オタクくんが今日見た夢

僕が今日見た夢です。

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夜の住宅街。
いつもこの時間になると、2つの影が現れる。
"俺"と"彼女"。
俺たちは同じサークルの友達。家の方向が同じなので、サークルの帰りはいつも一緒に帰っている。ただそれだけの関係。
…でも、俺の内心は違った。いつかそれ以上の関係になりたいと思っていた。でもそれを今すぐ変えようという気はなかった。今は、この一緒に帰るだけでドキドキする関係を楽しもう…そう思っていた。

そして今日も2人で夜の道を歩く。俺もいつものように、この何気ない日々にドキドキする。
その時だった。
「手…繋いでもいいですか?」
俺の左隣を歩く彼女が突然そう言った。あまりにも突然過ぎて、俺の思考も止まってしまう。
「…え?」
辛うじて絞り出した言葉はその1文字だけだった。彼女のいる方へ顔を向ける。暗いせいで彼女がどんな表情をしているのかはわからなかったが、少し俯いているのは確認できる。
「………」
彼女はそれ以上何も言ってこない。
気がつけば俺は、彼女の右手を握っていた。
「あ…」
彼女が発した音もその1文字だけだった。そのまま手を繋いで俺たちはいつもの帰り道を歩き始めた。
「………」
会話が弾まない。いつもなら何か適当なことを話しながら帰っているのに、今日はお互いに無言だ。
左手から温もりを感じる。普段、手を繋ぐという行為を行わないため、新鮮な気持ちだった。
「…あ!」
彼女が突然声をあげる。そのまま繋いでいる手をまじまじと見て…。
「はわわ…これ、恋人繋ぎじゃないですか!」
そう言われて俺も握っている手を見る。
お互いの指が交差し、絡み合っている。手のひら全体、そして指の間からも温かい感触がある。どの角度から見てもそれは恋人繋ぎだった。
どうやら俺と彼女は無意識のうちに恋人繋ぎをしていたらしい。
「あ、ごめん!」
咄嗟に謝るが、彼女が怒った様子はない。手を払う気配もない。俺たちはお互いの接点を見つめたまま立ち尽くす。
「行きましょう」
彼女がそう言い、俺たちはまた歩きだした。
「………」
また無言の時間が続く。さっきと同じ光景だった。でも、当人にだけわかる違いもあった。彼女の手を握る力が少しだけ強くなっている。その影響か、さっきよりもほんの少しだけ、密着しているような気がした。

そのまま歩き続けて数分。いつも解散する別れ道に到着していた。いつもよりもゆっくりとした到着だった。
「………」
お互い何も言わず、別れ道の真ん中に立ち続ける。その手は恋人繋ぎのままだった。
暗闇のせいで彼女の表情がよく見えない。少しだけ下を見ているのは確認できたが、それまでだった。
今度は正面を見てみる。仄かな街灯のおかげで、まだ住宅街が続くことは確認できた。
「ん…!」
その瞬間、視界が暗くなった。ただでさえ暗かったのに、さらに暗い。さっきまで見ていた道すら見えなくなるほどに暗かった。
視界が次の情報を認識する前に、別の感覚が情報を認識する。顔全体がさっきよりも温かい。何かに触れているのか、所々に感触がある。そして…唇には、他とは比べ物にならないほど柔らかい感触があった。
脳が全ての情報を把握するよりも早く、その感触はなくなった。目の前に彼女の顔がある。そしてまた、彼女の顔が近づき、密着する。
今度は先程よりも早く情報が流れてくる。花のようないい匂い、体全体に伝わる体温、そして唇に感じる柔らかい感触…。

どれだけの時間が経ったのだろうか。俺たちの影は重なったままだった。
ずっとこの感覚を堪能していたい…そう思っていたが、その時間もついに終わりを迎えた。
彼女の顔がゆっくりと離れていく。それと同時に、ずっと繋がっていた手も少しずつ綻んでいく。
お互いの体が完全に離れ、彼女は彼女の帰り道に向かって歩き出した。
俺はさっきまでの感覚が名残惜しかったのか、その場に立ったままだった。
離れていく彼女の姿がとても愛おしい。そう思うのに、体は動こうとしない。
彼女がこちらを振り向く。そして一言…「また明日」と言い走り去ってしまった。

暗いせいで彼女の表情は見えなかった。でもきっと、その顔は真っ赤に染まっていたのだろう。そして、今の俺の顔も同じ色をしているのだろう。

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