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紺幸高1ログ④

『今日の俺はなんかいける』幸村那央視点

朝いち比呂に電話した。どうしても今日会いたかったから。そしたら、ちゃんと比呂は電話に出た。すげえガラガラ声。風邪でもひいたのかと思いきや『・・・・俺、寝起きはいつもこんな感じじゃん』だって。そういえばそうだったね。

『・・・・何?』
「今日暇?』
『・・・暇じゃない。』
ブツっ・・つーつー。

よし。リダイアルだ。

比呂はすぐさまに電話に出る。

『・・・・何・・』
「遊びましょうよ」
『・・・バイトあるから・・・』
「おバイトのあとでもかまわないですよ」

昨夜、部活の連絡網で練習試合ドタキャンの連絡があって、その時間がぽっかり空いてるのは知ってた。朝いち電話したのはそのためだ。比呂と俺の大事な時間を他所の女に渡してなるものか!

『・・じゃあ・・1時すぎなら・・。』
「昼すぎだね。そんなに早くおわんの?」
『・・・今日は9時からだから・・・・・、あれ?もう8時半じゃん。やば、俺二度寝してた。』

・・・・こんにょ・・・・

「じゃあ1時ね。昼飯どうする」
受話器の向こうが慌ただしいから、約束だけして切ろうと思った。そしたら比呂は『一緒に食おう、おごる。ありがとう。』といって電話を切った。・・・・いそがしいやつ・・・。でもどうやら、今日は俺が比呂を独占できそうだ。

人気者の比呂はいっそのこと、体10こくらいあったらいいと思う。世のために。でも10こあったらあったで、その全部を独占したいと思うんだろうな。俺。人なんて欲深い生き物だから・・・。うん。

今日の俺はなんかいい感じのスタートきった。下で兄ちゃんが なおなおうるさいから、とりあえず洗車を手伝ってこよう。

Post at 08:40 // Date 2006 ・ 04 ・ 29

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2006.4.30(sun)16.27.01幸村兄視点

俺には年の離れた弟がいて、今年高校生になった。中学生の時に突然イジメにあい、すっかり性格が変わってしまった弟。俺はとっくに社会に出ていたし、弟のいじめに気付いたところでかける言葉すら見つからず、たまにドライブに連れて行ってやることくらいしかできずにいた。

無表情なまま助手席に座り、ひたすら黙っている弟を乗せ、俺は遠くまで車を走らせる。家に車が着くと弟は涙を浮かべながら『ありがとう・・にいちゃん・・』とだけ言い、うつむきながら部屋に戻っていくのだ。

そんな暗く重い季節も、春の訪れと引き換えにするように終わりを迎えることができたようだ。

パジャマのままドタドタと外に出てきて「洗車手伝うよ!」と言ったくせに、バケツの水を見ながらずっと考え事をしていて、ちっとも手伝ってくれやしない。浮かれているように見えたから「どうかしたのか?」と聞いたら、弟は「今日は友達と飯食いに行く」とこたえて笑った。


「この前家に来たとかいう子と?」

「うん。そう。あたり!あははっ」

・・見守ることしかできずにいた俺は、涙が出そうで堪らなかった。お前は気付いていないと思うが、ずっとお前のその笑顔を待っていたんだよ。兄ちゃんだけじゃない。家族みんなでずっと待っていた。

父さんも母さんも、俺もお前のねえちゃんも、みんな那央が生まれたその日から、大事に大事にお前を思ってた。よく頑張ったな。ほんとによく頑張った。兄ちゃんはそんなお前のことを、心の底から誇りに思っているよ。

**********************************************************************************『どうしよう』幸村那央視点

午前中、兄ちゃんの洗車を手伝った後、勉強を見てもらって、12時半に家を出て、比呂のバイト先に走っていった。自転車は使わず。この自転車は使わず・・・という部分がポイントで、俺が徒歩で出かけたなら、比呂は家まで自転車で送ってくれるのだ。(過去の実績的に間違いない)

あいつのバイト先のサボテン屋は、地元じゃちょっと有名。今日も女の客が数人いて、その店の奥で比呂がラッピングをしていた。

13時までにまだ時間があるけど、とりあえず比呂のとこにいった。そしたら比呂が、にこっと笑って「もうちょっとだから待ってて」といった。待ってますとも。待ってますともよ。・・・・渾身の笑み!!俺は、比呂のそばにストーカーのようにくっつきながら、比呂の仕事ぶりをガン見していた。

そしたら背後から「君」と言う声がする。そんなの無視して比呂を見てたら
「ごら。そこのピンク」と言う声。 振り返るとそこには、馬鹿でかくて化粧の濃い女が立っていた。

「なんすか」というと、その女は「なんすか・・じゃねえわよ。邪魔あんた。こっちきなさい」という。比呂に目配せしたら「オーナーさんだよ」といって笑ってる。オーナーならば、しょうがない。俺はその人の後についていった。

でけえし香水くせえし、なんだこの女。俺は露骨に嫌そうな顔をする。そしたらその女が俺を見て、『あんた、紺野ちゃんとどういう関係?』といった。・・・・さてはこの女も紺野狙い!!!こんちきしょう。俺は、本人がいないのをいいことに、すっぱりそいつに言い切ってやった。

「親友です。それがなにか?」

そしたらそいつはげらげら笑って「言い切ったわね。今本人に確認とってくるわ」とほざきやがった。

俺はもう大慌て。


「まってまって!うそうそ!ただの友達!友達だから!」
「ばかね。そんなこと聞きたいわけじゃないのよあんた。紺野ちゃんに害がなきゃ、それでいいのよ」
「は?」

その人は紺野のいう通り、オーナーの人だった。紺野のことを、中学時代から雇ってあげてるんだって。雇ってる以上、悪い虫がつかないように監視してるそうだ。若い紺野を雇ってる以上、最低限店の中では、紺野の保護者のかわりとして、色々躾ようと思って世話を焼いてるらしい。

「なるほど。それはおせっかいな」といったら、思い切りどつかれた。そんなことしてばたばたやってたら、比呂が俺の元に走ってきた。

「あはは。なにやってんですか?」

「余計なおせっかい焼いただけ!」

おいデカ女!余計なこと言うな!

『なに拗ねてんの?この人。』と俺が言うと、またその大女にドツカれそうになった。でもそこは、比呂が間に入ってくれてとりあえずセーフだったけど。

店を出て、俺は予定どうり比呂のチャリのケツに、乗せてもらった。人通りの少ない坂道を、蛇行しながら進む自転車。

「今日はありがとー。寝過ごすとこだった」
「ううん。ちゃんと間に合ったの?あのあと」
「とりあえず着替えと歯磨きして、ソッコーでかけたらギリで間に合った」
「よかった」


俺らの頬を通り過ぎる風のせいで声があまり聞こえない。だから俺たちは大声張り上げて、そんなたわいもない会話を続ける。


「でも怒られちゃったよー。ハルカさんに」
「ハルカさん?・・ああ、さっきの」
「そう。急いでくるなら、連絡して遅刻しろって」
「えー?なんで?」
「事故にでもあったら、どーすんだってさ」
「・・・」
「もう寝坊しないようにしよ・・・俺」

・・あのガサツそうな大女が、そんなキュートなことを言うなんて・・・俺が大女を見直してたとき、自転車が坂道を下り切って、喫茶店の前にとまった。

「飯食べよ。おごる」

喫茶店は人もまばらで、俺らは窓辺の席に座れた。「今日は俺にメニュー決めさせてね!」とかいって、比呂がへへっと俺に笑いかける。


「えー?なになに?」とか俺が聞いても、けらけら笑って教えてくれない。店員が注文をとりにくる。そしたら比呂は俺にメニューを見せないように、店員に何かを指差して、メニューを店員に渡すと「楽しみだね。ユッキー君!」ていって笑った。

なんだー?もー!笑顔がキュートだなあ。それからは俺の『なに頼んだの?』攻撃をかわすために、比呂は一生懸命渡部篤郎の物まねをしていた。渡部の声でなにを言うのかと思ったら、佐伯がバスケ部で自己紹介したときの挨拶のパクリだった。しんど!

