ドアが開く音が聞こえると同時に、愛美は我に帰り、乱れた服装を確認する間もなく、男の前から急いで離れるように、人の波にのり、多くの人と同じように車外へ吐き出された。
降車すると直ぐにスカートなどの乱れを直し、急いでトイレへ駆け込み、便座に座り込み、先ほどの異常な行為を思い、自己嫌悪と悔しさが込み上げ、涙が流れ落ちてきた。
破られたストッキングを脱ぎ捨て、まだ熱を帯びている、男に弄ばれた秘部に濡れて張り付く下着の不快感を感じ、肩を震わせ泣いた。
流石に出社する気にはなれない、でも今日中に終らせなければ明日の営業に持参する資料が無い。
まだ慣れない営業で、契約まで辿り着けたのは少なく、明日の商談が貴重な契約数の追加になりそうなのだ。
暫く感情が収まるのを待ち、トイレの流しでメイクを直し、大きく溜め息を一つついて、愛美は会社へ向かうのであった。

重い足取りで出社し、皆と挨拶を交わし自席に着くと、先輩格の秋本が歩み寄り
「霜田、おはよ
今日も可愛いね」
などと軽い乗りで挨拶をしてき、
「おはよう御座います」
と、お決まりの言葉で返した。
秋本は、いつも冗談を言って笑わせてくれるキャラクターで、社内でもムードメーカー的なポジションなのだが、事あるごとに
『可愛い』『デートしようよ』などと言って来るので、愛美も少々相手にするのが面倒になっているし、今朝の一件で沈んだ気持ちでは、まともに相手をする気持ちなど、全く起こらなかったので、挨拶を済ませるなり、特に用もないが机の引き出しを開け、何かを探す振りをした。
すると、直属の上司にあたる課長の大崎が
「霜田、秋本にはっきり言った方がいいぞ、調子に乗るからな」
と秋本の方を向いて笑いながら言い、
「ひでえなぁ課長も、俺は本気っすよ!!」
と頬っぺたを膨らませ、愛美にウィンクをし自席へ戻った。

この秋本、愛美が入社した時に面倒を見てくれる世話役的な立場で接してくれた、愛美にとって最初の話し相手でもあった。歳は28歳、独身、喋らずにいれば高伸長と、あっさりした目鼻立ちがすっきりとし、非常にモテそうなのだが、根がひょうきん過ぎる事がマイナスとなり、軽い男のイメージが定着している。
職場の女子社員の間でも、噂が耐えず、職場にも何人か彼に乗せられ悲しい結末に至った者がいるとの噂があるくらいなのだ。
一方、上司である課長の大崎は、少し冷たい雰囲気もあるが、部下の面倒見は良く、厳しくも優しい仕事第一と言った感じがする男で、35歳で働き盛り、女子社員からの人気も高い。
大崎は離婚歴がある独身であるが、身嗜みも清潔感が漂い秋本とは正反対な見るからに出来る男と言った所である。
そして、愛美が加わる三人で構成される営業課であり、街をあるけば必ずナンパされ、大学時代にはミスコンテストに選ばれた経歴を持ち、すれ違う男性がみな愛美に釘付けになる程の美貌の愛美が入った事で、他の部署の誰もが羨む美男美女の華やかな部署になっている。
実際、先のバレンタインデーには、大崎のデスクには華やかに包装されたチョコの山が出来、秋本のデスクにも、大崎程ではないが沢山のチョコが並べられており、ホワイトデーには愛美のデスクに綺麗な花や可愛らしい包のプレゼントが並んでいた程だ。
「よしっ、それじゃ9時半になったら営業会議な、
会議は取れなかったけど、第二応接室でやるから」
と課長。
恐らく明日の商談の件だろう、愛美は課長を向き
「明日の件ですね?」
と言い、頭の中で持参する資料を思い浮かべていた。
「そうだ、」
とだけ言い課長はミーティングへ向かい、愛美は今朝の件で憂鬱になった気持ちのまま、資料の整理に取り掛かり、秋本は毎朝の日課である各SNSのチェックに没頭していた。

暫く資料の整理をしていると、秋本から
「そろそろ時間だよ、行こうか?」
と声を掛けられ、資料を抱えて秋本と共に一階の応接室へ向かった。
応接室は3つあり、今日の第二応接室は初めて入った。そこには座面の低いソファが二つ、低い大きなテーブルを挟んで長椅子が置かれている。
今回の会議の主旨からすれば、愛美は長椅子の真ん中に、ソファ側にはそれぞれ課長と秋本が座る形になるが、
『やばいなぁ、ストッキング履いてないし、
パンツ見えちゃいそう、、、』
と愛美は咄嗟に思った。
案の定、腰を降ろすと、膝が高い位置になり、真正面からだとスカートの中が丸見えになりそうだった。
まさかの展開に、愛美は下着のシミまではチェックしていない。
今朝方欲情し卑猥な蜜で、たっぷり濡らした下着、
『こんなのを覗かれたら、また転職だよ』
と、また愛美の気持ちを深く沈めるのであった。
それでも仕事、意を決して座り込み、不自然に膝をピッタリ合わせ、斜めにし防御の姿勢に専念した。
しかし、反対側に座る秋本の視線は、確実に、愛美の脚に注がれ、一瞬であろうが、視線が膝の間の奥を突き止めようと視線が止まるのを見逃さなかった。
よく電車の中で、同様の視線を感じるが、
『やれやれ、、、バカじゃない』
程度にしか思わないのだが、
今回は訳が違う、
指先とはいえ、見知らぬ男を受け入れ、成すがままに快楽を味わった形跡があるかも知れないのだ。
実際に見えるはずはないのだが、万が一を考えると気がきでは無くなるのだった。
脚を固く閉じ、スカートの裾を気にしていると、
「あれ?今日は生脚なんじゃん、いいね~。
俺、脚には弱いんだよね」
などとデリカシーの微塵もない言葉が秋本の口から発せられ、ニヤニヤしながら秋本の視線は立てながら斜めにした愛美のすらりとした脚を中心に、前身を舐めるような視線を送ってきた。
「セクハラですよ~」
軽く微笑みなごら秋本を睨み、両手を膝の上に乗せるように、脚を隠した。

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