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ばいばいの声が遠くなる/2020年12月20日

私がこうやって何でも書いておく癖がついたのは人よりも記憶力が乏しいからだと思う。これは忘れないだろう、と思う程度では覚えていられない。絶対に忘れたくない出来事があったときはその次の日、1週間後、1ヵ月後、半年後と不定期にわざわざ頭の中で何度も思い出しては、薄れてきた記憶を少しでも戻しておくようにしている。脳のリソースが狭いから、すでに“絶対に忘れない”と思っている記憶が頭のほとんどを占めていて、“忘れないでいたいな”という程度の記憶が入る余地がない。たとえば卒業イベントのセットリストとか、あまねちゃんと出会った日付とか、あのとき泣きながら話したことの内容とか。あのイベントは何年何月だった!とオタクが話す横でそのとき私もいたはずなのに全然思い出せなくて自分に呆れたことも何度もある。もちろん薄くなっているだけで、自分が残した記録を読めば蘇ることが多い。だから私は起きた出来事から自分の今の感情の細部まで書いておかないと気が済まないのだと思う。


 
ただそんな鳥頭の私でも、脳裏に強烈に焼き付いている光景がいくつかある。今からちょうど1年前の今日に行われた、あまねちゃんのディアステージ卒業イベント「あっぱれしーちゃんありがとうまつり」(略)で見た景色もそのひとつだ。
私は、2日間に渡る卒業イベントの最後に、店を出るために2階から降り1階を通って出口に向かっていた。そのとき、私たちが用意した大きなフラワースタンドだけが小さなステージの端っこに飾られている、誰もいないがらんとしたステージや客席を見て、「ああ私はもうここに二度と来ることはないんだ」と突然強く感じたのを覚えている。0.1秒だけ立ち止まって、その見慣れた空間を視界いっぱいにしてバシャバシャバシャとカメラのシャッターを切るように目の奥に叩き込んだ後思い切ってお店の外へ出た。次の瞬間馴染み深いディアステに別れを告げたことを実感し、もう二度とこの場所であまねちゃんに会うことはないんだという現実に襲われ止まっていた涙が溢れ出してしまった。ディアステの外には同じくイベントを終えたほかほかの同志たちが集まっていて、私の顔を見て「泣かないで~!」「写真撮りますよ!」と声をかけてくれた。その暖かい声にまた涙しながらも、さっき見た光景が頭から離れなかった。


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夢眠ねむさんのイベントを通してディアステに行き始めた頃から数えると、頻度はともかくとして、5年以上ディアステに通っていたことになる。あまねちゃんと出会ったのもディアステだった。新人の頃受付にいるあまねちゃんと話しながら、読む本も聴く音楽も同じすぎることを知って「推します」と宣言したことも、お揃いの“すき”ピアスをプレゼントしてオタクに見守られながらツーチェキを撮ったことも、初めてステージに立ち「水星」を歌うあまねちゃんを最前列で見届けたことも、「君と映画」の歌いだしで泣き崩れたことも、1年ぶりに会ってバーカン越しに近況を話しまくったことも、キラキラしてたりくるくる笑ったりしっかり目を合わせてきたり煽ったりするステージ上のあまねちゃんを一段低いところから見上げ続けたことも、全部この店の1階で起こった出来事だ。何回わたしはこの空間にいたんだろう、何回このステージを見つめたんだろう、何回笑ったんだろう叫んだんだろう泣いたんだろう。当たり前に通ってきたけれど、あまねちゃんのいないこの場所に、私の居場所はもうない。もうここに来る理由はないんだと、ディアステの外に出ようとするときにようやく気付いてものすごく寂しかった。泣きながら仲間たちと店の前で写真を撮る。ばいばい、ディアステ。ありがとう。

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ばいばいの声が遠くなる度に
僕は君に恋をする
しょうがないで終わらせるときの
僕を君に見せたくないんだ
                         本気のラブソング/眉村ちあき 


あまねちゃんが歌ってくれたことのあるこの曲を最近改めて聴いて、“忘れたくないな”とすら思っていなかった、すっかり忘れてしまっていたありふれた日常の一部が自然と思い出された。
特典会のチェキ撮影では短すぎる時間内に近況を報告していたから、いつも話しきれないまま別れていた。私が自分から「じゃあまたね~」と言ってはがれていこうとしてるのに、あまねちゃんはその私の背中に向かってさらに話しかけたりしてきて、最後まで笑ってしまってしょうがなかった。背中にあまねちゃんの声を聞きながら離れていく幸せなばいばいがたしかにあったことを思い出して、忘れてしまっていた分すごくすごく愛おしく感じて、息もできないほど号泣した。あまねちゃんはどんな気持ちで私を見送ってくれていたんだろう。私の「じゃあまたね」という言葉をどんな風に受け取ってくれてたんだろう。いつでも楽しく幸せにしてくれたあまねちゃんが愛おしすぎて30分くらい自分でも引くほどガチで泣いた。やっぱり私はこんなにもあまねちゃんが好きなんだ、と切なさでぎゅうぎゅう音がする胸を確認して思った。
 


あまねちゃんがディアステージを卒業した2020年12月20日。それまでに準備してきたたくさんの物、久しぶりに会ったオタクたちの笑顔、あまねちゃんの歌声、何ひとつ言葉にならずただただ流れた涙、その顔を見つめながら笑ってくれるあまねちゃん。1年たった今でも卒業イベントがあったあの2日間のことは、どの場面も具体的に鮮明に思い出すことができる。また“あの日起こったこと”として書き残すこともできるのだが、とにかくずっと頭から離れない最後の景色について書いておきたいと思った。
「幸せになってね」と言い合って別れて1年。「あまねちゃんとの思い出があるから大丈夫」って去年の私はあまねちゃんに言いながら自分自身に言い聞かせてた。あまねちゃんのいない生活は想像できなかったし不安だったしすごく寂しかったけど、本当にあまねちゃんがくれたたくさんの思い出のおかげでめちゃくちゃ幸せな1年だったんだよ。あまねちゃんも去年の自分も安心させられちゃうくらい胸を張ってそう言える今が誇らしいです。あまねちゃんもどうか幸せでいてね。今までもこれからも変わらずずっと祈っています。大好きだよ。

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いろり

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