2018 東京学芸大学 E類教育支援専攻 ソーシャルワークコース 小論文 模範解答

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課題文では、ひきこもりの長期化、高齢化が指摘されている。さらに、就職氷河期もあいまって社会参画が思うようにできなかったことを、自己の責任に帰せられた結果、生きる価値を見失い、ひきこもりとなる人が多いとされる。

自己責任論とは、自分の行動の結果として危機や困難に陥ったのならば、その結果に対しては自分で責任を負うべきであり、他人に助けを求めるべきではないという論理を基調とする考え方だ。社会がこうした考え方に依拠して、社会から孤立する人々を等閑に付した結果、ひきこもりとなる人が多数いるという筆者の考え方に対して同意する。なぜなら、自己責任論の論理によって、社会からの人々の分断化・孤立化が容認されてきたからだ。

それでは、ひきこもりに対して、社会は今後どうあるべきだろうか。日本の社会福祉政策は、個人の抱える問題の原因や責任を問わない。たとえば、国民皆保険制度や高額医療費制度など、日本の医療制度の基本は、「原因や責任を問わず、困窮者を救済する」という「社会的寛容」の精神から出発している。これに対し、ひきこもりに対する自己責任論は、日本の社会福祉政策にある社会的寛容の精神とは反対にある概念だと考える。なぜなら、「ひきこもりになったのはあなたの責任だから、自分でなんとかするべきである。」という考え方が、「原因や責任を問わず救済する」という考え方と正反対に位置するものであるからだ。

ひきこもりの人数を増長させてきた自己責任論の基礎にあるのは、「自分たちは困窮者とは別枠の安全圏にいる」という意識や、「当事者意識の欠如」であると考える。したがって、社会福祉制度を拡充するのみならず、政策の前提として、社会が今一度、他者に対する「寛容の精神」を滋養する必要があると考える。そのためには、人々が他者に対する想像力を持つことが重要だ。なぜなら、他人のあり方を許し、認めるためには他者のあり方を想像し、思いやらねばならないからだ。さらに、想像力を発揮するには、他者への「応答可能性」を認める必要がある。たとえ相手のあり方や考え方を理解せずとも、相手の存在を受け入れ、私が相手とともにいて、相手に応答できるという「応答可能性」は否定できない。したがって、この応答可能性にこそ多様な他者を受け入れ、他者への想像を促す「寛容の精神」の根幹があると考える。(969字)

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