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『Tempalay・ゴーストアルバム』アルバムレビュー【音楽】

テンパレイ

ゴーストアルバム

はいということで本日はテンパレイでゴーストアルバムをレビューしていければと思うのですが、

今作はバンドのメジャーレーベルからの初リリースで通算4枚目のフルレングスアルバムです。

今作を収録しようとしたタイミングで、丁度コロナ禍になってしまった。

そんな失われてしまった年幽霊と化してしまった2020年を歌ったアルバムになっていると思います。

これまでスタジオにてアレンジを出し合っていたのに対して、今作は一部ベースとドラム以外は事前にリモートにて一旦仕上げてから収録するような形をバンドがとっており、メンバー個人個人が納得した形でアイディアを修正しながら形にできた作品とバンドは語っております。

またベースは BREIMENのボーカル高木さんが担当をしていて、

踊るように舞い上がるほぼ全てがリフと化していて、

それでいてしっかりと曲の土台を支えているサウンドが聞こえてきます。

全ての音が違うジャンルのサウンドとリズムテンポで構成されていながも、 階層的にしっかりと高音に特徴あるシンセサイザーで埋め尽くしたうえで、中音,低音は音域の低いベースやドラムで埋めて、さらにその下をギターで埋めるという三段構造になってる

ぐちゃぐちゃなのに整頓されていて、一音一音の独立性が保たれていて、 それが噛み合った時に美しい景色を見せてくれます。

このアルバムを制作するに当たってボーカルの小原さんはこのように述べております。

コンセプトというわけでもないですけど、本当にこの1年のこと以外歌うことがなかったんですよ。コロナ禍の状況に世界中の誰しもが向き合って、何かしらの答えを探す1年だったと思いますけど。この1年は生きてるのか死んでるのかわからないような暮らしをしていたなと思います。

エイミーさん

なんだかこのアルバムにいる“ゴースト”は去年の私のことだなと思えてきたんです。自粛生活の中で私自身もゴーストみたいになってしまって、そんな中でこのアルバムの曲を作ることが救いになってたんです。アルバムが完成してから綾斗が「わたしは真悟」とか「3面ジャック」とか楽曲制作のうえでリファレンスになったマンガを教えてくれて、読んでみたらいろいろとしっくり来て。今まで当たり前だったことが当たり前じゃなくなったことによって、今までは何も感じていなかった“現実”そのものを理解したような感覚がありました。

コロナ禍が音楽業界に与えた大きな影響を逆手にとって、

これまでとは違う視点から生まれた彼らの新作はどんな音楽なのでしょいうか。

01. ゲゲゲ

1曲目のゲゲゲは民謡とサイケデリックな要素が混ざり合い、

謎のお祭りに誘い込まれて行くような感覚になります。

千と千尋で謎の街に迷い込んでしまった千尋のような気分です。

エイミーさんが祖母から受け継いだ大正琴の音がとても神秘的な音で

古典的であるにもかかわらず前衛的でアルバムの一曲目から視聴者を引き込んでいきます。

02. GHOST WORLD

1曲目で受け取った民謡的テンポを受け取ったかと思ったらメロディーが変幻自在に変わっていく。常に踊るように頭の頭上を飛び跳ねるベースとワフや不協和音をと心地良く水中の世界にいるようなバッキングサウンドを自在に操るシンセサイザーと

バースとコーラスで180度印象を変えることで中毒性を生み出していると感じます。

特に民謡的バースからサビのテンパレイ独特な心地よく美しい水辺に浮いているようなサビへのトランジションはバースからの落差が大きい分「ええーこっちにいくのか」と思う反面、「美しすぎる」と感動を覚えます。

03. シンゴ

シンゴは小原さん曰く、、楳図かずおの漫画『わたしは真悟』からインスピレーションを得て制作されたという楽曲です。

休日に何もやることがなくとりあえずブックオフに行ってた日のことを思い出すサウンド。

美しいのだけど、よってしまいそうな位色色なサウンドが渦巻いていて、

美しさの中にある寂しさが体現されています。

感じてみてください。

04. ああ迷路

一番奥の層で響くシンセサイザーは宇宙的でありながら、

段階的に地球に近づいた音を感じることができ、

美しいピアノとベース、ドラムは題名にある通り、

迷路のようないく先の見えないアスファルトを連想させ表面的にはとても煌びやかであるのですが、ベースにあるテンポやリズムはどこか仏教のお経を連想させるような古典的なものを感じました。

