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2024/04/20 北海道大学の文系数学を解いてみた2024

はじめに

 毎日投稿20日目です。今日は2024年度の北海道大学の文系数学の問題を解説し感想を述べます。まずは問題文(ぜんぶで大問4つ)です。見開き1枚に収まるのが良心的ですね:

第2問の文章を間違えていたので訂正しました。

第1問 泥臭くても洗練されていなくても手を動かすのが大事。

列挙できるときは列挙してしまう。これこそ文句のつけようがなく完全な解答です。

 素数 $${a, b}$$ と自然数 $${p, q}$$ を用いて $${a^pb^q}$$ と表される整数について、
 ・正の約数の個数は $${(p + 1)(q + 1)}$$ 個、
 ・正の約数の総和は $${(1 + a + \cdots + a^p)(1 + b + \cdots + b^q)}$$
と表されます。数学Aの教科書にも載っている基本的なこれらの公式は、$${6912 = 2^8 \cdot 3^3}$$ の正の約数を $${2}$$ と $${3}$$ のべきに注意して書き並べた

$$
\begin{align*}
&2^0 \cdot 3^0 \quad & &2^0 \cdot 3^1 \quad &
&2^0 \cdot 3^2 \quad & &2^0 \cdot 3^3 \\
&2^1 \cdot 3^0 \quad & &2^1 \cdot 3^1 \quad &
&2^1 \cdot 3^2 \quad & &2^1 \cdot 3^3 \\
&2^2 \cdot 3^0 \quad & &2^2 \cdot 3^1 \quad &
&2^2 \cdot 3^2 \quad & &2^2 \cdot 3^3 \\
&2^3 \cdot 3^0 \quad & &2^3 \cdot 3^1 \quad &
&2^3 \cdot 3^2 \quad & &2^3 \cdot 3^3 \\
&2^4 \cdot 3^0 \quad & &2^4 \cdot 3^1 \quad &
&2^4 \cdot 3^2 \quad & &2^4 \cdot 3^3 \\
&2^5 \cdot 3^0 \quad & &2^5 \cdot 3^1 \quad &
&2^5 \cdot 3^2 \quad & &2^5 \cdot 3^3 \\
&2^6 \cdot 3^0 \quad & &2^6 \cdot 3^1 \quad &
&2^6 \cdot 3^2 \quad & &2^6 \cdot 3^3 \\
&2^7 \cdot 3^0 \quad & &2^7 \cdot 3^1 \quad &
&2^7 \cdot 3^2 \quad & &2^7 \cdot 3^3 \\
&2^8 \cdot 3^0 \quad & &2^8 \cdot 3^1 \quad &
&2^8 \cdot 3^2 \quad & &2^8 \cdot 3^3
\end{align*}
$$

という図をイメージできさえすれば極めて自然に感じられるでしょう。あるいはもっと泥臭く、小学校でやったように

$$
\begin{align*}
&(1, 6912), & &(2, 3456), & &(3, 2304), & &(4, 1728), & &(6, 1502), & &(8, 864), \\
&(9, 768), & &(12, 576), & &(16, 432), & &(18, 384), & &(24, 288), & &(27, 256), \\
&(32, 216), & &(36, 192), & &(48, 144), & &(54, 128), & &(64, 108), & &(72, 96)
\end{align*}
$$

として約数のペアを見つけていくというやり方でもいいでしょう。数え漏らしをする恐れこそあるものの、$${\sqrt{6912}}$$ はだいたい $${\sqrt{6400} = 80}$$ ちょっとくらいやという感覚があれば、いつまで続ければいいのかと不安に駆られることもありません(なんで平方根の話になったかについては大丈夫ですよね)。正の約数を列挙すること、ひいてはそれらの個数を数えたり和を取ったりするだけなら、小学校で教わる範囲でできるので、北海道大学を受ける受験生にこの問題が解けないはずはありません(決して「これが解けないやつは小学生レベルだ」と煽る意図ではなく、それだけの力があるなら手を動かしさえすればなんとかなるはずだ、という意味です)。「正の約数の個数と総和の公式を忘れたから解けませんでした」なんていう生徒がいたら、指導者は大いに反省しなければならないと思います。

