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花とアリスを触るまでに15年かかった

今敏がなくなって10年経ったらしい。

『夢みる機械』見てぇ~~というコメントをすると「アニメ見てます感」や「オタクやってます感」が出せて通ぶれるというのがあるのだけど、これについては今敏監督じゃないと作れない世界観があるとか色々あり、実際そうだと思うのでオタクは繰り返し『パプリカ』と『妄想代理人』を見ることとなる。そして若者がより深いあれを知るためにAKIRAや風の谷のナウシカを映画版ではなく漫画版までしっかり読むようになる感じで、千年女優とかを見るのだ。「今敏すげぇ~~」となり、上述のオタクやってます感を出すようになるか、ちゃんとしたクリエイターになっていくか、そういう感じなのだ。

10年前、「エヴァ破」があって、「イヴの時間」を見て最近のアニメすげ~~ってなってて、その前後で「パプリカ」見てウワーってなって、そういやあずまんが大王にハマってた頃に周りのインターネットオタクが妄想代理人や灰羽連盟の話をしていたなあ~と思ってそこらへんを見てなにこれ~!!ってなったのを思い出した。その時の僕はデリヘルの受付のバイトをしたり、クリスマスの日に辞めれた嬉しさで、帰りのローバーミニの中でHappy Xmas (War Is Over)を熱唱したりしていた。「ヨーコ!ヨーコォォォ!!」と叫んでいた。無職として迎えたその翌年に成人式があり、同級生がタレントとしてそこそこいい感じにやっており、「貴様メンズノンノでドルガバのドレスを着ていただろう。容姿はいいからモデルとしては様になるのだろうが芝居は中学の文化祭のときからずっとクソだ。見られたものではない」という要旨の暴言を無職の分際で伝えた。ほかの同級生たちは地元の中学校から強めのタレントが生まれたこともあってか、「声優を志す女」などが出てきて、僕は放送関係の仕事をしたいとか芸人をやりたいとかを言いづらくなった。周りのそういう寒さに構わずやっていればよかったのだが、僕はその後ゆるめの鬱になった。「声優を志す女」は数年前に借金の打診があった。男Aから男Fくらいまでから金を借りては踏み倒し、そこそこのあばずれとして暮らしているらしかった。

「花とアリス殺人事件」を見た。めちゃくちゃよかった。
今が2020年なので、僕は「花とアリス」を触るのに15年くらいかかった、ということになる。実写は見てない。見ないままかも。

どういうことかというと、僕は「けいおん!」を長いこと侮っていた。それは2009年時点では僕自身が高校生だったので、彼女たちを「まったり青春を過ごしているっぽい同世代のアニメの女子」として侮蔑していたというのがある。これは「こういうのを良しとしている世の中」に対しても反感を持っている感覚だったし、オタクたちが放課後ティータイムという、本気の音楽と向き合っていないヌルいまとまりをありがたがっていることにもムカついていた。

それは僕の見る目と聞く耳が備わっていなくて、あまりにも現役高校生という痛痒さで「けいおん!」を見ていた、なんにも見えていない目でアニメを見ているつもりになっていたということがよくわかる。実際「けいおん!」はヌルいまとまりではないし、オエエエッてなるぐらい良いのは「わかるようになってればわかる」ので。

同様に蒼井優に対しても同じぐらい痛痒い高校生の偏見を抱いていたので、演技がめちゃくちゃすごいという俳優としての本質を見ようとしないまま「なんでこいつがハチクロやんねん!嫌い!」の流れで漫画アニメ実写化アンチオタクとして魔が増幅していくこととなる。

そういう感じで「下妻物語はいいけど花とアリスはだめです」という10代を過ごし、「とりあえず何かを作れるひとはスゴい」という着眼点が20代でやしなわれ、30代のおじさんになって大体の気合の入ったアニメとか芝居とかに対して「しゅご~い」ってなるようになった。

岩井俊二さん自分で監督やれば「打ち上げ花火~~」もあんなに面白くない感じにならなかったのではないだろうか。そうそうたるクリエイター集めて鳴り物入りでやる話ではないよね。同年はペンギンハイウェイが面白かった、リズと青い鳥がシャレにならないぐらい良かったのもあって、そっち系の繊細で緻密な話に対するハードルが上がってたのもあるけど、SHAFT使って「大局的に見て、なにも起きない話」をやってしまったのが敗因だと思う。あの規模の風呂敷の広げ方だとサマーウォーズやらないと「我々はなにを見せられたの?」になるので、「運命を変えて大切なひとを救ったり、世界の仕組みを変えたりする」のをちゃんとできなかったのダメだったな。
それか同級生を全員女の子にしましょう。キャラクターデザイン渡辺明夫で野郎しか出てこないのは男女比が悪かったです。化物語かグリザイアにしてしまえばよかったのです。「主軸が結局パッとしない話」は青春の男女だと全然ダメだけど百合なら「なんかそういう雰囲気ある!いい!」と狭めの支持が得られます。僕は主題歌を「パッとしないはなし~」と替え歌にして歌っている。


シャニマスで人生が前向きに変わっていってるひとが結構いる。
「働くのがヘタ」な人は僕もそうだし読者も俺も私も、ってなると思うけどこの人については漫画の表情も良いし叙述することも良い、すごく「味のある」者だと感じるし、なにを死のうとしてんねん、って思っちゃうぐらい色々な才覚に長けているように感じるけど、「労働」ってそういう気質の人でも型にハメて評価したり叱ったりするものでもあり、そうするとやっぱ優れた人でも希死念慮は沸いてくるので、難儀だよね。

まあやっぱりアイマスのことを考えて、生きるだけの報酬対価を得られる社会づくりをしていったほうがいいな~。

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