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第一次アルマゲドン戦争(1)忘れられた戦い

 444.M41年に勃発した第一次アルマゲドン戦争は、人類帝国が〈日輪の宙域〉に位置する大人口惑星アルマゲドンを守るために戦った三回の戦争の最初のものであり、今ではほぼ全く忘れ去られている戦争である。

 なぜ忘却されたのか。それはこれが、恐るべきコーンの総魔長アングロンと、彼に率いられたワールドイーター兵団のケイオス・スペースマリーンたち、そして無数の紅蓮のディーモンの群れが、〈帝国〉の大軍勢と壮絶な激突を繰り広げた戦いだったからである。

 渾沌の存在を臣民からひた隠しにする〈帝国〉異端審問庁は、この戦争の記憶を抹殺しようとした。しかしその努力は、想像だにしなかった〈帝国〉軍どうしの内戦へと発展したのである。

血の神の軍勢

 〈恐怖の眼〉のただ中、渾沌の領域の中では、禍つ神々に仕える勢力が永遠に争闘を続けている。だが時折、不可解な理由からそれらが団結して、共通の敵である〈人類の帝国〉に襲いかかることがある。第41千年紀の中頃に起こったそれは、かつての帝国第十二兵団〈ワールドイーター〉の長にして、今は殺戮の神コーンの総魔長であるアングロンが支配する悪魔惑星の近傍に、〈特異航宙体〉(スペース・ハルク)が漂着したことに始まった。

 一万年前の〈ホルスの大逆〉終盤、ワールドイーター兵団はスカラスラックスの戦いにおける血みどろの同士討ちによって、多数の戦闘団に分裂してしまった。以来、アングロンは散り散りになった兵団の統合を回復しようとしてきたが、スペース・ハルク〈星々を貪るもの〉の漂着は、ばらばらのスペースマリーンたちに共通の目的を持たせるにはうってつけの乗物だった。幾多の巨大宇宙船がねじれながら癒着したスペース・ハルクは、渾沌の大軍勢を輸送するだけのキャパシティを有していたからである。

 しかし、渾沌の空間から現実空間への進出は、全く予測のつかないものだった。そのため、444.M41年にアングロンとともに渾沌の軍勢を満載した〈星々を貪るもの〉がアルマゲドン星系に出現したのは、全くの偶然の産物だった。

奇襲

 一方、惑星アルマゲドンでは、大規模な〈歪みの嵐〉によって他星域との間の通信と商業が遮断されてしまっていた。これと軌を一にして、世界の半分を覆う巨大集合都市群で、〈帝国〉当局に対する武装反乱が勃発した。この反乱は輸送途絶による食糧不足をきっかけに、アルマゲドンに潜伏していた渾沌教団によって引き起こされた。大陸南部アルマゲドン・セクンドゥス地方の蜂起はすぐさま鎮圧されたが、より多くの集合都市が点在する北部アルマゲドン・プライムでは完全な反乱鎮圧に失敗した。

第一次アルマゲドン戦争関係図(地図左側が北)

 惑星規模の反乱活動に対応したのは、現地の惑星防衛軍と、アストラ・ミリタルムのアルマゲドン鋼鉄兵団の精鋭たちだった。この時点では、アルマゲドンが〈恐怖の眼〉から遠く離れていることもあり、単なる民衆暴動にすぎないと見なされていた。そのため、〈歪みの嵐〉が晴れた後も、外部から援軍が派遣されることはなかった。しかしその姿勢は、突如として星系内に〈歪み〉を破って現れたスペース・ハルク〈星々を貪るもの〉による奇襲を許すことになる。

 スペース・ハルクには、アングロンとワールドイーター・スペースマリーン、何百万人もの渾沌信徒、そしてコーンの寵愛する十二体の最強のブラッドサースターとそれに仕えるコーンの下級ディーモンが乗り込んでいた。殺戮の権化であるこの大軍が、宇宙に浮かぶ巨船から惑星アルマゲドンの地表になだれ込んだのである。

 このとき、驚くべきことにアルマゲドンの惑星防衛軍の半数が、渾沌側に寝返った。不意打ちと大軍に圧倒された忠誠派の防衛軍は、北部アルマゲドン・プライム地方から密林を抜けてアルマゲドン・セクンドゥス地方に撤退。最前線となった集合都市ハイブ・インファーナスを望むスティクス川とチャエロン川を防衛線として守りを固めるに至った。

