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101 青天白日を行く

 なぜこうも動き出しが遅くなってしまうのかと、自分を省みることは少なくない。

 明日は13:00出勤の遅番。そして今日は平日休み。

 せっかく朝9時には起きられたのに、1時間もスマホをひたすらにながめていた。くだらない時間つぶしに思える、ショート動画をただひたすらに画面外へと送る作業が、なんともいえないストレス発散になったりもするのだが。

 (お、タイピングの速さがまたさらに向上しているか。)

 先週のGWから思っていた、髪を切りに行こうという用事でさえも、ようやく今日重い腰が動いた。開店の11時からたった9分しか過ぎていない時間に床屋へと着いた。

 すでに11時台は埋まっていて、12時から18時まではわりと枠が残っていたのだが、私は17時を選んだ。そんなにも時間を空けてしまうと、再度家から出ることを億劫に思うなんてことすら予想ができないのか。まったく。

 (てか、髪を切ったその日の入浴で、シャンプーの量間違えて、泡泡しちゃうよね。)

 この書き出しを打てるまでに、ゆうに1時間は考えていた。というか、考えざるを得なかった。というのも、ようやく耳から入ってくる音が止んだからだ。

 しっかりとはめた両耳のイヤホンからは何も聞こえてこない。寝息すらも、物音すらも。

 彼女が少なくともベッドへと向かえてからダウンしていることを願うばかり。先ほど、こころ当たりのない痣ができていたと言っていたが、間違いなく寝ている間にできたものだろう。

 そろそろ電話を切ってしまってよいだろうか。

 今、短針は12を横目で流しながらゆっくりと1へ近づいている。



M's hair

 中学二年生くらいからずっと同じ床屋へ通っている。美容院へ行ったことは、中学の友人の実家が経営しているところへただ1回だけ。

 父親がその床屋に通い詰めているから息子の私もー、なんて具合であったが、妙にそこの店主の話は落ち着くものだ。

 年齢も職業もまるで違う人たちが、髪を切りに行くという能動でありながら受動的な行いをしに集まり、店主と会話を繰り広げている。

 そりゃあ、思慮深くて、聡明な人柄にでも変わっていくだろう。

 その方はぱっと見40代くらいで、2人の子どもを育てている妻帯者。長男が今年で小学6年生とかいっていたかな。

 店主から教えてもらう世の常の話は、たいてい言い得て妙で、散髪を終えて店の自動ドアを潜り抜けた後、軽く,涼しくなった頭に当たる風と共に、心地よい満足感を感じさせてくれる。

・大学生までは、苦手な人は苦手だと、避けて生きて行けたかもしれないけど、社会人からはそうはいかない。自分の同僚や上司にあたる人が、自分の苦手な人(になる)かもしれない。嫌でも関りを持たざるを得なくなる時はいずれくるから、今(大学生)のうちに寛容な心や上手い付き合い方も身に着けておくと後で苦労しないよ。

・妻帯者なのに浮気をするだとか、ハニートラップに引っかかり会社の金を横領して問題になるだとかのニュースで、その加害者をよく知る人物たちがインタビューで、「あいつはそんなことをするような人ではなかったんですけどね」と答えることが多い。けど、それは当然。
遊べる時期に遊んでこなかった男があの手の罠に引っかかる。女性慣れしていないから、悪いのを見極める目が肥えていない。俺(店主)なんかは、10代のころに遊びすぎたから、今となっちゃ欲が湧いてこない。しかるべき時にある程度遊んでいなかったやつが若い女の子たちに言い寄られて失敗をする。だからこそ、若いうちに遊んでおけってのは、それからの大きな問題を防ぐ術になるから言えるんだよ。

 散々いろんな話を聞かせてもらったけど、パッと思い出せるのはこれらだけだったようだ。

 まあなんというか、2カ月に一回そこに行くことで、新たな刺激を受けられるのは間違いないのです。

 けれど、そんな店主が珍しく、自信を持ってこの若造にアドバイスをできかねていた話題が昨日登場したのだ。


変身物語

 一旦ところ変わって職場の話。

 私の勤め先に今年度配属された新入職員は、ただ2人。中途採用の方が2人。他校舎からの異動が2人。

 その誰もが私よりも年上。まあ、もちろん昨年度からいる皆さんも年上である。大学四年生時代に妄想していた、次の4月で最上級生から新入生へと、昇華しつつも転落していく感覚。まさにそれだ。

