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今、どうしていますか?15年前に心を置いてきたプーケット

人生を一つの「旅」と表現することもできるけれど、やっぱりいろいろな場所を訪れ、見て、聞いて、食べて、刺激を感じていたい。こんなにも長い時間、同じ場所にとどまっているのは、いつぶりだろうか。なぜか、ふと思い浮かぶのは、今から15年も前に訪れた、タイのプーケットだ。

当時、タイ通の友人に誘われて、学生時代のにぎやかな仲間と4人で訪れたのだった。空港を降りた瞬間に感じる、もわっとした全身を包む熱気と、そこはかと漂う優美な南国の香りに、私は思わず笑顔になる。

街に足を踏み入れると、リゾートの美しさと、クラクションが鳴り響く雑踏の面白さが混在していた。調理場から漂う、かぐわしいハーブの匂いと咳込むような唐辛子の刺激が鼻をくすぐる。社会人になりたてだった私は、凝り固まったシコリをほぐすように、ゆっくりと心を泳がせた。

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友人のアテンドで初めて乗ったソンテウ(乗り合いバス)に腰を下ろすと、私たちの間を生暖かい風がスルリと通り抜ける。これから何を食べようかと談笑していた、その時だった。急なカーブを曲がった瞬間、私の目に飛び込んできたのは、輝く夕日と色めくような潮の香り。今まで見てきた夕日とはまるで違う、オレンジサファイアのようなまばゆい輝きだった。

瞬く間に心を奪われてしまうとは、このことをいうのだろう。ハッとするような揺るぎないときめきを、私は一生忘れない。誰かではなく「タイ」に恋をした瞬間だった。先を急ぐソンテウに逆らうように、見るもの、聞くものがスローモーションのように流れ、ゆっくりと時間が過ぎていく。きっと「いつまでも眺めていたい」強い気持ちが、私をそうさせたのだろう。

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舌がしびれるような辛いタイ料理を食べ、カラダがごくごくと音を立てるようにビールを飲みながら、ふらりとあてもなくナイトマーケットを散策した。

当時は、インターネットや便利なSNSツールもあまりない時代。何も調べず、気の向くままに足を進めると、目に飛び込んでくるものすべてが、とても新鮮に思えた。プーケット・ファンタシーのゲームで童心にかえり、象のかわいさにきゅんきゅんする。夜中にプールで泳ぎ、昼は波の波長に合わせ海とともに気ままに過ごす。楽しみにしていたスパも、気持ちよさのあまり眠ってしまい、ほとんど記憶にない。

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特別な「何か」をしたわけではないのに、なぜこんなにもプーケットが心に刺さっているのだろう。時間の重さは変わらないのに、旅に出ると驚くほど時間が早く過ぎたり、逆にゆっくりとリラックスしながら一日を楽しめたりするから不思議だ。今過ごしている時間は、本当に世界にとって同じ重さなのだろうか。

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あれから15年、プーケットでタイにすっかり魅了された私は、日本でタイ料理やタイ語を勉強し、毎年と言っていいほど、タイへと足を運ぶようになった。人生にとって、タイはまさに「癒し」そのもの。忙しない毎日から自分を守る、唯一の方法なのかもしれない。あの経験がなければ、私は今頃どうなっていただろう。

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ただ一つ、心残りがある。なかなかタイミングが合わずに、プーケットはあの時以来訪れていない。私は、プーケットに心を置いてきてしまった。昨日のことのように思い出せるのに、あれから15年も時が淡々と経ってしまった事実。

今度、プーケットに行けるならば、美しい海に潜り、魚の群れとともにダイビングを楽しみ、シャロンベイラム醸造所 に立ち寄り、香り高いタイ産ラムを輝く太陽のもとで喉を鳴らしながら飲みたい。さらには、子供と一緒にプーケット・ファンタシーで遊んだり、象に一緒に乗りながら、タイの美しさを共有したい。プロムテープ岬で、最高の夕日を見ることもできるだろうか。

脳裏に焼き付いているあの時とは違う景色を家族と見ながら、心の時空を埋めるのだ。その日を夢見て、私はクロックヒン(タイ料理の際に使う石臼)を片手に、家でタイ料理を作り続けている。


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#私たちは旅をやめられない #TABIPPOコンテスト #癒しのタイランド #成田

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