舟を岸につなぎなさい 2

「舟を岸につなぎなさい」 菊池霊鷲
第二章 潜在意識が容認しているもの

人類が滅亡の滝壷に近づいているのを、あなたも御覧でしよう。戦争が無くても、原爆が無くても、もう終幕に近いと。
愛情も信頼も急速にうすれ、嘘も偽りも平気になり、疑い合い、叛き合い、おとし入れ合つて、他の不幸を待ちもうける。忽ち死にたくなり、忽ち殺したくなり、訳なしに傷つき、傷つけ合う内部からの崩壊なのです。
薬をのみ、養生訓を尊重し、医術の進歩に驚嘆し、一日中健康法に拘らつていても、内部に死にたい心が起これば、一たまりもない命。死にたくなくても、殺したい奴にぶつかればあつけなく最後です。其の上、天災と災害は善人も悪人も見分けることなく襲う。これはあなた方個人だけの話ではありません。

国々をごらんなさい。
互いに他国の滅亡を希うどころか、同胞でも、せめぎ合つて、殺人と破壊の道具を造つても造つても、足りないと思いつゝ、遂に敵も味方も一緒くたに亡ぼすものを造つてしまいました。
善いことゝいえば決して一致団結出来ないどの国も、こと殺人と破壊の戦争ともあれば、見事に国家を挙げて一致団結する。総じて、自己を破壊に導くものなら、何によらず熱中するが、少しでも、人類の立ち直りを志ざす者があつたら全力を尽して咬みつく。
国家といわず、個人といわず、実質的には人類すべて破壊と殺人の怪物になつているかのようです。つまり人類は、人類の一番大敵と化してしまつているかのようなのです。
このことをしつかりと認識なさい。何故自分で自分の大敵になつているのかを。

いや、あなたの潜在意識は、もう疾つくから自分が善人ではないということを知つて居り、文明も文化も真の生命の維持法という立場から見ればそう大切なものとはいえないということも知つているのです。
文明文化に酔つぱらつて、罪もない万物をあまりにも傷つけ汚し、迷惑を掛けすぎたことも知つているのです。

それで今日では自業自得の滅亡を、喜こんで容認しているのに相違ありません。其処で、自分で自分を処罰しようと決心して、かたみうらみの無いように、残らず平等の全滅を目指してその用意万端手落ちなく終わつたという所でしよう。
事のついでに、人類を住まわせた馬鹿な地球をも道づれに、百ぺんでも爆発させる段取りも忘れはしなかつたと。
 さあ、用意ドーンです。
 爆発させなさい。
 幾十億、総自殺なさい。
そのための莫大な金と努力と、その様なものを造つた者、造らせた者への感謝と賞賛と激励が、むだにならないように、思いつきり、ズズーンとやりなさい。

あなた方は、その様なものを造るについて、露程も疑惑を持たず、その様なものを造り乍ら一瞬もためらわず、何が何でもびくともせず国民を酷使し、絞り上げて、殺りくと破壊の諸般準備をやつてのけられると見込んだ者を、国家の代表に、或はあらゆる部門の選手にするのです。
しかし彼等に罪はありません。あなた方の潜在意識の総決算として選びだされたのが彼等であり、さしづめあなた方が、彼等を生んだ母胎ですから。

今、誰かが、あなた方に、人類の立ち直りと、地球をもう一度清新ならせるために、少量の金と、少数の人間を動員しなさい、といつたら、あなた方はその言葉に対してどんな反応を示すでしよう?
『とんでもない我々の努力と金は、破壊と総自殺のためならば捧げますが、人類立ち直りだの地球清新などという手合いとは無関係です。あゝそれどころぢやない。こんな地球などに全然魅力ありませんね、地球から逃げ出す為の用意で今夢中なのですよ』

