見出し画像

愿以山河聘7(作者:浮白曲)の有志翻訳【中華BL】



本家リンク

愿以山河聘リンク
https://www.jjwxc.net/onebook.php?novelid=4439761

第七章リンク
https://www.jjwxc.net/onebook.php?novelid=4439761&chapterid=7


翻訳

殺意

姫越じーゆえは大人しく従順に見える青年を見下ろした。彼は衛斂うぇいれんのことを調査済みで、当然衛斂うぇいれんが楚王宮で幼い頃どのような日々を過ごしてきたか知っていた。
だが彼はそんなお笑い種を信じなかった。
同じく王室の抗争を生き延びた者として、姫越じーゆえの思いは計り知れない。
誰もが自分を守る方法を持っている。ある者は暴虐を行い畏怖の対象となり、ある者は穏やかな仮面を被って偽装する。
その実、皮の下は何の違いもない。
みな一様に聡明で、一様に残酷だ。

「楚国は何故お前をそのように扱ったのだ。」
姫越じーゆえは労わるように彼の顔を撫で、輪郭に沿ってゆっくりと手を下ろした。
「お前のような美人は誰かの手の内にあるべきだろう。」
姫越じーゆえの手はものを書いている文士の手と変わらないほど細くて美しい。ただ彼に撫でられた衛斂うぇいれんは指の腹がわずかに荒れているのを感じた。
それは弓を弾き、剣を取り、人を殺したことのある手だ。
衛斂うぇいれんは息を飲む。体が本能的に警戒した。
その手はまるで恋人の愛撫のように彼を柔らかく撫でた。そして衛斂うぇいれんの細い喉に触れると、五指を合わせ、激しく喉を締めあげた!
……いわゆる手の平で優しく掬い持つ、元々はこのような持ち方だ。
普通ならとても耐えられない。
「うう!」衛斂うぇいれんが短く呻くことしか出来ず、姫越じーゆえに喉を締められ、五指は突然引き締められた。
──その一瞬、衛斂うぇいれんは少なくとも三種類の反撃方法を考えた。
しかしそれらは全て用なしだ。反応したくなる本能を抑え込み、無反応でいた。
秦王は好きなだけ試せばいい。
彼は鶏を縛る力もない公子れんだ。
武功に優れた衛斂うぇいれんではない。
衛斂うぇいれんは常にこの一点を頭に刻み込んでいた。
秦王は疑い深く、言葉だけでは彼の言う事を信じようとしない。このようなやり方で秦王の疑惑を軽減する必要があった。
衛斂うぇいれんはまだごく冷静に状況を分析していたが、顔色はどんどん蒼白になっていった。
彼は姫越じーゆえの腕を掴もうと藻掻き、訳が分からないといった目で、何とか尋ねた:「臣は……何が悪かったのでしょう?」
姫越じーゆえは微笑んだ:「私がお前を殺したいと思ったら殺すのだ。理由が必要か?」
暴君が人を殺すのに、理由が必要か?
必要ない。
昨夜は暖かく愛情深かったのに、今朝はがらりと表情を変えて無情になる。
……彼は急に変わったわけではない。笑いながら優しく接し、笑いながら殺す。
これがつまり秦王姫越じーゆえだ。

