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ポエトリースラムジャパン 2017春大会 日本代表・中内こもる インタビュー

 中京圏を中心に、役者、脚本家、ラジオパーソナリティ、構成作家…と幅広い活躍をされている中内さん。お笑いライブに出ていたこともあるそうで、語りの上手さと笑いのさじ加減は絶品です。初出場のポエトリースラムジャパンでもその実力をフルに発揮して、3代目日本代表の座を射止めました。そんな中内さんがPSJに出場することになったのは、「最初は本当にたまたま」だったとか。

せっかく出るのなら、ウケだけはとりたい

 僕、テレビの放送作家の仕事もしているので、基本的に変な人をずっと探してるんです(笑)。だいたいネットめぐって探すんですけど。その中でたまたま、ポエムの大会があって優勝したらパリまで行けるというのを見つけて、これは変な人がいるんじゃないか(笑)と思って。ただまあ、見つけたけど特にTVのネタにはならずに、自分の頭の片隅にあったんですけど。そのときの名古屋大会は、2016年のクリスマスイブ開催だったんですよね。その一週間前くらいに「そういえばポエムの大会どうなったかな」と思ってもういっぺん調べたら「あ、一週間後なんだ」「まだエントリーできるんだ」「クリスマスイブ予定なんもねえなあ」…というので出てみようかな、と。

 さらに「その場のノリ」以上の思惑もあった。

 その前に僕、パワポカラオケというゲーム、というか競技で2年連続日本チャンピオンになっていまして。ちょっと勝ちすぎだなというのもあったんです。ここらで一回負けておかないと、ちょっとバランスが取れない(笑)。ポエムって言うのは自分にとって未経験、全く未知の世界だったので、きっとこれなら怒られてすごい負けちゃうだろう、と。つまり未知のジャンルへの興味と、「負ける体験もしてみよう」という、ひどい動機で参加させていただいて…。本当に申し訳ないです(笑)

 しかし、ポエトリーリーディング未経験ということは、パフォーマンスできる作品を持っていない、ということでもある。

 決勝まで行くには、5作品必要ということだったんですけど。それまでポエムを書いたことがなくて。エピソードトークとかひとりコントとか、結局そういうもののストックしかなかったんですね。それを、なんとなく僕の思う「詩の体裁」にしたものでチャレンジしようかなっていう…。あの、怒られるかもしれないけど、せっかく出るのならウケだけはとりたいっていうつもりで参加したんですけど(笑)

 その段階でやっぱり下調べはしていて。Youtubeで大島(健夫)さんとか岡野(康弘)さんとかの動画も見せていただいて、あ、自分みたいなタイプもありなのかな、という風には思いましたね。これはもしかしたら受け入れてもらえるかも、自分のやつも通用するかも、という感触はありました。

 いよいよ当日、名古屋大会の会場、吹上・鑪ら場のステージに立った。

 初めて行った会場だったけど、ライブハウスでステージに立つことも多かったので、それは慣れてるんです。ただし、客席にほとんど知り合いがいない状態でやるというのは珍しくて。演劇では、お客さんにも顔見知りが結構いたりしますから。そういう意味では緊張しました。会場の雰囲気もよくわからないですから、組み合わせ抽選の前はとにかく「一番手だけにはなりませんように」って祈ってました。一人だけ知り合いが観に来てくれたんですが、1回戦、準決勝と進むたび、休憩時間にふたりで「こんなはずはない」「何かがおかしい」と言いあって(笑)

 1回戦、準決勝をいずれも1位で通過し、見事に名古屋大会優勝。翌年2月19日に行われた全国大会は、東京・西新宿にある元小学校の校舎を利用したアートスペース「芸能花伝舎」の体育館で行われた。

 日本大会だと思ってたのに、アメリカ出身のジョーダン(・スミス)さんもいるし(笑)、もうこれは無理だ、これ以上は勝てないから全力でやって帰ろうと思ったんですけど。

 快進撃は続きます。全国大会の準決勝戦を1位で通過。

 決勝戦は、ジョーダンが途中まで結構な点差で勝っていたんですよね。舞台をやってきた経験で「ダメな時のパターン」「負けるパターン」というのもわかるから「ああ、これは負けるパターンだな。じゃあもう、できることをやろう」と思って。名古屋大会と同じ流れでやったんです。笑わせといて、最後に盛り上げるのをやろうと。そうしたら逆転で勝って。ジョーダンが「良かった」と声をかけてくれて、嬉しかったのを覚えてます

 新たに手にした「日本チャンピオン」。演劇仲間を始め、知り合いの反応はどうだったのだろう?