 勝手な推測で恐縮ではありますが、本問で「$${\bm{6912}}$$」という数字が設定されたのは、おそらく正の約数が $${\bm{36}}$$ 個あり素因数を $${\bm{2}}$$ 種類だけ含むような自然数の中で最小のものだからだと思います。実際、素因数として $${2}$$ と $${3}$$ を選んで $${2}$$ のほうのべきを大きくしたものを考えればよく、積が $${36}$$ となる二つの自然数の組合せとして $${36 \times 1}$$、$${18 \times 2}$$、$${12 \times 3}$$、$${9 \times 4}$$、$${6 \times 6}$$ を考えると

$$
\begin{align*}
2^{11} \cdot 3^2 &= 18432 \\
2^8 \cdot 3^3 &= 6912 \\
2^5 \cdot 3^5 &= 7776
\end{align*}
$$

となります($${2^{35}}$$ と $${2^{17} \cdot 3}$$ が $${6912}$$ より大きいのは明らかと言っていいでしょう)。この $${36}$$ 個というのは、書き出してみることが現実的なものの割と手間がかかる、というちょうどギリギリのところで、試験時間とのバランスを考えても文系数学だということを踏まえても適切だと思います。サイコロを $${2}$$ 回振る試行(これもちょうど $${36}$$ 通りですね)でもそうですが、頭で考えるよりも手を動かした方が早いことはいくらでもありますが、手を動かす勉強を大事にしている受験生はあまりいないのではないでしょうか。

 とにかく時間がかかるやり方に不安を覚えるのも理解できます。本番の独特な緊張状態かつ厳しい(?)制限時間のなかで、泥臭く手間のかかる作業をコツコツとやるのは勇気がいることかもしれません。高校生活はただでさえ忙しく、数学だけをやるわけにいかないし他の科目の課題等もあるので、試行錯誤に時間を費やすことは「コスパが悪い」選択であるとも言えます。急がば回れとはいうものの、なかなかそういうわけにもいかないのです。それに、3年間という短い時間に比して、高校数学は扱う内容が相当多いため、基本的には超駆け足でカリキュラムを消化していくことになります。特に数学1Aは中学数学と被る内容も多く扱うため、各単元の最初のほうはサラッと流して進めていくのではないかと思います。高校受験を追えて1年生になるまでの春休みに「展開と因数分解」の単元を課題としてやっておけ、授業は集合や2次関数から始める、なんて学校も少なくないはずです。こういう意味で、みんな忙しいので仕方がないという面も大いにあるとは思います。

 ところが先ほども見たように、高校受験を経たからといって、中学以前の内容がちゃんと身についているとは限りません(というかほとんどの子はそうではありません)。勉強して知識が増えていくのはいいことですが、知識がついてしまったばっかりに地道に手を動かすことを怠るようになってしまったら本末転倒です。最初の基本的なところだからこそ、中学以前の算数・数学が「授業ごとにテーマを一つ決めて、それを解けるようになるための手順を覚える」という(高校数学の目指すところの真逆をいく)方針になりがちだからこそ、復習も入れつつ手を動かすことの重要性を身に沁みてわかってもらうための取り組みが重要であると思います。また、数学の界隈では「簡潔に短く書いた答案こそ素晴らしい」「ダラダラと手を動かすスマートでない解法は好ましくない」みたいな価値観があるような気がします。手計算でゴリ押す解法をきんに君を登場させて笑いとして消費する風潮なんかがまさにそうですね。しかし、あのやり方は制限時間のある試験には向かないというだけで、数学の解法としては文句のつけようのない立派なものです。「スマートな解き方を知らないから無理です」と諦めるような態度よりも、ああやってでも答えを出そうとする根性をこそ大事にするべきではないでしょうか。入試の制限時間を $${1.5}$$ 倍以上にするだけでいろんな問題が解決すると思うんですけどね。


第2問 漸化式の解き方はどこまで覚える(教える)べきか。

右辺を $${3a_n}$$ および $${3^{n + 1}}$$ と設定したのは意図的であるように私には思えます。

 チャート式なんかだと「$${a_{n + 1} = pa_n + q^n}$$ 型」みたいな名前が付けられているタイプでしょうか。定番の解き方は「両辺を $${\bm{q^n}}$$ で割って等比数列の形に持っていく」というやつで、具体的には

