新時代の扉 主に演出についてのネタバレ感想漫談

扉、開いてきました。

あまりにも感想を言い合いたいものの、浴びた熱を返す場所がなかったためここに書きとどめておきます。(個人的に作品は演出やシナリオを重視しているので、その点ご留意ください。)

見終えた所感は、”表現が洗練されている”ことだ。
アニメーションの面白さ。余すことなく詰め込まれた心理描写。レースやキャラクターのイメージに説得力を持たせる音響。ひとつひとつがとにかく珠玉の出来栄えだった。

各要素ごとに感想を書いていく。

・シナリオ


テーマは『憧憬』であると感じた。
ダービーの夢。最強。本能(ウマソウル)の証明と葛藤。
各々の胸の内にある憧憬の満ち欠け。それを巡り夢の襷を繋いでいくお話。

それらを軸にしたキャラの関係性の結びつきやドラマが素晴らしく、滅茶苦茶に熱い。見終えたときは私も感化され、誰よりも早く劇場を後にした。


この物語はフジキセキ、ジャングルポケット、アグネスタキオンの三人が軸に構成されている。


・フジキセキ


トレーナーのダービーの夢を背負い走る。
他人の願いのために走る。
夢破れた先輩で傷に寄り添える。再起を考えつつ自身のピークが過ぎていることを理由に諦めている。

・ジャングルポケット


フジキセキに憧れ走り始める。その後アグネスタキオンをライバル視。
最強を目指すため走る。しかし、最強になることは、個人的な欲求で完結せず、他人という存在が前提の夢で、脆い。
タキオンが居なくなり、トレーナーから与えられたダービーの夢を叶え
夏合宿頃に燃え尽きてしまった。

・アグネスタキオン


自身とウマ娘の可能性を追求するため走る。周囲のことは歯牙にもかけていない。
自分の欲求のために走る。ウマソウルに駆られて走っていたのに、ウマソウルに決められた運命によって走れなくなった。抗うすべを独りの世界に籠ってしまい、所在なくなっている。


この三人を軸に、キセキがポケットに夢を与え、ポケットの走りが夢半ばで諦めたキセキを再起させ、そのキセキが燃え尽きていたポケットを再起させる。

ポケットが最後に自身のために、最強であるために走ったからこそ、燻っていたタキオンの自分の欲求のために走ることと重なり、彼女を再起させるに至る。

ポケットは、最強という他人の存在を必要とする夢を持つため、
外(他人)から内(自分)の夢を持つフジキセキも
内(自分)から外(他人)の夢を持つタキオンも救うことが出来た。

という感じにシナリオを解釈した。
構成がとにかくハマっていたと感じる。美味。


・アニメーションと音響


本作はとてつもないクオリティで制作されている。
レース中の迫力はRTTTをよりパワーアップさせたような力強さであった。

特に良かったのはカメラワークだろうか。ゴール付近の誰も前を見ていない中自分の腕だけ見える主観視点のカットが、今まで以上に臨場感を持たせることに成功している。

また、音響もかなりこだわっている。
レース中は、オペラオーの装飾が鳴ったり、風を切る音まで入っている。
歓声や足音を含めウマ娘達(ジョッキー)と同じ目線に立ってレースに参加しているほどのリアリティが生まれているのがとてもよかった。

加えて、スパートをかけるとき、乗り物のエンジン音が入っていたのも最高にイカす。
タキオンは飛行機のエンジン。ポケットは車かバイクのエンジン音が入っている。キャラクター性のディティールをこんな所まで余さず使えるんだという映像作品ならではの表現で非常に面白い。

4DX、そもそも音の圧でとんでもない臨場感を味わっているので、これ以上何をするつもりなんだろうと思ってしまう。


・ファンサ

この三人が主軸ではあるが、その周辺人物や、さらっと登場するネームドのウマ娘がこの世界に根差して生きている感じがとてもよかった。

各々いっぱいの気持ちがあるであろうが、私はスイープトウショウのシナリオタク故に、”グランマとスイープが一緒に電車、電車に乗っていた”。これだけで嬉しすぎた。ありがとうサイゲームズピクチャー。映画始まるときのやつで初めて社名ロゴのバハムートがチェスの駒だったことを知ったよ。


・演出

やばすぎ。最高に気持ちよかった。
ここが一番長く書こうと思う。ご容赦を。


ポケットのペンダント。それを預かったフジキセキ。タキオンの目。
一着争いの時のエフェクト。窓に下げられたプリズム(ミラーボール?)