 周りの人も「何だかすごいことやったらしいが、何なんだ?」「そもそもポエムとかやってたっけ?」みたいな反応で。先輩から「詩人魂」って書いたTシャツもらったりしましたね(笑)。

いつか、字幕なしで海外のみんなを笑わせられたら

 そして2017年5月、世界大会へ。3人目の日本代表としてパリの舞台に立つことになった。

 各国の代表がみんな優しい人ばっかりで。「ハーイ!コモル」とか声をかけてくれたり話しかけてくれたり。各国代表のすごい人達がなんかすぐ仲良くなってて。その輪に入れてもらえたっていうのはありがたかったですね。僕は根が暗いのですが、そんな人達の中で明るくならざるをえないというか。パリだし。30歳も超えて恥ずかしいけど、人見知りなんて言ってる場合じゃないよと(笑)

 オランダ代表 のGijs Ter Haarなんて、タトゥーバリバリだしピアスすごいし背はデカイしで、メチャクチャ怖いけどメチャクチャ良い人(笑)。大島さんから、出発前にメッセージもらってたんです。「彼は顔見知りなんで、よろしくお伝えください」ってことで。そしたら、最初に集合場所に行った時からGijsは話しかけてくれて。開会式の時からずっと、缶ビール片手に飲んでるんですよ。隣に座ってたんで「何飲んでんの?」って聞いたら「ビールだ。俺はもう一日中飲んでるんだ」と 。あれで2人の孫がいるとかで(笑)。

 そして言葉の通じないパリのステージ。だけどしっかり手応えを感じた様子。

 ちゃんとウケた(笑)。いちばん最初に『映画好きな男』というのをやったんですが、パリのお客さんがものすごくウケてくれて。翻訳がしっかりしてくれたおかげです。それと、こおだききさんという、お笑いライブ時代の知り合いがギリシャから来てくれて。彼女はてっきりお笑い芸人を目指してると思っていたんですが、その後ギリシャ人の旦那と結婚して、今はギリシャでお菓子の店を準備中だという。彼女がわざわざギリシャから来てくれて。

 そういえば、彼女のおかげで直前に字幕のスライドを修正できたんです。フリとオチが一枚のスライドにあったのを、2枚のスライドに分けて笑いを取りやすくして。本当、いろんな人の縁があって、パリでのステージができたと思っています。

 ポエトリースラムW杯で出会った各国代表たちは「もう超人だらけ!」だったとか。

 南アフリカの代表が、朗読しながら「カン!」という謎の高音を出すんですが、なんの音かわからなくて。「舌打ち」だよ、と教えてくれましたが、「それはわかるけど、どうやったら喋りながら舌打ちできるんだ…」と謎が深まるばかりで。彼が、決勝戦の最後にやった『ママ』という作品は、意味はほとんどわからなくても泣けて仕方なかったです。客席もものすごい盛り上がりで、優勝してもおかしくなかった。もはや言葉の意味すら関係ないというのが不思議ですよね。僕もいつか、字幕なしでみんなを笑わせられたら最高ですけど(笑)

 W杯の開催期間中、メイン会場以外にも詩やリーディングに関するイベントがいくつか行われている。中でも奇抜なのが「HAIKU SLAM」(俳句スラム)。紅白のハチマキをつけた2人が交互に3句ずつ詠み、審判のジャッジで2本先取した方が勝ちという、明らかに間違ったジャポンのイメージ満載のイベント。中内さんも参加した。(ツイッターのまとめにも出ていますのでこちらもどうぞ)

 あれはもう、「俺の知ってる俳句とは違う」という感じで(笑) 主催者がふざけてやってるとしか思えない。それなりに真面目に考えて俳句を作っていったんですが、もっとふざけてやればよかった(笑)

 最終日のファイナルステージが終わった後、いつも集合場所になってるオープンテラスの店にみんながだんだん集まって、酒飲んで、順番にフリースタイルで詩を読んだりラップしたり歌ったりして。実は、もしかしたらそういうのがあるのかなと、ちょっと恐れていたんですけどね。フリースタイルできねえぞって(笑)。でもリレー即興朗読がいつの間にか始まっていて。その場のリズムで。そうしてるうちに「コモル!」って振られて。即興なんてできるわけないので、歌を歌いました。キンモクセイの『サラバ』という曲。「♪こんにちは ありがとう さよなら また会いましょう」っていうその歌が、その日の朝からずっと頭のなかで流れてたんです。

 終わった後、出場者たちのメッセンジャーグループが作られてたんですけど、その中に入れてもらって、今でも思い思い何かやりとりとかしてるんですけど。「彼女にプロポーズしてOKもらったよ」とか書いてる奴とかもいて(笑)

ポエトリースラムに集まる人は、伝えようとするエネルギーがすごい

 そんな中内さんのバックグランドは、もちろん演劇。その腕前はどんな風に磨かれてきたのだろう。

 大学の演劇部で芝居を初めて、社会人になってからも演劇を続けているんですけど。ずっと役者になりたくて。地元の名古屋で始めて、東京にも1回行ってるんです。そのあと芝居の企画で呼ばれて名古屋に戻って、名古屋の居心地の良さにそのまま居続けている、という。