$$
\begin{align*}
\frac{a_{n + 1}}{q^{n + 1}} &= \frac{p}{q} \cdot \frac{a_n}{q^n} + \frac{1}{q} \\
\frac{a_{n + 1}}{q^{n + 1}} - \frac{1}{q - p} &= \frac{p}{q} \left ( \frac{a_n}{q^n} - \frac{1}{q - p} \right ) \\
\frac{a_n}{q^n} &= \frac{1}{q - p} + \left ( \frac{p}{q} \right )^{n - 1} \left ( \frac{a_1}{q} - \frac{1}{q - p} \right )  \\
a_n &= \frac{q^n}{q - p} + p^{n - 1} a_1 - \frac{p^{n - 1} q}{q - p} \\
&= p^{n - 1} a_1 + \frac{q(q^{n - 1} - p^{n - 1})}{q - p}
\end{align*}
$$

のようにします。2段目から3段目へ移る部分の変形がミソで、等比数列の形に持っていこうとするわけですね。しかし、個人的にはこっちのほうが難しいやり方だと感じています。僕が解くなら「両辺を $${\bm{p^n}}$$ で割って階差数列が現れるようにする」、具体的には、$${c_n = a_n/p^n}$$ とおいて

$$
\begin{align*}
\frac{a_{n + 1}}{p^{n + 1}} &= \frac{p}{p} \cdot \frac{a_n}{p^n} + \left ( \frac{q}{p} \right )^n \\
\frac{a_n}{p^n} &= \frac{a_1}{p} + \sum_{k = 1}^{n - 1} \left ( \frac{q}{p} \right )^k \\
&= \frac{a_1}{p} + \frac{q}{p(q - p)} \left \{ \left ( \frac{q}{p} \right )^{n - 1} - 1 \right \} \\
a_n &= p^{n - 1} a_1 +\frac{q(q^{n - 1} - p^{n - 1})}{q - p}
\end{align*}
$$

とします。私としてはこっちのほうがスッキリしている気がします。なぜこっちが紹介されないんだろうと考えてみた結果、2つの理由が思い浮かびました。

⑴ 普通の高校生は階差数列が非常に苦手だと思われる 高校生が初めて階差数列に出会うのは「次の数列の一般項を求めよ:

$$
\begin{align*}
&1, & &2, & &5, & &10, & &17, & &26, & &\cdots
\end{align*}
$$

」みたいな問題で、各項の差をとってみると $${1, 3, 5, 7, 9, \cdots}$$ と初項 $${1}$$、公差 $${2}$$ の等差数列が現れるので解ける、というやつです。解説にはたいてい「等差数列でも等比数列でもなければ階差数列を疑おう」とか「シグマの範囲は $${n}$$ までじゃなくて $${n - 1}$$ までだから気をつけよう」と書いてあり、それが原因で生徒たちに「階差数列はなんだか普通ではないややこしいものなんだ」という印象を植えつけてしまっているのではないでしょうか。そうではなく、

$$
\begin{align*}
&a_1 &
&\stackrel{ \ + b_1 \ }{\to} &
&a_2 &
&\stackrel{ \ + b_2 \ }{\to} &
&a_3 &
&\cdots &
&a_{n - 2} &
&\stackrel{ \ + b_{n - 2} \ }{\to} &
&a_{n - 1} &
&\stackrel{ \ + b_{n - 1} \ }{\to} &
&a_n
\end{align*}
$$

という図をイメージできていることが大事で、これを踏まえればなぜ $${n - 1}$$ までしか足さないのかも一目瞭然です。これも書きだしてみればすぐに気がつくことではありますよね。

 ちなみに漸化式が「$${a_{n + 1} = a_n + b_n}$$」という形で書ける数列 $${\{ a_n \}}$$ のことではなく、差を取って得られる $${\{ b_n \}}$$ のことを階差数列と言います。「$${a_{n + 1} = a_n + d}$$」「$${a_{n + 1} = ra_n}$$」という形で書ける数列 $${\{ a_n \}}$$ のことをそれぞれ等差数列、等比数列と呼ぶのとは違うので、注意が必要です。

⑵ 等比数列を作るという解法は非常に汎用性が高い この問題に限っていうと等比数列に持っていくのは筋が悪いような気がしますが、漸化式一般にまで視野を広げてみると「等比数列の形が現れるように変形する」という考えのもとで解法が作られた問題が非常に多いことがわかります。受験生の頭の容量は無限ではなく、多くの科目を並行して勉強する中で、数学だけで容量を圧迫させるわけにはいかないので、知識をなるべくスリムにして、あとは各個人の応用力に期待する、という方針自体は大いに理解できます。