砂時計の砂が落ちるように時間が刻々と過ぎたが、姫越じーゆえの手は終始緩むことなく、衛斂うぇいれんを本当に殺したいかのようだった。
衛斂うぇいれんは何度も姫越じーゆえの腕を振り解こうとしたが、全て失敗し、ただ眼の光に悲痛と絶望が浮かんだ。
無音の勝負。
衛斂うぇいれんが自分は本当に姫越じーゆえの手で殺されるのではないかと思った時、一人の宮人が突然入って来た:「陛下、朝議へお越しください……あ!」その宮人は目の前の光景を見て思わず声をあげ、ただ恐れ慄いて頭を下げた。
姫越じーゆえは宮人を一瞥すると、突然手を緩め、衛斂うぇいれんは地面に投げ出された。
衛斂うぇいれんはすぐに地面に倒れ込むと、激しく咳き込み大きく口を開けて息を吸った。首についた跡はとても深かった。
「ごほごほっ……」白い衣の青年が床に転がり、激しく打つ胸を押さえ、黒髪を振り乱している。非常に楚々としてか弱い様子が人の心を揺さぶる。宮人もこれを聞いて、堪えられないような思いがした。
「お前のような美人は多くない、殺すには忍びない。」姫越じーゆえは彼の前に半分屈み込み、小さくため息をついた。「私は身の回りに危険なものを置いておかない。」
衛斂うぇいれんは低く喘ぎ、かすかに息をついた:「ではどうすれば陛下に臣を信じていただけますか?」
姫越じーゆえは玉の小瓶をから一粒の丸薬を取り出した:「お前がこれを飲めば信じる。」
衛斂うぇいれんはその小さな丸薬を見つめると、唇をわずかに引き結んだ。
「心配するな、この毒を飲んでもすぐには死なない。」姫越じーゆえはゆっくりと言った。「これは王室が密偵を統制する為に使う薬だ。定期的に解毒薬を服用すれば無事でいられる。しかしこの解毒薬は私だけが持っている。もし私が死ねば、お前には私よりも更に苦しい死が待っている。」
「世界中で私の命を狙うものは数知れないということを知っておくべきだ。人を傍に置くためには、保険を掛けておかねばならない。」姫越じーゆえは目を上げて、不意に冷酷さを少し露わにした。「私は人の命だけを信じる。人の心は信じない。」
衛斂うぇいれんは目を伏せ、何の躊躇いもなく丸薬を飲み込んだ。
姫越じーゆえは彼が薬を飲むのを見て、とうとう満足したように見えた。
「いいだろう。」姫越じーゆえは立ち上がり、高みから見下ろすように彼を見た。「お前は昨夜病が重かったので、実はお前に触れていない。玉容膏がまだ寝台にある。すぐに首に塗るといい。朝議から戻った後はもうこの跡を見たくない。」
話し終わると背を向けて立ち去った。宮人は慌てて後を追い、去り際に衛斂うぇいれんの方をちらっと見やると非常に不思議に思った。
陛下のお傍に仕える李公公りーごんごん李福全りーふーちぇんのこと。公公ごんごんは宦官へつける敬称)は昨日三十回の鞭打ちを喰らった。なので寝台の上に居り、来ることが出来ない。今日は彼の代わりに勤めに来た。やって来た途端に陛下がまさに昨日寝殿に抱いて戻ったうぇい侍君が絞殺されようとしているなんて、思いもしなかった……
天子がひとたび怒れば、百万の死体が倒れ伏す。宮人はただ自分の頭まで切り落とされないかと恐れたが、うぇい侍君があっという間に陛下の機嫌を取り戻した。そのやり方は尋常ではなく素晴らしい。
当然、宮人は離れていたのでどういう状況が起きていたのかをはっきりと分かっていなかった。もし衛斂うぇいれんが目の前の安全と引き換えに長期的に行動を制限されていると知ったら、彼の事をそれほど幸運だとは思わないだろう。

秦王と宮人が去った後も、衛斂うぇいれんはしばらく地面に座り込んでいた。暗い片隅に密偵がいることもなく、寝殿には誰もいないことを確認してから、無表情に立ち上がった。
彼は寝台の上に座り、首にある赤い跡に膏薬を塗った。その目は冷め切っていた。
秦王は本当に疑い深かった。衛斂うぇいれんは人にコントロールされることを最も嫌っているが、いまや今後の自由は全て断たれた。慌てふためいても当然のところだ。
玉容膏は非常によく効き、衛斂うぇいれんの首の跡は少しずつ薄れていったが、心の中の殺意は少しずつ強まっていった。
彼はもともと秦王を暗殺するつもりはなかった。
実は、秦国へ出発する前、楚王が彼を引見した際にそのように要求されてはいた。