 そしてお笑い畑での経験もある。

 10年くらい一人コントでお笑いのライブに出てたんですよ。演劇は何ヶ月に一回しか人前に立てないけど、お笑いなら毎月できますし、鍛えられるんじゃないかと思って。一人というのは気楽だし、よく言われるのは全部自分に返ってくる。すべった時は全部自分の責任で、ウケた時は自分の総取りになる、それが性に合ってるんでしょうね。勝てば独り占め、みたいな(笑)

 そんな笑わせる才能が存分に発揮されたのが、2年連続優勝を勝ち取ったパワポカラオケかもしれない。

 パワポカラオケという企画があると知ったのが2015年。そのとき名古屋の予選に出て、予選で10名、全国大会で10名くらいで戦ったんですけど。何が出るかわからないんだけどスライドが出て、それを使ってその場のアドリブでプレゼンしていくんですね。3分間で。画像大喜利に近いので、得意なんですよ。「学校」というテーマだったとして「えー、今の学校教育では様々な取り組みが…」、次に猫の写真が出て「生徒一人に1匹、猫が支給されるわけですが」とか。もともとアメリカで、プレゼン力を高めるための余興として始まったらしいんですけど。

 パワポカラオケや大喜利は、なんというか、参加者は自分も含めてどちらかというと暗い人が多い気がする。すごく目立つわけじゃないけど、教室の隅で、何か面白いことをずーっと考えているのが得意なタイプが多いと思うんですよ。

 一方、ポエトリースラムは初参加・中内さんの目にどう映っただろう。

 ポエトリースラムに集まってくる人は、何かを伝えようとするエネルギーがすごいというか、私はこれなんだ、これを伝えたいんだという気持ちはいちばん強いような気がします。しかもそれがいろんな表現になって出てくる。

 ポエトリースラムでは、間口の広さに救われたというか。僕は「おもしろ」しかできないし、その中でなるべく詩に寄せようとしたんだけど、それで受け入れてもらえたのが大きいですね。自分の持っているもので戦える、というか。それが名古屋でも、全国大会でもそうだったし、パリに行ってもそうだった。

 スコットランド代表のDaniel Piper っていう男がいるんですけど、彼はコメディアンで、ずっとおもしろ路線で世界大会決勝戦まで行きましたからね。「ベジタリアン・ラップ」っていうのをやっていたんですけど、「俺はベジタリアンだ」っていう。コールアンドレスポンスとかもするんですよ。このフリだったら「結局肉が食いたい」というオチに普通はなるな。と思っていたらちゃんとそういうオチで終わった(笑)。彼は僕の事「面白かった。お前はコメディアンだ」と褒めてくれて。「みんなすごいよなー。でも真面目すぎるよなー」とか言ってて(笑)

 いろんな出場者との出会い、それこそがポエトリースラム出場のいちばんの土産なのかもしれません。

 W杯の一回戦で負けたあと、みんなの試合を観ていてもやっぱり悔しくて。そういう時にポルトガル代表の Rogério Gouveiaが「良かった」と声をかけてくれて。嬉しい、だけどやっぱり悔しい。それを伝えるのに、悔しいって英語でなんて言うかわからなくて膝を叩いて悔しさを伝えたんですけど、彼が「そうじゃない」って。「俺はお前の詩を聞いて力をもらった。お前にも、俺の詩から力をもらってくれたらいいなと思ってる。だから悔しがることはないんだ」って。若いのにすごいなあ、いいこと言うなあ、と。

 開会式の挨拶でも、「お客さんがいちばん大事なんだ。採点に納得いかないこともあるかもしれないけど勝ち負けとかそういうことじゃないんだ」というようなことが言われてたらしんですよね。まあ、ロシアの代表は、一回戦で負けて、めちゃくちゃ悔しがって悪態ついてましたけど(笑)

 では、ポエトリースラムに興味があるけどまだ経験していないという人に、中内さんからメッセージを送るとしたら?

 勝てないと悔しいのはその通りなんだけど…その場に出てきて言葉を発することはめちゃくちゃ勇気のいることだし、すごいことだと思う。それが誰かの力になるかもしれない、ならないかもしれない。でもそこに来て舞台に立つことで見えてくるものがあるから、一度やってみればいいと思うんです。詩とかやったことない人でも、やったことない人ほど、経験してみてほしい。

 お客さんとして観てみようかな、という人に伝えたいのは、人の思いをこんなに直接聞けるのは滅多にないし、その伝え方が人によって全然違う、人によって本当に色々ある、そのことを実感出来るすごいエンターテインメントだ、っていうこと。詩って言うと、「こういうものだよね」と先入観を持ってしまうかもしれないけれど、そんなに単純なものじゃない。とにかくだまされたと思って来てみてほしいです。

【プロフィール】中内こもる(なかうちこもる)
1980年生まれ。高知県出身愛知県名古屋市在住。役者、劇作家、放送作家。株式会社クリアレイズ所属。

(ポエトリースラムジャパン 公式サイトより転載)

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