読書録 2024年4月

安部公房『箱男』 

 全身を段ボール箱で覆い、路上生活を送る「箱男」の手記として描かれる小説。他者から見られることを嫌いながらも他者を覗きみたい者の象徴として「箱男」は存在している。覗き見ることの恍惚と眼差されることのいたたまれなさが身に迫ってくる本だった。

豊川斎赫編『丹下健三都市論集』

 先月読んだ『建築論集』の姉妹本。丹下の建築に関わる思想が表現されていた前作とは対照的に、丹下の実務家としての仕事といえる。
 『都市論集』と銘打っているだけあって、丹下が都市をどのように改築していくべきかを論じた文章が多い。丹下は都市を集団生活のために組織化されたものとして構築することを目指していると理解した。『建築論集』で民衆の意図を汲み取ることの要について言及していた丹下だけれど、彼は民衆をある程度統制すべきと考えていたのだと感じた。

寺山修司『ぼくが狼だった頃 さかさま童話史』

 寺山修司が様々な童話の批評やパロディをする作品集。もっとも、真面目に批評を加えるのではなく、面白おかしく童話で遊んでいるような印象。
 序盤の「はだかの王様」「狼と七匹の子山羊」「ブレーメンの音楽隊」あたりは特にウィットに富んでいて面白かった。「ウィリアム・テル」の逸話については、寺山も意外と真面目なところがあるんだなあと思った。

ヘッセ『春の嵐』(高橋健二訳)

 音楽家の青年時代を描く小説。青年の挫折と恋、失恋と友人の自死等が描かれている。嵐のように過ぎ去る青春を回顧しながら、青春を、過ぎ去った後に振り返ることができる貴重なものだと作中では説かれる。それにしては、あまりに苦しい春だけれど。

筒井康隆『傾いた世界 自選ドタバタ傑作集2』

 筒井康隆の短編集。フェミニズムの街を揶揄しながら描く表題作をはじめ、皮肉の効いた短編の数々が収められている。
 ヘラヘラ笑いながら読んでいたら、急に「毟りあい」がめちゃくちゃ怖くてびっくりした。

米澤穂信『冬期限定ボンボンショコラ事件』

 〈小市民〉シリーズ最新作。交通事故に遭った小鳩は病床で考える。3年前の過ち、そして現在の自分の身に起きたことについて。
 このシリーズは中学時代の小鳩や小佐内のエピソードを語ることはないと思っていたので、意外な設定だった。小鳩が狼だった頃の失敗を、自省を込めて思い出していて、シリーズの総決算という印象。米澤穂信にとって青春はもはや当事者として描く対象ではないんだろうなという思いが強まった。
 物語のオチについては全く想像が及ばず、一本取られた。ミステリとして楽しく読んだ。

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