タイの恋はテキーラの味がした。

ぼくはタイのゴーゴーバーの娘に恋をしました。
彼女はスタイルが良くて、歯並びが綺麗で、顔が小さく、なにより笑顔が素敵な人でした。

ぼくば友達と年末年始の旅行でタイを訪れて、1月3日に彼女と出会い、その日、一夜を共にしました。
翌日は、彼女が勤めているゴーゴーバーのあるパッポン通りを通るたびに、彼女のことを探していた気がします。

しかし、太陽が出ている間に彼女を見かけることはありませんでした。

1月4日は、タイ過ごす最後の夜でした。
20時をすぎ、駅のスポーツショップからホテル前のマッサージ屋さんに向かう途中、淡い期待をしながら彼女が勤めているゴーゴーバーの前を通りました。
すると、偶然彼女がお店から出てきてぼくの前に現れました。
目があった時、彼女は一瞬、驚いた顔をしてましたが、すぐにぼくと気付き、両手を合わせて、『Thank you』と口を動かしました。
きっと昨日のことに対する社交辞令だったのだと思います。

ぼくは、『今日、日本に帰るんだ』と言いたかったのですが、照れて軽く会釈をするだけで、通り過ぎてしまいました。
すぐに後悔し、踵を返してお店の前に戻りましたが、彼女はもうそこにはいませんでした。

ぼくは彼女に二言だけ伝えたくて、ビールを一杯だけ飲もうとお店に入りました。
『I am leaving for Japan today.』
『I came to just to say goodbye.』

今日は女の子たちは皆、ナースの衣装に身を包み、昨日と変わらず踊っていました。
ぼくは、二日連続訪れたことが少し恥ずかしくて顔を俯きながら店員に案内された席について、昨日と同じビールを頼みました。

相変わらず俯きながら待って、少しするとビールがやってきました。
一口飲んで、ふと前を見ると、偶然にもあの娘が目の前で踊っていました。
目が合うと彼女は、さっきと同様に手を合わせ、また『Thank you』と口を動かしました。
ぼくは、なんだか照れ臭くて、ぎこちない笑顔を返して、また俯き加減でビールを飲みました。

ほんとうは彼女の顔をみたいのですが、なんだか照れ臭くて見れず、かと言ってほかの女の子を見定めていると思われるのが嫌だったので、ずっとデーブルの端や、女の子が踊っていないお店の奥を見ていました。

ぼくには時間がなかったので、ビールを足早に半分ほど飲んだ後、深呼吸し、彼女を呼ぼうと意を決して顔を上げると、また彼女と目が合いました。
彼女は微笑んでくれました。

すると彼女はステージから降りてきて、ぼくの方へ向かってきてくれました。
ぼくはすごく嬉しくて、今度はしっかりと彼女の方に視線を向けましたが、
彼女はぼくの横の階段を登り、後ろの日本人の席に座りました。
彼らにペンライトを当てられていたのを俯いていたぼくは気づきませんでした。

真後ろに座った彼女がどんな顔をしていたかは見れませんでしたが、きっと昨日ぼくに向けた笑顔をペンライトの光で指してくれた男性に向けていたのだと思います。

その時、昨日飲んだ別の女の子がぼくを見つけて、呼んでもいないのに隣に座ってくれました。
ぼくは、その子に今日日本に帰ることを告げると、彼女は全くそんなつもりはないのでしょうが、心なしか悲しそうな顔をしてくれた気がしました。
ぼくはそれが嬉しくて、彼女のお願いどおり2人分のテキーラを頼み、彼女と乾杯しました。
昨日から数えきれないほど飲んだテキーラの味は、刺激的でいつまでのその余韻が残るようで、その後にかじったライムは簡素な酸っぱい味がしました。

ぼくはとても前の女の子を見る気にはなれず、デーブルの端を見ながらビールを口に運ぶ頻度を増やしました、
するとビールはすぐに残り一口になり、店を出る時間がきました。
そのまま店を出ようかとも思いましたが、最後に意を決して後ろを向くと、彼女はぼくの背もたれに座りながら、ペンライトを向けた男性に笑顔で腰を振っていました。

ぼくは彼女が腰を振るたびに揺れる背もたれの振動を感じながら、ビールの最後の一口を飲み干し、心の中で手を合わせて手を合わせて背中越しに彼女にこう言いました。
『コップンカー。』

タイトル:タイの恋はテキーラの味がした。

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