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三匹の人間


 このお話は、「三匹のこぶた」の現代人間版のコラージュです。通常の三匹のこぶたでは、最後には一番目と二番目のこぶたは狼に食べられてしまいます。そして、三番目のこぶたは、その狼を食べてしまいます。しかし、近代版では、穏健な内容に差し替えられ、狼とこぶたはお互いを食べ合うというような結末にはなりません。一番目、二番目のこぶたも三番目のこぶたの家に逃げこみ、狼も熱湯で大やけどを負い、悲鳴を上げながら山へ逃げ帰るという結末になっています。
 しかし、これは、現代版であり、人間が主役です。このような結末になるとは考えにくいでしょう。

 それでは、みなさん、お楽しみください。

 母親は困っていました。彼女には三人の子供がいます。
 一番上はアラン、
 二番目はベル、
 三番目はチーズ、
 といいました。
 三人の子供たちは、自堕落な生活を送っていました。アランは学校を卒業後、就職できず、酒浸り。ベルは婚約者に性格上の問題から婚約を破棄され、それを忘れるために毎晩遊びまわり。チーズは学校で暴力問題を起こし、退学処分になってしまいました。
 母親は、そんな子供たちを独り立ちさせるために、考えました。彼らの家は裕福でしたが、そのそいでこのような事になっているのかもしれない、と母親は思いました。彼女は決断しました。
「一人300万を資本金として渡します。自分で生活できるようになりなさい。私からの援助は今後一切ありません」
 母親はたいそう意思の強い人だったので、一度こう言ったら、絶対にその通りになると子供たちは思いました。こうして三人は、一人300万円を持ち、一人で生活できるようになるため、家を追い出されました。

 性根の悪いディーバという男がいました。彼は、極悪非道を尽くし、悪いことをするのに一欠けらの罪悪感さえ持ちませんでした。そんな彼の耳にいいお話しが届きました。
「大富豪の三人の子供が、300万を持って家を追い出されたってよ」
 三人合わせて900万です! ディーバは、全員から、そのお金を奪い取ることを決めました。三人の子供の行方はどうなるのでしょう。

 一番目の子供、アランは結局、酒を飲み、自堕落な生活をやめることはできませんでした。夜に働く女性のところへお世話になり、酒浸りの生活をしていました。ですが、ディーバは、アランからすぐにお金を奪うことはできませんでした。なぜなら、お金は預金通帳の中に入っているからです。現金で自分の手に渡らなければ、意味がないのです。ディィーバは考えました。彼は、酒浸りの生活を送っています。ならば、そのお酒を売りつければいいのです。近くの酒屋で一番高いお酒を買い、ラベルを張り替えました。それでも、そのお酒は2万程度でしたが。
 そして、ディーバはアランがバーで飲んでいるところを見つけ、個室のあるお店に誘いました。メニューのお値段も目が飛び出るほど高いお店でした。
「このお酒は、魔法のお酒なのです」
 彼の口上は実に面白いものでした。
「あなたのような高貴な生まれの方にこそ飲んでほしいのです」
 アランはその言葉に、気を良くしました。
「魔法は、飲み続けることにより、効果を発揮します。一本50万円と少し高価ですが、あなたに、この世に滅多にないくらいの素晴らしい幸運が訪れます。しかも、これを飲んだだけで、素晴らしい気分になれますよ」
 お酒には、ほんの少しですが、気分が良くなる非合法の薬が入っていました。
「本当は、誰にもお売りするつもりはなかったのですが、あなたは、選ばれたのです。選ばれたあなたは、これを飲む資格があります。あなたには、必ず幸運が訪れることでしょう!」
 アランは単純だったので、あっさりと50万を払い、お酒を買いました。彼は、これから、幸運が訪れるから、母親からもらった300万を使ってもいいだろうと思いました。アランは夜のお仕事をしている女性から借金までして、その酒を買い続けました。
 それからも、お酒を買い続け、ちょうど6回目の時に、ディーバは行動を開始しました。
「さようなら」
 アランの腹をサバイバルナイフで刺し、海に投げ捨てました。ディーバの顔には、罪悪感もなく、無表情でした。ディーバにとって、こんなことは、日常茶飯事だったのです。

