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知らない世界があって、すごいと思わされる人たちがいるのを知れたのが嬉しい <PSJ2018ファイナリスト・katsuya>


ポエトリースラムジャパン(PSJ)2018年大阪大会に初出場したkatsuyaさん。硬派でストイックな佇まいと、半生が滲み出るようなズシリとした言葉で強い印象を残しました。

普段は盟友と二人、バンドgrumbとして活動している彼に、ラップやポエトリーリーディングとの出会いから、PSJを経たご自身の変化までをインタビュー。

ラップでもポエトリーリーディングでも、真摯に学び技術を究めていく、まっすぐな姿勢を感じてください!

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バンド勢のなかでひとり、どヒップホップをやってた

―ラップとの出会いから教えてください。

katsuya:僕はずっと尼崎なんですけど、16〜17歳のころ先輩の家に行ったとき「姉ちゃんのCDカッコええのあるで」っていうので、借りて帰ったのがフージーズ。聴いて「なんじゃこら」みたいな。それでどハマりして。
最初はDJになりたくて、ばあちゃんにもらった成人式のお祝いでターンテーブル買ったんです。レコード集めているうちに、俺もラップしたいって思って。リリックっていっても何が何かわからんから、とにかく思い浮かぶこと。洋楽ラップの和訳を読んで、よく使われるフレーズやスラング的なことも耳で聞いて取り入れて。リリックの意味より、自分がラップしたいのが先という感じでしたね。

―最初に作ったのはどんな感じか、覚えています?

katsuya:なんかこう「ブランドもんは身につけず、ボロボロのGパンで俺は社会に飛び出すぜ」みたいなやつ。トラックも自分で作り始めて。最初はSP-505っていう、ちっちゃなサンプラーを友だちからもらって、ドラムのシーケンスでビートを組んでラップしてました。
ライブやったのは遅いんです。27、8歳かな。周りは本当にバンドマンが多くて、音楽活動というと自然とライブハウスに行くし、デモテープを配る相手もバンドマンばっかり。そのうち、神戸の先輩の超ロックなバンドが主催するイベントに呼んでもらって、初めてライブしました。ロックとかミクスチャーとかの中にひとりで出ていって、どヒップホップをやるという。
僕、今までヒップホップのイベントに出たことって2回くらいしかないんです。MCバトルとかもない。僕はどっちかというと、ひとつのテーマを掘り下げて意味深いものにしていくタイプのラッパーだと思ってて。即興ってかなり練習しないとできないと思ったから、かなり早い段階でそっちじゃないなって。ストイックに家でトラック作って、リリック書いて、作品として提示するというスタイルになっていますね。

―今やっているバンド、grumbについても教えてください。

katsuya:ベースのタカは、10代のころから東京でパンクバンドをやってて。「イベントやるから東京に呼ぶよ」って言ってくれて「え、東京?マジで?」みたいな感じ。うちの息子が1歳になるかならないかの時だから、2012年か2013年くらいかな。
そのタカが結婚して、奥さんの実家がある尼崎に越してきて、一緒にバンドやろうやってなったんです。その一曲目が『viola』っていう曲です。

―『viola』のPV動画を見ました。かっこいいですね!  役者を使って、ストーリー仕立てで。

katsuya:あの子はもともと後輩で格闘技やっていて、MV用に書いたストーリーに合うので出てもらったんですけど。ロケ地も尼崎やし。で、子役は僕の息子なんですよ(笑)。


知らなかったポエトリーリーディングの世界に、カウンターをくらった

ーそのgrumbをやりながら、PSJ大阪大会にエントリーされたわけですが…。

katsuya:『viola』が完成して次の曲作ろうかなというとき、ネットで前のPSJの動画を見て、「なにこれ」「めっちゃ面白そう」みたいな。でもどれだけの人がPSJを知ってるか、参加するのか、日本のポエトリーリーディングのシーンのファンやアーティストがどれくらい、どんな奴がいるのか、全くわからなかった。
ただ僕は、表現方法としてのポエトリーリーディングには早い段階で出会ってるんです。大阪にha-gakureっていうバンドがいるんですけど、バースがほぼポエトリーリーディングなんです。自分でもラップとは別に、ドローンとかエレクトロニカなトラックでポエトリーリーディングするというのをやってて。だからPSJを知って、出ようと思うのは結構自然な流れでした。
ただ…語弊があったら嫌なんですけど、ポエトリーラップという言い方が、あんまり好きじゃなくて(笑)。もちろんカテゴライズとしていい表現なんだろうけど。そもそもポエトリーリーディングとラップって全然違うんですよ。これは僕の中では一線引きたいところで。ポエトリーラップがブームになってきたのが、僕も気になっていて。タカに「(PSJに出て)ポエトリーラップみたいな奴がおったらしばいてくるわ」って言って(笑)