ひーひーいいながら腹を擦って笑ってたら、シーフードカレーと馬鹿でかいプリンが運ばれてきた。思ってもいないものの登場に驚きのあまり声が出なかった。


「うれしい?ねえ、うれしい?!」

俺をのぞき込んで笑う比呂。 すっげえ嬉しいよ!なにこれエビとかもめちゃでかいじゃん!
「高いんじゃない?これ!プリンの大きさ、なにこれ!」
比呂は、ふふんという顔でいう。
「僕は昨日、臨時収入があったんですー」

簡単に言うと先月のバイト代で、ハルカって人が計算ミスしたらしく1万比呂に払い忘れてたんだって。それを昨日になってもらったから、俺に豪華ランチをおごろうと思ったんだって。

「でもこれ、そんなに高くないんだよ?ここは安くて美味いので有名みたい」

もー・・バカ!こいつもう、ほんと困っちゃう。俺を喜ばそうとしてくれたってこと?本当に嬉しすぎて、涙が出そうだよ。
「ありがとうー!味わって食うよ」
俺はスプーンとフォークを手にする。 比呂はシーフードカレーだけ。だから、俺はプリンを一口比呂にあげた。比呂は、一口プリンをくったら、俺を見て、うはは・・と笑う。 そして俺に言ったんだ。


「ハルカさん・・・、あのひと男だからね」

「えーーーーー!!」


喫茶店から帰るとき、比呂の自転車のケツに乗って 満腹の腹を擦っていたら「幸村、ちゃんとつかまれよ」と比呂が言う。だから俺は比呂の腰にしがみついた。なんか少しだけ、どきどきとした。比呂は鼻歌とか歌ってる。だから調子に乗って、ぎゅっと抱きついた。そしたら俺、胸がぎゅーっと痛んで、息が苦しくなっちゃって、比呂に抱きついた手が震えそう。

自転車は坂道を登り始める。「さすがにきつい」といって比呂は立ちこぎをし始める。「降りようか?」と俺は言ったけど「平気だよ」って比呂は言う。長い上り坂を比呂は俺を乗せて、立ちこぎで全部のぼりきった。

「なかなかだった・・」そういって比呂が振り返る。でも俺は返事なんかできない。そしたら比呂は自転車を降りて俺を見た。

「なにお前・・。顔赤い。熱あるんじゃね?」

や・・。 そんなことはないとおもうけど・・。

や・・・・。 そんなことは絶対・・。

Post at 21:28 //Date 2006 ・ 04 ・ 30

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2006/4/30 (Sun.) 23:21:47幸村那央視点

比呂と昼飯を食いに行って その時の比呂がすげえキュートで、いつも以上に無邪気だったから うっかりしてたら、なんか俺・・・・俺を乗せて長い坂道を、立ちこぎで登りきった比呂の背中のあの広さ・・・意識してしまった・・『幸村?』って呼ぶ声・・・まさかそんな・・そんな・・・

俺がどんな顔をしていたのかはわからないけれど、比呂が俺のことを見て顔をしかめる。「顔赤い。熱があるんじゃね?」と言われて「大丈夫だよ」ってこたえたけれど、その声が震えた。

比呂を見たら俺のことを見てた。「ぶりかえしたかな」・・・なにが?・・ああ、風邪のことか。「大丈夫だよ。ちょっとときめいただけ!」俺がウィンクでごまかすと、ふふって笑ってそっぽ向く比呂。


のんきそうな顔してんじゃねえよ・・・。どうすんだよ。なんか俺、お前を好きになっちゃったみたいだよ。


比呂は自転車をカラカラと押して「どうする?帰る?もっと遊ぶ?」という。俺は黙るしかない。一緒にいたいけど、今の俺は動揺のせいかまともに歩けない。「乗れ。幸村」チャリにまたがって、比呂があごで自転車の後ろをさす。

「やっぱお前おかしい。家まで送る」

俺は黙ってチャリのケツにまたがった。

「プリンがでかすぎたかな・・」そんな屈託なく俺に話しかけるなよ・・。全部それが俺の心を刺激してくるんだよ。後二分もすれば、家に着く。どうする・・。このままじゃ比呂が帰っちゃう。やばい。帰らないでほしい。このままでいたい。比呂といたい。

「比呂っ!!」俺は声を上げた。いきなり叫んだから比呂が「うっ?」っといって、露骨に驚いた。

「なんだよ!びっくりすんだろが!」
「駄目だ!今は帰れない!」
「なんで!」
「兄ちゃんが女連れ込んでヤってると思うから」


「なにそれーーーーーーーーっ!!」


比呂の『なにそれー。』の『な』のあたりで、すでに俺らの視界には幸村家。比呂はそのまま、猛だっしゅで俺の家を通り過ぎてくれた。

「どどどどどどどうすんの!」「・・」
「お前帰れないじゃん」「・・・」
「俺んちくる?」「・・・でも」
「あほか!熱あるんだから寝ないと」「・・・」

「俺のベッドで寝ればいいよ」「?!!!」

熱があるからってお前・・・俺はお前におネツなんだと思うんだけど・・・。そんなの比呂が気づくはずない。結局俺は比呂の部屋で夜まですごした。

俺はベッドに寝かされて、比呂がそのそばで話をしてくれた。何の話かと言うと、比呂のバイト先の人の話だ。オーナーのオカマの人の武勇伝や、店長の秋山という人の恋愛論や、それがおかしくて笑っていたら、不思議とときめきハートは落ち着いていった。

なんだ。俺の勘違いだったか。ほっとしていたら、母ちゃんからメールが来ちゃって『今日はおねえちゃんの彼氏が来るから、夕飯すき焼き。早く帰れ』だって。勘弁しろよ、俺の家族・・。

そのメールにブーブー文句言ってたら比呂がケラケラと笑って、俺のデコを触りながら「熱下がった。じゃ、送る」といった。2人乗りの自転車。比呂の腰にぎゅっとつかまって、俺は自宅近くの公園まで送ってもらった。「さすがに兄ちゃんも、もう終わってるだろう」比呂はそういって、俺に笑いかけた。


そんな顔で笑うな。俺の大好きなその笑顔を今の俺に向けるな。「ありがと。昼飯、すげえ嬉しかった」「うん」・・・・最後の最後は結局そっけない。「じゃあまたあした!お休み!」そういって、比呂は自転車をのんびりこぎながら、帰っていってしまった。

・・・勘違いなわけないじゃないか。俺は自分の胸のあたりを、いつの間にか両腕で覆っていた。比呂の背中で温められたその部分を無意識に覆う。なんのために?そんなのわかってる。比呂から移った体温を逃さないようにそうしてるんだ。

今まで比呂からかけてもらった優しい言葉が渦のように押し寄せる。笑顔・・・声・・背中・・・。


どうしよう・・俺

ほんとにあいつを好きになっちゃった・・。

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2006/5/1 (Mon.) 23:20:15紺野比呂視点

朝、学校に行ったら、いきなり幸村に『もう俺はお前に甘えない』宣言をされた。

俺は遅刻寸前でダッシュで来たとこで、正直それどころじゃなかったんだけど、教室前でそれを言われ、返答に困っていたら、頭をバコっと叩かれて、誰かと思ったら先生だった。

「遅刻にする?放課後の手伝いにする?」
「・・・あ・・・手伝いで」

手伝いでも遅刻でもどうでもいいよ。幸村どうしちゃったんだろう。

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放課後。俺は『先生の手伝い』という名のお仕置きのため、工具室を片付けていた。今日一日を振り返ると、とにかくほんとに幸村がおかしかった。

