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【PublicNotes】 投票率20%!?アメリカのミレニアル世代を知る3つのファクト

【Public Notes】イノベーターに知ってもらいたいイノベーションとルールメイキングに纏わる情報をお届けする記事です。

 PMI理事(コロンビア大学留学中)の田中です。PMIがターゲットとしているミレニアル世代。アメリカの同世代はどんなことを考え、どういった活動をしているのでしょうか?
 今日はアメリカのミレニアル世代の最新のトレンドについて、特に政治・政策とのかかわりという観点からレポートしたいと思います!

ファクト1.意外と低い!投票率

 日本でも若者の投票率の低さが頻繁に取り上げられますが、実はそれはアメリカも一緒。むしろアメリカの方が状況は深刻と言っても過言ではありません。
 こちらはアメリカの2014年と2018年の中間選挙における世代別投票率の比較です。( 引用元参考に筆者作成 )

投票結果

 2014年における18歳から29歳投票率はなんと約20%。大統領選挙だともう少し高くなるため一概に比べにくいですが、それでも日本の衆議院選挙(平成29年)の10歳台投票率が40.49%、20歳台投票率が33.85%であることを考えると、いかにこの数値が低いがお分かりいただけると思います。
 なお、トランプ大統領の当選後若者の政治参画は活発になったと言われていますが、それでも投票率は2018年で35%。かなり低い数値です…。

 なぜここまで投票率が低いのでしょう。

 最も指摘される理由として、日本に比べて選挙に行くハードルが高いことが挙げられます。アメリカでは全国的な有権者名簿が存在しないため、投票する前に「有権者登録」というものをしなければなりません。オンラインで出来るところも増えてきましたが、州によっては登録のためにIDを持って窓口まで行く必要があり、しかも州をまたぐ引っ越しのたびに再登録が必要で、仕事や進学で移動が多い若者にとって非常に面倒という声もよく聞きます。
 また、一般的にアメリカでは選挙は平日に行われます。一部の州は選挙当日を祝日に定めているところもありますが、特に学生や貧困層は平日に学校や仕事を抜けることが難しく、この影響が大きいと言われています。現在選挙日の祝日化は民主党を中心に議論されていますが、まだ実現には至っていない状況です。
 なおこうしたハードルをクリアできるインターネット選挙は、米国でもさかんに議論されてはいるものの、セキュリティの脆弱性が相次いで指摘されていること本人確認が困難であること、そもそも与党共和党に投票層を拡大するインセンティブがないことから、こちらも一部の州に留まっているのが現状です。

ファクト2.アメリカンドリームの限界…?変わるミレニアル世代

 突然ですが、アメリカというとどういったイメージをお持ちでしょうか?
 「頑張れば報われる、頑張らないやつが悪い」
 「我こそは世界の警察なり」
 「政府は極力介入しないでほしい」
 そういったマッチョなアメリカのイメージを持たれている方も多いのではないかと思います。

 これに対して、昨年ピュー研究所というシンクタンクが非常に面白いデータを出しました。このデータを見る限り、こうしたイメージはミレニアル世代前後から急激に変わりつつあるようです。

 こちらは「アメリカは他国よりも優れた国と思うか」というアンケートに対する回答です。46%ものSilent(73歳以上)がyesと答えている一方、ミレニアル世代はたった18%しか肯定していません。かなり大きな世代間格差があります。

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また、もともと個人責任原則の強いアメリカは、先進国の中でも数少ない国民皆保険を実施していない国の一つであり、オバマ大統領が進めたオバマ・ケア(医療保険制度改革)も国民を二分する大激論となりました。
 これについても、「アメリカは国民全員に対して医療保険を提供する義務があると思うか」という問いに対して、70歳以上は5割程度しか「義務がある」と答えていないのに対し、ミレニアル世代は約7割が賛成しています。さらに、「より大きな政府が望ましいか」という問いに対しては、ミレニアル世代の57%が賛成する一方、70歳以上はわずか30%に留まります。ここにも世代間の意識の違いが垣間見えます。( 元データはこちらを参照 )