 二番目の子供、ベルは、高級なマンションを借りました。いつものようにホストクラブへ行くと、そこには新入りの、ディーバという男がいました。彼は、ベルのお気に入りになりました。
「あなたは、美しく、教養もあり、まるで薔薇のような女性ですね」
 ディーバは金のためなら、気分が悪くなるよなキザな台詞を言うことも平気でした。
「夢のように、あなたを愛したい」
 ベルは現実を忘れ、ディーバに入れ込み始めました。300万などすぐに使い切ってしまい、いろいろなところからお金を借り始めました。もうベルには用無しと、ディーバ店を去りました。借金地獄に陥ったベルは結局、母親の元へと返されました。

 三番目の子供、チーズは、心を入れ替えて、堅実に働きはじめました。一か月3万円のアパートに住み、バイトを掛け持ちし、貰ったお金には手を付けないように生活し始めました。ディーバはなぜか、この子供からどうやってお金を奪っていいか考え付きませんでした。お金儲けに関することなら、たくさんやってきました。それなのに、なぜか、その触手が動きません。
「おっさん、何してんの?」
「いや……隣に引っ越してきたディーバだ。よろしく」
「ああ、よろしく」
 毎日、彼は規則正しく生きていた。大学に通うために、大検の資格の勉強もしていました。
「おっさん、顔色悪いよ? 今日、初めて筑前煮作ってみたんだ。おすそ分けするから食べるか? 元気出るかもよ?」
 なぜか、ディーバは胸が苦しくなりました。
「俺は、昔から貧乏で、お金が欲しかったんだ」
「今、おっさん何してるんだ?」
「お金を儲ける人だ」
「ふうん。それ面白いか?」
「いや、面白くないな」
「じゃ、なんでやってるんだ?」
「お金が欲しかったから、だ」
「そんな理由で? そんなにお金があって何に使うんだ?」
「次の金を儲ける資金とかだ」
「変なおっさんだな。それじゃあ、満足することなんてないじゃないか」
「そういう風にしか生きられないんだよ」
「おっさんがそれでいいならいいんじゃないか」
 ディーバは、この二人だけの時間が永久に続けばいいのに、と思いました。
「俺とずっと一緒にいかないか?」
 チーズをぎゅっと抱きしめました。
「何いってんだ、おっさん」
 結局、ディーバはチーズからお金をとることはありませんでした。。微妙で変でいびつな関係も続いていきました。
「あ、そういえば、兄貴が、ヘマやって、刺されて海から上がってどっかの島の美人の女性に助けられて、心入れ替えて働き出したって。姉貴も、新しい婚約者が見つかって、その人、懐が広い人だよな。あの姉貴とうまくやってるだから。俺も大学合格したし、一時はどうなるかと思ったけど、みんななんとかなったな」
 ディーバは、チーズの顔を見て産まれて初めて幸せを感じました。そして、生まれてはじめて、罪悪感を感じました。チーズの兄と姉からお金をだまし取ったのことへの罪悪感が日に日に大きくなり、とうとうディーバはチーズとの別れを覚悟して、真実を話すことにしました。
「これ、チーズの兄と姉から騙し取った600万だ。お前に返す。兄妹に返すなり、使うなりしてくれ」
「ディーバ、どういうことだ?」
「もう、おまえの前には、現れない。俺は、人を騙してお金を儲ける人間だ。おまえにとって俺は毒だ。もう、近寄ったりしない」
「どうして!」
 チーズは、ディーバの肩を掴みました。目を背けるディーバにチーズは無理やり接吻しました。さらに服を脱がしましたが、ディーバは抵抗しませんでした。

 チュンチュン! 清々しい朝に鳥の鳴き声が聞こえてきました!
 チーズが目を覚ました時、ディーバはもういなくなっておりましたとさ。

 その結末が、残酷な『三匹のこぶた』の結末のように、三番目のこぶたが狼を食べてしまったかは、ご想像にお任せします。
 


 さて、どうでしたでしょうか?
 人間版「三匹のこぶた」お楽しみいただけたでしょうか?
 願わくば、ほんの少しでも、お読みいただいている方の心に届くものがありますように。

おしまいおしまい。



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