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シネコン時代前夜

私が生まれたのはバブル真っ只中と思われる1987年。
生まれて初めてみた映画はジャン・ジャック・アノー監督の子熊物語だそうだが全く覚えていない。
そもそも2歳の子供を映画館に連れて行くなんてきわめて非常識な親だと思うが、幸いぐずることなく1本鑑賞できたらしい。
もしかしたら寝てたのかもしれないがどちらにせよ覚えてない。

私の両親は晩婚で、父は特に子供に合わせた生活なんてものが一切できない人間だった。
ファミレスは好きなメニューもないしファミリー客がうるさいから嫌だとかなんとか言って自分は子連れで好きな店に通う自己中の極みのような人だ。

父が働き母が専業主婦の当時の標準的な家庭で父は家事が一切できない。
基本的には休日になると家族で出掛けていたが、大掃除など本腰を入れて家事をしたい場合父と私は邪魔になるので2人で出掛けさせられていた。
行く場所はその時々によって違うが、公営の動物園や科学館、何かのイベントのようなものが多かった。
ちなみに公園は一切いかない。父親が楽しくないからだ。

そして、回数は多くないがたまに行っていたのは映画館だった。

1990年代前半は郊外にシネコンができ始めた頃だがまだまだ街の映画館が多かったようだ。
特に私の実家がある街は映画館が多い街として当時は有名だった。
午前中に家を出て、お昼ご飯はお決まりの蕎麦屋(大正時代から100年以上続いていたが2022年に閉店したらしい) 。
繁華街なのでファストフード店もファミレスも色々あるのに何故か蕎麦屋。
幼稚園児〜小学校低学年の子供とのお出かけで蕎麦屋をチョイスするあたり自分の趣味しか考えていないわけだが私は文句も言わずに蕎麦を啜る。

そして午後一番のタイムテーブルで映画をみるのだが、この映画館がまた古めかしく座席の前方〜後方の傾斜があまりないため、座高が低い子供は前がよく見えないという作り。
そして昔の名残なのかタバコのようなやや埃っぽい匂いがする館内。

特に覚えているのは92年のディズニー映画「美女と野獣」
確かこの時は午後から母が合流して3人で見たのだが私は純粋に楽しんだものの、両親は展開が気に食わないようであれやこれや文句をつけていた。
当時はなんのことか分からなかったが、あとから聞いたことには
見た目に惑わされてはいけません、という名目でわがまま王子が野獣の姿に変えられたのにも関わらず、見た目に惑わされずに野獣を愛するグッドルッキングなプリンセスに見そめられたからと言って野獣の魔法が解けるのは問題のすり替えではないか
と話していたらしい。確かに。
ちなみにアルマゲドンを見た時は「アメリカがヒーローってストーリーがアメリカ人の厚かましさを表してる」とか言って私の感動に水を差してくれた。

私が高校か大学生になってから久しぶりに両親と3人で映画を見に行ったことがある。
その時はすでに街の映画館は姿を消していてロードサイドのシネコンに足を運んだが、私の中でシネコンは友達と映画を見るところなのである。
親子でいく映画館は小さい頃に連れて行ってもらった街の映画館で、甘辛いかえしの蕎麦もセットでなければいけない。
今やどちらも無くなってしまった。
両親も歳をとって映画を見た後に毒吐くこともなくなったしこの人たちもあと10年か20年したらいなくなってしまうんだなぁ、と考えると寂しくも愛おしい思い出である。

#映画にまつわる思い出

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