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「ようこ」という天使のお話。

※この記事は2017年2月10日にブロマガに投稿した記事の内容をnote向けに一部編集したものになります。


「ようこです。ようこの”よう”は「太陽」の”よう”。それ以外は秘密です。はい。」

皆さんこんにちは。
先日、「アイドル天使ようこそようこ」を観ました。
や、普通ならアニメの感想はわざわざブログに書いたりせずツイッターで少し流して終わってしまうのですがようこそようこは非常に衝撃を受たため、こうしてブロマガという形でしたためることにしました。
ようこに倣えば「日記を書いてる暇にいろんなことやった方がいい。」のですがこればかりはこうしてに書かずにはいられませんでした。


ストーリー


歌手になるために東京へ出てきた少女ようこはその道中新幹線で出会った女優志望で家出してきたサキと意気投合し互いに夢を叶えることを誓う。夢を叶えるために芸能事務所アイスターに強引に売り込み所属、周りの大人たちの力を借りながらスターを目指して渋谷を舞台に日々奮闘する。


まず、「アイドル天使」という題が示す通り今でいうアイドルもの、芸能界ものといったジャンルになります。
時代や”アイドル”という言葉が指し示す意味合いも変化しているため一概に並べることは適切ではありませんが「アイドルマスター」「アイカツ!」「プリパラ」「ラブライブ!」などと近しいジャンルのものという認識で良いと思います。
※この4タイトルが一緒くたに並ぶ時点でジャンルとしての定義がガバガバという突っ込みはナシでお願いします。


 また、この「アイドル天使ようこそようこ」も当時のアイドルアニメの先駆者である「超時空要塞マクロス」の飯島真理や「魔法の天使 クリィミーマミ」の太田貴子といった先例に倣い現実の歌手(アイドル)である田中陽子とのタイアップを行っています。
 主人公の「田中ようこ」という名前もこのタイアップから来ています。
※ただし、ようこそようこ劇中でようこが自分の苗字を名乗るシーンはない。

 しかしながら「アイドルもの」というジャンル、現実のアイドルとのタイアップでありながらようこが所謂アイドル活動、芸能活動といったアイドルとしての仕事をするエピソードが非常に少ないのです。
簡単にカウントすると。


第4話「トマトの朝は歌声で」
 作曲家の作さんにようこの歌「一人にさせない」を作ってもらう。
第9話「すてきなカン違い」
 街で出会ったモデル志望の花梨と一緒にモデル養成スクールに体験入学(?)
17話・18話「アイドルへの道」
 ロックバンドを結成しロックバンドフェスに参加。
19話「ようこそ夏のゆきだるま」
 MHKのテレビ番組のバックダンサー
21話「歌え!走れ!グランプリ」
 寝坊した星花京子のピンチヒッターでのステージ
26話「スターを探す男」
 ようこのPV撮影とテレビ出演。
27話「ようこそカレー行進曲」
 食品会社のカレー商品のイメージキャラクター
28話「ガラスの中のアイドル」
 失踪した星花京子の代打リハーサル
29話「レッスンアンダーザスカイ」
 オーディション + 青空学校
※ようこは青空学校を芸能活動として意識していないが社長や周囲の認識としてプロモーションの一環と位置付けているともとれる台詞がある。
30話「歌声でタイホして」
 テレビの生放送出演
31話「シネマパニックパラダイス」
 映画撮影
33話「恋文横丁からの手紙」
 ステージ + 新曲打ち合わせ
34話・35話「わたしのジュリエット」
 ミュージカルのオーディション参加
36話「猫子ちゃんのユウウツ」
 テレビ出演
37話「アイドルは知っている」
 打ち合わせ + レコーディング + ステージ
39話「サーカスが来た!」
 サーカスの空中ブランコ
40話「レッツシング with バード」
 ステージ
41話「雪のラビリンス」
 ステージ


 と全43話中これをカウントに入れるか迷うような細かい物も含めて18話しかアイドルとしての活動したエピソードがないのです。
※42話・43話「不思議の街のアリスたち」は解釈が様々に分かれることが予想される為あえてカウント外にさせていただきました。
 無論、ようこの名が売れてくる後半になるほどその仕事は増えていますがそれも仕事自体がメインでないエピソードも多く、単に芸能活動を描いているとは言い難いでしょう。
また、レッスンも公園で歌う以上のレッスンらしい描写をしていません。




