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『コートニーバーネット・Things Take Time, Take Time』アルバムレビュー【音楽】

コートニーバーネット

Things Take Time, Take Time

はいということで本日はコートニーバーネットで Things Take Time, Take Timeをレビューしていければと思います。

2015年にデビューしたメルボルン出身のコートニーはオーストラリアの晴天のようなサウンドに型破りの独特な歌い方でオーディエンスのハートをがっちり掴みました。

カートヴァイルのコラボアルバムを挟みリリースされた前作では彼女の持ち前の明るさに悲しみや寂しさと言ったダークな一面も見せ、音楽の幅がグッと広がった一枚なのではないのでしょうか。

そんな今作は前作から約3年ぶりのアルバムでロックダウンを経て、2年かけて制作された曲たちはより彼女の内省的な部分が描かれており、これまで外へ外へ持っていていたエネルギーを一度自分の中に戻してから再構築して外に出すような印象を持ちました。

カートヴァイルともコラボしており、1曲目から彼の影響を強く感じることができます。

特にpretty pimpimやwakin on a pretty dazeあたりの彼の作品に似た色を強く感じることができると思います。

彼女自身今作は彼女が最もクリエイティブでリラックスできたアルバムと語っているように、これまでは目まぐるしく変化する世界の渦の中で生きてきた彼女が一歩引いて俯瞰した状態で自分と世界の間に距離を置いたアルバムなのではないでしょうか。

1. Rae Street

カートヴァイルの wakin on a pretty dazeを連想させるような少し寂れたサウンドに気だるいテンポ。語られる彼女の小さな日常はどこかちっぽけで、しかし凄くリアル。

とても穏やかでファーストのヤンチャさはどこへ行ったかと思うほどゆったりと流れる時間。

ただそれが凄く生き生きとしている。忙しく生きなきゃ。何かをしなくちゃ。誰かと何かを楽しまなきゃ。そんな強迫観念に襲われている現代人に、のんびり生きようよ。キャンドルに火をつけてさ。窓の景色を眺めてさ。それでいいじゃん。そんな風に言われているかのような歌詞はどんな言葉よりも説得力があり落ち着きます。それは Well, time is money And money is no man's friendというサビの歌詞に集約されていると思います。この言葉は幼い頃コートニーがよくお父さんから言われた言葉だそうです。

ゆったりとだけど生き生きとしたアンサンブルはカートヴァイリーでありながら新たな幕開けを予感させてくれます。

8. White A List Of Things To Look Forward To

この曲は個人的にアルバムの中で一番好きな曲で、

レイジーな80年代のジザメリっぽさとアダムグリーンを足して2で割ったサウンドは

上手く表せないけど、どこかで聞いたことある微睡のあるサウンド。

Nobody knows Why we keep trying Why we keep trying

と曲の冒頭で語るように、どこか達観して世界を見ている彼女の姿が感じられ

We did our best, but what does that really mean?

ストレス社会で生きている人たちの方の荷をスッとおろさせてれくれる人生を一曲に集約したような達観したシンプルでこれくらいで丁度いいんだよと感じられる曲です。

4. Before You Gotta Go

ウォームなのにどこか冷たく、カラフルなのにどこか白黒

ファジーでぼんやりしている。

「1曲ですべてを言おうとしたり、自分が信じていることすべてをみんなの声にしようとしたりすることもあるんだけど、結局はできないわけで。不可能なのよ」とコートニーが語るように

敢えて全てを曝け出さずに感情や日常の断片がエレキギターのアルペジオのメロディー共に語られる歌詞はコートニーのぼんやりとした日常と頭の中を投影しているような気がしました。

2. Sunfair Sundown

この曲はコートニーがパーティーに参加している時に

友達に囲まれて楽しむ瞬間を幸せに思いをすぐに歌詞にした曲で

暖かいギターやベースの音にゆったりとした日常をドラムが演出し、

At the end of the day, you're awake with your thoughts And I don't want you to be alone

という歌詞はハートウォーミングでアメリカの寒い朝、暖かい暖炉とコーヒーに恋人と二人きりの情景が浮かんできます。

何気ない日常をそのまま曲にしたようなサウンドは、彼女にしか出せない個性と共に

僕らの脳裏に焼き付きます。

7. If I Don't Hear From You Tonight

Kimya dawsonを連想させる軽やかなリズムの取り方に

Stars in the sky are gonna die Eventually, it's fine Just like a lonely satellite Drifting for a little while [Chorus] If I don't hear from you tonight If I don't hear from you tonight

という倒置法の効いた歌詞が繰り返されていくのですが、

コートニーのラブソングは全然悲しさがなくて、

どこか達観的で恋を俯瞰している感じがあって、それが他のお涙頂戴的な曲とは違い彼女の個性を発揮していて好きです。

ペラペラとウォームの境界線に立っているギターの音がそれを誘発させているのかもしれません。

そして

10. Oh The Night

のゆったりしたバラードは、

前半の朝のことを歌った曲とは違い、

夜の彼女の気分が落ち込んで恋人を思う気持ちが歌われます。

Oh, the night goes so slowly Anytime I get low And I don't really need reminding I know it's only in my mind

と最後に歌われる彼への気持ちが

アルバムが終わった後も残り火のようにゆらゆらとアルバムと私たちの時間に余韻を残します。

全体的に見ると

これまでの彼女のアルバムとは違い、とてもミクロな視点で彼女の小さい些細な日常の出来事にフォーカスを当てた歌詞は、ぼんやりとゆったり飾りげなく

だけどそれがとてもリアリティのあるものとして聴いていると人たちの日常に優しく溶け込んでくると思います。

アルバムのタイトルにもあるように、余裕が持たれた音は

このせかせかとした日常の中で、もっと肩の荷を降ろしていいんだよと思わせてくれます。

冬の朝の寒い日の暖かい部屋で聴く良いアルバムだと思うので良かったら皆さんも聴いてみてください。


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