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休日当番医とアイスクリーム

ともかく休日当番医である。

少しマシになってきたと思いたいのに一向におさまらない眩暈と吐き気を連れて、夫の運転する車へ乗り込み病院へ。
受付開始時間30分前に到着。既に列を作って並んでいる人たちを目にしてやはり帰りたくなったが、夫はさっさと列に並び、私は近くのベンチにボロ雑巾のごとくへばりついた。

休日当番医にかからなくとも、明日まで待てるんじゃね?と思うような元気そうなオジサンがいたり、近くをうろつくハトを追いかけるために列から離れて母親から叱責される幼児がいたり、止まらない鼻血と闘う青年がいたり、とりあえずなんらかの事情で今ここに並んでいる人たちを私はぼんやり眺めた。
こんなに並んでるんだから早めにドアを開けてくれてもいいのにと恨めしく思い、世の中はゴールデンウイークとか言われているのに病院で働く人たちは出勤するんだからそれはそれで大変だなあと慮り、だけど早く建物内に入れて欲しいな私そろそろトイレで吐きたいかもと思った。

結局、予定通りの時間ぴったりにドアが開けられ、待ちかねたように列が一気に屋内へ吸い込まれた。
自分も重い体を起こし、夫の背中を追う。

「ここで座ってて」
そう言って受付前の椅子に私を座らせ、受付から簡単な聞き取りまで、面倒な顔もせず速やかにこなす夫に、いい人だなあこういうとき本当に助かるなあ普段もうちょっと優しくしてあげないとなあ、あ、だから私バチがあたって今こんなになっちゃってんのかなあなどとぼんやり考える。

それなりの待ち時間を経て、鼻血とたたかう青年の次に私は耳鼻咽喉科へ呼ばれた。
ひととおりの問診と診察の結果、眩暈を抑えるとかいう薬と吐き気止めを処方され、数日安静にしてくださいということで終了。
ちなみにハトを追いかけていた幼児は、鼻に異物を突っ込んで受診したらしく、医師から取り除いてもらったピンク色の球状のものを母親が「よくこんなもの入れようと思ったよねー!」と笑いながら鞄にしまっていた。

駐車場から車を出しながら、「どう?何か口にできそうなものある?」と夫が私に問いかけ、うーんどうだろうとふと外に目をやるとアイスクリームショップの看板が目に入る。
口の中で溶けていくアイスならいけるかも、と思ったその時、夫が「アイスならいける?」と重ねて問いかけてきて思わず笑った。
何なん、心の中読まないでよー。
いやいや、僕たち思考回路一緒やからな。
やめてくれ、気持ち悪いわー。
とりあえずアイス買ってかえるよ。
そんなやり取りをして、夫は家で待つ娘たちの分も含めて持ち帰り用アイスをゲットしてきた。

帰宅後、私はまだアイスクリームを口にする気力がなく横になってひたすら眠り続け、その間に夫は娘たちに昼ごはんを用意し、娘の塾の送り迎えをし、風呂を入れ、洗濯をし、明日の燃えるゴミ出しの準備をし、晩ごはんを用意していた。
日も暮れてきたころ私はようやく起き上がり、アイスクリームをひとカップたいらげ、畳に転がっていびきをかく夫にありがとうを言った。

私と出かける約束をしていた長女は、いつもならブーブー言うくせに、珍しく「今日じゃなくてもまた今度でいいよ」とつぶやき、スマホで推しのグループを崇めながらニヤニヤしてアイスをほおばっていた。

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