狼たちの到来

 大陸北部を血の海に変えたアングロンは、コーンに捧げる巨大な骸の記念碑を建造した。だが、彼には知られていなかったことだが、このとき、アルマゲドンからのアストロパス救難信号を受け取ったスペースマリーンたちが、渾沌の蹂躙を受けたこの惑星へと急行していた。

 ちょうどこの星区に配置されており、救援に駆けつけたのはスペース・ウルフ戦団の指導者〈大狼〉ローガン・グリムナーそのひとと麾下の最精鋭たる群狼団であった。アングロンの軍勢が、プライムとセクンドゥスを隔てる密林を突破して姿を現したとき、そこにはアストラ・ミリタルムによる強固な防衛線と、一騎当千のスペース・ウルフたちが待ち構えていた。

 かくして、続いて起こった戦いは残虐な悪魔と獰猛な狼戦士、堅忍不抜の兵士たちによる壮絶なものとなった。防衛線となった二本の川のうち、東側のチャエロン川では〈帝国〉軍が優位に立ったが、西のスティクス川はアングロンの陣頭指揮によって突破された。血の神の軍勢が、数億の人びとが暮らすハイブ・インファーナスとハイブ・ヘルズリーチに向かって進軍していった。

決戦

 この危機にあって、ローガン・グリムナーが奥の手を放った。敵の正体を知るや否や、異端審問庁〈鉄槌の団〉の精鋭軍団であるグレイナイト戦団に支援を要請したのである。ディーモンとの戦いを専門とするこの第666戦団の存在は、〈帝国〉にとって秘中の秘であったが、ローガン・グリムナーはその秘密作戦を何度も見たことがあり、戦団長として記憶消去措置を強要されることもなかったのである。

 グレイナイトはまるで渾沌の来襲を予期していたかのような驚くべき速さでアルマゲドンに到着した。急ごしらえの銀色の戦士たちを率いたのは、第三騎士団の長タレマー・オーレリアンであった。グレイナイトたちは、大都市に向かって進軍する渾沌の大軍のまっただ中に直接テレポートを敢行。巨大な総魔長アングロンを包囲した。

 強大で無慈悲な総魔長の攻撃の前に、グレイナイトは大量の犠牲者を出したが、相手にも痛打を与えていった。そしてこのとき、アングロンと対決した中に、キャスティアン分隊の騎士ハイペリオンがいた。分隊の仲間が全員斃れる中、彼の放った全身全霊のサイキック攻撃は、アングロンが振るうコーンの至宝〈黒き刃〉を粉砕した。ハイペリオン自身はこの攻撃で意識を失ったが、この好機をついた騎士団長オーレリアンは剣を喪った総魔長に立ち向かい、自分の生命と引き換えに、このおそるべきコーンの寵児を〈歪み〉に追い返すことに成功したのである。

 この死闘で、援軍としてやってきた109名のグレイナイトのうち、生き残ったのはわずかに13名であった。ハイペリオンもそのひとりであり、その偉業から〈刃を砕きたるもの〉(ブレイドブレイカー)と尊称されることになる。重傷を負った彼は形成手術を受けた後、この戦いの詳報を持ち帰ることになった。

〈帝国〉の勝利

 グレイナイトがアングロンの本軍に急襲をかけると同時に、スペース・ウルフたちも大反攻をしかけた。そしてアングロンの退散とともに渾沌軍は潰走。ワールドイーターのスペースマリーンたちだけがかろうじて〈星々を貪るもの〉スペース・ハルクに戻り、〈歪み〉に逃げ込むことに成功した。

 残された渾沌の残党はスペースマリーンとアルマゲドン鋼鉄兵団による掃討を受け、汚染された荒野を逃げることもできずに殺戮され、川に放り込まれた。侵略者の死骸は川を流れて積み重なり、〈疫病の湿地〉の腐敗した淵に落ち込んだ。この地域は今も悪が猖獗する場所として知られている。

 〈帝国〉は完全な勝利をおさめたが、アルマゲドン・プライムは完膚なきまでに破壊され、膨大な死者を出した。アングロンが建設した渾沌の記念碑は破壊することができず、現在に至るまで悪のオーラを放射している。

 渾沌は去った。しかし第一次アルマゲドン戦争の悲劇の第二幕はこの直後に上がったのである……

(つづく)



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