保育士不足はなぜ起きる?7つの原因と解決策について解説
現在、日本では保育士不足が深刻な社会問題となっています。登録されている保育士は男女合わせて約160万人いるにもかかわらず、どうして保育士不足が続くのでしょうか。
そこで本記事では、「保育士不足の7つの原因と解決策」について詳しく解説します。
保育士不足の現状
保育士が不足していると社会的な問題になっていますが、実際にどのくらい保育士が足りていないのか、ご存知ではない方も多いのではないでしょうか。ここからデータを元に詳しく解説していきます。
全国的に保育士が不足している
令和5年1月時点で、保育士の有効求人倍率は3.12倍。
これは「保育士の仕事に応募したい人1人」に対し、「求人を出している保育施設が3件ある」ということを意味します。全職種の平均1.44倍に比べると、保育士が不足している事業所が圧倒的に多いという現状が見えてきます。
待機児童の増加につながっている
保育士不足と大きく関係している問題が、待機児童の問題です。
「待機児童」とは、保育園に入所を希望しても、入所できない子どもたちのことを指します。
国の配置基準では、子どもの人数によって保育士の配置数が決められており、保育士が不足していると園児を受け入れられません。保育士不足が、待機児童の増加につながっているのはこのためです。
保育士が不足している7つの原因とは
保育士資格を持っているにもかかわらず、保育施設への就職を希望する人は、全体のおよそ半数。資格を持っていても保育士の仕事をしないのはどうしてなのでしょうか。ここから保育士が不足している7つの原因について紹介します。
<保育士が不足している7つの原因>
賃金が安い
業務量が多い
体力や健康に不安がある
責任が重い
勤務時間が希望と合わない
人間関係に悩むことが多い
潜在保育士の増加
賃金が安い
保育士不足を解消するために、解決すべき最大のポイントが賃金です。
保育士は、他の職種に比べて賃金が低く、厚生労働省の調査においても保育士としての就職を希望しない理由の上位に「賃金が希望と合わない」が上がっています。
経験を重ねることで年収アップを目指せるものの、業務量や責任の重さと給料が見合っていないと感じる人は少なくないでしょう。
業務量が多い
保育士の業務は、子どもと遊ぶだけではありません。
環境整備や連絡帳の記入、保育計画、研修など膨大な仕事があり、保育時間内だけで業務が終わらないケースがたくさんあります。
その結果、サービス残業をしたり家に仕事を持ち帰ったりすることで、長時間労働になってしまいます。
保育士の仕事はシステム化されていない部分が多く、業務量をなかなか減らせません。サービス残業や持ち帰り仕事は給料に反映されないため、保育士の負担は増える一方になり離職につながる場合が多くあります。
体力や健康面に不安がある
保育士の就業を希望しない理由で多いのが「自身の健康・体力への不安」です。保育士は多くの子どもを相手にするため、体力が必要な仕事です。
乳幼児期の子どもたちには、抱っこやおんぶをしながら周囲に気を配り、4、5歳の子供達と全力で遊ぶことで多くの体力を消耗します。
また、子どもに使いやすい高さの机や手洗い場は、保育士はかがむ姿勢が多くなるため、腰や膝に持病を抱えるようになる場合もあります。このようなことから、体力や健康面に不安を感じる方も少なくありません。
責任が重い
保育士として働かない理由のひとつとして「命を預かる責任の重さや事故への不安」があります。保育所では、子どもたちが安全に過ごせる環境づくりのため、毎日の遊具の点検や、玩具の誤飲防止など、子どもの年齢に合わせた安全配慮をおこなっています。
万が一、保育中に体調不良やケガをした場合、子どもへの対応だけでなく、保護者への連絡と説明も必要になります。保育事故に関する報道も多く、メンタル面の負担が大きくなることを考えて、保育士としての勤務を選ばない人も少なくはないでしょう。
勤務時間が希望と合わない
勤務時間が希望と合わないことも、保育士の就業希望者が増えない理由のひとつです。
