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Web受託開発会社の新規顧客開発手段アイデア集

背景

  • ここ1,2年ほど、筆者は業務委託として、群馬にある小さな受託開発のWeb制作会社の株式会社CRANEの技術選定や経営戦略等を手伝っていた

  • 株式会社CRANEで、新規顧客開拓のプロジェクトを始めることになったが、CRANEは今まで紹介や伝手のみで案件を請けてきた会社であり、新規顧客開拓のノウハウがほぼ無かった

  • そのため、プロジェクトの開始にあたり、営業経験のある知り合い数名に依頼し、過去に使った営業手段をヒアリングをさせてもらった

  • 同様に、新規顧客開発を始めたいが、何からやればいいか分からない受託開発会社の方に何度か出会ったため、当時調べた情報の一部を記事にまとめることにした

※ なお、私個人の趣味的な活動として執筆された記事であるため、情報の品質については保証しない。

概要

  • 「インバウンド営業」と「アウトバウンド営業」に分けて解説する

  • 「伝手の構築/活用」の施策については、上記の2分類に当てはめにくいため、別のセクションに分けて解説する

  • 比較ビズなどの「ビジネスマッチング」についても別カテゴリとして解説する

1. アウトバウンド営業

アウトバウンド営業とは、ざっくりと言えば、内から外に出ていく、つまり企業から顧客に対して呼びかける営業手段一般を指す。

この記事では、広告などのマスマーケティング手法については触れず、テレアポやメール営業などの突撃型の手法についてのみ触れる。

手段例

  • メール営業

  • 電話営業

  • 訪問営業

  • SNS営業

解説

メール営業 -> 電話営業 -> 訪問営業 というように、浅いコミュニケーションから深いコミュニケーションに向けて、複数の手段を続けて行うのが一般的。

まず、地域、商材、繁忙期、売り上げ高などの情報を用いて顧客の候補となる企業をリストアップし、上からひたすらメールを打つ。

地元の同じ地区の企業を狙う、閑散期の士業を狙う、資金調達のニュースが出た会社を狙う、など、なんらかの仮説をもとに選別基準を立てるとよい。その後、インターネットなどで発見した企業を片っ端からリストに入れていく。(毎月違う仮説を立てて、異なる顧客層にメール営業をしている、という方もいた)

メール送信の数日後に電話し、「メールはお読みいただけましたでしょうか?」「ご挨拶させていただきたい」などの台詞と共に訪問を取り付ける。

最近ではSNS上で発信している企業や個人も多い。Twitterでホームページを作ろうかと検討している人のツイートを探すこともできる。とはいえ、SNSで拾えるのは小さな規模の案件が多い。

総じて、比較サイトなどに比べれば、単価の高い案件が取りやすい(価格の勝負になりにくい)。また、士業などは横のつながりが多いので、一度顧客を取れると、そこから横に広げやすくなる。一方で、反応率は非常に低いので、かなり工数と労力が必要で、コスパはあまり良くない。いずれにしても、関係がゼロから契約まで持っていくには、課題のヒアリング力や提案力など、営業としての基礎体力が問われる。

2. ビジネスマッチング

手段例

解説

比較ビズなどの比較サイトクラウドソーシングサービスは、新規顧客開拓を始める上で一番最初に浮かぶ選択肢の一つだろう。発注元企業が、複数の選択肢の中から外注先を探せるサービスであり、受託開発会社がこれらに登録すると、サービス上の「コンペ」に参加することができる。

サービスごとに登録料/サービス利用料が異なるが、比較ビズは月15,000円くらいで安め。発注ナビは登録料は高いが、プラットフォーム側が案件を獲得できるようにサポートしてくれるらしい(と発注ナビの営業の方は言っていた)。

いずれにしても、Web制作など、競合他社が多い領域では、価格競争が厳しくなりがち。1案件を10-20社と取り合いになることもしばしばある。「顧客との打ち合わせにさえ持ち込めれば、他の会社を軒並み倒せるくらいの提案力・技術力・熱量がウチにはあるぜ」という会社であれば良さそう。そうでないと厳しいかも。

営業提案100本ノックをするなど、営業の修行をするには向いている。登録料の安い比較サイトに登録して、片っ端からメッセージを送ってみる、というのは悪くないかもしれない。が、やるからには、全力を投じなければ修行としても意味がない。登録しておけば片手間でも案件がくる、というようなサービスではないことに注意する。

逆に、技術的に高度な案件(そもそも、国内全体で技術者が足りてないような案件)だと、競合が少なく、意外と良い案件が獲得できることもあるとのこと。

変わり種としては、yentaなどの個人レベルのビジネスマッチングサービスを使う手もある。個人事業主の開発者など、小規模な受託開発狙いであればこちらも良い手になりそう。

また、「4. 伝手の構築/活用」と被るが、地銀のネットワークなど、企業が集まっているコミュニティで仕事を探してみるという手もある。一部の地方銀行は、取引先企業の経営相談を受けては、他の知り合いの企業に紹介しており、ローカルなマッチングプラットフォームのような役割を果たしている。forvalなど、経営者同時のコミュニティをオンライン上で展開している会社もあるようだ。

3. インバウンド

手段例

  • SEO

  • リスティング広告 ※1

  • 自社のWebサイトのコンテンツ改善

    • 料金表、サービス一覧、お問い合わせなどを整える

  • ウェビナーの開催

解説

Web制作業におけるSEOは、うまくいけば、非常に強い案件獲得経路になる。「(地方名) Web制作」などのキーワードで上位を取ると、月数件程度は安定して案件が入ってくる状態を作れる。同様に、これらのキーワードに対してリスティング広告を仕掛けるのも手。