笑えるおかしさだったらよかったんだけど、そっちの『おかしい』じゃなくって、教室の移動もひとり、飯もひとり・・あげく部活も休むとか言い出す始末。ちょっと心配で声をかけたんだけど「放っておいて」といわれちゃったから、俺は先生との約束もあったし「じゃあまた明日」といって別れた。

工具室を片付けてたら、佐伯が声をかけてきた。
「ユッキーは?」「知らない」
「あっそ。今日さ、部活やすみだから」「なんで?」
「体育館の床が抜けたって。だから修理」「?!」

俺は幸村のことが心配だったんだけど、佐伯がもってきた体育館の話の
インパクトがやばすぎて、数分そのまま話し込んでしまった。まあ体育館の床の話なんて最初の30秒ぐらいで、残りはこないだナンパした女の話だったんだけど。

工具室を片付けながら、先生に頼まれてた探し物をようやく見つけて、俺はそれらをダンボールに詰め、機械科の職員室に行くことにした。そしたら佐伯も「レポートださにゃ」といって一緒に行こうとかいう。

工具室を出て、鍵を閉めて、廊下の先をみてぎょっとした。そこにはいないはずの(いや、いてもいいんだけど)幸村がしくしく泣きながら立っていたからだ。

「あれは・・・泣いているのかな?」「・・・」
幸村は泣き虫だけれど、他のやつの前では、まず泣かない。そしたら佐伯が気をきかせて「俺、先にいくわ。荷物どうする?持ってこうか?」といってくれた。だから俺「いいよ、幸村と話しながら持ってく」といい、佐伯のケツを蹴飛ばした。

「いてえ」っていうと、佐伯は俺の背中に蹴りいれて走り出す。そんで幸村を追い越すときに「ユッキ、今日部活休みだからね」と肩をたたいて階段を上っていった。

うーん・・・。何で泣いているんだろう。この場合・・『もうお前には甘えない』宣言された俺としては、何もいわずに立ち去るべきなのかな・・・。


考えても考えてもわかんないから、なんとなく立ち尽くす俺。泣いてる幸村を通り過ぎて何も言わずに立ち去るとか・・・それじゃあ無視になっちゃうもんなあ・・・。

そしたら幸村は本泣きしだして「比呂・・比呂・・」とかいいだした。よしよし。俺が必要なんだね。俺は幸村に駆け寄った。

**********************************************************************************『比呂を想う』幸村那央視点


考えてみたら俺はずっと、比呂のことが大好きだった。恥をかくのが大嫌いなはずなのに、比呂と会うためならなんだってした。

朝イチ電話してみたり、知らない人だらけのバイト先にいったり・・他の人らにはそんな事、大したことじゃないかもしれないけど、俺にとってはそんな行動、本当は許される行為じゃないんだ。

『いいやつだ』と思う奴はいっぱいいる。でも『好きだ』と思うのは比呂だけだ。それに気がつくのが遅かった。俺は今までの自分の行動に軽くひいた。

だから一晩寝ないで考えて、比呂と距離を置こうと考えた。頭を冷やさないといけないじゃん。絶対この感情はおかしい。男同士だから・・っていうんじゃねえよ?そんな小さなことじゃなくてさ・・久々の友達関係に、浮かれすぎてるのがやばいってことなんだ。

なにをどう考えようと、俺にとって比呂は特別だ。ああいう人種との出会いは初めてだし、本当に大好きだなあと思う。でもその『好き』じゃない。絶対違う。他に友として『好き』だと思える奴がいないから・・だから比呂に対しての好意を・・なんか・・誤ったとらえ方しちゃってるんじゃないかって・・・

いや、そんなの別にどうでもよくって・・

俺が問題にしてるのは、そういう俺の変な態度が、比呂を遠ざけたら困るってことだ。せっかく仲良くできてるのに、今の俺は変にあいつを意識しちゃうじゃん。つまんない話とかをして、嫌われたらどうしようって・・・

俺があいつをどういう意味で好きだとか、今はそんなこと関係ない。俺、本当に、比呂をろくに見ることも出来なくなっちゃってるんだよ・・・。だから『お前には甘えない』って・・ばかげた宣言しちゃったんだけど・・。

たった数時間で挫折した。比呂がそばにいないのは寂しかった。で、『甘えない宣言』を撤回しようと慌てて比呂のあとを追ったら、佐伯に先を越されちゃったんだ・・・。

問題を抱えてる時にかぎって、神様は俺の味方になってくれやしない。裏目に裏目にでてるよなって・・、悲しすぎて俺は泣いてしまった。ガラっとドアが開いて、佐伯が比呂の肩に手をかけた状態で俺の視界に入ってくる。

すごく楽しそうに笑ってる。だめだ・・。比呂はもう俺んじゃない。

そしたらそんな俺を見て、佐伯がさっさとどこかにいって、比呂が黙って立ち尽くしている。緊張した。すごく緊張した。あれは比呂なんだけど、今までとは俺の中で絶対的に価値が違う。だから気力を振り絞って名前を・・名前を呼んだ。思えば今日は、比呂って呼んでなかった。


そしたら比呂が、駆け寄ってきて「・・・・大丈夫?」って言ってくれたんだよ。

・・・お前のその声が優しすぎるから俺はお前を・・・。

・・・こんな精神状態で、口開いたら何言うかわからない。だけど言わなきゃ・・。大きく息を吐いて俺は「ごめんな」と謝った。言葉と一緒に涙があふれる。そしたら比呂は「いいよ、そんなの」って困ったような顔で笑ってくれた。それで俺に言うんだよ。「今日はつまんなかったよ。お前と話ができなくて」って。

ぎゅーっと胸が締め付けられる。ああ駄目だ。これはもう・・俺の抱く『好き』は恋以外のなにものでもない。俺はそれに気づいてしまったことがあまりにショックで、ただただずっと泣くことしかできなかった。

比呂はね。あの通り、頭のネジの足りないやつだから、そういう俺の変化に気づいてくれない。機械科職員室までの階段。比呂に背中をさすられながら一段一段のぼる俺は 、ひっくひっくと泣くしかなくて・・・・だけど比呂と話ができたことが、単純に嬉しかったし・・ もっと話していたいって思った。

ほんと俺、まじですくえない・・・。どーすればいい・・・。どうすれば・・・。

Post at 23:59

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2006/5/2 (Tue.) 08:14:38幸村那央視点

今日から6月の体育祭にむけて、クラスでムカデ競争の練習が始まった。一年生の恒例競技で、今朝は雨がぱらついてたから、教室前の廊下でやることになった。そしたら佐伯のクラスも、練習を今朝から始めるらしい。

「こんにょ・・・」「・・チャーリー・・ごめん・・忘れた」「なんだと!」佐伯と比呂が、二人にしかわからない会話で、火花を散らし口げんかしたあと、それぞれクラスの輪に戻り、練習を始めたのだった。
 
「どけよ!」「あっちいけ!ばか!」「おい紺野、頭からネジおっこってんぞ」「黙れ」

佐伯と比呂の頭弱そうな言い争いを聞きながら、1組と2組で廊下を奪い合うように、ひしめき合ってムカデ練習をする。最初は、だるかったんだけど、やってるうちに楽しくなって、時間はあっという間に過ぎた。30分のムカデ練習のあと、朝練組はそれぞれの部活に向かう。

バスケ部は学年ごとのストレッチだけだったから、そのまま廊下で一年だけでやった。当社比3倍速でストレッチを終え「じゃあ放課後」といい、教室に戻る。


俺は比呂の袖を引っ張って、音楽室の前まで連れて行った。音楽室の前は、人がほとんどいないから助かる。昨日の俺は泣くばっかりで、比呂に何一つ謝れなかった。今日は謝らないと・・・。

