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BTSの「Spring day」を考える

最近、韓国ではソウル、プサン両市長選挙もあり、国内が騒がしくなっているようです。4/16も近いので、バンタンのメッセージのとおり、あの事故を忘れないためにも、「Spring day」にこめられたメッセージについてちょっと細かく考えてみたいと思います。この曲にはセウォール号事故への強い思いも込められているのでは、とも言われていますが、MVの中には、何かとの関連性が潜んでいたりとか、知らないと素通りしてしまうシーンもたくさんあって、なかなか手ごわい曲です。自分の頭の整理も含めてその込められたメッセージを読んでみようと思います。

2014年の4/16にこの事故は起こりました。修学旅行中の高校2年生約350人が犠牲になりました。(グクと同い年の子たちです。)当時はパク・クネ政権下でした。政府はこの事故(事件ですよね)について正しい情報を隠蔽しましたが、その後詳細が明らかにされます。船長はじめ船の乗組員は自分たちが助かるために、高校生たちには船内に留まるように指示し、多くの若い命が犠牲になりました。事故については、日本でもドキュメンタリーなどで取り上げられているので、詳しいことをお知りになりたい方はご覧になってみてください。

韓国は身分格差が大きく残っており、一般の国民や若者たちは理不尽な権力に抑圧されざるを得ない生活を送っている人も多いと聞きます。日本でベストセラーになる韓国の本も、その格差社会の中でどうやって生きていくか、自分自身をどのように大切にするか、というのがテーマになっているものが多いです。spring dayは、このような社会に対する強い思いと、悲惨な事故に対する哀悼の意がこめられている、と言われてはいますが、ただ、事務所から正式なコメントが出ているわけではないので、ここに書く内容はすべて私の推測です。(だと思います、という言葉はすべて入れることになってしまうので、この際省略しますが、そんな感じで読んで頂けると幸いです。)

7人は、事故に会い、生き残った学生で、友人を亡くした悲しさと、自分だけが生き残ってしまったという罪悪感を抱いて生きている、という設定で始まっていると思います。


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RMのいる車内にはスーツケースや洋服が残っていますが、修学旅行中である様子が読み取れます。

昨年アカデミー賞をとったパラサイトのポン・ジュノ監督の作品に「スノーピアサー」というSF映画があります。ソン・ガンホも出ています。設定がこの映画と似ている、という人もいます。「スノーピアサー」は氷河の列車が舞台になっていて、先頭車両に上流階級が乗り、後方車両の下層階級を支配していて、後方車両の一人の男性が不正に対抗するため立ち上がって前方の席に向かって歩いていって、戦う、というストーリーです。この映画については賛否両論あるようですが、RMが何か権力のようなものに立ち向かうため、列車の前方に向かっていく、というところは確かに似ています。

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列車のドアを開けたRMの先に現れるのが「Omelas」という建物です。

オメラスとは、アメリカの作家アーシュラ・K・ル=グウィン(この方、ジブリ「ゲド戦記」の原作者でもあるんです。)という人が書いた「オメラスから歩み去る人々」という小説にでてくるユートピアの名前です。以前私のnoteの記事でも少し触ったのですが、オメラスは一人の幽閉された子供の犠牲の上に成り立っている幸せの国です。(詳細は「バンタンの文学、物語の続きはどうなるのだろう」に書いていますのでよろしければご覧になってください。)多くの住民は、犠牲になっている子供の存在を見て見ぬふりをし、自らの幸せだけを大切にして生きているが、その中から、何かに向けて立ち去る者が存在する、「その行き先がどこかはわからない、しかし彼らは自らの行き先を心得ているらしいのだ。彼ら、オメラスから歩みさる人々は。」というところで話は終わります。まさにこのRMはオメラスから出て、立ち向かう若者ですよね。

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オメラスの前にホビとユンギが立っています。「NO VACANCY」というネオンが見えます。オメラスは満室なので、2人は中に入れないんでしょうか。ユートピアは人の苦しみを無視して自分だけ幸せになろうとする人で溢れている、という設定なのでしょう。バンタンのメンバーはオメラスの住民です。この時点では、まだRMと同じ気持ちになれる人がいないようです。

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RMにケーキを投げつけたり(ここぱっと見、楽しく遊んでる時の回想みたいに見えますが、このあとの場面でRMが悲しそうな顔をしていることから、これは楽しい場面ではない、という解釈が多いです。)グクは無機質な表情でただ窓の外を眺めているだけです。しっかし、なんて美しい横顔でしょう、、はあ~~


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ジンくん、彼は船内に残された学生なのでしょうか。回廊式の階段を駆け上がっていく人たちがいるのに彼だけが一番低いところに残されたままです。(なんか、ジンくんってこういう役ばっかり・・)

「この大空を舞う粉雪のよう舞えるなら君へ、すぐ辿りつけるはずなのに、雪の花びら舞い降り消えていった。会いたい」

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後に公開されたものを聞いたのですが、亡くなった学生の中にビデオでメッセージを残している子がいました。録音されたとぎれとぎれの言葉の中に、ご両親への悲しい思いや、「会いたい」、という言葉が残っていました。この時のジンくんのポーズはビデオを撮っているその子の様子をあらわしているのかもしれません。曲の中に何回も出てくる「会いたい」という歌詞も、生き残った子が言っているだけでなく、亡くなった彼らの言葉、という位置付けでもあるのかもしれません。


