学習に使用する3種のツールについて (ナレッジスタックPodcast補足記事)
先日はこちらのPodcastにお邪魔しましたが、
自分で聴いても何言ってるのかわかりにくいですね。音声収録の難しさを痛感しているところです。
ごりゅごさんには大変ご迷惑をおかけしました。
これはちょっと補足が必要であろうと。
そこでこの記事ではPodcastでお伝えしたかったAnki、文章、そしてCanvasの使い方や棲み分けについてお話ししようと思います。
Ankiはいいぞ
勉強でもスポーツでも料理でも、何をするにしても上達する条件は、得た知識や能力を使うこと。これは絶対です。
テニスなら実際にラケットでボールを打つ、英語のスピーキングなら覚えた単語やフレーズを使って実際に話してみる。そうしないと上達というのはほぼあり得ません。
では体の動きの無い学習なら?
最も簡単でお手軽な手段が「思い出す」ことでしょう。
教科書を延々読むよりも問題集に取り組めとよく言われるのは、知識を入れるだけではなく、入れた知識を頭の中から引き出せということです。そうしないと上達しないから。
Ankiの良さというのは、この思い出す行為を効率的に継続できることだと考えています。
アプリを起動してデッキを選択すれば、それで問題が出題される。これくらいのハードルの低さが無いと、根がズボラな僕はなかなか継続できません。
丸暗記の弊害
そこでこう考える方もいるでしょう。
「じゃあAnkiだけで勉強すりゃいいんじゃないの?」
英単語などはもちろんですが、世界史も有志の方が作成されたデッキ (問題集) が既に公開されています。ダウンロードしたファイルをAnkiアプリで開くだけで、2700を越えるノートが1つのデッキとしてインポートされる仕組み。
この「共有デッキ」というシステム自体は非常に便利で、受験生には十分役立つでしょう。たとえばこんな問題が出題されます。
あくまで受験生には役立つ。
裏を返せば、こういった問題に答えられるだけの知識が全く無い状態でAnkiに取り組んだとしても、ほとんど役に立ちません。
問題 → 答えという形にならざるを得ないAnkiだけでは、定着率がすこぶる悪いからです。
言葉の重要性
そこで必要になってくるのが文章、あるいは講義や動画といった「言葉の力」によって物事を理解すること。
今回はPodcastでもご紹介したこちらの書籍から、元首政に関する記述を抜き出してみましょう。
若干補足を加えてリスト化すると、こんな感じ。
元々ローマは最初期を除き、王や皇帝のいない共和制だった
ところが領土が広がるにつれて内乱が相次ぎ、広大な国を治める強いリーダーシップが求められるようになる (三頭政治の始まり)
三頭政治のメンバーからユリウス・カエサルが一歩抜け出し、絶対的な権力者に躍り出る
カエサル:「俺が一生独裁者 (終身独裁官) な」
しかしこの言動が共和制支持者の怒りを買い、カエサルが暗殺される
「ブルータス、お前もか」はこのときのセリフ
続く第二回三頭政治で勝ち残ったオクタウィアヌスが元首 (実質的な皇帝) に
オクタウィアヌス:「いや……僕は独裁者とかじゃありませんよ。ただの市民の代表 (プリンケプス) です!」
(共和制支持者やべぇ……強気に出すぎたら暗殺されるかも……)
自ら独裁者を名乗って暗殺されたカエサル、それにビビりまくる後輩のオクタウィアヌスという構図。
理解によって記憶を構築する
このストーリーを全く知らないままAnkiの問題に取り組んだとしても、「アウグストゥスがプリンケプスと名乗り、元首政を行った」というごく狭い範囲のつながりしか見えてこないでしょう。
しかしこれでは理解が浅すぎる。
理解が浅いということは、記憶に残らないということを意味します。だから背景にあるストーリーを知ることで、アウグストゥスや元首政にまつわる関連情報と合わせつつ理解を深めていく。
そのうえでAnkiに取り組みます。理解を伴って得た知識を頭の中から引き出して使うことによって、定着率は格段に上がるはずです。
文章ではわかりにくい箇所をどう理解するか
このように一直線のストーリーで内容を把握しやすいものについては、文章とAnkiだけで完結できるでしょう。
ただ、そううまくいかない場面もあります。たとえば同じ書籍の第2章「中東の歴史」冒頭部分では、
シュメール人
アッカド人
アムル人
アラム人
フェニキア人
ヒクソス
ヒッタイト
アッシリア
などなど、新たに出会う用語 (特に○○人) が異常なほど多く、読み終わっても何が何だかよくわからんという状態に陥ってしまいました。
特にアムル人とアラム人がごっちゃになるなどは、世界史初学者あるあるではないでしょうか。
ごっちゃになる原因とは?