 私の職場を構成する年齢は、平均をとると20代後半から30代前半といったところだろう。まあ、一番顧客に近い場所であるから、若手がたんまりと配属されていて当然なのだろう。

 ベテランであろう方が今月14日付で、教育企画部というところへと異動となっている。そうなれるまでに10年くらいはかかるのかしら。


 仕事のこと以外でよく聞こえてくる雑談の一つは、「結婚」や「子ども」の話。

 来週自分が結婚式だとか、子どもが風邪を引いただとか、2歳と5歳の息子を育てているから午後休をいただいているだとか、子どもの病院はどうたらこうたらとか、、、

 はあ、同い年の友人同士でバカ言っている時間も恋しい。

 自分には程遠いようだけれども、考える必要はいずれでてくるそんな話。

 プライベートな会話だから、積極的に混ざりに行くことは避けているけれども、地獄耳をひそかに立てながらラジオ感覚でその電波を勝手に受信している。


伸びすぎた髪の毛は何箱へ

 自分もあと数年後にはあのラジオに参加しているのかもしれない。その時にはまた、リスナーとしての新入職員がいて、今付き合っている人との将来を少しばかりでも気にするきっかけになったりならなかったりだろうか。

 そんな職場での生活の中、仕事が休みの日に中学からの友人たちと少々話す機会が催された。

 トークテーマは相変わらず、恋愛と仕事、概して今後の人生についてが主であっただろう。

 その友人の友人の話。

 その彼女には6年もの間お付き合いをしている2歳年上の男性がいた。両者とも社会人生活は数年経験済みであり、同棲すらもしていたそうだ。

 彼女は私とも小中学校が同じ同級生で、度々その様子はSNSや友人伝いで見聞きしていたものだ。同い年なのに何年も同じ人と付き合えて、同棲までこなしながら社会人生活をそれなりに経験してきたなんて、まるで生きている環境が違うなと驚かされるばかりであった。

 しかし、そのカップルが(世間的には)唐突に別れることになったらしい。しかも、同棲していた家からも追い出されてしまったと。

 結論を先に言うほうが面接や報告の際には有効だとされているかもしれないが、今回ばかりは丁寧に過程から教えてほしいと懇願してしまった。

 まあ、この手の話は話し手によってだいぶ加工されてしまうのが世の常であるとは思うが、男の方から別れを切り出される数日前に、「結婚」についての対話が繰り広げられたらしい。

 男の方がその友人に結婚の意思,意識を問うて、その数日後に別れを切り出されたと。

 その問いに対しての返答を詳細までは語られなかったため、歴史書とはこのようにして出来上がっていくのかなと思いもしたが、おそらく、その返答を受けて男の方は別れを決断したのであろう。

 女たちは、男を責め立て、クズだのなんだの言い放題。

 誰の手によって歴史の改ざんが行われたかの興味はないが、結果として6年も共にした人と別れることになってしまったという事実だけはそこに残っている。

 職場で頻繁に聞こえていた華やかな話から一変、知人の話であるからより現実としてグッと迫ってくる感覚。



 ざっとこんなような物語を床屋の店主に話してみた。

 人生のライフステージが変わるタイミングというものはそう多くはない。だから考えすぎても、それはたいてい即時的な未来に直結しないかもしれない。

 けれど、それらを考えていなさすぎると手遅れなことになる。

 まだまだ社会人生活のひよっことして、環境に適応していくことを主に考える生活でも良いけれども、いずれくる大きな決断の際に、何の考えもないままの人でいてしまうと、大きなものを失うことになるかもしれない。

 考えなくても良いけど、考えていないと一瞬で時間は過ぎてしまって大きな後悔を伴うかもしれないから、これは難しいんだよね。

 などと、珍しく末尾を誤魔化す店主の姿が印象的であった。


 次に髪を切りに行く際は、一体どんな話ができる大人へと換わっていることだろう。


おしまい。結局完成までに1週間もかかってしまったよ。

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