「昨日はごめん。・・変な宣言をしたりして」
「え、いいよ。なんか理由があったんでしょ?」
「・・・うん」
「じゃあしょうがないよ。いいよ。もう」
謝罪は数秒ですんでしまった。そして俺は猛烈に葛藤をする。告白すべきか。言わずにおくか。好きだといいたい。だけど・・・。

比呂はせかさない。俺がぐずぐず泣き出して「あのさ・・」を、何度繰り返しても、比呂はちっともせかさなかった。・・一瞬のうちに、俺は必死に二択の答えを自分に迫り、・・・・その結果、安定を選ぶ。

「ごめん・・・ごめんね・・。本当にごめんね・・」
涙がどばーっとでた。

「え、待って・・。泣くほどの事じゃないじゃん」
「・・・・・・」
「まあ・・たしかに俺も結構ショックを受けたから・・謝ってもらえてすっきりしたけど・・」
「・・・・ひろ・・」
「あんな宣言嫌だから、もう二度とするなよ」


その反応が、どうにも嬉しい。『別に気にしてないよ。』とか言われちゃってたら、俺はほんと立ち直れなかっただろう。比呂が俺の肩をばしばしとたたく。「時間あるから、コンビニいってなんか買おうよ」「うん」俺は涙を拭いながら、ほっとしたような後悔してるような、そんな複雑な感情に支配されていた。

教室に入って、財布を取って、職員室の前を通り過ぎたら「お前らサニマにいくの?先生のたばこ買ってきて!」って、加茂橋先生に呼び止められた。
比呂が先生から金と、タバコの銘柄かいた紙を渡される。「店に電話して、ちゃんとわかるようにしとくから。あ、つりで飴でもかっていいから」「飴ぇ?・・・先生、俺らガキの使いじゃねえんだけど」そんなことをいう比呂の腹を、先生がくすぐって比呂完敗。先生のおつかいを引き受けた。

「くすぐりゃすむと思いやがって!」小学生みたいなボヤキを繰り返しながら、たらたらと歩く比呂の後ろを追った。「パシリすんのは別にいいけどさー、生徒にタバコってどうなの?あの人」比呂がけらけらと笑うから、俺は黙って、こくりとうなずいた。

突然、歩くスピードをゆるめた比呂が俺の顔を覗き込む。
「・・何でもおごってやるから、泣きやめよ。な?」
そういって比呂は笑った。


お前にはきっとわからないよね。だってお前は紺野比呂自身だから。お前の優しさは、すごく普通っぽいけれど、他人のそれとはまるで別なんだよ。

少なくとも・・俺にとっては・・

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2006/5/2 (Tue.) 23:59:43紺野比呂視点

今日は朝から体育祭のムカデの練習とかがあって、最高に健康的な一日だった。バイトあと、前にナンパして一夜ともにした女子大生のお姉さんが、
明日から一年留学するとか言うからヤリッぱなしってのもあれだし・・って思って、飯くいにいって互いを労った。

俺が明日から休みだって話したら、その人も出発が遅いらしくてラブホ行こうって誘われたんだけど、最近俺、睡眠不足で、眠くて仕方なかったから、正直にそういって断った。『比呂は子供みたいね。』って頭を撫でられた。

なんか・・男としてなんか・・・って感じだったけど・・でも本当に眠すぎて辛くって。なんだったんだろ、あの眠さ。まじでやばかった。過去イチかもしれない。

で、何とか家に帰ってきて、そしたらおじちゃんが酒を飲んでて、俺はこの人とはあまり話をしないんだけど、なんとなくおじちゃんのそばに座った。
「比呂がそんな風に俺のとこに来るなんて珍しいな」
「・・・・」
「・・たべる?うまいよ?」
おじちゃんがスルメを裂いてくれた。俺はそれを食べながら、・・確かにおいしいって思った。

で、風呂に入って、服を着て、歯を磨いて、髪の毛は濡れたまま歩いてたら
居間に昨日出した扇風機を発見。その風で髪を乾かすことにした。扇風機の前に座って、スイッチ入れて時計を見た。まだ23時だとか思いながら、はっと気づくと、手品のように30分も過ぎてた。

びっくり。

髪は乾いてたんだけど、すげえ寒くて体が冷たい。扇風機止めて、おじちゃんらにお休みって言って、二階に上がってマフラーをした。

んで、やっと念願のベッドに寝転ぶ。今日一日・・マジでここが恋しかった。眠りに落ちる寸前、『あ・・俺・・半そでのまま寝ちゃってるや』と思ったけど、今更、起きるのも面倒だから、布団に包まって寝ることにした。

きもちいい・・・。布団を考えた人はすごいよね。あーだめ。もー限界。と思ってたらいきなり携帯がなる。佐伯麦だったら無視しよう・・・そう思ったんだけど、よく見たらそれはメールだったらしく、相手は幸村かららしい。

最近あいつはちょっとおかしいから、一応文面を見ることにした。

『こんにょ。昨日はまじごめん。俺はお前が大好きだ。だいだい大好きだ。なお』

なおって誰だ?・・・ああ、幸村か。

眠すぎで頭がぐらぐらしてる。時間を見たら24時近い。この時間のメールだ。あいつのことだから悩んだ末に送信したんだろうなって思う。俺は幸村に電話した。あいつ、ワンコールで出るからこっちの心の準備が間に合わない。
『比呂!俺!俺だよ!』
「(・・・わかってるよ。)メール見た。ありがとう」


そしたら幸村が一瞬黙って『何がありがとう?』とかきいてくる。だから俺は「何度も謝ってくれてさ。気を使ってくれて」といった。

幸村は超低音で『そっちかよ。』とぼやいた。

・・・・・そっちかよ?

『ねえ比呂』
「ん?」
『もう寝るの?』
「うん。寝る」
『じゃあ日付変わった瞬間に寝ようよ』
「ああいいよ」
『俺もそのときに寝るから』
「ああ」
『そん時俺におやすみっていって。俺もお前におやすみいうから』
「え?電話で?」
『ううん。心で。』
「心?・・・ああ、心か。わかった」
そんな約束して、電話を切った。

不思議なやつ・・・。俺は携帯をぱたりと閉じる。日付変わるまであと何分?あ、やばいもうすぐだ。おやすみちゃんといわないと。

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最近地震が多いな。静岡。昨日もすげえ揺れた。一瞬だったけど。あんまりでかい地震が来ないで欲しい。 一揺れごとに比呂の頭のネジが落ちる

昨日は俺、決死の覚悟で告白メールを送った。誰にかと言うと、昨日、友人の佐伯麦に 『貸してくれ』と頼まれた『チャーリーとチョコレート工場』DVDを、持ってくるのをすっかり忘れ 佐伯に文句言われたら、逆切れして大騒ぎだった黒髪のあの人に・・だ。

2時間くらい悩みに悩んで、決意してから1時間。俺は携帯もったまま、覚悟がきまらず、日付が変わる直前に、メールを比呂に送信した。

『だいだい大好きだ』

という、こっぱずかしい文章を送信してしまった瞬間、メールを打ってたときのラブリー気分はぶち飛んで、送らなきゃよかった送らなきゃよかった送らなきゃよかった・・の無限地獄にぶち落ちた俺。後悔すること山の如しで・・・でもそしたらすぐ、比呂から電話がかかってきた。

電話に出たら、あいつなんか露骨に驚いたんだけど、でもすぐに俺にお礼をいってくれたんだよ。告白したことに対して『ありがとう』といわれたら、OKサインか?と思うじゃん。でも念のため『なにが?』ときいたら、俺が先日の失態に対してわびたことについてだった。

・・・・そっちかよ

俺は若干意気消沈したが、どうも比呂の様子がおかしい。声がかすれてるし、なんか『はあ~・・。』とか、『くすん』とかいうキュートな副音声が聞こえる。眠くて限界なのかもあいつ・・・。

だから俺、前からの憧れ『時間指定で互いにおやすみ』を提案した。そしたら比呂は、あっさり『いいよ。』と承諾をした。くっそ、素直な比呂も最高にかわいい。

じゃあ日付かわったタイミングにって約束して、俺は電話を切り、23時59分50秒からカウントダウンして、0時きっかりにお休みを言った。もちろん心で。この、紺野比呂にお熱なときめきハートでね!!

