夜と朝の狭間に

夜を失うことが怖かった。
15歳になった日、ボクは唐突に夜の大切さを知った。と、同時に。夜が過ぎ去ってしまうことに恐怖を覚えた。闇が訪れ、脳が普段見られない想像力に満ち溢れる。身体は歓び、無限に溢れ出るアドレナリンに突き動かされるままに、指先も唇も新しい言葉や歌を紡ぎ続ける。
しかしそのまま暴走したボクの身体は、力尽きる限界まで走り続け、やがて気を失うように眠りに捕われる。
で、目覚めれば、また朝だ。
朝は嫌いではないが、夜の快感には敵わない。闇の衣に守られて、ボクは朝には到底考えつかないような遊びを繰り返した。それは秘密の入り口を見つけて魅惑の迷宮を彷徨うかの如く、ボクの脳に甘い毒を次々に与えてくれた。
だから、朝が来るのが怖かった。夜の万能感は消え失せ、朝にはまた普通のボクが始まる。何の変化も無ければ、美しさも楽しさも、秘密めいた罪の甘美ささえ何処にも見当たらない。
そうだ、あの日も同じだった。いつものように呼んでもいないのに太陽が東の空を照らし始め、夜の闇を連れて月が西の空の果てに消え去っていく。
「ああ、朝が来る……」
ボクはまた窓の外を眺めながら、溜め息を吐いた。眩しく輝く朝陽が部屋の中を照らすと、ボクの心は逆に影が差して暗く閉ざされていった。
「また、いつもの場所に、くだらない日常に食べられる……」
声に出したかどうか、自分でもわからなかった。
ただ宵闇の宴が終わり、また朝の苦しみが繰り返されるのだなという自覚だけが残り、ボクはカーテンを閉めた。

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