その古めかしさが煌びやかさを支え、手前で自由に踊りまくるベースが曲を引っ張りサビのピアノとエイミーさんの甘美な声とバースの小原さんの声が 甘さと酸っぱさを兼ね備えた塩キャラメルのような味を出します。

06. 春山淡冶にして笑うが如く

曲と半テンポズレたベースで違和感のあるオープニングで始まり

曲が進むに連れてそのズレが縮まり、オーケストレーションのオーバーチュアのように神秘的で美しく変化していきます。

どこか2000年代のJ-POPの雰囲気も感じます。

最後のコーラスで全てのサウンドが一つに重なり合う場面は、

地球から飛び立ち、宇宙へ向かうような寂しさも少し残していると感じました。

08. 何億年たっても

ベースがかっこよすぎ

そこに短絡的な欲望が歌詞として歌われます。

小籠包が食べたいな 怪獣にも会いたいな
何十年たってもやっぱ嫌じゃない
ロードショーはいいもんな 
まんじゅうは怖いでんな 何百年たっても嫌んなんないだろう
ショウリュウケン習いたいな 
温泉に浸かりたいな 何千年であってもきっと変わらない
ロックンロールを聴きたいな もう随分と死んでいる
何万年と老いても今日と変わらない

コロナ禍で無気力になり、短絡的な欲に流れてしまう感情が表現されていて、

どうでも良くなってしまう休日の感情がそのまま歌われていて、

世間の短絡的な欲望とどこか諦めてしまっていて、

でも気楽にいこうやという希望もこの曲には含まれています。

人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ というチャップリンの名言に近い

焦点を絞りゃ悲劇じゃなく喜劇でしょ

という歌詞にもある通り、

短絡的に見ると悲劇的状況でも、その状況があるからできたことがある。

敢えてこういった短絡的な欲望を歌うことで、

本質的な欲望を隠喩というか暗示している点にびっくりしました。

音楽制作や人生に通ずることが歌われていて、コロナ禍の小原さんの日常が少しだけ垣間見えた気がします。

09. EDENはメジャーリリースの最初のシングルになリマス。

ドラムのハイハットの入れ方がとても良いアクセントになり

カッコ良くリズミカルに曲が始まり、

浮遊感溢れるシンセサイザーにギターがトリップさせてくれ

論理的ではなく感情的に気持ちよくなれと言われてるかのように

曲が終始ふわふわとサイケな世界へ連れてっていってくれます。

10. へどりゅーむ

てってテレレーンつっててーんつっててーん

というめちゃくちゃに癖になるリフに

踊り狂うベース

きめ細かなドラムと

きらきら鳴り響くシンセサイザー

聴いたことがあるようで聴いたことのない

でも記憶のどこか断片にあるサビのメロディーが

違和感と心地よさの間で細かく振動することで

曲の中毒性がより強くなっていきます。

11. 冬山惨淡として睡るが如し

ここへきてバラード美しいバラード。

それは中国の霧がかる山景色を連想させられたり、

北極の吹雪を連想させたり

冷たいのに暖かく

追いつかしてキリがないや昨日いた友も頼り方すら分からないや少なくとも周りが見えない安心とか買えないし幽霊気分さ明日から化けるわなんかやれるかな思い出すかな100年後も昨日までのことを

と言う歌詞が

何層にも渡る音の厚みが優しさとなって降ってきます。

12. 大東京万博

ニコの音と古代東洋の雰囲気が

何百年後の人々が見ている旧来に存在した日本の街や文化をテンパレーのサウンドの中に作り出して

それはどこかSFで見る近代日本の中にある屋台のように感じます。

曲の厚みもパートによってどんどん変わっていき、

一つの心地よさに安住させない不安定さの中に生まれる美しさに安心させられます。

ワフの聴いたギターソロ、

古風の雰囲気が感じられるニコとドラム

水のように流れるシンセ

山頂にいるかのように感じる、高いボーカル

それらが全て揃った時に、

花火がなりこれまで見ることのできなかった景色をサウンドの中に見出すことができると思います。

アルバムのフィナーレでありながら、

新たなテンパレーの幕開けなのかもしれません。

全体的に見ると

つかみどころがないのだけど

テンパレーの細かい音の作り方が

複雑に分散しながら纏っていて

安定した個々の音のテンポや音があえてズレていることで、

不安定な気持ちになります。

どこか聴いたことがあるようで、

でも同時にユーモアに溢れ新鮮に聞こえる壮大で音の空間が非常に広い気持ちよさが追求された立体的にイメージが現れては形を変えていくアルバムだと感じました。

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