名曲プレイバック 第3回 少女A

唄: 中森 明菜

作詞: 売野 雅勇  作曲: 芹澤 廣明  編曲: 萩田 光雄

1982年(昭和57年) ワーナー・パイオニア

 「じれったい じれったい」

 「特別じゃないどこにもいるわ」

 「ワ・タ・シ 少女A」

 「じれったい」と男に詰め寄るこの少女Aとは何者か。Aは中森明菜のAであり、明菜自身なのか。はたまた架空の人物なのか。この曲の秘めたる一種の背徳感とセクシーさはなんなのか。年増に見えようが、わたしが誰であろうが、結婚がどうであろうが、わたしには関係ない、そう言い切る強い少女なのか。はたまたそれは強さでなく大人ぶる17歳特有の幼さの裏返しなのか。そう、この少女は特定の人物でなく、この曲は同世代の少女の鏡であった。だとするなら、山口百恵の青い性路線に通ずる。何を隠そう「どこにでもいる少女」がこの歌の主人公なのである。

 「ちょっとエッチな美新人娘(ミルキーっこ)」。これは明菜のデビュー時のキャッチフレーズである。美=ミ、新人=ルーキー、娘=こ、といささか無理やり感があり、かつ、いかがわしささえ感ずる(とはいえ、いまどきの「エッチ」ほど強い意味はないのである)このフレーズに時折頭を抱えたようである。なるほど、デビュー曲《スローモーション》の明菜は新人という雰囲気がある。少々高めの音域を用いて、のびやかな声を強調した楽曲にマッチしたその新人の雰囲気、落ち着いた曲を歌うアイドル歌手のイメージを180度変えたのが2枚目のシングル《少女A》だった。

 レコード会社の戦略で落ち着いた楽曲(近年発売されたベスト盤におけるラブ・ソング)と激しい楽曲(同、ポップソング)の交代がある時期まで繰り返されるが、《スローモーション》から《少女A》の大転換はその最初期であるから大きな驚きであったはずである。過去の映像で《少女A》が用いられるのはこの為であろう。

 どんな理由であれ、この曲はヒットし、明菜の代表曲となった。そのロックテイスト、少々長いフレーズで畳みかけるような言葉の連鎖、強烈な言葉とコード進行、歌い方を変えてきた明菜の声、強気な目線、笑みひとつなしの表情、なるほどポスト山口百恵に躍り出たわけである。興行的に数年早くデビューした松田聖子がポスト山口百恵に収まったが、中身を見るとむしろ明菜の方なのではないかと思うほどだ。時折百恵と明菜を同列に配するのはこう感ずる人間が少なからずいるということである。

 確実に言えるのは《少女A》が明菜の歌を変えた、それだけである。

(Imitation Gold 創刊号掲載)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?