 しかし、「等比数列の形が現れるように変形する」という標語で知識がスリムになったと感じるのは、結局いろんな問題を経験して固有の変形の仕方がすべて頭に入っている人だけであって、多くの子にとっては負担軽減になっていないような気がします。本当に知識をスリムにしたいのであれば、中心に据えるべきは「とりあえず $${a_1, a_2, a_3, \cdots}$$ と書きだして一般項を予測して数学的帰納法で証明する」であろうと思います。結論から逆算したズルい見方ではありますが、$${a_n = 3^n/n}$$ という式からしてみても、この問題もそれで解決しそうな雰囲気が出ていますよね。だからこの問題でも、特殊な漸化式の解き方については誘導が付けられています(もっとも、類題を経験していなければ誘導の使い方が思いつかないかもしれないという意見もあると思います)。第1問でも書いたように、言いたいことはとにかく「知識で殴るよりも書き出すことの方が重要」だということに尽きます。

 ちなみにほんの気持ちだけ難しくするために部分分数分解が付け加えられていますが、これも通分の計算を逆に見るだけですね。「手を動かすのは大事」に含めて終わりとしましょう。


第3問 基礎を確認するにはうってつけの「完全無添加」問題。

最後の 1/12 という値が本当に優しいですね。極値の価も計算しやすいです。

 「完全無添加」というのは、受験生を悩ませてやるとか、ひねりを加えて応用力をみるとか、そういう身構えた大人の策略がまったく感じられないような、大らかな気持ちで「無事に解いて合格してください」と手を広げて待っているかのようだ、という意味です。「こんな簡単な問題を出すなんて旧帝大のプライドはないのか」と考える向きもあるかもしれませんが、見方を変えれば「身につけておいてほしい基礎はこれだけです」と堂々と宣言してくれている、とも捉えられます。確かにこの問題は、定期試験の頃にもう出会ったような微分積分の基本問題の詰め合わせで、蛍窓雪案の精神が求められる難問奇問の対極をなす代物です。現実的には「この問題を落としてはいけない」というのは事実ですが、その一方で「この問題が解ければ十分」と評価することも大事だと思います。

 この問題はシンプルな作りですが、それでも

⑴ 導関数の値の正負を調べ、その移り変わりを踏まえて元の関数の増減を確かめる(その意味では答案に $${f'(x) = -3x^2 + 2x}$$ のグラフを描いておくべきでした。$${3}$$ 次関数は前もってグラフの概形がわかっているため、このあたりを適当に済ませてしまえるんですが、数Ⅲではそのやり方が通用しなくなりますし、あくまでも大事なのは「増減表を書くこと」そのものではなく「増減(導関数の値の正負)を調べること」です)。

⑵ 積分範囲としても必要になる「$${\bm{C}}$$ と $${\bm{l}}$$ の共有点の $${\bm{x}}$$ 座標」を計算し、両者の(位置的な)上下関係を把握する(このとき $${x = r}$$ で接すれば $${(x - r)^2}$$ を因数に持つことなどが理解できているとスムーズになります)。

⑶ ⑴⑵で調べたことを踏まえて面積を与える定積分を立式する。

⑷ 定積分を計算して面積を求める。

という、基礎的で重要な一連の流れが押さえられており、しかも各過程の計算がとてもやりやすくなるように設定されています。センター試験が実施されていた頃には「$${3}$$ 次関数は変曲点を中心としてグリッドに当てはめられる」とか「なんたら分の1公式」とかいう技巧がテクニックとして紹介されていましたが、これらを知っている人には、余計にその優しさが沁みることでしょう。$${1/12}$$ 公式を使える問題の答えを $${1/12}$$ にしてくれるなんて仏のようです。

 定積分で図形の面積を求めるにあたり、先ほど太字で強調した⑴~⑷の過程を順に踏めば間違えることはないのですが、ここで強調しておきたいのは、「なんたら分の1公式」は「⑴⑵⑶をちゃんとやった上で⑷だけをショートカットする公式」であり「面積を求める(=⑴~⑷を一気に片づける)公式」ではない、と思っておいた方がいいということです。これらの公式を使うときにありがちなミスとして

  • $${2}$$ 次の係数をかけ忘れる

  • 符号を間違える(正の値を返すものと思いこんでいる)