この「実際には関係のない用語がごっちゃになる」現象。何が原因かと言えば、これも用語に対する理解が足りないからです。
理解が足りていない状態では、脳はどうしても言葉の響きだけで勝手に情報をグループ分けしてしまいます。
アムル人とアラム人は言葉の響きが似ているから、頭の中では勝手に近い位置に配置されてしまい、どちらがどちらかわからなくなってしまう。これはとても自然なことで、脳を責めるわけにはいきません。
情報の位置と関連情報とのつながりを可視化する
この問題を解決するのに役立ったのがCanvasです。
使い方としては、それぞれの用語をカードとして配置し、関連情報を付け加えて他のカードとのつながりや距離感を可視化していく。
刑事ドラマでホワイトボードに被害者相関図を描くのと同じですね。(想像しにくい方はこちらにアクセスしてみてください)
アムル人とはシュメール人やアッカド人の後、紀元前1900年頃に古バビロニア王国を建設し、有名なハンムラビ法典を作った民族で、その王国はヒッタイトに滅ぼされた。
太字のキーワードがアムル人と特に関連性の強いカードであり、アムル人という情報を引き出すための手がかりとなる存在です。
「古バビロニア王国」というワードから、あるいは「ヒッタイト」というワードから連想され、引き出されるのが「アムル人」であり、逆に「アムル人」というワードからは「古バビロニア王国」や「アッカド人」、「紀元前1900年」や「ヒッタイト」というワードが引き出される。
アラム人などここには登場しません。どこに出てくるかというと……
紀元前1200年頃、各地で大暴れした海の民によって強固な支配が崩れたシリア内陸部で貿易を盛んに行ったのがアラム人で、彼らの文字はアラビア文字の原形となります。
同時期に西側で地中海貿易を行い、アルファベットの原形を広めたフェニキア人と近い関係にあり、アムル人とは全く別の存在です。
アラム人を引き出す手がかりは「内陸貿易」や「紀元前1200年」であり、アラム人はまた「海の民」や「フェニキア人」を引き出すための手がかりと言えます。
距離、位置関係、軸
Canvasのポイントとなるのは距離と位置関係、そして基準となる軸といったところ。
距離は言うまでもなく、そのカードとの関連性の強さを表します。
アラム人といえばまず内陸貿易、そしてアラム文字が浮かんでくるという状態を作るわけです。
そしてアラム人は、アムル人よりかなり後に栄えた民族であるということが、その位置関係ではっきりとわかります。
最後に時間や、この場合であれば地域などを軸とすることで、新たな情報を配置しやすくなるでしょう。たとえばアムル人と同時期に栄えたエジプトの王国は?
中王国であり、ヒクソスによる支配を経て新王国へと移り変わります。
新王国はヒッタイトと激しいバトルを繰り広げ、世界最古の国際平和条約を結んだとされる王国です。
Anki、文章、Canvasは補完関係にある
最後に今回の記事の内容をおさらいしておきましょう。
上達には、その知識や能力を使う必要がある
スポーツや語学で言えば練習であり、学習で言えば思い出すこと
だから復習にはAnkiが適任
しかしただの丸暗記には意味がない
理解が不足している状態では、そもそも記憶が定着しない
理解するには文章など、言葉の力が有効に働く
しかし言葉だけでは理解しにくい場合もある
用語の乱立など、頭の中で情報がごっちゃになってしまうことも
その場合は情報を正しい位置に配置し、関連情報との距離や位置関係によって連想しやすい状態を作り出す
Anki、文章、Canvas。これら3つのツールは全て、得意なこともあれば苦手なこともあります。
Ankiは理解する段階ではほとんど使い物にならないし、文章を何度も復習するには時間がかかるでしょう。Canvasは? 配置すべき情報が無ければ、ただの白紙でしかありません。
それぞれが苦手を補い、学習によって得た理解が記憶を補う。そして記憶は、その先の知恵や発想の糧となる。
とりあえずこんなところで、なんとなく言いたかったことが伝わればいいんですが、どうでしょう? (不安)
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