自社Webサイトを訪問してくれた顧客に対して、依頼のイメージが湧きやすいように、料金表、プランの一覧、過去の案件実績などを伝えるコンテンツを作り込むことも重要。受託開発においては価格もプランも「要相談」であることが多いが、何かしらの目安はあった方がよい。また、いざ顧客が「相談したい!」という気持ちになった時向けに、お問い合わせの窓口を明確に示すことも大事だろう。

筆者が素晴らしいと思ったサイトを以下に掲載しておく ※2

RPAツールなど、特定の領域に強い受託開発会社であれば、ウェビナーの開催なども選択肢に入るが、筆者の周りではあまり情報が集まらなかったので割愛。

4.伝手の構築/活用

手段例

  • パートナー企業の探索

  • 地元の青年会議所などに出る

  • 紹介制度の推進

  • SNSでの発信、交流

  • 勉強会の主催

解説

結局、人間関係が一番強い。間違いない。

地方の青年会議所などに出て、慈善事業などを手伝っているうちに、仲良くなった他の企業の経営者から仕事を頼まれるようになる・・・という昔ながらの営業はいまだに強い。単価も高い。次にもつながる。いわゆるゴルフ営業など、経営者同士のつながりを強くする場に積極的に顔を出すのも良いだろう。

これだけマッチングサービスが増えている現代においても、「(多少単価が高くても)信頼できる人間に依頼する」という選択基準で発注を行うことは、充分に合理的である。ITの発注にはどうしても知識の格差という問題が付きまとうからだこの点は筆者がやっている「闇のIT営業勉強会」の第二回のレポートで詳しく書いている。

パートナー企業を見つけることは、非常に有効である。新規にWebサービスを展開している企業や、自社内のIT部門を維持することに苦慮していて外に出したい企業、また、同業の受託開発会社で仕事量の波が激しく案件や人材を融通したい企業などとパートナー関係を結ぶことで、定常的に案件を獲得することができるかもしれない。噂で聞いた話によれば、受託開発会社の中には、営業能力に特化しており、PMや開発作業は外出ししたい会社もあるらしい。

既存の顧客から新しい顧客を紹介してもらう、という手もあるだろう。紹介してもらいやすくする工夫として、そもそも自分たちがどんな相談なら受けられるのかを、既存の顧客にちゃんと知ってもらうことは大事だ。CRANEでも、Webだけでなく、ビラやチラシのデザインも受けられますよ、ということを伝えたところ、「知らなかった!知ってたらもっと前にお願いしたのに」と言われたことがある。紹介しやすい資料をWebや紙としてまとめておくことや、紹介経由での初回相談の無料などを含む紹介制度を作っておくことは有効かもしれない。

特定のテーマについて、周囲の興味を惹けるような強力なコンテンツを持っている場合、記事の配信や勉強会の主催などは、関係構築のための強力な手になる。外部の勉強会の運営を手伝っているうちに他の人と仲良くなる、というケースもある。筆者はIT×メンタルヘルス企業の集まりを主催しているが、そこ経由で仕事が来たことは何度かある。

まとめ

色々とヒアリングし、手段を検討したのだが、CRANEでは結局伝手の構築が一番強いという結論になった。

これはCRANEの元々の強みやポジション取りと噛み合っていたという面もあるが、圧倒的な営業力や特定領域に特化した技術力などがない限り、他の手段が取りにくいという現状もあったと思う。

当たり前のことであるが、新規の案件を獲得する上では、営業の経路や手段は一つの要素に過ぎず、営業の提案力やエンジニアの技術力といった要素の方が重要になる場面も多い。圧倒的な強みがあれば、競合の多いオープンなな市場で戦って競合全てを蹴散らすこともできるが、そうでないならば、ローカルな人間関係で築かれた、クローズドな小さな市場で戦う方が良い、という、至極当然の結論になると思う。身近にいる、自分たちのことを大事にしてくれる人間との信頼を大事にせよ、という初歩的な人間関係の話でもある。

一方で、会社のブランドとして尖りを出していくという経営戦略も大事だろう。RPAツール活用、AI活用コンサル、など、何かしらの強みを作り、「自分たちの戦場」を決めていくことは重要だ。

特にWeb制作は、競合が増えている上に、ChatGPTなどのLLMやノーコードツールなどの興隆もあり、今後、業界自体がより厳しい環境になっていく可能性が高い。営業戦略だけでなく、会社自体のポジショニングをきちんと考えることが重要だと思った。



※1 リスティング広告をインバウンドに含めるかは若干微妙だが、消費者の能動的な行動に依存するためこちらに含めておく。

※2  完全に余談だが、株式会社アクシアのWebサイトは、単に案件を獲得するためだけでなく、獲得した後の案件の炎上を防ぐための工夫が散りばめられていて、感動した。ほとんどの炎上案件は、企画が立ち上がった瞬間に、すでに顧客の期待値がバグっていたり、工数に見合わない低価格で案件を引き受けていたりと、炎上の火種が埋め込まれているものだが、株式会社アクシアでは、依頼を受ける手前の段階で、顧客に対して期待値のコントロールを行ったり、顧客が案件に臨む上で必要な知識の提供を行ったりと、炎上につながる火種を消し去る工夫をしているようだ。炎上案件に巻き込まれて死ぬ思いをしたエンジニア&PMの一人として、このような取り組みはぜひ多くの制作会社に広がってほしいと思う。

なお、サムネ画像は https://www.bing.com/create で作成しました

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