というのが挙げられますが、これらは⑴~⑶を雑にやって(サボって)しまったからこそ起こるものです。また、何分の1にするのかを図形のビジュアルと絡めて覚えている子もいると思いますが、1つの公式でも最高次の係数の正負やグラフの上下関係が変わることで幾らかのパターンを含むことがあり、そっちの方が負担が大きいと思います。こういう余計な暗記を防ぐためにも、⑴~⑶の過程をちゃんとやることが大事なのです。


第4問 説明の仕方がミソ。余事象は常に頭の片隅に置くべし。

最後の答えからしても、余事象を使わなければ相当の計算量が求められたと思われます。

 私は、文章が冗長な問題や状況設定があまりに複雑な問題は(入試問題として)好ましくない、と考えていますが、混乱が生じないよう丁寧に状況を説明するために長くなるのはまったく問題ないと思います。この問題では、床面が水平であること、「出た面」の定義が書かれていること、どの目が出る確率も同様に確からしいことをちゃんと明記しており、これ以上省略できないという意味では「きちんと短い」ということもできます(余談ですが、「$${\tan 1^{\circ}}$$ は有理数か」という有名な京大の入試問題は、何を答えてほしいのかを明確に文字に起こしていないという点で不適切だ、と個人的には思っています)。

 余談はさておき、表題にも書きましたが、この問題のポイントは何か?と言われれば「余事象を使うタイミングをしっかり認識しておく」ということに尽きます(説明の仕方に注意することもそうですが、それは場合の数や確率の問題すべてに言えることですので、ここでは省略します)。

 ⑵において「持ち点が $${10}$$ 以下である確率」とは「持ち点が $${1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10}$$ のいずれかとなる確率」ということであり、$${10}$$ 個もの状況が含まれています。きんに君なら全部求めて足し合わせるのでしょうが、さすがにちょっと大変そうです。実際、本当にその方針でやってみると次のようになります:

計算を合わせるのに1時間ほど喰ってしまいました。褒めてください。
過不足なく場合を分け、コンビネーションが出てくる理由がわかるように書くのがミソです。

 いかがでしょうか。さすがにちょっと大変で、制限時間内にこれを答案にするのは無理があります。そこで解答では、持ち点としてあり得る可能性が $${1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12}$$ に限られることに注目して、持ち点が $${11, 12}$$ となる確率を求めて $${1}$$ から引く、という方針を取ったわけです。もちろん、短く早く解けるに越したことはないのですが、この泥臭い解法を試みる過程で「同じものを含む順列で階乗で割る操作にはどういう意味があるのか」にについて触れることもできます。ということは、いわゆるPとCの考え方(ジェイラボコアレクチャー風に言うなら「セット割」の理論)についても紹介できることになりますので、このゴリ押し解法はただの時間の無駄と吐き捨てるほど無価値なものではありません。

 余事象を使うタイミングは「条件を満たさない場合のほうが求めやすいとき」であって「「少なくとも」と書いてあるとき」ではありません。英語の仮定法をifがあるかどうかで見分けようとするのと同じように、そもそも確実に存在するかさえわからないものを目印にするのは筋が悪いですし、この考え方自体には「正方形から扇形をくりぬいた部分の面積」として小学校のときに出会っているはずです。今年の北海道大学の文系数学は、義務教育レベルの内容を体得できていることと、手を動かしてできることをやってみる姿勢が身についていることの2つしか求めていない、と言っても過言ではないです。さすがに微積分は小学生には難しいかもしれませんが、それでも基本的なことを押さえていれば難なくクリアできることと思います。


最後に

 問題が基本的で易しく、丁寧に解説する必要性に駆られなかったという事情も影響していますが、今回はいつにもまして思想を開示するターンが長くなりました。難関大学が数学Aの分野から多くの問題を出すこと、そして多くの受験生が「高校数学で一番難しいのは数A」と口をそろえるあたりに、数学教育の難しさが凝縮されているような気がしてなりません。数学を解説することよりも「入試問題をメッセージと捉えて何を教えるべきなのかを読み取る」という点、そして何より端的に「できる範囲で手を動かしてみること」を大事にしたいと思っています。今後もこの方針のもと、他の方とは違う数学の解説をやっていきたいと考えております。10000字近い文章になりましたが、ここまで読んでくださってありがとうございました。

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