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その後、メンバーの日常が描かれますが、心から楽しめていない様子が読めます。友達を失った悲しさを忘れることができず、やはりそれは忘れてはいけないんだ、と思うようになっていく心の動きが見えてきます。


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コインランドリーのシーンは、まさに沈んでいく船室を表現していると思われます。丸い窓の中、クルクル回る若い子の洋服。窓には「Dont forget」(忘れないで)というステッカーが貼られています。ところどころにメッセージが隠れていて、なかなか手ごわいですよね。これarmyさんに教えてもらいました、さすが。そしてこのジンくん、ほんとに美しい。


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若者の洋服の山の中に埋もれるシュガがいます。ジミンは海で亡くなった友人のものと思われるスニーカーを見つけます。スニーカー、というのも若者を表現していますよね。メリーゴーラウンドの黄色いリボンは、セウォ―ル号の追悼キャンペーンを思い出させます。これらのシーンはまさにこの事件を表現していると言って間違いないのでは、と思わせます。


「積もる思いはまだこんなに残っているのに・・会いたい」

ここでグクが動きます。(かわいい)

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過ぎていく日常の中でも、彼らを忘れてはいけない、と気づいたグクが席を立って走りだします。オメラスのドアを開けて外に出た時、彼の周りには、みんながいます。一人じゃないよ、みんなで行こう、って感じでしょうか。グクがマッチを灯して、みんなの姿が現れ、

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服の山も綺麗な高い山になっている。雪の花びらが周りに散って、「冬が終わるよ」と歌う。グク一人ぼっちで乗っていたように見えた列車の中にはほかのメンバーもいます。この社内の様子は、バンタンの他の曲にも時々でてきますね。7人のつながりを表現する素敵なシーンで、私、大好きです。


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列車の外には洋服の山が見えます。悲しい出来事が起こってしまったことは現実で、過去は取り戻せないけれど、でも、僕たちが覚えている限り彼らの想い出は生き続けるんだ、というこの曲のテーマにつながります。

※服の山、についてですが、フランスのクリスチャン・ボルダンスキーというアーティストが2010年に山積みの服のインスタレーションを行ったとのこと。魂を高いところに連れていく、という意味らしいが、芸術のことはちょっとわからない・・ でもシュガのシーンにそっくりです。

↓ ご興味ありましたら、↓

http://www.shift.jp.org/ja/archives/2010/06/christian_boltanski_no_


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ジミンが列車の扉を開けて外に飛び出していき、みんなを誘います。こういうときはやっぱりジミンちゃんなんですよね。彼の持っている優しさがほんとに伝わってきて、ほんとすてき。(このジミンちゃん、ピンクの髪色がすごく似合ってて、すごくかわいい)

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7人は、広い世界のなか(どこで撮影したのか??、やたらと広い)、1本の木に向かって歩いていきます。韓国には、木に靴を結んで死者を追悼するという風習がある地域があるそうです。


「世の中の大人たちは過ぎたことは忘れなさい、というけれど、僕たちが覚えている限り彼らは僕たちの中でずっと生き続けるんだ。」

バンタンって、ほんとにいつも大きな世界に7人で立ち向かっていくんですね。ほんとにかっこいい。


当時のパク・クネ政権はかなり腐敗しており、この事故の対応に関しても多くの批判が集まったことは日本にいる私たちにも伝わってきました。バンタンの7人とかれらの事務所は、特に公にすることもなく、被害者家族に寄付を行ったり、このような曲で哀悼の意を表すととともに社会への批判も暗に行いました。パク・クネ政権がそののち倒れたのもバンタンの主張とそれを支えるarmyの力が大きく影響した、とも一説には言われています。

先日のソウルとプサンの市長選挙では、両市とも野党の候補者が圧勝しました。パク・クネ政権が倒れたあと多くの国民の期待を背負って誕生した現大統領のまたもやその腐敗ぶりにに韓国国民、特に多くの20代の若者たちが怒りを抱き、その意思が反映された選挙だと聞きました。(バンタンのメンバーも選挙行ってましたね。写真撮られてました。選挙に行くのにもかっこよかった)

日本政府のコロナ対策の後手後手感、贈賄やら不正選挙やら、上に立つ人たちの誠意や正義が正しい方向に向いていないのは、韓国だけではないと感じます。


グラミーの結果についても色々言われていますし、世の中、特に日本にいると彼らに対して否定的な人が思った以上に多いのには気がついてはいますが、先日のアジア人ヘイトに対するバンタンの声明にしても、少なくとも彼らの発することを私は指示したいと思っていますし、誇りにも思っています。


こんな時期なので、だいぶ前に出た曲ではありますが、改めてその意味を整理してみました。いろいろな資料を参考に自分なりに解読した内容です。間違った解釈もあろうかと思います。もしご指摘ございましたら、是非コメントください。また、お許しいただける範囲でしたら、どうぞお許しくださいませ。

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