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  こうしてみると、強いアメリカ、自己責任の国アメリカというイメージは、若い世代を中心に少しずつ変化しているように見えます。彼らは上の世代と比べてかなりリベラルであり(実際若者のうち6割程度が民主党支持)、政府の積極的な役割を期待しています。特に医療制度や移民、ジェンダーといったテーマについては、もっと政府が介入し不平等を解消していくべきだと考えているようです。

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 自由な市場を尊重し、政府はできる限り介入するべきではないーこうしたアメリカのイメージが日本では強いように思いますが、アメリカも一枚岩ではなく、世代間の絶妙な対立のなかで行ったり来たりを繰り返しながら変化しているのが現状のようです。

ファクト3.今アツい政策起業家という道

 2018年Inc.というメディア会社が発表した「今最もホットなスタートアップ領域」という調査で、政府関係スタートアップ(Startups related to Government Services)が第7位を占めました。記事によると、アメリカで最も成長が早いスタートアップ5000社のうち、253社が政府に関連するサービスを提供しています。
 政府関係といっても幅広いですが、いわゆるGovtechからシンクタンクに至るまで様々であり、米国の学生にとって政治や政策を補完するために起業や団体を作るのは、日本に比べてずっと身近にあるようです。
 例えば、自分が注目しているスタートアップの一つに「Next100」というシンクタンクがあります。代表を務めるEmma氏はイェール大学で法務博士を取り、複数の政府関係機関を経験した後Next100の創設に参画しました。ニューヨークをベースとするシンクタンクスタートアップ(この概念すら日本では聞いたことがない…!)で、移民・環境など若者の関心の強い政策イシューの分析や、「Changing the Game」と称し、次世代の政治リーダー育成やコネクション形成も行っています。

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 また、Emily Baumというミレニアル世代の政策起業家が立ち上げたNPO「 Reboot Democracy」は、複数の企業と連携しテクノロジーを活用したdemocracyを促進するプロジェクトを実施しています。例えば、ISSUE VOTERというプロジェクトでは、有権者と利用者が興味関心のある政策分野を登録すると、それに関する法案の動向の最新情報が受け取れるほか、担当者に意見提出もできるプラットフォームを作っています。

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 ミレニアル世代ならではの視点とアイデアを生かして公共政策領域に食い込む政策起業家たちが続々と誕生し、一つのムーブメントを作り始めています。

まとめ

 本記事では、政治・政策という切り口からミレニアル世代のトレンドをお届けしました。
 記事の通り、アメリカにおけるミレニアル世代は、近年の激変する政治・国際情勢の中でこれまでの世代とは異なる価値観を育くみ、それを体現するべく様々な新しい仕掛けを始めています。

 一方気を付けなければならないのは、そうは言っても世代を通じて投票率は低く、政策起業家という道も一部のイスタブリッシュメントに限った動きであるという事実です。
 ここにはアメリカ特有の課題もあります。例えば、若者の投票率が低いと言いましたが、その背景には若い世代ほど人種の多様性が高いという極めて重要なファクトがあります。最近の統計では、ヒスパニックの急激な流入により、新たにアメリカで生まれた子供の2人に1人がマイノリティだそうです。そして、マイノリティほど投票率が低いため、彼らの声を代弁する代表者が不在であり、それがさらに疎外(marginalized)を加速しているということも指摘されています。つまりミレニアル世代という切り口ですら、共通の利益、機会、価値観をシェアできているわけではないということです。

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 同級生と話をしていても、そういったマイノリティの政治参画を実現していきたいと、将来の選択肢としてアドボカシー団体やロビイストを考えている学生もいました。
 ミレニアル世代のこうした動きがより幅広く同世代を巻き込む大きなムーブメントになっていくのか、それとも一部の層にとどまってしまうのか、引き続き注視していきたいと思います。


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Public Meets Innovation 理事  田中 佑典

1989年奈良県生まれ。京都大学卒業後、総務省入省。長野県、外務省での勤務を経たのち、総務省において、シェアリングエコノミーの社会実装をはじめとする人口減少下の持続可能な社会を実現するための企画・立案に従事。現在、米国コロンビア大学修士課程に在籍中(公共政策学)。2019年世界経済フォーラム Global Shapersに選出。

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