見た夢は最高ハッピーだったよ。紺野の隣で大盛りのシーフードパスタ食ってたよ。紺野はファンタをバケツで飲んでたよ。

あーーかわいい・・。夢の中でまでかわいい・・こんにょ・・・。

Post at 07:34

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2006/5/3 (Wed.) 23:36:29幸村那央視点

比呂が俺んちに泊まりにきた。正確に言うと泊まりに来てもらった。だって今日うちに誰もいねえんだもんっ!!!両親は、親戚の人らの集まりで北海道にいっちゃったし、兄ちゃんは女とワイハ。ねえちゃんは、彼氏とマカオ。なんでみんな俺を置いていくんだよ!!

だから俺、急に一人ぼっちで、夜とか怖いから比呂に助けを求めたってわけ。そしたら『いいよ。』って言ってくれた。『家族全員、本州留守にしてるってすごいね』だって。

バイト帰りだから22時過ぎになるっていうから、風呂の支度だの夜食の準備だの、超かいがいしく働く俺。ただの友達ならそこまではしないが、なんてったって、相手は比呂。好きな男のためならば、なんでもしたい。

そうこうしてたら、比呂が来た。2泊してもらうから結構な荷物。手土産がケーキとエロビデオだった。明日佐伯に返さないといけないんだって。風呂は家で入ってきたみたいで、部屋に入ったら部屋着に着替えた。いきなり俺の前で脱ぎだすからマジで焦る。・・・意識する俺のほうが変なんだけど。

「ねえ。シチューくう?」「え?!」「夜食につくった」「うそ!すげえ」比呂は、食べるって言ってくれた。だから俺、台所にいって、シチューあっためて、ついでに飲み物入れて二階にあがった。

すると、比呂が俺の部屋のソファーで眠そうにしてる。バイト上がりのこの時間、疲れてるよなあ・・。俺のベッドはソファーベッドで、寝る前はソファーにしてあるんだけど、そこにクッションを置いてね、ぽーーーっとした顔してかわいい。眠いのかな・・シチューどうしよう・・とか思ってぼさっと立ってたら比呂が俺に気がついた。

「やったー・・ありがとう・・。うれしい」だって。俺の心、どきどき。俺はテーブルにそれらを並べ、スプーン渡し、エロビデオをセットしてやった。生涯初めてエロビデオを見る。しかも初恋現在進行中の子と一緒に。更に言うと料理だって、中学の時の家庭科以来だ。もう俺今日は、具沢山で大変ですよ。

比呂は、ビデオ見ながら、シチューを食う。『あったかい。おいしい。』とか言いながら人参だけは俺の皿に入れてくる。エロビみながらシチューを食う比呂は、なんかいつもの比呂と違う雰囲気。いや、実際比呂はいつもどうりなんだろうけど、俺が勝手に意識してしまってるんだろう。

二人きり。俺の手料理。エロビ。けだるそうな比呂。俺は比呂のその姿に、妙に『男』を感じてしまう。俺も男だっていうのに、なんか・・変に・・こう・・あれだった。

そしたら比呂が、ビデオを止めた。「駄目だ。つまんない」と言ってビデオを止めた。「こういうの、好きじゃねえの?」と俺は聞くと「演出がくどいのは好きじゃない」と比呂は言う。

・・・ふーん・・。やっぱそういうのも好みってあるんだ・・。俺は、シチューを口に運んだ。

・・・・・・・。

う・・・うす!!!!つか、まずい・・・。あれ?!なんで!ちゃんと箱の説明見て作ったのに。でも比呂はもうちょいで全部食べ終わる。無理して食べてくれたのか?「ごめん!比呂!これ、不味いよな!」慌てて俺がそういうと、比呂は鳩が豆鉄砲みたいな顔で俺を見た。

「え・・美味しいよ」「そんな・・気を使うなよ!」
「・・・別に俺は」「残しなよ!ごめんごめん!」
「お前それ、食べないの?」「だってまずいじゃん」

すると比呂は俺の皿を自分の皿と取り替えて「じゃあ食べていい?俺、こういうの好き」といった。俺のシチューからにんじんだけをより分けて、ほとんど空になってた自分の皿にのっけると、比呂は俺の分も綺麗に食べてくれた。

・・一階に降りて食器を片付けて、歯を磨いて顔も洗って、俺らは二階に二人で上がった。ソファーベッドに俺が腰掛けたら、比呂がクッションを俺の腿にのせる。「眠い。10分寝てもいい?」っていうから俺は「いいよ」といった。

そしたらほんとに、比呂のやつ、俺の腿の上でくうくう寝てる。かわいい寝顔。すごい小さな寝息。じゅ・・10分って・・・。


10分もこの幸せ堪能していいのかっ?

**********************************************************************************『もー駄目だ。大好きだ』幸村那央視点

泣きたい。すげえ泣きたい。

比呂が俺の足の上でさっきまで寝ててさ・・。10分したから起こしてさ、寝ぼけてる比呂を床に座らせて、ソファーベッドをベッドにして、んで比呂をベッドに寝かせたんだ。そしたら、すげえ幸せそうに寝るんだ。俺の枕に顔摺り寄せて。「あー・・好き。俺、布団と結婚したい」っていうんだ。俺はそんな比呂が、好きでたまらねえよ。

シチュー失敗を納得できずに、さっき台所でシチューの箱見たら、俺、(牛乳もしくは水○○CC)ってとこを、(牛乳・水を各○○CC)と勘違いしてたって気がついた・・。そんなもんマズイに決まってる。それなのに比呂は、全部食ってくれてさ。『俺、こういうの好き。』だって・・・。『あったかい。おいしい。』ってさ・・・。

目の前でくうくうと眠る比呂。 俺は、比呂の手を握ったよ。比呂の手の甲に、頬ずりをしたよ。 比呂はちょっとだけ、目を開けたけど「ごめん・・眠い・・。明日話しよう」とだけ言って、また眠ってしまった。

大好きだよ・・・。困っちゃうくらい、こいつが好きだ。

手首とかが骨っぽいとことか、運動神経いいとことか、変なとこで短気なとことか、笑い方があかんぼみたいなとことか・・。生傷絶えないとことか・・にんじん食えないとことか・・・俺の作ったまずいシチューを全部、うまいって言いながら食ってくれたことだとか・・・


・・・比呂・・多分・・・・俺の人差し指のばんそこに・・・気がついたんだとおもう。ジャガイモ切ってるときに、指をちょっとだけ切った。比呂には見せないようにして、知らん顔していたんだけど、シチューの皿を片付けるときに、比呂が言ったんだ。

「しみるだろ?俺が皿洗う」

あんなに眠そうにしてたんだよ。それがパタッと起きて、シチュー食ってくれてさ・・。その間、俺のばんそこには、何一つ話題をふらなかったのに、その一言だよ。しみるだろって・・一言だよ・・。 やだもう・・俺・・。比呂が大好きだ。

中学時代にイジメにあってて、クラス中からシカトとかされてたから、だからきっと、その反動で比呂の優しさに惹かれてしまったんだと思ってた。でも違う。でも違うんだ。 ほんと違うんだ。こいつの優しさは。

