映像のフレームレートについてのいろいろな文脈
最近では映画、アニメ、ゲームなどの映像のフレームレートについて、様々な意見を見かけます。
例えば下記のような感じのものです。
(具体性を消すため適当に意を汲んで書いています。個々には特に批判などの意図はないので軽く流してください)
30fps と 60fps の区別は付かないので 30fps で良いのでは?
映画は 24fps だし 24fps で十分なのでは?
アニメは秒間 8 枚でも十分な表現が出来ている
60fps に補完したヌルヌル動画の動きが安っぽい。フレームレートが高ければいいと言うものではない
FPS などのゲームをするなら最低でも 120fps は欲しい。フレームレートは高いほうが良い
これらのような意見は同じフレームレートというものを扱ってはいますが、それぞれ文脈は異なっています。また、文脈の異なる話を纏めてしまっているせいか、意見が噛み合っていない状態になっていることに気がつくのではないでしょうか?
本稿はフレームレートを取り巻く文脈にどのようなものがあるかを簡単に紹介して、ほんの少しでも噛み合ったやりとりの助けになればと思って書くことにしました。
4 種類の文脈
フレームレートを取り巻く文脈にはいろいろなものがありますが、(独断と偏見に基づいて) 大雑把に分けると 4 種類の文脈があるのではないかと思います。
再現の文脈
操作と反応の文脈
作り込みバランスの文脈
様式美の文脈
次項からこれら 4 種類の文脈を紹介していきます。
再現の文脈
まずは「再現」の文脈です。目で見る現実の出来事を動画で再現するという立場のもので、動画にとって基本的な文脈といえます。
現実は超高フレームレートと捉えることができるため、基本的にはより高いフレームレートにすることでより高い再現度になることになります。
連続した画像が最低限自然な動画に見えるという意味では 20fps くらいでも十分な場合が多いですが、速い動きなどは上手く再現されない場合があります。(例えば車のタイヤが逆回転に見える現象などがあります。)
また、現実と見間違うほどの生々しさを出す意味では 60fps ~ 240fps くらいの高いフレームレートが重要になってきます。
高い生々しさは大画面モニターを使ったライド系アトラクション (simulator ride) などでは没入を助ける良い影響がありますが、非現実性の強めな映画などでは生々しさによってむしろ現実に引き戻されてしまうような悪い影響が発生する場合もあります。
操作と反応の文脈
次に「操作と反応」の文脈について見ていきます。
これはインタラクティブ性のあるコンテンツ特有のもので、プレイヤーの操作に映像がどう反応するかという視点の文脈です。
この文脈では滑らかさと反応の速さ (遅延の少なさ) が重要になり、フレームレートはシンプルに高ければ高いほど良いといえます。(もちろん実際にはグラフィック品質などとのバランスが加味されます)
特に First-person shooter (こちらも FPS ですね……ややこしい!笑) などの激しい視点移動操作を行うゲームやヘッドトラッキングで視点移動する VR コンテンツなどでは影響が大きくなります。
以前に遅延についてまとめた note を書いているのでこちらリンクしておきます。
ゲームの遅延についてまとめる|Prismaton
また、ゲームなどではフレームレートの安定度合いも場合によってはフレームレートの高さ以上に重要になります。
ちゃんと説明しようと思うと非常に長くなってしまうので下記に簡単にだけ触れます……。
作り込みバランスの文脈
今度は「作り込みバランス」の文脈です。
よく見かける「高フレームレートの映像が安っぽく見える」という現象ですが、いつも起こるわけではなく特に下記のようなケースで言及されます。
CG アニメーション (作り込みが甘いと顕著)
非現実性の強めな映画など
低フレームレートで表現された作品を何らかの補完技術で高フレームレート化した場合
これらに共通するのは、フレームレートを高くした時に上がる「再現度」が「本来表現したいもの」とは異なるという点です。
むしろ、高フレームレートになったことで受け手側の補完による想像の余地を消し、「本来表現したいものに対しての再現度」は下がったように感じてしまうことがあります。
こういったケースで「本来表現したいものに対しての再現度」を上げるためには 1 フレーム毎レベルでの細かい作り込みをしっかり行うことが重要になります。しかし、高フレームレートになると手数が大きく増え、技術的にも難しくなってきてしまいます。
この文脈では、作り込み具合と再現度とのバランスが取れるフレームレートにすると良いということが言えます。
様式美の文脈
最後に「様式美」の文脈です。
この文脈ではフレームレートの低さ自体を表現の魅力として昇華しているという、前項「作り込みバランス」の文脈を補強する文脈と言えます。
日本のアニメらしいリミテッドアニメーションや、クレイアニメのようなストップモーションアニメーションなどがこれに当たると思います。
こういった表現は 15fps 以下のようなとても低いフレームレートを採用することが多く、フレームレートを低く抑えることで、(制作コストの節約だけでなく) デフォルメの効いた絵作りを可能にしているといえます。
一方で、15fps 以下のような低いフレームレートをそのまま自然な動画として見るのは難しい場合があり、受け手側に文脈への理解を要求します。そのため魅力の感じ方に大きめの個人差が出そうで、実際意見が割れている (特にCGで再現した場合などで) のをよく見かけます。
いろいろな文脈の融合
4 種類に分けた文脈をそれぞれ見てきましたが、条件によっては 1 つのコンテンツ内で複数の文脈を使い分けることが可能です。
例えば、ゲームでプレイヤーの操作が可能な時は 60fps 以上で動作し、カットシーンに入ると 30fps になるといったような動作はよく見かけますし、それぞれの文脈でのバランスの良い選択をしているといえます。
また、1 つの画面で共存することもあり得ます。例えばキャラクターの細かい動きをストップモーションのような低フレームレートにして様式美を踏襲しつつ、カメラなど大きな動きは違和感が無いようなフレームレート (30fps など) にするといったことも考えられます。
こういったハイブリッドなフレームレートの運用は既にいろいろな所で行われていることでもあり、まだまだ大きな可能性を秘めているところでもあると思います!
おわりに
映像のフレームレートを取り巻くいろいろな文脈について紹介しました。同じフレームレートという話題を扱っていても文脈によって求めるものが大きく異なり、適切な使い分けやバランスが重要ということが伝われば嬉しいです。
筆者はオーディオ技術を専門としてはいるのですが、動画に関してはオーディオと共通する要素 (非同期処理、ストリーミング、コーデックなど) が多いことや、オーディオと同期を取る必要があるなど、意外と触れる機会が多かったりします。
フレームレートに関しても 60.00fps と 59.94fps などの僅かな違いがある話や、ゲーム処理 (や物理シミュレーション) と描画を異なるレートで動かす話など今回はややこしくなるので見送った話題が沢山あるので……また機会があれば紹介するかもしれません。。。
参考
文脈の違い以外の部分でのフレームレートに関する記事として、下記が内容が濃く読み応えがありました。
アバター2はなぜ48コマなのか。HFR映画がもたらす視覚効果とリアリティ - AV Watch
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