各々の夢や憧憬の隠喩で用いられている。主軸のテーマを伝えやすくする良い演出だった。


タキオンの部屋と心の推移

これ最高。

最初は映写機以外は机周りに物がなかったのが、故障の後どんどん部屋がゴミで溢れ、実験室に引きこもるのがタキオンの葛藤をうまく表している。
そのうえでカフェを分析する所、足をパタつかせたり、カフェがいないのに語り掛けてしまったり等、部屋の状況とは反対にタキオンは走りたい衝動が湧きたつという自己矛盾がうまく表現されている。

また、映写機があった所はゴミの山が出来上がり、訪れた夢を持つウマ娘には西日が必ず当たり続けたのも良い演出だ。

最後はカーテンが揺れるほど窓を開け、グラウンドを走るウマ娘の声を聴き、憧憬の象徴である虹のモチーフのプリズムを窓辺に下げている。

そして、JC前に訪れたポケットにはその窓から光を受けている。

また部屋だけでなく、タキオンは最初だれも眼中にないことを、他人のセリフ中に耳に入ってないように自身の心情をセリフで被せたりしていたのが、
どんどんポケットのセリフをちゃんと聴くようになっていっている。

どの演出もポケットのノックがどんどんタキオンの胸中に響いて、プランB
のままでいられなくなっていったのが良くわかる。

瞳に入るターフの光の位置が、涙のように見える描写や、ラストで橋を駆けた時の表情は最高でした。本当に。


神社前

同じロケーションを用いることで、ポケットの心の変化を鮮烈に描いていた。

桜と柳
最初に憧れのフジキセキと一緒に通るときは桜が咲いていて、そのすぐ隣に柳が生えている。
桜は憧れの象徴で、それを通りすぎ、勝負の世界の柵や途絶えてしまう運命を、無数の枝がしだれている柳で表現されている。

通った後、ポケットは柳の外側に立ち、キセキは柳の木陰で立ち止まる。
この時点でポケットはまだ夢が満たされても欠けてもいないため、前に出ているが、キセキは夢半ばで終えてしまっているため、柵にとらわれている。
しかし、顔には少しだけ木漏れ日がかかっていたのが、後に再起すること。諦めきれていない感情があることを示唆している。

※追記
また、河川敷のポッケとの並走直前、頭に柳の枝先が画面左に向かうキセキの頭で揺れるのは、史実の外に出たことを表現している。

虹ではないが、これも夢や憧憬のモチーフであろう。

皐月賞で故障したタキオンの足からするりと靴が脱げ、反対にライバルを失いがむしゃらに走り壊した靴を履きなおすポケットの対比が見事だった。

この時ポケットは、トレーナーにダービーの夢を与えられて靴を履きなおす。これはライバルのタキオンが居なくなってしまって壊れた最強の夢の代わりの夢を糧にもう一度走るということを表現している。

自販機

胸の内を打ち明けるキセキとポケット。
料金を入れる所がキセキの頭と重なり、間接照明がポケットだけに当たっている。これも柳と似たような文脈であろう。
ベンチに座る位置もキセキが自販機側に座っていて、夢が破れた先輩という意味を含んでいると思われる。


フジキセキの立ち位置と夏祭り

合宿も終わり、夏祭りへ。
しかし、この時、与えられたダービーの夢も、ライバルも失い燃え尽きているポケット。のちにキセキ並走をすることで、二人が再起する。

一緒に宵宮を歩くキセキとポケット。
木の向こうに花火が見える右側にポケット
その外の空が良く見える左側にキセキが並んでいる。

そして河川敷の並走の時は
右側にキセキ
左側にポケット
と立ち位置が反対になっている。
(自販機の時も右にキセキ左にポケット)

これは、夢の襷の掛け合いを表現していると思われる。
右側は夢を与えている側。左は夢を受け取っている側だ。

夏祭りの時は、キセキがポケットにもう一度走る熱を受けている側だから左に。
並走の時は、再起したキセキがポケットを励起する側だから右に立っている。

靴や柳にとどまらず、キャラクターの立ち位置でもテーマを表現しようとしているこの気概が尋常じゃない。


なぜ右から左なのか※追記部

これはすべてタキオンの左足に収束するからだと考えた。
このキセキとポケットの立ち位置の描写は夏祭りからである。そして夏祭りの時の会話は、タキオンの残光についてだ。ポケットのやりきれなさとタキオンの諦観に共感し、時代が過ぎても燻っていた走りたい気持ち。

自販機のシーンから河川敷の並走まで、全て間接的にタキオンの心を溶かし燃焼されるまでのやり取りになっている。

世代を越えた二人の想いがタキオンの左足に集約されるから、右から左の構図だったのだろう。

(ポケット見守り中と並走後のナベさんとキセキがポカリスエットを受け渡すとき、必ず画面の真ん中で簡潔するように構成されているのは、タキオンに繋がる描写と混同しないようにするためだと思われる。)



他にも沢山語りたいことがあるが、主に唸ったのはこのあたり。
とにかくどこを取っても一線級の出来栄えだった。

後、この作品は劇場で見るのが一番面白いと思うので、もしまだ見ていない不届きものが読んでいたら、是非劇場に足を運んでみて欲しい。

それでは。








※アグネスタキオンに感化されて、誰よりも早く劇場を後にしたのは、上映直前に完飲したモンスターエナジーによる利尿作用で、とてつもなく下腹部の憧憬が零れてしまいそうだったからというのは内緒の話である。




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