比呂は俺に特別な感情なんか持ってないと思う。でも優しい。俺の過去の事情を知ってるから、ちゃんと特別扱いしてくれる。贔屓をしてもらえるから俺は、いつでも不安にならずにいられる。


そういう配慮に体ごと、引き込まれてしまうのはどうしようもないじゃん・・・。


しみるだろ・・って・・。ああそうだよ。
しみるよ、めちゃくちゃ。しみて死にそうだ。
お前の顔も声も優しさも、全部愛しくて心にしみるよ。

Post at 00:19
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2006/5/4 (Thurs.) 09:03:08幸村那央視点

昨夜は比呂が俺の部屋に泊まって、同じベッドで眠りについた。すくすく育った男子二名で寝るのに、ひとつのベッドは若干狭い。どさくさに紛れて比呂に抱きついて眠る。呼吸困難で死にそうだったよ。

夜中の二時頃、ふと目がさめたら、俺は比呂に抱きしめられるような格好で寝ていたことに気がつく。大好きな比呂の長いまつげが目の前に・・。それに気づいちゃったら、どう頑張っても眠れない。

好きになってしまった友人に抱きしめられ、俺はヤリたい衝動にかられ、比呂の服に手を滑り込ませた。背骨をすうっと指で辿った。やばい・・。どうしよう・・。したことないのに、先に進みたい。

手を比呂の胸元に移動させる。腹筋とかがすげえ男っぽい。こないだの体育を思い出した。懸垂してるときの比呂の二の腕。見た目細いのに、筋肉とかちゃんとしてるんだ。俺は滑り込ませた手を服から出して、今度は二の腕にそっと触れた。ひじの骨。手首。指先。手のひら。そのとき思った。

・・・・俺、比呂に体中を触られたいって。

・・自分のその願いに愕然とした俺は、ベッドを抜け出し台所にいく。自分の考えが気持ち悪くて、水を飲んでため息を吐いた。熱くなった体は自己処理をした。

部屋に戻ると、比呂がベッドから上半身だけ落ちた形で寝ていた。そういやこいつ、最近成長期みたくて、寝相がやたら悪いとか言ってた。だから俺、比呂をベッドに戻して、壁際に寝かせて、そんで俺もベッドに戻り、床に落ちないように比呂を抱きしめた。

一発抜いたあとで、頭はすっかり冷静だ。

比呂のつむじに顔をうずめる。出会ってまだ一ヶ月。最初は嫌なやつかと思ったけど、数時間でこいつの魅力を知った。一週間もかからないうちに、俺は比呂の優しさに溺れて、恋愛の息苦しさに気がついたら、もうそこから逃れられない。

結局俺は朝まで寝つけなかった。

6時ごろ、比呂が目を開けた。俺に抱きしめられてる状況に、しばらく比呂はボーゼンとしていた。でもどうやらそれは単に寝起きが悪かっただけらしく、ちょっとしたら「おはよ」と声をかけてきた。

俺も「おはよ」と声をかけた。

朝飯買いにコンビニ行こうって言われたけど、俺、また勃っちゃって、布団から出たくない。「頭・・・痛い・・ 」と仮病を使った。比呂は律儀に心配してくれた。

コンビニには比呂が行ってくれた。まあでもあいつもそれなりにアレだったんだと思うけど・・。朝勃ちのことまで、考えてなかったよ。思春期なんか来なきゃいいのにと思った。

比呂がコンビニから帰ってきて、ベッドに腰かけ俺に笑いかける。「大丈夫かい?幸村」・・俺はそれに頷いたけど、全然大丈夫じゃなかった。全然大丈夫じゃないんだよ。

比呂は「この辺って、いいねー。自然多くて。朝は一番いいね」という。気持ちいいからコンビニ行くのに遠回りして走ってきたんだって。俺も一緒に行けばよかった。小さなことなんか気にしねえで。だけど、小さいことも、なにもかも、俺にとっては大問題なんだ。比呂に自分自身がどう見られるのか・・今の俺にはそれが全てだから。

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2006/5/4 (Thurs.) 12:54:13紺野比呂視点

幸村のとこに泊まった。家族みんないないから来てって言われて。俺は、その時めちゃめちゃ疲れてて、断る体力も気力もなかったから、いいよって言っちゃったんだ。

そしたらあいつ、シチューを作ってくれて、それがすっごくおいしくてさ。
ふと目をやると、幸村の指にばんそうこう。友達のためにそこまでしてくれるなんて、まじでいいやつだなって思ったよ。

朝目が覚めたら幸村が頭痛いとかいうから、朝飯買いにひとりでコンビニにいってみた。あいつんち近所は森や林が多くて、気持ちいいから普通の格好のままだけどジョギングしてきた。コンビニから帰ると幸村はまだ寝てて、今日はバイトは午前だけで午後は暇だから、看病でもしてやろうと決めた。シチューのお礼だ。なんとなく。

幸村に「バイトの帰りに昼飯かってくるね」といい、俺は出かけた。

9-12時の勤務は短時間だけど、開店準備とかで忙しい。GW中だからかな・・午前は客もまばらだったから、俺は何とか時間通りにバイトを上がることができた。

帰り支度を始めたとき、前に何度かヤった事がある人からメールが来た。
でかいクモがいて怖いから助けてだって。かわいいよね。俺こういうのに弱い。幸村の家に行く途中に寄れる場所だから、今から行くってとりあえず伝えた。怖がってるし。

一応心配だったから、幸村に電話を一本入れる。「知り合いの女の人のとこに寄ってから、お前んちいくけど、昼飯何が食いたい?」って。そしたら一瞬黙った後『いいよもう。こなくって』って言われて、そのままブツっと電話を切られた。

・・・・・・・・。

女の人のとこでクモを外に逃がして、そのまま俺は幸村んちに向かった。昼飯どうするか迷ったけど何を食いたいのか聞けなかったし、なんか色々と状況がよくわかんないから、事情を聞いてから二人で買いに行けばいいか―って思って幸村のとこに戻ることを優先した。

幸村んちについて呼び鈴を鳴らすと、あっという間に幸村が出てきて、「おかえり」って何度も何度も俺に言うんだ。すげえ泣いてて目とか真っ赤で。


・・・・・時々。

幸村見ていると時々ね、こいつ大丈夫かなって思う事がある。中学の時によっぽどつらい思いをしたんだろうけど、それにしたってやっぱりなんか・・・普通の友達とは違う。怖いなって思ったこともある。接し方に悩むことも多い。

悪い子じゃないよ。それは絶対そうなんだけど・・・・・。

「もうきてくれないと思った」っていわれたから、俺は「そんなわけないじゃん」って言って笑った。「何食いたい?」って何度聞いても、ぐずぐず泣いて返事をしない。

・・・はあ・・・どうしたのかな、幸村。頭いい分、俺に見えない世界まで見えちゃって、不安になるのかな。こいつは人の3百倍は、世の中に気を使って生きてるし。

・・今日は時間もたくさんある。昨夜の食い物の残りで昼をすませてもいいや。相手のことがわからなくなったら、話すに限る。これは死んだ父親が教えてくれた。

幸村とちゃんと話してみるよ。俺は玄関をパタンと閉めた。とりあえず、俺は腹が減った。昨日のシチュー、まだ残ってるかなー。

*********************************************************************************『大喧嘩をした・・』幸村那央視点

比呂と大喧嘩をした。昨日から比呂は俺んち泊まってて、俺は最高に恋愛モードで、 今日は午前中あいつはバイトだったんだけど、『昼に飯買ってかえるから。』なんていうから、 ときめきまくって待ってたのに、電話がかかってきやがって、『知り合いの女の人のとこによってから帰る』なんていう。

・・・・は?・・・・・女?なんで?なんでこんな時に?

