見出し画像

新せ界より


六本木ミュージアムでの展示会が発表され、色鮮やかなキービジュアルが公開されたのが昨日のことのように思える。

新せ界というタイトルを聞いて咄嗟にぽぽっと思い浮かんできたもの。

交響曲「新世界より」
ONE PEACEに登場する「新世界」
小説「新世界より」
あとは、それこそ発表場所だった大阪にだって「新世界」と呼ばれる場所がありますよね。

私が知っていてすぐに思い出せるだけでも、これだけの使い方をされてきた。その三文字に感じるロマンや期待って、三大欲求よりも持つべきものなのかも。知りたいという気持ちの力って凄い。

壮大。見たことない地。未来。

言葉に対して漠然と印象としてはこんなものなのかな。

だから「新せ界」をやりますよって言われて一番初めに想像したのは、「これを見たら、きっとこれから進んでいくグループの未来の光景がぼんやりとでも見えるのかな」ということだった。

ツアーが終わり、新しいシングルが発売するというタイミング。パリ行きが発表され、文字通り新しい世界へ飛び出す瞬間。

初日、閉館のギリギリで駆け込み私の新せ界は幕を開けた。

真っ先に飛び込んできた鳥居坂という文字、ちょっと衝撃。あれってなかったことになっていたと思っていたから。当時別の秋元傘下グループを応援していた私は他人事のように思った。「いや、鳥居はなんだか語呂悪くない?」と。

鳥居坂と欅坂のロゴマークが並び、かつてのジャケット写真が狭い蛇行線の脇に並べられている。

手のひらの先から櫻坂の物語が大きな空間に広がっていく。



こういう展示会をどんな風に見るのが正しいのか、いまだによく分からない。美術館とか、博物館とか。知識や背景を多少知っていることもあるし、まるで知らないこともある。私は大抵深いことは何も考えずにふらっと見て、出口あたりでそれっぽい顔をしながら「ふーん、いいじゃん」なんて思っていたりする。ミーハーなので、有名な絵のポストカードを買っちゃったりもする。まったくなにも分かっちゃいないけど、気分は良い。ふんわり賢くなれた気がする。


が、この展示会だけはそうもいかない。入った瞬間から目はバッキバキ。頭はフル回転。ふらっとなんて歩けず、牛歩で視界を舐め回す。

2回目、3回目あたりまでは一つも見逃すものかとキマりすぎて、途中で肩が痛くなった。


ふと力を抜いて見られるようになったのは、展示が入れ替わった直後の回から。

なにかきっかけがあったわけでもないけれど、今日は軽く流して、情報ではなく絵として見られたなぁって思った。一部の展示を除いて(7thのティザー映像が公開された日でもありました。その部分だけ目がバッキバキにキマッていたことを認めます)


そうやって見た後、とある人を思い出した。その人は、ここを訪れるほぼ大多数の人と違い、グループを知らず、たまたま開催されているところを見たから入って見たらしい。そういうニュアンスのことを言っていた気がする。

すごくいい。とてもいい。

この分野のどこかにいる人、グループに興味を持っている人、愛のある人、過去を知っている人、今を応援している人。或いは知人に連れられて。そういう人が行き、良かったなと思うのはある意味では想定された評価だと思う。もちろん、そういう声って私は大好き。

ただ、これだけじゃガラスの天井は突き破れないという気もしている。

だからアイドルなんてなんにも知らない人が来てくれたら、とは思っていた。良いでも悪いでもいい。その後ファンになってもならなくても別に良い。ふらっときて、肩入れせず、当日券2400円を払ってくれる。まだ何も知らない人が、誰にも影響されずに一人でもここへやって来たのなら。この催しはわざわざ六本木ミュージアムでやった意味がある。と、個人的には思います。

何も知らない人にはここがどう見えているのだろう、と思った。少しだけ羨ましい気もした。私は絵コンテの文字まで、ぐっと近寄って見てしまうから。今更もう違う自分になれるわけないじゃない。

今でも感情が溢れて処理しきれない事も、この文化の中にある嫌な感情も。全てを知らずにただアートとして楽しめる人も存在している。それってもうなんだかとてもいいって思った。とってもいい。

自分とは違う眼差しをしている人が当たり前のようにいる。世界って広い。


とは言っても、やはりファン向けに作り込んでくれた優しさを受け取れる自分だってまた誇らしい。私だけが感じられることもあるって、それはそれで、知らないことと同じぐらい素晴らしい。

