しあわせのリベルテのクロワッサン
一緒に住んでいる彼は、外に出るのが苦手だ。
まず人混みが苦手で、長い列を作った話題の人気店なんかは見た瞬間にギブアップ。
3つ年上の彼と付き合い始めた当時、大学生だったわたしはちょっと寂しいようなつまらないような、そんな気持ちによくなっていた。
そんな彼が去年の夏、急に
「ねえねえ、次の休みはどこに行こうか?」
と聞いてきた。どういう風の吹き回しだろうか。
かくいうわたしも、社会人になってから休みはもっぱらサブスクで映画やアニメを漁るインドア派になってしまっていた。
「うーん、あんまり遠くは行きたくないからさ、近くでいいよ近くで。」
中央線沿いに一緒に住んでいるわたしたちはその日、吉祥寺に足を運んだ。
お互い接客業でたまたまかぶった平日のお休み。平日休みだとどこも空いていて気分がいい。
ただお互いインドア同士、どこに何があるのか、何をすればいいのかがわからないまま無言で歩いた。
暑い日だったので、たまたま見つけたウッドベリーズでフローズンヨーグルトを食べ、(わたしは塩トマト?味を食べた。爽やかでおいしかった〜)そのあとは目的もないまま東急百貨店の方へ。
そういえば職場の先輩がこの辺りに美味しいパン屋さんがあると言っていたのを思い出し、行ってみることにした。リベルテというお店だった。
残念ながら写真はないが、クロワッサンが絶品だと聞いていたので、わたしと彼で一つずつ購入した。
あまりの美味しそうな見た目に我慢できず、帰り道に食べながら帰ったのだが、その時、彼がこう言った。
「俺、パンの中でクロワッサンが一番好き。今まで食べたクロワッサンで一番おいしい。今日お出かけしてよかったなあ〜!」
そっか。わたしも今日一緒にお出かけできて嬉しいよ。また近くでいいからどこか一緒に行こうね。
しかしそうとは言わずにわたしは
「ほんとにおいしいね〜!」
とだけ返した。なんか恥ずかしかったから。
普段無口で、滅多にニコニコしない彼だが、こんなに美味しそうにクロワッサンを食べる人と一緒に過ごせて本当に幸せだと思った。
それからわたしは、おいしそうなクロワッサンを見つけると買って帰るようになった。
誰かの喜ぶ顔を想像しながら何かを選ぶのはとても楽しい。
きっとわたしはこの先もずっと、クロワッサンを見かけるたびに、彼の屈託のない笑顔を思い出すのだ。
ありがとう、リベルテのクロワッサン。
あれからも何度か、彼とクロワッサンを買いに行かせてもらっております。
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