楽しみにしてた分、余計に俺は頭にきて『もう来なくていい』って電話をぶちぎって泣いていた。そしたら30分ぐらいで、比呂が帰ってきてくれて、来てくれればやっぱ嬉しいし、そしたらもっと涙とまらずで玄関でわんわん泣いてたら、比呂が手をつないでくれて、部屋に上がってベッドに座らせられた。

比呂が俺の顔をじっとみる。あの目で。俺の好きなあの目で。そして俺に優しい声で「どうしたんだよ」って聞く。俺は泣きながら「ごめんね」といった。自分が悪いことはわかってたから。

その時、比呂の顔つきが変わった。イラっとした顔をしたんだ。
「それって答えになってないよ。俺はお前が泣いてる理由を聞いてんだけど」
「そんな・・それは俺の勝手で泣いただけ・・」

なんか‥いつもと違う声・・

「・・・理由言えよ。理由を」
「俺が悪かっただけ、ごめん」
「謝れなんて言ってない。何で泣いてんの?なあ?言って」
「・・・・いやだ」

そしたら比呂が、ブチぎれた。「言え!」 ・・・俺を怒鳴りつける比呂は本当に怖かった。俺はぼろぼろと泣きながら、がたがたと震える。比呂が怒った・・。 あんなに優しい比呂が怒った。 俺もう駄目だ。そう思った。そしたら比呂がため息ついた。

「・・・・何で泣いた?」「・・・」
「黙ってたってわかんないよ」「・・・」

「俺はずっとお前に泣かれんの?お前の友達でいたらずっと」

そういう比呂の声はすごく優しい。うな垂れて泣く俺の頭を、そっと撫でてくれる。俺は相変わらず返事ができない。

「・・俺は正直、お前が怖いよ。わけのわかんないことで怒るし、泣かれるし、拗ねられるし。何が嫌で泣くのかとか・・怒るのかとか・・そういうのがわかんなかったら、俺はお前に何もしてやれないよ。俺はお前にそうやって、わけもわからず泣かれるのが嫌なんだよ」

「・・それは・・」
「・・・何?」
「もう俺なんかの友達やめたいって事?」
「・・・・・そういう極端な事を言うなよ」
「・・・俺のそういうとこが嫌いなんだろ!!一緒にいるのがうっとおしいんだろ!」

俺もなんだかぶちぎれた。俺だって比呂にいいたいことはある。
「俺はっ・・俺は比呂の一番の友達でいたいんだっ。なのにお前はみんなと仲いい。女遊びもしまくってるし、八方美人で超むかつく」
「・・・は?」
「ふざけんな!美味くもないシチュー食って、うまいとか言ってバカじゃん!うそつき!!」
「・・・・・・・」
「嘘で褒められてもつらいだけだっ・・結局女のほう優先じゃんか・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・うっ・・・」

好きだという感情以外を全部怒鳴り散らしたら、急に体の力が抜けて、さっきとは別の類の涙が出た。俺がまた泣き出したら、比呂はもらい泣きみたいになって、俺の頭をはたいたけど、叩いたあとすぐに俺の頭を撫でる。優しい・・。結局こいつは優しい。


「あのさ・・幸村・・・」
「・・・・・・」
「そんなのが・・理由?・・・俺は嘘もついてないし、お前を後回しにしたつもりないよ?」
「・・・・・」
「勝手にそんな風に考えて、それで泣いてたって事?」
「・・・・・・・。」

・・・・・勝手に考えたわけじゃない・・・理由を作ったのは比呂じゃん・・そう思って睨もうとしたら、比呂が疲れ果てたように目を閉じた後、顔を上げて俺を見た。


「・・わけもなく泣かれんのはもうヤだし、勝手に疑われても困る。泣かれるたびに理由を考えてきたけど・・全然わかんないことばっかだよ・・」
「・・・・・・」
「男が泣くって・・あんま無いことじゃん。お前がイジメにあってたのは知ってる。だけどもうさ・・今は俺も斉藤も麦もいて・・イジメなんか存在しねえじゃん。忘れられないつらい事は確かにあるのかもしれないけど、だったらそれを話してよ。理由もわからず泣かれて俺・・ほんと困る・・・・」

比呂の目から涙が落ちた。ズキッと胸が痛む。 俺のせいだ・・俺なんかの友達になったせいで・・・。


「もう俺の友達やめなよ」「・・・・・・」「お前には友達いっぱいいるし・・俺いなくたって・・」「・・・・そういう極端なことを言うなっていってんだよ俺は」「・・・」

思わず言葉を飲む俺に、比呂は言った。

「お前がそういうことしか言わないから、何一つ解決しないんだろ」

・・・図星を・・・突かれたと思った・・・・。

「中学の時のイジメが悪いんなら、俺が全部その話を聞くよ。でも最近お前が泣くのはあれだろ?俺のせいだろ?それぐらいわかるよ。でも自分の何がお前を泣かしてるのかが全然わかんないんだよ。自分で自分の何が悪いのかわかんないから、こうやってお前に聞いてるのに、八方美人だとか女が優先とか・・俺はそんな理由でずっとお前に泣かれてたわけ?性格のことで勝手に泣かれて友達やめるとか言われてんの?俺」

・・耳が痛い・・。

「俺の性格が無理なんだったら友達なんかなれないよ。俺は幸村嫌いじゃないけど、お前は俺の性格が嫌で何度も何度も泣いてるってことだよ?それってもう嫌いなのと一緒じゃん」
「嫌いじゃないよっ・・。大好きだよ・・。性格が理由で泣いてるんじゃないよ・・」
「じゃあ泣いてる理由は結局なんなんだよ。ほんとに俺は心配してんだよ。ちゃんと話してほしいんだよ。友達やめるとか言われちゃったら、そのあとに言葉が続かないじゃん。 わかって欲しいと思うなら言えよ。俺だって言いたいことは言う。今のお前は好きじゃない」

・・・・・俺は比呂の顔を見た。前髪で隠れて目元が見えない。でも頬には涙がぼろぼろと流れてる。

「俺は・・比呂が・・大好きだよ・・・」

そういうので精一杯だった。

そしたら比呂の腹がなった。比呂が自分の腹をさすって「・・気が抜けて・・・・腹減った・・」という。俺に嫌われてないと知って、少し安心したんだって・・。

バイトで疲れてる比呂は腹ペコらしく、とりあえず昼飯を食うことにした。そばにあったチラシを見て、ピザをとって二人で無言で食った。ピザにのってた海老を、何もいわずに俺エリアのピザに乗せてくれる比呂。食ったら食ったで比呂は黙ってベッドに倒れこんで眠ってしまった。三時間くらいたったけど・・比呂はまだ起きない。時々くすん・・と泣いたりしてる。どうやら夢も最悪みたい。

比呂が起きたら話をしようと思う・・。あんなふうに感情をぶつけてくれた友人は初めてだ。恋愛感情とかそういうの以前に・・俺はこの友達をを大事にしたい・・。怒鳴られてさ・・・怒鳴り散らされたのにさ・・俺は嬉しくてたまらないんだ・・。あんなに色々言ってしまったのに、まだそばに・・いてくれる。


ちゃんと向き合おうと思う。失いたくない。絶対に。

Post at 17:33

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2006/5/4 (Thurs.) 23:19:30幸村那央視点

昼間派手に大喧嘩して、比呂はピザ食ったら寝てしまった。俺はそんな比呂の寝顔を見てたんだけど、あまりに比呂が長いこと寝るから、気づいたら横で眠ってしまった。

先に目が覚めたのは俺だ。時計を見たら7時をまわってて、一瞬朝かと焦ったけれど、外見たら暗いから夜だとわかった。比呂を起こした。叫び散らして泣いた後だから、熟睡してしまってたらしい。ぼんやりしてなかなか目覚めない。だから風呂に入ったらと言った。「一緒に入ろう」といわれた。