なるほど、私も目を持つている以上、そうとは察していたんですが、しかしこの地球にはまだ希望を持つている人もあると思つたんです。少なくとも私と私の知人は、この地球から亡命しようなど思つていません。どんなものでしよう? あなた方、たとえ他の天体に移住出来るとしても、オール人類移住とは参らんのでしよう?
少数の者が行けるかも知れない。ということだけのために、大多数を犠牲にすることはないでしよう。

いやいやお聞きしますがねえ、あなた方、本当に地球から亡命したいんですか?
本当はあまり亡命したくないんでしよう?
だつたら、天外に向けている目を一分位は残しても、九分は地上に戻しなさい。上の空ということは、とかく不吉を孕みがちです。先ずは足もと要心といきましよう。
さて御覧の通りです。大切な自分と、家主さんを打ち毀しておいて、今更
 何の発見?
 何の発明?
 何の成功?
 何の進歩?
なおまだこのまゝで進んだら、発明も発見も空しく残して、人生劇場やがて一巻の終りです。

たつた今全人類が当面しているこの大悲劇の前には、もう単なる平和論など役に立ちません。在来の世界道義顕揚も、国際親善も、無力に等しく又共産主義でも民主々義でも間に合いません。
之迄も今日も、大政治家あり、大思想家あり、大発明家あり、大科学者あつて、続々脅威的発見をし、発明をし、教育の網は又世界中に張り回らされ、大小様々の主義、思想、組織等々、寝る間も惜しんで活動して来たものです。

なのにこうした努力が全然報われずに、人心は荒廃への足並みを決して変えず、社会の混乱は日を逐うて加速し、天災々害は頻りに起こるのです。
何故?
たつた一つ、人生観そのものに、大きな錯覚を持つているからです。この最初の、致命的な誤りが、永い年月の間に、大齟齬の流れとなつて現われているためです。
して見れば、この錯覚上に立脚して出発している、今日の世界の経済機構や政治基盤や、教育方針やが、今後も現在のまゝで進展されて行くならば、いかなる配慮も努力も、今日迄がそうである様に、すべて水泡に帰するでしよう。

此処に根源の誤りを究明し、是正する運動の必要性があります。此の運動にあたつて、先づ無くてはならぬものがたつた一つあります。
それは何か?
次の五条件を具えた眼と、それから出てくる理念であります。

一、世界の過去、現在、未来を一貫する歴史の底流を能見し、
二、万物の相関々係と其の実質を究め、
三、風嵐雨雪、地震、雷電、津波等、万象の由来と其の果している役割りを認め、
四、万物が有しているところの感覚とか、感情とかいうものゝ、存在意義を達観し、
五、これ等一切を引きくるめて生成展開活動している自然界の、古今を貫いて存する永遠不変の大秩序を識別する。

斯うした眼を持つ人から出て来る理念であります。
万物はそれぞれその属性についた特性を有し、個々に於いても亦特性を有して、それぞれに自治の生活をしていますが、それらは又一物として孤立するものなく、一連の大生命体なのだから、それぞれの生命の維持法は、必ず他の万物の生命との合流法に適していなければならないのであります。
この一番大切なことを、長い間無視して来た人類が、当然として至つた今日の自己崩壊と、其故に人類が他の万物に及ぼした悪影響の次第を、はつきりと見、その処理法を、具体的に指摘指導出来る人の眼であります。

今あなたがたの潜在意識は、自業自得の滅亡を容認して、其の準備を終りました。
しかし準備完了して見たら、心の奥底で何かが突然目を覚まし、何かを希い。何かをひた向きに待ち始めたのではありませんか
 何を希い
 何を待つのか
それは、この様な眼による指導理念の出現を希い、待つているのに相違ありません。

此処にそうした見地より出た理念の一片を贈る次第であります。
そして、人類幾千年の混沌を切り開き、荒ぶ自然界を常態に復させる局所は何処であるか、を明示して、あらゆる組織に活を入れ、あらゆる分野に於ける行動の方向を匡す用意が、今日の世に、必ずしも無いわではないという希望の一端を表明するものであります。

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