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【PublicNotes】“2年しばり”が盲点?「ストックオプション税制の適用拡大」をひもとく3つの視点

PMIがイノベーターに知ってもらいたいイノベーションとルールメイキングに纏わる情報をお届けする【Public Notes】

今回は2019年7月に「税制適格ストックオプション制度」の対象が拡大されました。これまで社内の人材だけに適用されてきたストックオプションに関する税の優遇措置が、一定の条件を満たせば、社外の高度人材(エンジニアや弁護士など)にも適用できます。

※参考記事(外部サイト)
社外高度人材に対するストックオプション税制の適用拡大(経済産業省HP)

今回は、PMI Legal Community Managerの弁護士・南知果さんにインタビュー。南さんは、モビリティ・プラットフォーム「CREW」を運営するスタートアップである株式会社Azitで法務を担当しながら、法律事務所ZeLoにも所属しています。
①この制度を活用できるスタートアップ
②この制度の対象となる社外高度人材としての弁護士
③この制度について、スタートアップなどにアドバイスする弁護士

という3つの視点から話を聞きました。

人材獲得の手段としてポジティブ

―南さん、よろしくお願いします。まず、この制度の率直な評価はいかがでしょうか?

制度の概要は素晴らしいと思います。
資金に余裕がないスタートアップにとって、外部の優秀な人材に手伝ってもらいたい時に、ストックオプションは有効な手段なので。その税制優遇が外部人材にも拡大されるのは、とてもポジティブだと思います。
制度が出来てすぐに、スタートアップ界隈ではけっこう話題になりました。
ただ、「ストックオプションを外部の人に、税制適格で渡せるようになったらしい」ぐらいの情報までで、細かい内容についてはあまり知られていない気がします。

―ネットで検索してみると、今回の制度改正を解説した記事もあるようです。

※参考記事(外部サイト)
税制適格ストックオプションがスタートアップの外部協力者まで適用拡大、要件・手続のポイントは?(BUSINESS LAWYERS)

こうした記事はとても参考になります。
と同時に、詳細を知りたくて経産省が公表している制度の資料にあたると、いろんな疑問も生じます。

※参考資料(外部サイト)
制度の概要(経済産業省 公表資料)

例えば、この概要資料で大まかな内容は分かるんですが、あくまでも概要なんですよね。
これだけで必要十分な情報なのか、自信が持てません。

そこで、税制関係の制度に詳しい官僚の方に制度の資料を見てもらい、話を聞いてみたんです。
すると、制度を紹介した記事や、経産省の公表している概要版の資料では言及されていない“発見”が色々とありました。

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制度の利用条件「2年しばり」「日本居住者しばり」は盲点?

―具体的には、どんな内容でしょうか?

例えば「2年しばり」や「日本に居住」という条件は、概要版の資料には少なくとも私が見た時点では記載がなかったです。
でも、詳細の資料を見るとたしかに書かれています。

※参考資料(外部サイト)
中小企業等経営強化法 社外高度人材活用新事業分野開拓計画策定の手引き(経済産業省 公表資料)

この制度を利用するためには、企業は外部協力者を2年活用する必要があるんです。外部人材にとっても、2年間のコミットが必要だということです。
また、社外の高度人材は日本に居住している必要もあります。海外に居住している人材はこの制度の対象外、とのことです。

手引きをちゃんと読めば書いてある。とはいえ、大事な情報ですよね。
制度のことをきちんと理解している官僚と意見交換をしている中で、自然とこうしたポイントが浮かび上がってきました。

―なるほど。では、南さんには引き続き“3つの視点”から、この制度についてさらにうかがっていきます。

スタートアップ目線 対象者は意外と少ない?

―まず、“この制度を活用して外部人材を確保したいスタートアップ”の目線からはいかがでしょうか?

さきほど話したように、資金が十分ではないスタートアップにとって、ストックオプションは人材獲得の有効な手段なので、その税制優遇が拡大されるのはとてもポジティブです。

ただ、この制度が使えるかどうかや、細かい条件をきちんと理解するのは、スタートアップにとってはハードルが高く、専門家への相談が必須になりそうです。

―実際に制度を活用して、どんな人材を確保できそうですか?