せまい風呂に二人で入った。比呂の裸を見て興奮しちゃうかと思ったけど、照れて直視できなかったから、結局無駄な心配で終わった。髪が濡れた比呂。泣いたからなのか、左目が一重になってた。「左目が一重になってるよ」というと「うん。たまに目が変になるときある」と比呂は笑った。

沈黙。俺は自分のひざ小僧にあごを乗せながら湯船に浸かった。比呂は足を軽く開いた胡坐。はあってため息をついたあとに「まだノドが変」といって笑った。さっきはごめんと言うかわりに『さっきはありがとう』と俺は言った。謝るよりもまず先に、礼を言うべきだと思ったから。

そしたら比呂は首を振った。そして黙ってる。「話があるよ」と俺が言うと、「うん」って比呂が頷いた。

どこまで話すかわからないけど、ちゃんと思ったことを言おうと思うよ。まだなんか比呂は寝ぼけた感じだから、頭からお湯をざばーっとかけてみた。

**********************************************************************************『積み重ね』幸村那央視点

比呂と話し合った。 風呂から出て、歩いて2分の自販機でジュースを買って、比呂はタバコを吸って 部屋に戻り、ベッドに二人で座った。比呂が選んだジュースが、お約束のようにファンタだったから、俺はなんだか緊張が解けて、なんとなくちゃんと話せそうな気がした。

「俺さ・・」
「うん」
「形あるものはいつか壊れるっていう考え方が、根底にあるんだ」
「・・・」
「だから・・今はお前と仲良くできてるけど・・環境が変わったらきっと駄目になるって思っちゃって・・・」
「・・・・・」
「比呂と二人だけであれこれしてた時はよかった。でも部登録して佐伯が入ったら、比呂がとられちゃうって思って」
「・・・・・」
「斉藤が一緒につるむようになったら、俺だけつまんない人間に思えた」
「・・・」
「俺の世界が広がれば広がるほど、どんどん自己嫌悪に陥っちゃうんだ」
「・・・・」
「比呂に嫌われたらどうしようって・・」


「・・俺がお前を嫌うの?」
「うん。俺は結局さ・・髪はこんな色してるけど、つまんない人間なんだよ。勝手だし、勉強しかできねえし」
「・・・・」
「だからさ、やれ女だの、何組の誰だのって、お前の口から出るたびにさ・・やきもち焼いてたんだと思う」
「・・・」
「・・・いじめられた事に、後ろめたさもある。ちゃんと自信が持てないんだ」
「・・・」
「俺は比呂に会って救われた。お前は俺の性格を生かしてくれた。周囲の環境も言葉ひとつで、俺にいいように整えてくれた」
「・・・・」

俺は深呼吸をひとつ。溜息じゃない。どん底みたいな話をしてても、今の俺は、ちゃんと前を見据えている。

「そういうお前に俺は甘えて、我が儘になりすぎてるんだと思う。俺はお前の力になれないし、お前は俺の友達でいたらきっとずっと大変なんだ」
「・・・・」
「だから俺は、お前に友達やめろって言うんだけどさ、期待してんだ。そういう言葉を聞いてお前が引き止めてくれるのを」
「・・・・」
「お前は泣き言を武器にしないのに、俺は自分の過去とかさ・・いじけた性格を武器にして・・」
「・・・・・」
「そういうのでお前の気を引いて、欲しい言葉を引き出そうとする・・。どうしていいのかわからねえんだ」
「・・・・・」
「情緒不安定で・・気を使わせてばっかで・・ほんとごめん・・。もう他に言うことはない・・」


一気に喋った。ほんと、すっきりした。涙は出なかった。この状況で泣いたら卑怯だ。比呂は、唇をぎゅっとしたあと、ふー・・って長く息を吐いた。それで俺を見た。で、またため息をついて、ゆっくりと口を開く。

「じゃあ・・今度は・・俺が・・」

俺は比呂の顔を見る。比呂は俺から目をそらして、静かに話を始めた。

「俺、お前のことが時々怖かった。本当に何考えてるかわかんない時とかあって」
「・・・・・」
「泣くし、喚くし、俺を拒絶するのに、でも会いたがるし、会えば嬉しそうだし・・・・」
「・・・・・」
「だけど・・もうわかった・・今の話を聞いたら全部納得がいく。お前が今まで俺にしたり言ったこと全部に納得がいった」
「・・・・・」
「形あるものは壊れるけどさ、壊れないように気をつけてれば、案外何年も大丈夫じゃん」
「・・・・・」
「それって極論じゃん。人は生まれても結局死ぬとか、そういうのと一緒だったりするじゃん」
「・・・・・」
「諦めるためにその言葉があるわけじゃないと思うんだよ」
「・・・どういう意味?」
「形を留めたかったら大事にすりゃいいじゃん。環境が変わったとこでさ、人はいきなり変わらないよ?そりゃ何年何十年とたっちゃったらアレだけど、毎日見てれば変化に気付くし、ちょっとのブレなら直せるじゃん」
「・・・・・・」

「でも・・ごめん・・なんて言っていいのかわからない。お前の言いたいことはわかったけど・・・」
「・・・」
「だって大事なことじゃん。簡単に考えられることじゃないし・・」
「・・・・・」
「お前の気持ち聞けて嬉しいけど、俺それに対して何を言ったらいいのか・・・・・」
「・・・・比呂・・」
「とにかくお前の気持ちはわかった。話してもらえて安心した。何一つ嫌なことなんかないし、わかったら意外と単純だった」
「・・・・・」
「でも俺が今ここで何を言うかでさ、またお前を傷つけるとほんと困るしさ・・。ほら俺はさ・・言うことに優しさがないじゃん」
「え?」
「思ったことをそのまま言っちゃうし・・俺まじで口が災いするタイプなんだよ・・」

・・・なにいってんだ・・。お前は何も自分をわかってない・・。

「お前を言いくるめる気はないよ。これで終わりにするつもりはない。でも、ちゃんと考えてみたいと思う。3年間も同じ学校でいられるし、その間にお前も俺も、色々話して分かりあっていこうよ・・」
「・・・」
「やっぱずっと仲良くしたいじゃん。死ぬまで遊べたら嬉しいし。お前今まで友達がいなかったんなら、中学のときの分も俺と遊べばいいじゃん。ね?」
「・・比呂・・」
「お前の言ったことに対してさ・・俺何一つこたえられてないと思うけど、クイズじゃねえし、いきなりまともにこたえるなんて、俺にはちょっと無理だから・・・ごめん。それは、まじごめん。だけど、お前の気持ちはわかったから」


・・・なんでもテキトーそうな比呂は・・実はそうでもないようで、一言一言をちゃんと考えながら俺に必死に訴えかけてくれた。ばかだな、比呂は。 お前はもうすっかり、俺の気持ちにこたえてくれているのに。俺らはどちらともなく笑った。こんな夜中に、何を語ってるんだろうねって感じで・・。たかだか15歳の俺らが、人生語るなんて早すぎだ。

20歳になったら酒でも飲みながら、互いの哲学を語り合おうという意見で合意し、ジュースで乾杯した。ファンタを飲みながら比呂は時々、何かを考えてるようだった。

なにかをひとつ乗り越えるたびに、何かが障害となって押し寄せる。いつでも何かを悩んでる俺にはやっぱり、比呂みたいなツレが必要なんだ。俺は比呂に念を押した。「俺、きっと何度も、くだらないことで落ち込んじゃうぜ?」って。そしたら比呂は俺に言ったんだ。

「大丈夫・・・・・・・・・・・・・・・・・多分」

俺は比呂に笑いかけた。そしたら比呂も笑ってくれた。二人でばたりとベッドに寝転ぶ。今日と言う日を要約するとやっぱあれだ。

雨ふって地固まる。

Post at 00:45

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