―音楽なしでやることには抵抗は?

katsuya:僕、ライブの合間のMCとかも割と用意していくタイプで。それも「みんな盛り上がってる⁉︎」っていうのじゃなくて、バースのフレーズを入れながら曲に繋げるという。無音で、言葉だけが鳴っていてみんなシーンとしてるような雰囲気は、自分のライブでは当たり前にあったから、抵抗なかったです。でも、やっぱりライブじゃなくポエトリーリーディングを聞きにきている人たちの空気は全く違くて。

―どう違いました?

katsuya:うーん、いちばん思ったのは、言い訳とかごまかしが効かないなって。ごまかしというか、曲が鳴るとどうしてもメロディとかビートが作り出すフロアの空気感があると思うんですね。それが全くないから、それこそ言葉だけ、というよりは自分の立ち振る舞いとか表情とか、そういう部分も全部含めて見られているというか。全く違う…だからやりにくかったですね、やっぱり(笑)。初めての感覚で。

―個人的な感想ですが、katsuyaさんはとりわけ地に足がついているというか、「これが俺の言葉だ。お前はどうなんだ?」と問われているような感覚を受けました。

katsuya:結構、練習したんですよ。まず3分というのが結構大変で。日が近づいてくるとほぼ毎日2時間くらいスタジオ入って、詩を何回も読んで。もちろん紙は持つんですけど、これはある種の保険、実際は全部体に入ってるっちゅうか。紙を読んでしまうと絶対ダメやって思ってたから。
それで僕、わりと後ろのほうやったし、前に出てきた(向坂)くじらさんとか、すごいポエトリーリーダーたちの表現を見て、それこそ「ポエトリーラップみたいな奴おったらしばいてくるわ」みたいなのがなくなって。俺もちゃんと、持ってきた自分の作品に感情込めてやろうっていう気持ちに変わりましたね、現場で。PSJの空気を肌で感じて、目で見て。どんなプレーヤーがいるのかもわからなかった世界で、ちょっとたぶんナメてる部分もあったんですよ、正直。そこはガツンとカウンターくらいましたね。

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本質に触れるとワクワクするし、究めたいって思う

―その大阪大会を勝ち上がり、全国大会に出場されました。

katsuya:地区大会に出たことで、PSJのことを出る前よりは全然知れたし、ポエトリーリーディングの技術っていうのも、盗めたわけじゃないけど、理解できた。例えば間の取り方とか、「はっ」っていう息の仕方とか、緩急のつけ方とか。大阪大会でいろんな人を見て、これがこの世界の技術なんやっていうのを理解できたから、わりとそれを練習してみたけど、できなかったです(笑)。そんな簡単にはやっぱり(笑)。
技術があることがすごく好きなんですよ。キックボクシングをやってるんですけど、それも知れば知るほど面白くて。パンチひとつでも、こう打てばもっと強く打てるとか。トレーナーに話を聞くとものすごい深くて、ワクワクしてくるんです。
大阪大会でその技術を知って、全国大会にはこういう奴がほとんどなんやろうなって思って、ちょっと構えましたね。でもすごく楽しみで。全国に行くんだったら、このことは絶対に言いたいと思って書いたのが『ジッポライター』です。

―katsuyaさんの研究熱心さ、「道を究めたい」という思いを感じます。

katsuya:そういうのが好きなんやと思います。ただ、僕もわりとカッコから入るタイプなんで、ヒップホップを知った10代の時はB-Boyになりたくて、ダボダボのズボン買って、ニューエラのキャップ被って、ドゥーラグつけて、みたいな。
でも向こうのラッパーとかは「これが自分がやりたいヒップホップなんや」って、ずっと主張し続けてるんですよね。それを知ると、キラキラしていたものは全部外して、いい意味でどんどんみすぼらしくなっていく。で結局、本質的な部分に触れた時がいちばんワクワクするし、これを究めたいって思うんですよね。それはたぶん、全ての物事において僕はそうなんかな、と。

―PSJに出たことで、自分の変化は感じます?

katsuya:うーん、例えばgrumbでポエトリーリーディングの曲を作るかというと、それは作らないと思います。ただ、さっき言った通り、ラッパーとポエトリーリーダーという線引きは、はっきりとは言えないんですけど、なんとなく自分の中でできてて。それが、どっちに対してもよりプライドのあるものになったというか。中途半端じゃなく、やるならきっちりしたい。
PSJのあと、ライブの合間でポエトリーリーディングもしてるんですけど、それはその時間でがっちりフロアをロックしてるんで。客席の顔見たらわかるんですよね。やっぱりじっと聴いてくれている奴っていうのは、いい顔してる。だから、いかにこの時間が自分たちのショーケースの中で必要やったかっていうのを、肌で感じる。それはPSJでポエトリーリーディングの技術を目の当たりにして、理解して、練習して、徐々に身についていってるものなのかなと思います。


