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KH aka Four Tet - Only Human:2019年インターネットについて

友達にすすめられて “あの頃ペニーレインと”を改めて観なおしたけどめちゃくちゃ良い映画だった。エルトン・ジョンの“Tiny Dancer”をみんなで歌うシーンがあって。映画を観た後、 “Tiny Dancer”が自分にとってとても大切な曲になった。映画の中で語られる「偉大な芸術は憧れや罪悪感から生まれ、セックスや嘘が絡み合っている」という言葉も最高に芯を捉えている。映画の中では音楽評論を指している言葉だが、これは間違いなくロックンロールを含む音楽というものに捧げられた言葉だ。

オレは曲を作りながら自分なりに音楽を追っかけている。曲を作ってる時間より音楽を聴いてる時間のほうが圧倒的に長い。聴いている時間・考えている時間が50に対して、制作している時間は1くらいだろうか。体系的に追ってるわけじゃないからけっこう解釈は歪で、大前提の基礎的知識も知らないことが多い。
何年か前から自分の作ってる音楽と追ってる音楽は直接関係がないと分かり始めた。ただエモーションやアイディアはそこから生まれている。「ディストピア」という概念はBurialやSkreamの作ったダブステップを聴いていたときに知ったし、ディスクロージャーの “Omen”やバトルスの “Atlas”をライブで観ながら感じた祝祭感が自分の制作の源泉になっている。アーケイドファイヤーのグラストンベリーの “wake up”の映像を見ながらシンガロングの一体感に憧れるようになった。逆に音楽構造の近いニューオーダーなんかは最近まで全然好きじゃなかった。

2019年で一番聴いてる曲の一つが Four Tetのシングル “Only Human”。Four Tetはリミックスワークは好きだったんだけどFour Tet自身の曲をいままで特に好きになったことはなくて。 “Only Human”は初めて聴いたときにすごく気に入ったので歌詞の内容も気になって調べた。ネリー・ファータドというカナダのポップスターの“Afraid“という曲のサビ部分がボーカルサンプリングされている。

KH aka Four Tet - Only Human

歌詞:
あなたは他人に何て言われるかひどく恐れている
それはそれでいいのよ
だって私たちただの人間だもの

You're so afraid of what people might say
But that's okay cause you're only human

あなたは他人に何て言われるかひどく恐れている
それはそれでいいのよ
でもあなたはこれからもっと強くなれるはず

You're so afraid of what people might say
But that's okay you'll soon get strong enough

あなたは他人に何て言われるかひどく恐れている
それはそれでいいのよ
だって私たちただの人間だもの

You're so afraid of what people might say
But that's okay cause you're only human

あなたは他人に何て言われるかひどく恐れている
だけどこのままでは壊れてしまう
だからお願い もうそんなことはしないで

You're so afraid of what people might say
You're going to break
So please don't do it

サビだけをサンプリングすることによって“Afraid”がリリースされた2006年の時点ではまだ含まれていなっかた意味が生まれている。2019年現在この歌詞は明らかにSNSの問題を孕んだ強いメッセージとなって聴こえる。そしてこの曲がいまクラブでめちゃくちゃかかっているってことはみんな同じ息苦しさを圧倒的に感じ始めているからだ。ダンスミュージックのようにマイノリティーに対して開かれている場所なら尚更だろう。

自分の表現はハバナイの歌の中で完結している。かなり苦しい瞬間でも自分の歌と自分の心は一致している。だけどそれだけでは共有できないことがたくさんある。世界はいよいよ複雑になっていて、まことしやかなノイズや当事者同士では気づくことが困難な擦れ違いも多い。変化していくスピードも早くなったし140字ではいよいよ人々が同じ視線で言葉を交わすことが不可能になった。お互いが理解しようとする優しさにや“飲み込む”ということには強烈なリスクが伴うようになってしまった。彼らもみんな最初は孤独だったはずなんだけどね。

オレは人々がその曲をどんな瞬間やどんなシチュエーションで聴いているのかが気になる。その曲がそいつにとってどんな意味があるのかを考えてみる。そいつの人生とその曲がどう向き合っているのかを考えるてみる。アメリカのドラマの中でNYに住むインテリの黒人のカップルがセックスの前にマクスウェルを聴いているシーンを見ながらマクスウェルについて知ることができる。鬱病に悩む友達が最近ドレイクを聴いているということを話してくれて、彼がドレイクの音楽に切実に救われているということが分かる。オレはNYに住むインテリの黒人でもないし鬱病でもない、だけどその音楽がどんなふうに聴かれているかが分かるっていうのはなかなか悪くないよ。その音楽を好きになるきっかけになる。

オレみたいなことを言ってるヤツはたいていの人々に面倒くさがられているね。だからこれは少し閉じた場所でひっそり続けてみようかなと思うよ。せっかくならここではハバナイの歌では説明しきれない問題にも触れてみたい。
少ししたらnoteの有料化機能を使ってみようかなと考えてる。「浅見くんの文章には金を払ってもいい」と言う友達の言葉に後押しされつつ。そもそもオレが書いてるこの文章は商品を売るためのレビューじゃないし、自分の思想を広く知ってもらいたいわけでもないし、pv数を稼ぐために刺激的なタイトルをつけるのも正直面倒だ。インターネットにおける自由やフリーという概念もとっくに失われたいまそれに合わせる理由もかなり希薄だよね。
文章が載るにあたってコンプライアンスや出版社に対する責任を問われてまで紙媒体に掲載されるべき必要もないわけだし、友達と長く語り合っている大事ことを中途半端なカタチで水を差されるのも癪だしな。ときにフェアじゃない正義や常識と戦うことが必要なときもあるだろう、だけどオレたちのゲームの本質はそこじゃないよね。もっとシンプルにインディーズな表現としてHave a Nice Day!の活動に対して肉薄しているヤツにだけオレの見えているビジョンをもう少し説明できる場所があったらいいなと思っただけださ。

ここではふだん友達と話してることようなことを記録していく。オレにとって“Tiny Dancer”が分かるのに映画一本分が必要だったように情報の多い世界では自分ひとりでは答えが見つからないことばかりだ。たまたま観た映画や小説の中や、ある曲がクラブでかかった瞬間や、初めて話す人との会話の中に大きなヒントが見つかる。結局のところ答えは自分で見つけるしかないんだけど手がかりは共有し合える。椎名林檎や宇多田ヒカルを好きな人たちがミュージックマガジンに掲載されたオレの言葉に反応したのはそういうことなんだろう(理解するヒントとして耳を傾けた人もいたけど自分の"宗教"が汚されていると捉えた人もいたね、これはとても根深いことなのでそのうちここで真剣に話してみたいな)。

いつか君とディスクロージャーの“Omen”やミゲルの“Sky Walker”を聴きながら語り合いたい。でもそれはまだ先のことだろう。オレもいまはまだその言葉を発見できていないな。

※参考になるようにプレイリストも更新していくよ。


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