働き方の多様化に合わせて、早朝から遅い時間、土日、祝日など子どもを預ける側にとっては、保育園の受け入れ時間が長いことは大きなメリットです。しかし、保育士は土日出勤・夜間勤務・早朝勤務などに対応し、仕事とプライベートのバランスを取りにくくなります。
特に子育てや介護をしている保育士は、仕事と家庭の両立が難しいと考える傾向にあります。
人間関係に悩むことが多い
人間関係の難しさも保育士不足の理由にあがっています。
仕事の考え方や、保育方針に対する考え方などの違いも、人間関係に大きく関わってきます。また、保護者とのコミュニケーションも保育士にとっての悩みの種になる場合があります。
毎日の送迎や連絡帳のやり取り、行事とさまざまな場面で接する機会が多い関係です。
子どものことを考えるからこそ、意見がぶつかってしまうこともあるでしょう。そのような時の対処法に悩む保育士も多いようです。
潜在保育士の増加
潜在保育士とは、保育士の資格を持っているが保育士として働いていない人を指します。
潜在保育士が増えた理由には、先ほど紹介した賃金面や人間関係、子育てと両立できる働き方ができない、などといったものがあげられます。
保育士不足を解決するための対策
保育士不足を解消するために、取るべき対策にはどのようなものがあるでしょうか。
保育士の処遇改善をおこなう
保育士不足の解決には、給与面や待遇面の見直しなど処遇改善が必要です。
賃金の引き上げをおこなう
キャリアアップ研修を実施する
保育士の離職防止のための雇用管理研修を実施する
ICT導入による業務負担の軽減をおこなう
保育士不足の解消には、仕事を継続できるようなサポート体制が必要です。離職防止に向けた研修では、新人保育士を対象とした就職後のギャップへの対応方法や保護者対応などについて学びます。また、業務内容を見直す上で、活用したいのが電子媒体(ICT)の導入です。電子媒体の導入は、登園降園の記録、園児情報の管理、事務作業の大幅な負担軽減になるでしょう。
国がおこなっている保育士対策とは
保育士不足の原因は多くありますが、保育士不足を解消するために、国はどのような取り組みをおこなっているのでしょうか。保育士不足解消の取り組みや解決策をご紹介します。
新子育て安心プラン
国は「新子育て安心プラン」として、約14万人分の保育の受け皿の整備を進めていて、地域に応じた支援や、保育士の確保、地域の子育て資源の活用などを掲げています。
具体的な内容は、自治体への補助費、保育コンシェルジュによる相談などがあげられます。空きスペースを活用した小規模保育や預かり保育がおこないやすくなる、といったメリットがあるでしょう。子育て世帯にとってはベビーシッターの利用や、育児休業取得に対するハードルが低くなる点がメリットとなります。
保育所では、クラスに常勤保育士1名が必要ですが、待機児童がいる市町村では、代わりに2名の短時間保育士でも保育が可能となりました。
保育士確保プラン
待機児童を解消するために、必要な保育士数の確保を目指して取り入れたのが保育士確保プランです。
保育士確保プランは主に以下の4つの柱を掲げています。
<人材育成>
保育士就学資金貸付事業
学生への実践的実習
現役保育士のキャリアアップ研修
保育士資格取得時の免除科目制度
<再就職支援>
潜在保育士に対して就職のあっせんや相談支援
再就職前の実技研修
ハローワークと都道府県が連携した就職支援プロジェクト
<就業継続支援>
新人保育士対象研修
<働く職場の環境改善>
業務のIT化の取り組み
管理者研修
雇用管理マニュアルの提供
まとめ
ここまで、保育士不足の原因とその解決方法についてご紹介しました。
保育士の有効求人倍率は高く、常に人材不足の状態です。
国や自治体をあげて、さまざまな対策がおこなわれていますが、保育士が定着するには、これからさらなる解消に向けた取り組みが必要になるでしょう。
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