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エイリアシングとは何者なのか?

近年、普通(?)の人の感覚ではありとあらゆるものがデジタル化されていて、アナログというのは懐古として楽しむものというようなイメージになっているのではないかと思います。

しかし一方でオーディオ関連の世界を見ていると、意外と普通にアナログ機材が現役なことに気が付きます。使用する理由に関しても懐古的なものではなく、「アナログのほうが音が良いから」といったような現実的なものです。

(かくいう私も最近まで「オーディオ処理ならアナログのほうが絶対いい!」という認識でした、笑)

ではデジタルオーディオ処理は音が悪いのか?というところなのですが、この認識に至るところにはデジタルオーディオ処理特有の大きな課題が関係していると感じています。それが本稿で紹介する「エイリアシング」です!

エイリアシングの解消がいい感じなデジタルオーディオ処理も徐々に出てきてはいますが、この課題はまだまだ最先端で研究の余地が大きいものです。そのため本稿はガチの解説というよりはふわっとエイリアシングについて紹介するものとして、デジタルオーディオ処理の進化に思いを馳せる(?)きっかけになればいいなと思います!

エイリアシングとは

エイリアスという単語自体には色々な意味がありますが、ここで言うエイリアシングは「偽信号」を意味する言葉です。

よく「折り返し雑音」と解説されますが、これは少し狭い定義です。というのも、後で触れますが折り返し雑音以外にも似たような現象が起こるパターンがあるためです。

実際に言葉が使われている例などをみても下記のような広義的な意味で捉えると良いかなと考えています。

エイリアシング:デジタル化(サンプリングと量子化)を要因として、その精度による影響以上に信号が意図しない聴こえ方へと変化してしまう現象

本稿ではこの広義的な意味をベースにします!

エイリアシングの種類

エイリアシングの発生にはパターンが存在します。次項からこのパターンそれぞれの紹介をしていきます。

  • 折り返しエイリアシング

  • 歪みエイリアシング

  • 時間領域エイリアシング

※ 独断による分類になります。研究が進んだら増えるかもしれません。

折り返しエイリアシング

折り返しエイリアシングは、サンプリングやリサンプリングによってナイキスト以上の高周波数成分が低周波数成分に折り返す現象です。

(折り返し雑音のことなんですが語尾をエイリアシングで揃えました、笑)

この現象が目立つ処理は下記などです。

サンプリング音源の大幅なピッチアップ利用
→ ピッチアップした高周波成分が折り返しやすい

数式などを元にしたデジタルのオシレータ
→ ものによって(三角波、矩形波、鋸波など)無限に含まれる高周波成分が折り返す

歪みエイリアシング

歪みエイリアシングは、サンプル単位で量子化軸に歪みなどの非線形処理を施したときに起こるエイリアシングです。

現象としては折り返しエイリアシングと同じように意図しない低周波成分が発生する場合が多いですが、発生に至る仕組みは若干異なります。

そもそもサンプリングは前後関係も含めて元のアナログ波形を再現するものなので、サンプル単位での非線形処理は実は正当性すら無い処理なのです。

この現象が目立つ処理は下記などです。 

クリッピングや歪み処理
→ 矩形波の折り返しエイリアシングのような変化が起こる

時間領域エイリアシング

時間領域エイリアシングは周波数特性上では見えないエイリアシングで、時間領域での変化のばらつきが音に影響してしまう現象です。

リサンプリングを(特に微妙な比で)行う場合、元のサンプルに近い場所を踏んでいく場合と元のサンプルの間を踏んでいく場合でどうしても時間領域の応答に大きな差が生まれます。

周波数特性が綺麗だと安心してしまいがち(?)なのですが、時間領域での変化はエッジの強い音のくずれ感などには影響があり、特に変化が繰り返し積もるようなケースで無視できなくなってきます。

この現象が特に目立つ処理は下記などです。

フランジャー、モジュレーションディレイ
→ 微妙な比のリサンプリングをフィードバックで繰り返すので効いてくる

空気感などのシミュレーション、それを組み込んだリバーブなど
→ すごく微妙な比のリサンプリングを行うことになるため、更にリバーブの場合フィードバックで繰り返すため

アンチエイリアシング

エイリアシングに共通する特徴として、一度発生してしまうと機械的に除去するのは非常に困難です。そのため、後処理ではなく前処理か処理自体の工夫が必要になります。

下記にアンチエイリアシング処理の一例を紹介します。これらに関しては完璧に除去できるといった方法ではなくあくまで緩和策になります。

折り返しエイリアシングに対して
→ 一度目的より高いサンプルレートに(リ)サンプリングしてローパスしてから目的のサンプルレートにリサンプリング

歪みエイリアシングに対して
→ オーバーサンプリングしてから処理を行い、その後目的のサンプルレートにリサンプリング

時間領域エイリアシングに対して
→ リサンプリングフィルターの工夫 (周波数応答が良いフィルターは時間領域エイリアシングに対して基本的に逆効果なことに注意)

実際の場面では複数のエイリアシングを気にしなければならないケースもあるなど、場合によっていろいろな方策を練っていくのが重要になります。

おわりに

エイリアシングについて一通りふわっと紹介しましたが、どうだったでしょうか……?

まさに研究中の話題であることなどもあって具体的過ぎる内容は避けたのですが、とはいえデジタルオーディオ処理の深い話をちょいちょいしていく上でこの話題に触れないのも非常に不自然なので、こんな感じになりました。

良い音を求めるのも色々な意味で難しいなと常々感じますね……!


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