展示会としては、視線と思考の誘導がとても分かりやすかった。基本的にどこをどの順番で見てもいいのが展示だとは思うけど、この順番でここをメインにこんな風に見るといいですよっていうのがないわけではない。

櫻坂としての歴史に強くスポットを当て、欅坂としての歴史は、足元である地へ。

リハーサルの様子を映すモニターは拡大しても縮小してもどれも新しい映像で、この場所こそが何度行っても飽きない要因の一つになっている。

愛おしい映像に頬を緩め、振り返ると、MVコンセプトが出迎えてくれる。


入れ替え前の話だけれど、全てのモニターを見終わった後に飛び込んできた文字に涙が滲んだ。


1st シングルのMVコンセプト。

櫻坂46の誕生を、最大限のカタルシスを持って伝える

櫻坂46展「新せ界」図録

そこから連なるMVの絵コンテ。

私自身、このシングルに強い思い入れがあるから、初めて目にした時はなんだかもう耐えられなかった。あ〜、なんだよこれ、あの時、一番最初にもうアベンジャーズ をやってたのかってね。まさに「解答編」だった。

時を経た今それが「Avengers Assemble」になっているという構図は、なんてドラマチックなんだろう。「On your left」これができるグループなんだよね。Portalsを聴きながら見てもよかったかも。いや、ぐしゃぐしゃになるので絶対やらなくてよかった。

デビュー曲というのは地図のようなものだと思う。ヒット曲とも、ファンに一番好かれる曲とも立場が異なる。絶対的で、唯一無二の地図。

常々考えているけど、一番良いデビュー曲ってなんなんだろう。今の所の私の答えは、グループが歳を重ねれば重ねるほど、深さと重さをグループにもたらしてくれるものだったらいいなというところ。

Nobody's faultが曲として出来が良いのかイマイチなのか、音楽に明るいわけではないので正直よく分からない。ただ、3年目を走る今、唯一無二の重厚さを持ってライブに君臨しているというのは胸を張って言いたい。

勝手な感想だけど、振り返った時に一番最初に目に飛び込んできたアートワークの解答編がこの曲だったことに、ぐらぐらと感情が揺さぶられた。今ある全ては、確かにここから始まったたのだと強烈に再認識させてくれる。

ジャケット写真に込められた意味なんかもとても良かった。それぞれのシングルが、実は全て階段上で繋がっていることを感じられる。撮る人間が変わっても、バトンは受け継がれ、そしてついに世界まで辿り着いた。Start over!のジャケットコンセプト。そして承認欲求のジャケット写真。バトンが繋がる瞬間をリアルタイムで感じられたのは、ずっと忘れられないのだと思う。とても贅沢な経験だった。


最後に見えてくる真っ白な世界。歴史を辿った後にバーンと眩く光る一室の部屋。天にでも召されてしまうのか、と思うほど白い。白って二百色あんねんけど、ちょっとありえないほど白い。目が痛いほどだ。

言葉が白空から垂れていた。

謙虚な目標を語る子。やりたいことを大胆に話す子。悔しさをバネする子。グループを大切に思う子。可能性に目を輝かせている子。

本当に色んな子がいる。どの感情も正解だと思う。正解にしていって欲しい。人生は選択の連続だろうけれど、結局選んだ道に対してなんだかんだこれしかなかったと思えることが大事なんじゃないかな。

去年あたりから感じ始めていた「いいグループになったなぁ」という老いた感想が胸にふっと浮かんだ。

ここまで来るのに、どれほどの時間と労力を費やしただろう。私でさえ、ちょっとキツかったねって笑っちゃうぐらいなんだから。本人達はもうこの無限倍ほど大変だっただろう。

色んなことがあったグループだった。今では地へと化した歴史が、現実のこととして起こっていた。

あの頃の自分への色んな反省も、改めて胸に刻んでおこう。地を這うような歴史は、だからこそ意味ある展示に思えた。

そういう歴史や人、全てを孕み、今ここに彼女達は存在している。私もまた、ここにいる。

今、この瞬間。
と何度目かの光の部屋の中で答えに辿り着いた。

これから見るものではなく、ここがもう"そう"なのだと。私はいつの間にか彼女達に手を引かれ、連れてこられていた。

もう既に立っていた。新せ界はこれから見る景色ではない。


今、この瞬間。この地こそが新世界。


三ヶ月間、ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?