである。

例えば億単位の事件を起こしたりオレオレ詐欺の幹部だったりすると皆が一目置くのだ。

とはいえ殆どが万引き程度のショボイ事件で実刑を食らっているのでなかなか大物は少ないのだが、ここで下手に嘘を付くとイジメられないにせよ受刑者間で相手にされなくなる。

私も逮捕前は世の中こんなに二次被害があるなんて思いも寄らなかったのだが、刑事施設での情報を踏まえて新聞記事を見ると明らかに二次被害としか思えないような事件が世の中ゴロゴロしている。

また実際に刑務所で二次被害に加担した者にも会った。

この加害者は元自衛官なのだが、経済的に窮していたところ知り合いからある資産家の住所と家の間取りを聞いたらしい。

もちろん、情報提供者は折半なので濡れ手に粟だという事も付け加えさせて頂く。

結局、失敗に終わったのだが、資産家の老人の家に忍び込んで金品を盗もうとしたところ、家主の老人と出くわしゴルフクラブを振り回されたので反射的に持っていたナイフで老人の頚動脈を切ったそうである。

たまたま盗みに入ったのが元自衛官だったのでそこで我に帰り自首したそうなのだが、もしこれが外人の軍隊経験者だったら、恐らくこの老人は殺害及び死体も遺棄され金品も搾取されたのではないかと思う。

例えば、昨年の福岡の3億8千万相当の金塊強盗事件もその一つだろう。

これは清原のシャブに次いで刑務所でも話題になっていたのだが、窃盗をグループでやっている人に言わせるとあるあるらしい。

結果的に何故この様な二次被害が起きるかだが、刑務所の個人情報の管理のずさんさに起因するとしか言いようがない。

このずさんさは筆舌しがたいのだが、受刑者の家族の名前や住所はもちろん、親兄弟などの身内、友達など刑事施設に追記登録してある全ての個人情報が他の囚人に見られ暗記され共有される。

その為、我々はどうすればお互い勘ぐる事なく二次被害に遭わないで済むか皆で知恵を出し合った結果、刑務所の付き合いを外にそのまま持ち出し徐々にフェードアウトしていくしかないという結論に至ったのだ。

私の刑務所仲間は官側が何も対策を立ててくれない現状を半ば諦め、この現状を理解しているからこそ刑務所の付き合いをわざわざ外に持ち出している。

刑務所仲間とは言ってはいるが、実際には友情など誰も微塵も感じてはいない。

これも受刑者になった以上致し方ないのであろう。

※補足 刑務所の繋がりは出所後7ヶ月で10人に増えた。恐らくあと2年で30人には増えるだろう。

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