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『カネコアヤノ・よすが』アルバムレビュー【音楽】

カネコアヤノ

よすが

はいということで本日はカネコアヤノさんの前作「燦々」から1年半ぶりのアルバム

「よすが」をレビューしていければと思うのですが、

一言で最高です。

心地よさの一言しか出てきません。

大抵初見で聞くアルバムや曲に対してほんの少しの違和感を覚え気味がちの私ではあるのですが、このアルバムは初めて聴いた時の違和感を全く感じずにスーーと日常の中に溶け込んできます。

聞けば聞くほど心地よくなり春から夏に移り変わる季節と何気ない日常に溢れる幸せを与えてくれます。

今作も前作と変わらず、ギターに林さんベースにゆうらん船のメンバー本村さん、ドラムにHAPPYからBOBさんがバンドメンバーとして約1ヶ月間、伊豆スタジオで合宿レコーディングという形で約1ヶ月間レコーディングされたそうです。

コロナ禍に突入してしまい、チケット即完で予定されていた中野サンプラザでのライブが中止となってしまい無気力になってしまい「コロナ禍に入って、すっごいやりたい会場のうちのひとつだった中野サンプラザでのライブが飛んじときゃったに、もう心の中の何かが切れちゃったんです。2019年にチケットを発売して、それが即完して、本当に嬉しかったんですよ。すごく期待していたからこそ、ショックで」

とインタビューでこのように述べているように、計り知れない落胆と向き合いながら、その落胆を隠さずにありのままの気持ちが歌われている今作は聴くというよりも向き合うという表現の方が正しいのかもしれません。

1.抱擁

哀愁を纏い過去の後悔と未来への希望をどちらも持ち合わせて

淡い林さんのギターがとても印象的にアルバムを開幕させ、

力強いのにどこか悲しげな表情をしたアヤノさんの声に

「水が溢れてしまった、悲しい きっとこれは誰も悪くなくて ただただ。」

という歌詞に

7.春の夜へにも語られるんですが

コロナ禍のカネコさんの気持ちと涙が溢れ気持ちが途切れてしまった感情が詰まっています。

「きっとこれは誰も悪くなくて」という歌詞に大きな哀愁を覚えます。

過ぎていく日常のようにリズムに乗せるボブさんのドラムと

曲のタイトルのように優しく包み込む本村さんのベース

「抱擁を待っていた。胸の中で。まるで私が聞き分けの悪い赤子のようにぎゅっと。」

と言うサビの力強い声にグッと耳を引き寄せられ、

後半のマーチングとchantの部分は輝きの中で全てのサウンドが一つになって

天国の扉に招き入れられているのような感覚になります。

2.孤独と祈り

ベース、ドラム、ギター、ボーカル全てのサウンドが主役として独立した形で響いてくるにも関わらずスーパーヒーローが家のキッチンで集結した時のように、

純粋に溶け込んでいて和やかさと寂しさを同時に兼ね備えていて

サビの林さんのリフとリズム、途中で入るマンダリンっぽいサウンドががジブリの魔女の宅急便を連想させ、

憂鬱な休日にやることもなく、外に出てはみてはいいものの

とりあえず近所をぐるぐると回って何もせず帰ってきてしまった日を思い出させる歌詞「人口衛生は〜」と言うメロディーが脳裏に焼き付きついつい日常の中で口ずさんでしまいます。

4.星占いと朝

前作「燦々」の1曲目「花開くまで」の一発目の林さんリフで「水のようなリフ」と確か表現させて戴いたんですけど、

その水面に浮いているかのような林さん独特のリフと

「君が僕の夢の祈り〜」から始まる林さんのギターが金子さんの声に合わせるような形で響くのですが終始耳心地のドツボをついてきて、

この音の中にずっと埋もれていたいと思います。

明るいメロディーとテンポの良い曲の展開、

AメロBメロサビと段階的にメロディーは変わるにも関わらず、

それが一貫して連なっていて

首をふりながらスキップして一瞬で曲が駆け抜けてきます。

何よりも聴いているだけで、気持ちいです。

森林浴してる気分になります。最高です。

5.栄えた街の

このアルバムの中で個人的にはお気に入りの曲で、

どこか聴いたことのあるジブリっぽさがある、

でもあれ聴いたことなかったっけと思う歌い出しのメロディー

マンダリンのサウンドと本村さんのベースのが交互に響き合い、

ボブさんの重厚なドラムが気持ちいタイミングでピンポイントになり、

バッキングのチャントも清らかに神聖に

でも真ん中にちゃんとカネコさんが主役としていて、

「今年はもうきっと何処へも行けない憎らしい暑い夏も今では恋しく思えるよ」

と言う歌詞や

高い丘の上でここまできたと疲れては腰を下ろす今ごろ歌でも歌えれば

と言う歌詞が

コロナ禍の行き場のない気持ちと

これまで当たり前だったことができないもどかしを比喩して歌っていて

でもそこには暗い気持ちはなくて、前向きメッセージとして伝えられることで、

朗らかなメロディーと共に明るい気持ちにさせてくれます。

6.閃きは彼方

清里や軽井沢のような高原に夜星を見上げながら、

バレエを見ているような感覚にさせる

鳥の囀り

林さんの12弦のギターやマンダリン、アコーディオン、バンジョー

本村さんのウッドベースのとても良いアクセント

アイルランドダブリンの街に僕らをスリップさせボブさんのドラムと共にマーチングに参加させてくれます。

立体的な空気感や迫力の中にあるふんわりとした優しさと哀愁

スイスあたりの北欧の空気感を日本の日常に落とし込んだような

誰かを抱きしめたくなるそんな曲です。

9.腕の中でしか眠れない猫のように

本村さんのベースリフが90年代ガレージムーブメントを想起させ、

林さんの70年代の雰囲気を纏ったブルージーギターはクラプトンを連想させ、

曲のクライマックスは壮大で

一貫したリズムの中にある強弱が

このアルバムの中で一番迫力と優しい狂気を生み出します。

10.爛漫


この曲にはこのアルバムの全てが詰まっているような気が

聴いていてしました。

悲しみや、でもそれでも未来に向かって行かなければいけないこと

でもこんな気持ちをそんなことお前らにわかってたまるか。

お前は知るのか季節の終わりに散る椿の美しさを

と言う美しい歌詞があるのですが、

これを歌う時の金子さんの声がすごく直接的にぶつかってくるんですよ。

なんか少年少女の心に問いかけられているような。

すごく後ろめたい気持ちになるんですよ。

曲が純粋すぎるだけに。

お前は知るのかって言われた時にめちゃくちゃドキッとします。

サウンドもこのアルバムに詰め込まれている

全てが

ぎゅっと濃縮で詰まっていて、

でも同時に洗練されていて。

長い時間をかけてカネコさんの中で昇華された行き場のない怒りを

曲の中に落とし込んで、

世界に怒りをぶつけるのではなく、

その怒りを曲という美しさに変わっていく様は

まるで赤い椿のようです。

これまで、優れた作品はたくさんあったと思うんですよ。

ただ、そういった無名の音楽市場にも入ることができなかった優れた曲たちが、

オンライン化が進んで自分たちで発信できるようになった。

でも同時にオンライン化進んだせいで消費サイクルのスピードがとてつもなく早くなってすぐ聞き捨てられる時代に突入しました。

コンピューターで打ち込みで心地いサウンドを作ることは

容易なのかもしれないこの時代において

リアルな結束とサウンドを表現したこのアルバムは少なくとも僕にとっては時代の荒波に紛れることなく、どんな時代でも部屋の片隅から流れてくるずっと記憶に残るアルバムだと思います。

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