フィクションの中にも、自分が体験した本当がある

―katsuyaさんのテキストにはストーリーがありますよね。

katsuya:grumbをやる前に、ストーリーテリングっていう表現方法に興味を持った時期があって。自分の曲にも2、3曲、ストーリーテリングの曲があるんですけど。言いたいことを、物語にして表現する面白さ。書き方もわりと上手くなってきて、それが僕の作品スタイルなのかな、と。

―『モノローグ』には、ご自身のドキュメントの要素がありますか?

katsuya:半生といえば半生ですね。『viola』とかも。『ジッポライター』は…シリアの自爆テロのニュースを見たり、記事を読んだり映像見たりして、やっぱり胸にくるものがあるじゃないですか。ぐうっと苦しくなる。やっぱり戦争とかテロに対して、自分が思っているところを表現したい、自分のギリギリ精一杯の表現を、せっかくの全国大会やからやってみたいという。わりと勝負でしたね。

―作品の中でのフィクションとリアルのバランスをどうとっているか、伺いたいのですが…。

katsuya:あ、完全にフィクションの物語でも、その中で起こるひとつひとつの出来事については、本当に自分が体験したことを入れます。「俺もこんな感情やったな」というような。そうすると、ちょっと真実味を帯びてくる。嘘の中にも本当のことがあるので、聞き手もやっぱり伝わりやすいかなと。そうしないと、歌ったり読んだりしていても感情が入らないんですよ。
ファンタジーみたいな曲はひとつもないけど、かといって自叙伝みたいなものばかりでもない。いろんな表現方法、書き方があって。トラックもヒップホップだけじゃなくエレクトロニカ、ポストロック、パンク、ハードコアとかいろんな要素の、その時々の自分がグッとくるものを引き出しから出してくるっちゅう感じですね。

『ジッポライター』を書いたんは、地区大会が終わったあと。時期的に、子どもがハロウィンをやってたんちゃうかな。あと、ベトナム戦争のとき、アメリカ兵が現地で政府には言えない気持ちとか軍への不満とかをジッポーライターに彫った「ベトナムジッポー」っていうのがあって。それで、ああいう話になったんですけど。
でも、ちょっと怖かったですね。もしもあの場に、宗教的にもっと詳しい人がいたらどう思うのかな、とか…。結局、僕らって(戦場や紛争地域の)外側の、第三者の目や思考でしかないから、全てをわかっているわけではないし。胸は苦しくなるけど、全ての痛みを分かち合えるわけではないから、やっぱり難しいというか、勇気がいりますよね。
でももう、発表してしまって、何か言われるなら全部受け止めようというか。その覚悟は、もうあの日はできていました。堂々とやろう、みたいな。

―最後に、今後やりたいことを聞かせてください。

katsuya:2019年もPSJ出たいと思います。grumbに関しては、自分はバンドマンやし、自分のフィールドは音楽っていうのははっきりさせているので、PSJで経験したことをこっちで生かしたい。それが具体的なビジョンとか曲にできたかっていうと、まだ消化しきれない部分があるんですけど。でもさっき言ったみたいに、そこで知った技術は絶対身につけたいし、バンドの表現に生かしていきたい。
まだこんな自分の知らない世界があって、ものすごいなって思わされる人たちがいるのを知れたのが嬉しい、それに尽きます。
こないだタカのところに双子が生まれて、grumbは活動休止してるんですけど、11月くらいから再開しようかと。で、この半年くらいで新しい曲作ったりしながら構想を練っていて。だからいま、素潜り中ですね。次に復活するときはすごいもん見せられるように、ぜひ。

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【プロフィール】

katsuya(カツヤ)

兵庫県 尼崎市が拠点。10代の時にHip-Hopを知り、自身もリリックを書き始める。言葉の表現、音楽を学ぶ過程でポエトリーリーディングとも出会う。
2009年にDARK RESIDENT名義で、アルバム「Monologue」を完全自主制作。
現在は、盟友と二人でバンドgrumbとして活動中。2017年に楽曲、MV、小説の3部作からなる「viola」を発表。以降、マイペースに制作、ライブ共に活動中。
「僕も映画に出たい!」という息子の夢を、少しだけ叶えたMVがYoutubeにて視聴可能。
grumb 「viola」MV はこちら

                         【取材・原稿 村田活彦】


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