衛斂うぇいれんが楚王に会ったのはそれが最後であり、記憶にある限り父親に会ったのもそれが初めてだった。
過去については、実際には覚えていなかった。
それほど重要な人でもなかった。
楚王は明らかにこの第七子に無関心だったが衛斂うぇいれんを見て仰天した。王室の公子たちは皆非凡な容貌をしているが、衛斂うぇいれんは突出していた。彼は容姿が優れているだけでなく、その玉のような風格だけでも都中を打ち負かすほどだった。
後悔しても遅く、公子れんは秦国に贈る必要があった。楚王は悔しく思う余り、衛斂うぇいれんから最後の一滴まで価値を搾り取りたいと思った。
「お前の力が必要だ。秦王を暗殺して来るのだ。」楚王は命じた。
衛斂うぇいれんはただこう言った:「私は武術の心得はありません、どうやって暗殺するのでしょうか?」
実際はやろうと思えば出来たし、彼の武功は弱くはなかったが、楚王はそれを知らなった。
「我が息子はこのような容姿に生まれついたのだから、秦王を寝台で誘惑すれば手を下す機会がないなどという心配はないだろう?」楚王は当然のように言った。「英雄は美人に弱い。昔からそういうものだ。」
衛斂うぇいれんは静かに言った:「でも父上、息子の私は死ぬでしょう。」
殺せるかどうかは分からない。やってみて成功したとしても、秦軍の包囲から逃れることまでは出来ない。失敗すれば、秦王がどんな酷刑を科すことか。
楚王は彼の生死について全く気にしていない。
楚王は悲しそうに彼を見つめた:「れんよ、国の為に犠牲になってくれ。この大楚はお前を忘れることはない。」
衛斂うぇいれんはしばらくじっと彼をみつめ、皮肉な笑いを浮かべた:「父上の計略は結構ですが、残念ながら秦王はあなたとは違い、男性や女性の上で腹上死することはないでしょう。」
楚王は驚き、俄に激怒した:「無礼者!」
衛斂うぇいれんは更にあてこすった:「祖先が何代にも渡り、国を治めることに精励した為、楚は現在のように強国となりました。しかしあなたは凡庸で好色、佞臣を近づけ賢人を遠ざける。国を守った将軍の功績を恐れて忠実な家臣を一族皆殺しにした。両国の交戦で楚国には人が居なくなったというのに、事態が差し迫ってもあなたはただ息子を寝床に送り込んで色仕掛けをすることしか考えられない。衛邦うぇいばん、あなたは国家においても家庭においても一切の功績を残していない。これが一国を担う主なのか?」
楚王は怒りで体を震わせた:「親不孝者め!親を名前で呼び捨てるとは!誰か、この畜生を引きずり出して──」
「首を刎ねますか?凌遅刑ですか?」衛斂うぇいれんは恐れるどころか笑って見せた。「父上、よく考えてください。私が死んだら貴方はどの息子を秦王の寝床へ送るおつもりですか?」
楚王:「……」
その後、衛斂うぇいれんは秦国に人質として送られた。彼は国の為に殉ずる覚悟は出来ていたが、腐りきった王室の為ではなく、天下の一時の平和の為に死にたかった。
彼はまた、秦王を殺したいとも考えていなかった。
秦王は残虐だ、だがそれが彼に何の関係がある?少なくとも秦王は政治においてはいつも国の為民の為となる施策を打っていた。衛斂うぇいれんが秦国へ来る途中に見た所では、国の隅々まで豊かに繁栄し、民衆はみな満足に暮らし、秦王を名君だと褒め称えていた。
彼は六国の間では閻魔だが、秦国では神だ。
天下の大勢は離れてはまた集まる。秦王ただ一人が天下を担うとしても何が悪いだろう。
衛斂うぇいれんはどこまでも合理的だった。
……しかし、秦王と知り合って十二時間も経たないうちに、罰として跪かされ、首を絞められ、毒薬を飲まされた。
前言撤回申し訳ない。
この狗皇帝を殺してやりたい。


この辺の姫越は異常行動が続きますね
この後も衛斂は心の中でよく「狗皇帝」と言ってぷんぷん怒っています

分からなかった所

捧在手心:「掌で優しく掬い持つ」上手く言えませんが、掌を上にして、こうだと思う




#愿以山河聘 #願以山河聘 #中華BL #BL


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?