「お金がないとね、保証人もいるのよね。」


では、彼女たちは何をしているのか。アイドル、歌手を描く作品としてそれ以外の時間は何をしているのでしょうか。
単純な答えとしては「生きている」のです。
何を言っているんだお前と思われるでしょうが彼女たちは間違いなく生きている「生活している」のです。
ようこそようこの主人公であるようことサキの二人はお金がなく、貧乏なのです。
と、言うよりは貧乏な生活を選んだというべきでしょう。
第1話でようことサキは野宿をします。アテもなく東京に出てきた二人は夜を明かす家すらないのです。
しかし2話で状況は一転、まずは住まいを借りようとようこはお金を下しにサキと銀行に行きます。部屋を借りるにはお金がたくさん必要だと口座のお金をすべて引き出そうとします。2人は現金を入れるためのカバンを持っていないので素手で大量のお札を持っているわけですから周りから目立ち、ついには銀行員に呼び止められ上役のいる部屋に通されます。
事情を話したようこはそこですでに部屋は用意されていることを伝えられそこへ案内されます。中は10代の少女二人が暮らすには分不相応なくらいの広く豪華な部屋に家財道具もみんな用意されていたのです。
一度はそこで暮らそうとするのですがサキの言葉でやめてしまいます。


「でも、ここ広すぎますね。きっとお掃除大変。」
「大丈夫、きっと私がやります。一人で。」
「え?なぜですか?」
「だって、ここはあなたのうちだもの。タダでは住めないわ。」
「わたしのうちは、サキさんのうちです。」
「気持ちはありがとう。でも、私は自分の力でやりたい。一歩一歩成功して、スターになりたいの。」
「親や友達の力を借りてスターになるんだったら、家出なんてしてこないわ。」
「はい、それ好きです。私だって一人で出てきたんです。この部屋、やめましょう。」
「え?」
「お金なんてやめましょう。自分の力でスターになって、お金を作って、こんな部屋、借りましょう。」
「あなたって…」
「はい、サキさんの友達です。」
「初めてできた。友達です。」


 また、サキも第8話で何枚も(少なく見積もって10枚以上)のクレジットカードを持っていることが分かります。
バブル末期の景気のいい時期とはいえ普通の10代の女の子がそう何枚もクレジットカードを持っているものでしょうか。
おそらくサキもようこも実家はかなり裕福な家であると考えられます。キャッシュカードを持ち、部屋を用意されていたようこだけでなくサキにしても実家に泣きつくことだってできたでしょう。
しかし二人はお金の援助どころか家やアルバイトを探すための保証人ですら親を頼ろうとはしませんでした。
 無論、そんな状態で部屋が見つかるわけなどなく最終的に3話で事務所の先輩タレント兼事務員である久美子の紹介してくれたおもちゃ屋さんの倉庫のロフトで暮らすことになります。
 結果的に人の善意で力を借りて得た部屋ではありますが家具も照明もないトイレと風呂だけのお世辞にもきれいとは言えないワンルーム、文無し保証人なしの二人にとって分相応な部屋だったといえるのでしょう。
 また、この部屋を紹介した久美子もかつて倉庫の主であるおもさんのお世話になったことがあり、その縁がようこたちを助けることになったというただ謂れのない支援を受けたこととは違う形になっています。
 これは8話において豊から匿名で家具を贈られた際に送り返したことからもいえるでしょう。
 ただし、家具を送った豊に直接ごちそうされたランチやバイト先の紹介は受けているのでやはり縁のあった知り合いの善意は素直に受けるのだと思います。
 8話ではさらに、家具をそろえるためにスクラップ置き場から使えそうな物を集めるのですがこれもようことサキ自身がリヤカーを引いて運んでいます。

 このように自分が生きるために必要なものは自分で手に入れるという姿勢こそがこの二人が「生きている」と感じさせる活力のベースになっていると言えるでしょう。

では、なぜここまでのベースが必要になったのか。
それは「生きていること」とは全くの対極にある、ようこそようこのもう一つの魅力「神秘性」にあるといえるでしょう。もっと踏み込んで「神性」と表現してもいいでしょう。なにせ天使ですから。はい。

