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パトレイバー35周年 その2
さて、松井刑事と片岡刑事は帆場瑛一(犯人)が過去に住んだ住所録から彼の住まいを探して東京を彷徨く。何十回も引っ越しを繰り返しているらしい。
このシーンは黒澤明の「天国と地獄」に似ていると良く言われる。それは単純にビジュアルが似通っているからという理由だけではない。
黒澤明の天国と地獄も、敗戦国日本の中で、「ナショナルシューズ」という会社で靴作りの技術ひとつで次期社長までのし上がっていった権藤常務と、それと対比されるように、犯人の竹内の世界を「地獄」として描いている。
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竹内がうろついているのは、かつて米軍基地があり、米兵相手の娼婦がたむろした伊勢佐木町や、ヒロポン中毒者がゾンビのように大量に徘徊する黄金町である。
権藤常務という男は努力家でかつ野心家で、競争心の塊。犯人竹内はそんな権藤に社会格差的な恨みを抱いていた。努力したところで報われない人間の恨みを知れと内心思っていた。
ところが結局会社のポジションを失っても権藤は、また1から努力すればいいとせいせいしただけ、一方の竹内は金持ちを恨みながらも、結局自分が破壊できたのは同じく底辺にいた麻薬中毒者の共犯者の命だけで、底辺が底辺を殺したにすぎなかった。
こうした戦後復興の中でもGDP世界第二位の中心にいた成功者たちと、その陰で没落する人々というパトレイバーと近似のテーマを扱っている。
まあそんなことは懸命な読者なら知ってるかもしれないので、私見をもう一つ述べておく。
この松井刑事と片岡刑事の捜索シーンでは、結局犯人の物的証拠もなければ、関係する人物や証言など、何一つ有力な手がかりは出てこない。
ただ、犯人がかつてここから見ていたであろう東京の景色がえんえんと連なるだけなのだが、ベテラン刑事の松井は、それを見ていくだけで、「ああこいつが犯人なのは多分ほぼ間違いない」と内心確信する。
このモチーフは、おそらく足立正生監督が永山則夫の記録映画としてつくった「略称・連続射殺魔」がインスパイアされていると考えられる。
こちらの映画でも、犯人や関係者の証言や物証など何も出てこず、犯人が住み、見てきた景色だけを延々繋いだ実験映画で、犯人が見た風景だけを観客に追体験させるという内容になっている。
つづく
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