Azitだと、アプリを開発しているので、優秀なプログラマーやエンジニアですね。また、法律面についてアドバイスしていただける弁護士の先生などでしょうか。
ただ、制度の条件を満たす対象者は意外と少ないかもしれません。

また、ストックオプションをもらう側のアドバイザーが、これでいいよと言ってくれないといけないので、そこを説得するハードルが結構あるんじゃないかという気もします。

外部高度人材の目線 やはり気になる「2年しばり」

―外部高度人材の対象に弁護士も含まれます。“この制度を活用してストックオプションをもらう側の弁護士”としては、いかがでしょうか?

さきほど“スタートアップ側”の目線から話したことの裏返しになりますが、外部人材の立場から気になるのは「2年しばり」という条件ですね。

例えば、弁護士としてスタートアップにアドバイスをする場合、あくまで外部の弁護士なので、そのスタートアップに2年以上コミットできるか、ちょっと分からないケースもあるかもしれません。
とすると、結果として本当に税制優遇を受けられるのか、不安もよぎります。
ならば、ストックオプションではなく現金で報酬を受け取りたいという場合もあるかと思います。

アドバイスする弁護士の目線 

―この制度の活用を検討しているスタートアップから相談を受ける“アドバイザーとしての弁護士”の立場からは、いかがでしょうか?

これまで話してきたように、制度を利用するには様々な条件があるので、例えばスタートアップから相談を受けたとき、「その場合は使えませんね」というアドバイスになるケースも多いように思います。

また、そもそもストックオプションの税制について、あまり知られていない現状がある気もします。
これまで外部人材にストックオプション付与を説明する時に、税制まで細かく説明することは一般的には少なかったのかもしれないな、と。
税制優遇が受けられなかったことを知っている外部人材からすれば、今回の制度改正のもつ意味は理解できると思いますが、そもそも知らない人が多いのではないかな、と。

ですので、今後この制度の利用を検討するスタートアップは、従来のルールをきちんと踏まえた上で「あなたは税制適格にできるので大丈夫です」という説明ができると、外部人材の協力を得るための良いコミュニケーションができるかもしれません。

いずれにしても、ストックオプションを発行する側にも受け取る側にも、制度の周知が必要です。
そのためには、制度に詳しい官僚と、その制度に関係する当事者が気軽に情報交換できる機会が非常に重要だと思います。
利害関係なしに官僚と会えるコミュニティとしてのPMIに、改めて価値を感じましたね。

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PMI Legal Community Manager
南 知果(みなみ ちか)

弁護士(法律事務所ZeLo・外国法共同事業/株式会社LegalForce)。2012年京都大学法学部卒業、2014年京都大学法科大学院修了。2016年西村あさひ法律事務所入所後、2018年4月法律事務所ZeLo・外国法共同事業/株式会社LegalForceに参画。2019年6月株式会社Azit入社。
弁護士としての主な取扱分野は、スタートアップ支援、FinTech、M&A、ジェネラル・コーポレート、危機管理・コンプライアンスのほか、ルールメイキングに関する業務も行っている。

Written by:PMI Legal Community

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11/19 PMI Legal Community の定期イベント第2段を開催決定!

今回のテーマは、 「これからのルールメイキングを語ろう〜“弁護士と官僚”それぞれの役割と可能性について考える編」です。

参加者対象:U-40 弁護士・法務関係者・官僚(国家公務員)・司法修習生・法学部生など
参加費:2500円(ドリンク付き)
参加上限人数:50名場所:SOIL(予定)
東京都渋谷区渋谷一丁目13番9号 渋谷たくぎんビル 7階

イノベーションが進んでいく中で、省庁を横断する政策・法令が増えていくなど、弁護士は政策現場において新たな役割を求められる可能性があるのではないか。一方、イノベーションとルールメイキングの現場において官僚もまた新しい視点やスキルを求められているかもしれない。

・省庁に出向するなどパブリックセクターで政策現場に従事する弁護士
・業界団体・民間企業などプライベートセクターから政策プロセスに関与する弁護士
・弁護士と一緒に省内で働く官僚

など様々な視点から議論します。

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