 ようこそようこの主役であるようことサキの二人はラジオで聞いたブロードウェイの歌に憧れ歌手を目指したこと、引っ込み思案な自分を変えたくて女優を目指していること以外の生い立ちに関する情報がありません。
もちろん上述の通り裕福な家庭であったことやようこがやや浮世離れした場所で育ったことを示す描写や細かなものはありますが明確な本編以前のエピソードはほぼありません。
 このようにようことサキの二人には歌手と女優を志し、郷里を離れるという行動に至った動機が全く語られません。
ふたりがどこから来たのかなぜ劇中で見られるような強烈なキャラクターに育ったのかそうしたバックボーンがほとんどないのです。
まさに、ようこの”よう”は「太陽」の”よう”。それ以外は秘密なのです。


「ようこです。ようこの”よう”は「太陽」の”よう”。」
「それ以外は秘密です。はい。」


 さらに、ようこは困っている人や不思議なものを見ると放っておけない性格です。
時にはアルバイトや、歌手としての仕事すらも忘れて打ち込んでしまうこともすくなくありません。 無論、こうした人助けを繰り返す慈愛のお話というのは他作品をみても珍しくはありません。
 

 しかし、先述した通りようこはお金がなく、貧乏です。そう生きることを自分自身で選んだのです。
 そのようこが自分自身の今の生活を支えるアルバイトや夢である歌手としての仕事すらも気にせず困った人に手を差し伸べる姿はまさに「アイドル天使」そのものなのです。
 リアリティを感じさせ生きたキャラクターを形成しながらあえてそれを捨て去るかのごとき描写をすることで天使の神性を強化し、より魅力的に見せるための要素として作用していると言えます。
 また、彼女の優しさはその言葉遣いにも表れています。
 ようこは最も近しい友人であるサキも含めたすべての人に対し基本的にでですます調の敬語で話します。
※ムササビのムーと話す際や1話のごく初期にサキにタメ口で話すシーンはある。
さらには、ある大きな障害が立ちはだかった際にもその首謀者たちに対し


「仕方ありません。彼らにも立場というものがあるのでしょう。」


と敵視や無視するわけではなくある種の理解を示していたのです。
その姿勢は誰に対しても敬意と慈愛をもって接する、人助けのエピソードと合わさり、悪く言えば気持ち悪いとまでいえる他者の誰に対しても平等に接するという神性を有したキャラクターとして成り立たせているといえます。
また、その魅力は結果として渋谷の人たちからの人気を集め、偶然に得たあるチャンスをきっかけにメディアの注目を浴び、トップスターへの道を歩み始めることとなります。



「サキの”さき”は「先の見えない」の”サキ”」


 一方、こうした底なしの慈愛と神性を備え、絵に描いたようなシンデレラストーリーを歩んだようこと同じようにバックボーンを語らないという神秘を持ちながらあまりにも地に足の着いた成長を見せたキャラクターとして存在したのがサキという少女です。
 サキの名前の自己紹介はようこほどに固定されたものはないのですが「お先真っ暗」のサキなど基本的に後ろ向きな性格をしています。
そもそも女優を志した理由が引っ込み思案な自分を変えたかったという理由からである点も読み取れると思います。
 ようこよりサキが先にアルバイトを探し始めたことや普段、アルバイトをする描写などはようこよりサキの方が多いことやようこの突飛な行動に振り回される描写からもようこと比較してリアル寄りな、平凡な人間として成り立っているといえます。
 彼女の存在や成長の物語を書くとようこ以上にネタバレになるため詳しくは伏せさせていただきますが地に足の着いたようこそようこのリアリティを担うキャラクターであるサキがどういった変化を見せるのか、これも大きな注目点であると言えます。

 また、サキの存在だけでなくようこが手を差し伸べる対象やその抱える問題そのものも多岐にわたりようこやサキと同じように夢をかかえた女の子の話題もあれば家庭問題、教育問題、地上げ屋、認知症の老人、45年前の戦災孤児、公害など時事的なものなどただの物語として片づけるにはあまりに生々しいものも少なくなくストーリーに現実味を与える要素を選んでいたといえるでしょう。

 こうしたようことサキという二人に加え、先に成功した星花京子や秋吉久美子といった歌手、女優としての先輩をはじめ夢を応援しながらも地道に支える大人と、彼らとの縁を繋ぎ、より強いつながりとして助けられながら自分の経験としていく強いキャラクターたちの物語。


 リアリティとファンタジーの狭間にある両側の塩梅が気持ちのいい作品が「アイドル天使ようこそようこ」でありようことサキという二人の魅力でありました。

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