『空の鳥、野の花のように 神の恵みに生かされて』 (著=田戸サヨ子)

A5判・並製・236頁/私家版 (2020.10.23)               装画=田原尚子/装丁・組版=designPOOL

 4〜5年ほど前だったか、友人から「最近お母さんが子供の頃の思い出とかエッセイを書いているので、いつかそれを本にできないだろうか」との相談があった。彼女のお母さんは何度かお会いした事があった。いつもニコニコと笑顔が可愛いくて明るい方という印象がある。人のお世話をするのが大好きで、私も手作りのエプロンをもらったり、お母さん特製のおはぎをご馳走になったりしたものだった。私に出来る事があれば是非お手伝いしたいので「一度原稿を読ませて欲しい」というと、原稿用紙に書いた原稿を手入力してデータ化する必要があるので、まだ時間がかかりそうだという事だった。
 その計画がようやく進行し始めたのが今年の春。10月にお母さんが卒寿(90歳)をお迎えになるということで、そのお祝いにしようという事になったそうだ。私がブックデザインの仕事をしている関係上、何社かの版元さんとのお付き合いがあるので「紹介しようか」と友人に言うと「近しい親族だけに配るもので20〜30冊あれば十分だから、自分たちで簡単な冊子を作ろうと思う」との返事だった。タイプした原稿が一部出来ているというので、とりあえず送ってもらい読んでみた。

 お母さんの名前は田戸サヨ子さん。昭和5年に広島で生まれ育ち、原爆も体験されている。幼少期から現在までの思い出を綴った文章は、サヨ子さんのお人柄のように優しく気取りがなく、とても面白いものだった。当然ながら原爆のことも書かれている。被爆者の証言としても貴重な資料になると思う。サヨ子さんの被爆体験は、NHKの「戦争証言アーカイブス」では、サヨ子さんの証言の動画が見ることができる。https://www2.nhk.or.jp/archives/shogenarchives/shogen/movie.cgi?das_id=D0001130267_00000

 これは簡単な冊子にするのは勿体ない。是非、私たち(designPOOL)で全部作らせてほしいとお願いして、装丁・組版から全てお任せいただいて仕上がったのが、この『空の鳥、野の花のように 神の恵みに生かされて』だ。
編集者が入っていない状態でこのボリュームの本を制作するのは経験がなく不安な部分もあったが、仕事仲間の編集者さんに原稿の一部を見てもらい、注意する点等のアドバイスを頂いて作業に入った。編集担当者はサヨ子さんの次男の田戸義彦さんと、私の友人である次女の田原尚子さん。お二人と校正のやりとりを何度も重ね、サヨ子さんのお誕生日(10月23日)の3日前に無事お届けすることができた。装画は鉛筆画家でもある尚子さんが描いてくれた。田戸家の家族みんなの愛が詰まった、素敵な本になったと思う。そういう本作りに参加させてもらったことを、とても嬉しく有難く思う。

 この本の刷り部数は100部。ほとんどが田戸家の親族や親しい方々に配られることになる。サヨ子さんは出来上がった本を読みながら「あれを書いておけばよかった、これも書きたかった…」と、今になって思うことがあるらしい。私は「どうぞ思いつくまま書き続けてくださいね。いつかそれを加えて再編集して出版しましよう」とお答えした。遠くない将来、それが実現するのを期待している。 2020.10.26