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【第7回ポリガレ『飛ぶ教室』】その課題におけるポジティブな逸脱者を探せ!

皆さん、こんにちは!PolicyGarageで学ばせてもらっている岡田です。

突然ですが、「ネガティビティバイアス」という言葉をご存知ですか?簡単に言うと「脳がネガティブな情報を敏感に察知し、記憶に長く残す働き」のことを指します。例を挙げると

・SNSで100いいね!が付いたけど、たった1つの厳しい指摘が気になる…。
・「手術成功率70%」と聞くと好意的だけど、「手術失敗率30%」と聞くと不安…

う〜ん、確かに…と思うものあったのではないかと思います。さらに問題なのが、ネガティブなデータ、メディア、そして現実を目の当たりにし、「どうせ解決できない」という諦めが社会に蔓延している傾向にあることです。例えば、行動変容は健康教育の最重要課題の一つとなっています。喫煙、過量の飲酒、塩分のとりすぎ、運動不足などが問題行動であることは多くの人が認識しています。もちろん、ヘルスプロモーションとして様々な取り組みを自治体、国が実施してきました。しかし、どの戦略も充分な行動変容には至りませんでした。過去の行動変容の失敗が「次もどうせ無理かもな…」と人を諦めさせることも少なくありません。

しかし一方で、実は同じ課題に頭を悩ませながらもすでに課題解決を果たした成功者が少数いるケースがあるのです。このような成功者の行為を「POSITIVE DEVIANCE(ポジティブ・デビアンス)」(以下、PD)といいます。今回の飛ぶ教室では、このPDを紹介したいと思います。

2008年12月14日、ニューヨーク・タイムズ誌は「イヤーズ・イン・アイデア」にこのPDを選出しました。現在ではこのPDによるアプローチ、つまりPDから得られたヒントの活用、が地球上の何百万人もの人々の生活を変えているのです。適用事例は以下の通り。

・ニューサウスウェールズ州の刑務所でニコチン中毒受刑者のうち、70%の禁煙成功
・カリフォルニアの学校でのマイノリティの高い中退率の削減
・インドネシアでの少女の性的人身売買の削減
・南アフリカでの黒人起業家の成功率の向上
(事例について詳細に知りたい方はPDI(Positive Deviance Initiative)のWebサイト(https://positivedeviance.org/)をご覧ください。)

そもそもこのPDアプローチ、最初のモデルとなったのは国際NGO「Save the children」によるベトナムでの栄養改善対策でした。1990年、ベトナムの5歳児未満の約65%が栄養不良でした。そこで当時「Save the children」のフィリピン事務所長だったJerry Sterninとその家族がこの栄養改善対策を引き受けたのがPDアプローチモデルの始まりでした。

Jerry SterninがPDアプローチを実行するにあたり、キーセンテンスがありました。それは「約65%が栄養不良」です。これはつまり、言い換えると「約35%が栄養不良ではない」ということです。そこにハッと気づいたJerry Sterninは、4つの村の全ての子供の体重を測定。たどり着いたのは「貧しい家庭にも栄養状態の良い子供はいた」という驚きの真実でした。

そこからは「POSITIVE DEVIANT(ポジティブ・デビアント)=成功した逸脱者」を調査。調査結果で判明したことは成功した逸脱者の親の特徴(子供に提供する食事の種類、手洗い促進など)でした。このように成功した逸脱者から得たヒント、事例を普及。結果的にベトナムの栄養失調の子どもたちの状態は以下のグラフのようになりました。

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(『POSITIVE DEVIANCE COLLABORATIVE HP』https://positivedeviance.org/efficiencyより抜粋)
(※縦軸は栄養失調率を表す。Normalは介入なし、1stは介入一年目などを表す。)

この最初のモデルは、PDアプローチは行動変容が困難な健康課題を克服するための手段として有効に使えることを証明しました。もちろん、PDアプローチの観点における大前提として、まず該当するコミュニティは課題を課題として認識しなければなりません。当然、PDを発見する作業、時間、そしてメンバーも必要です。リーダーの存在も不可欠と言えるでしょう。しかし、上述した通りPDアプローチの始まりは「考えの転換」にあります。これなら明日からでも各現場で実践することができるのではないでしょうか。

最後に、PDアプローチの指針となる原則をいくつか紹介します。
・コミュニティはプロセス全体を自分のものとすること
・コミュニティは既存の一般的ではない成功した行動や戦略を発見すること
・コミュニティは成功した行動や戦略を実践し、拡張する方法をデザインし、イノベーションを普及すること
・PDは知識よりも実践、WhatやWhyよりもHowを重視すること

ネガティビティバイアスは生きる上で必要です。ただ、それによって課題のマイナス面ばかり着目し、解決を諦めるのはとても勿体ない。PDアプローチによって、ちょっと見方を変えるだけ。それだけで課題解決の糸口が見つけられるかもしれません。日本でも今後PDアプローチが広がることを期待したいと思います。

【参考資料】
・『POSITIVE DEVIANCE』(2021年 東洋経済 リチャード・パスカル他)
・『行動変容のためのポジティブ・デビエンス・アプローチ』(2013年 東京大学大学院医学系研究科・神馬征峰)
・『POSITIVE DEVIANCE COLLABORATIVE』(https://positivedeviance.org/efficiency)
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『飛ぶ教室』は、ドイツの作家エーリッヒ・ケストナーの、知恵と勇気を題材にした児童文学小説です。
タイトルの『飛ぶ教室』は、小説内の戯曲の題名で、世界中を飛び回って現場から学ぶ、未来の理想の学校を描いています。
知恵と勇気を持って社会を変えようとする方のために、最先端で現場主義の学びの場を提供したいという想いを込めて、ポリガレの『飛ぶ教室』を開講します。
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