6月…
気がつくと、先週くらいから雨の日が増えてきた、
もう梅雨入りなんだな…
数分前にスマートフォンのアラームで起こされた愛美はパジャマ代わりのTシャツのまま
濡れたベランダのミニトマトのプランターを眺めながら、
白いカップに注いだコーヒーを片手に
ゆっくり…目が覚めるを待っていた。
毎朝のこと、
彼女が、実はゆっくりする時間など無い事に気がつくのは、まだ数分先の事なのだ。

今日は火曜日
毎週最初に訪れる試練
月曜を乗り切ったものの
まだまだ週末までは遠い日
そう考え溜め息をひとつ…
ゆっくりと化粧品が並ぶ机の前に腰掛け
毎朝恒例の肌艶のチェックをし
肩まで伸びた茶色い髪に指を通した。
その時、
階下から母の声…
「愛美!!起きてるの!?」
「うー」
唇にヘアピンを挟んだまま答え
おもむろに机に置かれたピンクゴールドの腕時計に視線を落とし
あと10分で家を出なくては間に合わない現実に気が付くのであった。
毎朝の事…

愛美は23歳
大学を出て就職した大手食品会社に就職したものの
所謂、近頃の若者の例に漏れず
わずか半年あまりで退職
雑務ばかり指示され
たかがコピー取りや電話の受け答えで
おやじサラリーマンから怒鳴られ
その癖、時に向けられる愛美の胸元やウェストからヒップ、脚にねっとりと感じる
やらしい視線
自意識過剰と言われるかもしれないが、
そういう事に耐えられなくなり
退職したと言うわけ。。。
その後しばらくフリーターやら家事手伝いをして過ごし、
半年前に、小さな印刷会社に就職、
人材不足から、営業と事務手伝いをやらされている。

メイクを雑にやりながら
出社後の予定を考える…
『今日は基本、社内だよなぁ。
 じゃ手抜き!!』
経験値は低いが一応は営業職…
取引先へ行く日と社内の日では
明らかにメイクの気合も違うのだ。
また母の声…
まだ着替えすらしていない!!
クローゼットからスーツを出し
短めに仕立て直したスカートを履き
慌てて着替えを済ませた。
愛美は身長158センチ
太くもなく細くもない身体
もちろん本人は痩せたいと
世の女性の例に違わず
日々ダイエットを気にする日々を送っているが、
実際は女性らしい曲線を持ち
胸の膨らみも84センチ…
世の男性を惹き付けるには充分なスタイルを持ち
小さく童顔な顔立ちと併せ
『モテる』
女性として友達や近所では認められている。
胸元とウェストラインが強調されるスーツに着替えを済ませると同時に
一気に階段を掛け降り
「お母さん、行ってくるよ~」
と玄関から母親に声を掛け
腕時計を確認し、
玄関を飛び出した。

愛美の家は
駅から歩いて10分掛からない場所にある
閑静な新興住宅地にある。
まだ家がそれほど無かった
5年前に父が家を建て移り住んだのだ。
まだ新しい街で
綺麗に区画され公園も多い
中流から上流家庭の街という感じだ。

駅前も
まだ新しい駅舎にお洒落なカフェや
レストラン、雑貨屋が並び
朝の情報番組でも取り上げられる
20代以上の女性にとって注目の街となっている。
ここから会社までは乗り換え無しで行けるが
32分は電車に揺られる必要があり
そしてそれは、ほぼ満員に近い混雑で、
二駅先からは
さらに大量にサラリーマンが乗り込み
身動きが取れなくなる状態になるのだった。
知らない男性に押し付けられ密着させられる満員電車は、痴漢云々は別としても若い女性には気持ちが良いものではない。
女性専用車輌もあるが、それは最後部車輌
乗車駅も降車駅も改札から離れており
使いたくても使いにくい…
毎朝憂鬱な気分になりながら、
乗り込む前に最後の比較的汚れていない空気を胸に吸い込み、覚悟と共に乗車するのだ。

満員電車に身体のラインが強調されるスーツ姿
ウェストからヒップに誰かの手…
また痴漢だ…
こんな満員電車、ほぼ3日に1回は触られる
思いっきり肩を上げて溜め息
ウェストやヒップを触られるくらい
もう馴れっこになっている。
軽く男性への軽蔑感を覚える程度
声を出して騒ぎになるなら
やり過ごし、乗車降車の人の入れ替わり時に
離れてしまえばいいだけだ。
苛々はするが、
愛美も男性経験が無い生娘ではない
『何がいいんだか、バッカじゃない…』と胸の中で呟き次の駅まで耐える事にした。

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