また朝を迎えた。
昨夜の行為は一時的な性欲の解消にはなったが、やはり精神的に満たされる事は
無く、独りで迎えるいつも通りの朝に寂しさを助長させる事にしかならなかった。
すでに愛美自身も判っていた、一年以上も男性を迎え入れた事は無かったのに、
昨日の朝の様に思いもよらない異常な性的な刺激を受け、全てがおかしな方へ向か
い出した事を。
 ベッドの中で、
『私って、そういう性癖があったのかな・・・』
などとも思ったが、それを否定するようにベッドから飛び起き、身支度を始める
のだった。
 今日は大事な商談の日、メイクに少し時間を掛け、スーツに着替えようとした時、
また電車の中で不潔な行為をさせられるかもしれないとの不安が頭をよぎった。
『パンツにしよっか・・・・』
と安全策を選択しようとした瞬間、何とも言えぬ衝動が胸を突き、また自分の大切
な秘部が疼くのを感じ、意志とは反対に昨日とより少し短めのスカートに脚を通し
ていた。
『課長に怒られるかな?課長と二人で車なんだけど、、、
 まぁいっか。。。。』
そしてストッキングを鞄に突っ込み、出勤した。
 
 『これはダメ、そんな女じゃない、これじゃ変態だ・・・』
そう思いながらも、今の愛美は何かを期待せずにはいられなかった。
駅のホームで待つ間、女性専用車両へ向かおうとするが、昨日と同じ車両、同じ
扉の前で足が止まる。
 周りを見渡し、昨日の男らしき者がいないか確認してみるが、愛美自身まともに
相手を見れたわけではないので、判るはずもなかった。到着電車のアナウンスが
流れる。最後の抵抗、数歩下がり女性専用車両の停車位置へ目をやる。遠くの女性
専用車両の前では、数名の女性が並んでいるようだ。
『あそこに逃げ込めば、間に合うかもしれない・・・』
一体何が手遅れになるのか、愛美の心の何処かでは判っていたが、ホームに滑り
込む電車が見えてくると、愛美は昨日と同じドアの前に戻るのであった。
 目の前で停車しドアが開く車輛、いつもと同じように人の波に押し流されるよう
に乗り込む。まだ混雑はピークではない、電車は進み駅に止まるたびに人が補充さ
れ、気が付けば身動きがとれない程の満員電車になるのだ。
 そして昨日と同じ駅、愛美のヒップに男の手を感じた駅に着いた。周囲を気にす
る愛美だが、昨日の男の雰囲気を持つ者はいない。人に押され身動きが取れなく
なっていくと昨日の感触を思い出さずにはいられず、期待感で胸はときめき、
鞄や誰かの手が身体に当たるだけでドキっとしてしまう。
 目を閉じる、あの手が再び愛美を弄んでくれるのを待つ、すると愛美の身体は
反応し、また下腹部の辺りに痺れを感じ、ジンジンと脈打つ愛美自身であった。
触らなくても判る、二つ合わさったヒダを少しめくれば、そこは指の1本くらいは
容易に包み込み奥へ導くのには充分な程に濡れているはず。。。
 しかし愛美の肉体の期待は虚しく外され、電車は降車駅へと滑り込んでいく
のだった。
 人の波にに押し出される愛美、その時。
耳元で男の声で囁かれた、
「今日は無しだ、お嬢さん。」
咄嗟に振り返る愛美、あの冷ややかな笑みが目に飛び込んできたが、愛美にはどう
する事もできず、車外へと吐き出されて行った。
 通勤のサラリーマンえ溢れるホーム、愛美の耳の奥では男の囁きがこだまする。。。
全身で期待していたのを見透かされていたような気がするが、また同時に図星され
嘲笑われ、怒りも感じる、複雑な感情でホームに立ち止り動く事も出来なかった。
 そしてやはり自分は、あの男によって何かが目覚め、否定しがたい欲求を抱く
ようになってきたと自覚せざるを得ない自分に気が付いた。理性では否定したい、
でも身体は理解しがたい性癖に目覚め、自己嫌悪が込みあげてくる。
 下を俯き、重い足取りで改札への階段を上り、出社するのだった。
 
 出社すれば毎朝の通り周囲との型通りの挨拶を交わし、トイレへと向かう。
まだ今朝の事を引きずっている気がしたので、気持ちの切り替えと身だしなみに
確認へ向かったのだ。
『何やってんだろ、私・・・・。しっかりしなきゃ!』
そう鏡の中の自分に言いかせ、トイレからエレベーターホールの自動販売機へ
向かい、冷たいブラックのコーヒーを一気に飲み干し、自席へ向かった。
課長が呼んだ。
「霜田、今日は大丈夫か?」
「はい!」
言われなくとも愛美は商談の準備に取り掛かっていた。
「もう一度、先方へアポの確認をしておくんだぞ」
と課長は愛美に指示を与え、出勤してきた秋本に目を向けた。
 昨日の露骨な秋本の視線を思うと、どうも秋本と顔を合わせるのが気まずいし
嫌悪感すら覚える、しかし同じ職場で働く同僚であり先輩である。愛美も秋本へ
目を向け、
「おはようございます」
秋本は、昨日の事など気にしない様子で
「おう!おはよう!」
やはり、昨日の応接室での事は、愛美の思い過ごしなのだろうか、過激な
電車での出来事が冷静な判断を狂わせ、自意識過剰に反応していただけなのだろうか?
そう思った瞬間
「今日も、生脚かい?お嬢さん!」
『そうだ!鞄に入れて来たけど、履いてないんだっ!』と思うなり顔が火照りだす
のを感じ
「朝からセクハラですか!」
と少し怒気をこめて言った。
 思いのほか大きな声となってしまったようで、課長は目を大きくし
「おいおい、穏やかじゃないな朝から・・・
 頼むぜ二人とも」と、秋本は
「ごっ、ごめん、軽い乗りでつい。。。」と言い自席に着いた。
 
 今日の商談先へ電話しアポの確認を行うと、予定通り11時の約束で問題は無い
との事。その事を課長に告げると、
「そうか、すまないが今日の同行は行けなくなったんだ。
 社長直々に別件を言われてね。。。
 秋本を行かせるから、しっかり頼むぞ」
背筋に悪寒が走った。
 取引先までは車で1時間弱、あの秋本と二人で同じ車に乗ると言うのかと思うだ
けで、嫌な予感がし、身の危険を感じる。でも、一人で取引先へ行くのも緊張し
まともな話など出来そうにない。
「頼むぞ、フォローな!」
課長が秋本に向かって言う。
「任せてくださいっす!」
秋本は無邪気な笑顔を愛美と課長に見せながら言った。
「じゃ、あと1時間くらいしたら出ようか。」
愛美は頷きながら思った。
『ストッキング履かなきゃ』

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